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詰みゲー! 4-31

†††4-31

ジョンが具象化を覚えた四日後の朝食。
食堂にはジョン、シャープ、クラリス、ロベルトがいた。ミリアとベンは仕事。

「ロベルト、この後の予定は?」
「ありません。私は常にここにいるよう言われておりますので」
「では、ワシからレインに言伝があるんだが、頼めるか?」
「ええ、もちろん」
「言伝って?」
「お前のことだ、ジョン。お前の伸びが思ったよりも速くてな。次の段階へ進むに当たって準備をしたいと思ってな」
「どんな準備なんや?」
「クラリスも興味があるのか?」
「いや、面白そうやったら見よかな思て」
「面白くないよ。どうせロクでもないことだし」
「それがええんやんか。ウチ、ジョンが困ってるとこ見んの好きや」
「いい性格してるぜ・・・・・・」

***

朝食を終えて、道場にて。

「さっきも言ったが、ワシもまさかお前が一月足らずでここまで伸びるとは思わなんだ」
「いやあ、それほどでも」
「ウチも思わんかったわ」
「そんなにつき合い長くねえよ」
「さて、今日はいよいよC級の魔術師としての最大の関門に挑戦する」
「最大の関門?」
「そうだ。これができるか否かで魔術師の強さが変わる」
「固有魔法か?」
「いや違う。それはA級とB級の境界だ。今からやるのはB、C級の境界・・・・・・」

シャープの口元がにやりと歪む。

「属性魔法と『譜(スペル)』だ!!」
「楽しみやなあ~」

†††

詰みゲー! 4-30

†††4-30

「よーし、ジョン。稽古を始めるぞ。マテリアルの作成だ。具象化と呼ばれる」
「マテリアルって魔力を具象化させた物体だよな」
「そうだ。無属性魔法、と言えば大体これのことだ。魔法の基本にして最も重要な技術と言えるな」
「よーし、いってみよー!」

道場に響きわたる声でジョンが気合いを入れる。

「まずは手本だ。よく見ておけ」

そう言ってシャープが手を前に出す。稽古を積んだジョンには、シャープの手が魔力を帯びていることが視認できた。
魔力は気体や液体、ましてや個体などといった現実の物体とは異なる「なにか」だ。形すらない。ジョンはそれを表現する適切な言葉を知らなかったが、数週間にわたる稽古で存在を感じ取ることはできるようになっていた。

手の魔力が徐々に「現実性」を、強いて言えばどろどろとした粘性のようなもの、を纏いだした。
現実性を帯びた魔力が、液状になり、次に手のひらで沸き立つ。

「面白いだろう?」

食い入るように掌上のショーに魅入っているジョンにシャープは笑いかける。ジョンは視線を外さずにうなずいた。

「具象化は魔術の基礎でありながら無限の可能性を秘めておる。まあ、最も単純な例を見せよう」

掌の上で沸き立っていた魔力が勢いを鎮める。
シャープは一度手を閉じると、今度は勢いよく開いた。それと同時に大量の魔力を放つ。
そして風船程度の大きさでハチミツほどの粘性を持った流体が、シャープの顔の前でふわふわと浮かぶ。シャープのその様はさながら大きなシャボン玉か風船を披露するピエロのようだ。

「具象化には段階がある。魔力の段階、半具象の段階、完全に具象化した段階、これはまだ半具象の段階だ。だからまだ意志の力で魔力に戻すこともできるし整形することもできる。こんなふうにな」

そう言ってシャープは風船を手に取り、鳥や剣、人の顔などに変えて見せた。
最後に風船の一つを槍に変えてシャープは続ける。槍はまだふわふわと浮いている。

「そしてこれが完全な具象化だ」

シャープの手が重力に逆らえなくなった槍を受け止める。

「こうなっては魔力に戻すのは一苦労だ。魔力に還元するためにエネルギーとして魔力を消費する必要がある」
「なんじゃそりゃ。どういうこったい?」
「例えば、剣を作るときには鉄を溶かすよな。溶かすとなると熱、つまりはエネルギーが必要だ。その熱が今で言うと魔力でまかなわれるワケだ」
「へー・・・・・・」
「具象化したマテリアルは術者の望んだ性質を有する。・・・・・・まあ、能力次第というところもあるがな」
「たとえばどんな性質があるんだ?」
「例えばかなり頑丈で、なおかつ軽い物体なんかを作ることができる。そういったマテリアルを鎧にしたり、家や道路、それから城なんかにも要所要所で使われたりしている」
「要所要所?全体的に使えばいいじゃん」
「具象化魔法は確かに初歩だが、だからと言って誰でも『使いこなせる』かと言うとそんなことは全くない。何を作ってもふにゃふにゃしたワカメみたいなマテリアルしか作り出せないんじゃ、しょうがないだろ?そんな連中に家の建造などは任せられない」
「じゃあ、できる連中でやればいいじゃん」
「確かにそうだが、一般的には魔力量の制限がある。人間が抽出する魔力量は多くはないのだ」
「抽出?」
「魔力は食べ物や空気などから取り入れられると考えられている。その魔力を獲得する過程を『抽出』と呼ぶのだ」
「へえ」
「ちなみに魔力はこの世界では通貨としても使用できる。覚えておけよ」
「へー・・・・・・、面白い」
「まあ、最近の話だがな」

そこでシャープは無駄話を打ち切るように、さきほど作った槍を立てた。

「実は具象化はけっこうな魔力量を食う。当然と言えば、当然だがな」
「当然なのか?」
「まあな。さてこの槍だが、特に何の特性も与えていない。頑丈さだとか、軽いだとか、そういったものをな。だから・・・・・・」

シャープはいきなり槍を膝蹴りでへし折った。真っ二つになった槍を見せてシャープが続ける。

「この通り、非常に弱い。魔力消費は少なくて済むがな」
「いや、あんたが強すぎるんだよ。ヒザは大丈夫なのか?」
「問題ない。・・・・・・話を戻すが、これに頑丈、とか軽量化、とか意志を持たせていくと必要な魔力量が跳ね上がってくる。お前なんてすぐにガス欠だ」
「この世界に何でガス欠なんて言葉があるんだよ」
「で、わかったのか?」
「はいはい。・・・・・・ところでシャープの魔力量って多いの?」

ジョンは自分の師匠である老人の強さがどの程度なのか知りたくなった。

「多いとか少ないとか、そういう考え方はあまりしないな」
「は?どういうこと?」
「さっき言ったように魔力は限定的ではあるが、通貨として使用できる。例えば、列車だな」
「列車ァ!?列車がこの世界にあんの!?」
「ああ、あるぞ。先の戦争の遺物だ。現在は便利な長距離移動手段となっている」
「・・・・・・まさか飛行機なんてないよな?」
「ヒコーキ?なんだそれは?」
「空を飛ぶ乗り物だよ。無いのか?」
「いや、あるぞ。飛行船だな。これは高いくせに遅い代物だ。金持ちの道楽にしか使われんよ。・・・・・・お前、乗りたいのか?」
「ちげーよ。・・・・・・ああ、なんかイメージ壊れたなあ」
「ははは。おや?脱線してしまったか。元の話題は・・・・・・そうだ、魔力量の多寡だったな」
「そんな話してたっけ?」
「してたぞ。通貨として使用されるということは魔力は買えるんだ。だから極端な話、歴戦の強者よりも金持ちのボンボンの方が魔力量は多い、という場合さえ考えられる」
「ほー・・・・・・」
「・・・・・・さてと。無駄話はここまでだぜ、ジョン」

そう言ってシャープはにやりと笑みを浮かべる。ジョンは、げ、と顔を歪ませた。何度もこの意地悪い笑みを見てきたからだ。

「お前の魔力を具象化してみろ!」



その五時間後、ジョンは具象化を修得した。


†††

詰みゲー! 4-29

†††4-29

「?」
「どうしたのよ、ジョン」
「クラリスだよ。入り口のところにいるだろ?」
「そうね、なにかしら」

そのとき、ジョンとミリアは道場で組み手の訓練をしていた。シャープはまだ朝食中だ。
稽古まであと一時間以上はあったが、気晴らしに一つ、と組み手をしていた。
ジョンとミリアがクラリスの存在に気がつくと、視線に気づいたクラリスがこちらに歩み寄ってきた。

「ちょっとミリアを借りてもええかな、勇者くん?」
「え?ああ、まあ、俺はいいけど・・・・・・」
「何かあったの?」
「何もないよ。大したことやない」
「・・・・・・まあいいわ。悪いわね、ジョン」
「おおきに。堪忍な、ジョン」

***

「ちょっと頼みたいことがあんねん」
「頼みたいこと?」

道場を出て二人は、色とりどりの花が咲き乱れる中庭を横切っていく。

「ごめんやけど、ウチの部屋に入って荷物を取ってきて欲しいねん」
「え?どういうこと?」
「まあその・・・・・・、部屋の鍵をなくしてしもうてん。それで部屋に入れへん」
「ああ、なるほど。それであたしの魔法で入って取ってこいと・・・・・・」
「ええやろか?」
「もちろんよ。それくらいお安いご用だわ」
「そおか!おおきに!」
「それで何を取ってくればいいの?」
「メガネや。ウチ目ぇ悪いんや」

***

「・・・・・・おおきに。助かったわ」
「いいのよ」
「あの・・・・・・もうひとつええかな?」
「なに?」
「できたら・・・・・・、ウチと友達になってくれへんかな?」
「え?」
「いや、だからほら、ここって女の子少ないやん?メイドさんとかおるけど、それはまたちゃうって言うか・・・・・・」
「あたしと?友達に?」
「あかん?」
「いえ、そうじゃないけど・・・・・・」
「けど?」
「うーん。聞いてないかしら?ほら、あたし東狼団のメンバーなのよ」

その言葉はミリアがクラリスを慮って発したものだった。もしも、クラリスが東狼団の中心メンバーと親密な間柄にでもなろうものなら、彼女は陰口を言われてしまう。
ジョンについてもまあ、同じなのだが。

「なに言うてんねん。そんなん気にするほどウチは器量狭ないで?」
「でも・・・・・・」
「ウチはミリアと友達になりたいんや。・・・・・・ミリアは?」
「あ、あたしも・・・・・・」
「おんなじ?」

ミリアがこくりとうなずく。

「あたしここに何日かいたんだけど、どうも男が多くて・・・・・・。メイドさんとも話したりしたんだけど、どうにもかみ合わなくて・・・・・」
「あはは、おんなじや」
「そうなの?・・・・・・じゃあ、あたしからもお願い。友達になって?」
「こちらこそや、ミリア!」
「ありがとう、クラリス!」

二人はがしっと手を取り合って同時に宣言した。

「ウチらは今日から友達やで!」
「あたしたちは今日から友達よ!」

†††

詰みゲー! 4-28

†††4-28

「なんやて?クラリスに言うたことがホンマか、やて?」
「はい、陛下」

上国国王グレゴリオは自室にて側近の参謀官が発した質問をそっくりそのまま聞き返した。
参謀官の表情を見て王は鼻を鳴らした。

「わかってて聞くな。嘘に決まってるやろ」
「やはり、ですか・・・・・・。娘にくらい嘘をつくのをやめませんか?」
「やめへん。本当のこと言うてどうなる?あいつは聞かんで」
「まあ、そうでしょうな」
「わかってるんやったらとやかく言うな」
「わかりました。・・・・・・例の件ですが」
「報告がきたんか」
「はい」
「そうか。報告書を持ってきてくれ。目ェ通しとくさかい」
「承知しました」

†††

詰みゲー! 4-27

†††4-27

「ミリアと友達に・・・・・・ねえ」

クラリスに秘策を授けるとベンはすぐに仕事に戻っていった。部屋に一人残されたクラリスはお茶をゆっくりと飲み干し、ポットからもう一杯分のお茶を注ぐ。
隣の部屋には使用人が待機しており、呼べばそのようなことでも喜んでやってくれるが、クラリスは一人で過ごす時間が好きだった。静かに考え事をしたいタイプなのだ。

(さっきは王様の命令について、『勇者は役に立つから』とか曖昧なこと言うたけど、ホンマはちゃうんや)

姫が一杯、茶をすする。

(父上はホンマは東狼団と仲良うしたいんや。なんせ強いしな。味方にすれば心強く、敵に回せば厄介ってヤツや。・・・・・・けど、大っぴらに仲良うはできん。国民の中には奴らに家族を殺された連中もおる。昔の話、では片づかんのや)

姫が伸びをして椅子の背もたれに体重をかける。

(ここで勇者の出番や。まだ従軍してへんけど正式に国軍に加わったら、勇者ははっきり言うて、国軍でもあり、東狼団でもあり、それでいてどちらでもない。正に微妙な存在や。あいつを上手く利用すれば、東狼団っちゅうごっつい味方を得られるかもしれん。・・・・・・ウチには失敗は許されへんのや)

姫は立ち上がると、侍女を呼び部屋を片づけさせると、ミリアを探すために部屋を出た。

†††

詰みゲー! 4-26

†††4-26

「・・・・・・第一回作戦会議。題して『ジョンの魔の手からミリアを奪還!』・・・・・・。って感じですか?」
「ああ、もうそれでええで」

クラリスがお茶を優雅にすする。ベンは予定していた仮眠が取り消しになってやや疲れた顔をしている。

「ぶっちゃけ、ジョンが姫様を好きになるかはどうでもいいです。ミリアとさえ離れてくれれば」
「ぶっちゃけ過ぎやで。ウチはそうはいかんねんけどな」
「さて、作戦ですが・・・・・・。要はミリアにジョンのことを諦めさせればいいワケです」
「まあせやな」
「そこでですね・・・・・・。姫様には堂々と、私はジョンが好きだ、とミリアに言い切ってもらいます」
「いややわ、はずかしいわ~」
「くねくねしないで下さい。別にそういうのいいんで」
「・・・・・・アンタ時々やたらと失礼やんな・・・・・・?」
「姫様が堂々と宣言すれば、ミリアは大人しく引き下がるでしょう」
「ふーん。エラい簡単やな。ミリアが、ウチもジョンが好き!ってなる場合もあるやろ?」
「姫様の見立て通りにミリアがジョンに惚れていればありえます。やり方や姫様の言い方にもよりますが」
「ダメやん、アカンやん」
「大丈夫です。悪魔の秘策があります」
「悪魔て・・・・・・」
「まず、姫様にはミリアと友人になっていただきます」
「ん?」
「まあ、一週間程度ミリアと友達になって下さい」
「ふむ?」
「友達になって一週間経ったら、ミリアに『ウチはジョンが好き』宣言をして下さい」
「・・・・・・すると?」
「・・・・・・ミリアは義理堅いヤツです。間違っても友人を裏切ったり、敵になるような真似はしません。あいつは必ず姫様に対して一歩下がります」
「・・・・・・確かに悪魔の策やなあ。情の欠片もない」
「いかにも。しかし、ミリアをジョンから引き離すと決めた以上、やらねばなりません」
「ものすごい覚悟やな。せやけど、バレたらどないすんねん」
「そのときはそのときですよ」

†††

詰みゲー! 4-25

†††4-25

クラリスの部屋では、ベンとクラリスが話し合っている真っ最中であった。

「せやなあ・・・・・・。アンタとミリアちゃんが実の兄妹やないってことは
わかったわ。じゃあ、アンタがあの子の父親に頼まれたっちゅうのは何や?」

クラリスが目の前で立ったままのベンに質問をする。

「私の父には、ミリアを養子とし、ミリアが大人になるまで面倒をみること。私には兄としてミリアを守ること。特に男については必死で頼まれましたね。『男には気をつけてくれ!俺のかわいいミリアに悪い虫が付かんようにな!』って言ってました」
「・・・・・・確認やけど、それ今際の際の話やんなあ?」
「いえ。亡くなる三日前です」
「・・・・・・まあええわ。で?」
「で・・・・・・とは?」
「アンタとしてはジョンがミリアとくっつくのは反対なんか?」
「ええまあ。私は伯父に恩義がありますから。頼みを無碍にはできません」
「せやったら、ウチと協力してくれんか?組んだ方がやりやすいやろし」
「はい。・・・・・・それでどうするので?」
「ん?」
「え?」
「お?」
「・・・・・・あの、作戦・・・・・・は?」
「アンタが考えて♪」

お茶を楽しそうにすする王女を、ベンはげんなりした顔で見つめた。

†††

詰みゲー! 4-24

††† 4-24

所変わって、ここは道場。
ミリアはジョンにベンが実の兄ではないことを明かした。

「えええええっっっっ!!!!????」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「初耳だよ、ぐはあっ!」
「よそ見をするなぁっ!」

衝撃の事実を知ったジョンのわき腹にシャープが隙やり、と槍を突いた。
わき腹をさすりつつもジョンは槍を構えるとシャープも白い髭の生えた口元をにやりと歪めて槍を構えた。

さて、ジョンとシャープがまた槍の稽古を始め、それに合わせるようにミリアが話し始めた。
ちなみにこれはシャープの指示である。ジョンの気を逸らしているのだ。戦闘中に雑念が入らないようにするというれっきとした稽古である。きっと。


「・・・・・・まあ、あたしのお父さんの弟の息子なのよ、ベンジャミンは。あたしの両親は一緒にいられなくってね。あたしはお母さんに付いてったんだけど、あたしが八歳の時に母さんが病気で死んじゃって。で、今度はお父さんがあたしを引き取ってくれたんだけど、その二年後にお父さんも病気で死んじゃった。あたしはそのときに叔父さんの養子になったのよ。で、ベンが兄さんになったってワケ」
「・・・・・・俺に言えた義理じゃないけどお前もヘビーなことをかなりさらっと言うよな」
「そうねえ・・・・・・。うつったのかしら」
「病気みたいに言うなよ」

ちなみにジョンはミリアの話に気を取られてここまででおよそ七回打ち込まれている。

「ついでだから東狼団についても話しておくわね」
「ついでかよ」
「その前にまずはイーストリア連盟について。イーストリアは国家群よ。まあセントリア連合もウェストリア連邦もそうなんだけどね。東の大陸の国は大体がイーストリア連盟の加盟国よ。そういう関係がもう何百年と続いてるの」
「東の大陸の国で同盟を作ってると・・・・・・。リーダーの国とかはあるのか?」
「あるわよ。まあ、盟主はずっとアルモンド王国って言うところだったわ」
「へーえ」
「で、そのアルモンドの王族に代々使えてきた騎士団が・・・・・・」
「が?」
「東狼団よ!」
「おおっ!」
「でも統一戦争の時にアルモンド王族が皆殺しにされちゃって。行き場がなくなったのよ」
「・・・・・・統一戦争?」
「ああ。統一戦争ってのは五十年前の世界大戦よ。三大陸の国家群が全面戦争をしたの。結果は西側(ウェストリア)の完全勝利。以来、西側がこの世界を牛耳ってるのよ」
「じゃあ、俺があの城で会ったのは・・・・・・」
「そーよ。彼は上国インテグラリア第二代国王グレゴリオ・テラ・ドリアンよ。この世界の統治者。最高権力者ね」
「げ・・・・・・。俺そんなエラい人と口聞いてたのか。なんか吐きそう・・・・・・、ぎゃあ!」

顔色を悪くしたジョンにシャープが槍で猛攻をしかける。ジョンも必死で防ぐが、やはり防ぎきれずにいくらかはもらっていて、もはやボロボロになっていた。
だが、ジョンはそんな状況でも質問を続ける。

「で?アルモンドの王族が殺された後、東狼団はどうしてたんだよ?」
「まあ、その恨みから一部の過激な連中が上国と喧嘩したりしたわ」
「上国と・・・・・・喧嘩?」
「そーよ」
「どういう意味だよ」
「要するに・・・・・・テロとか、ゲリラよ」
「え・・・・・・」
「そんな顔しないでよ」
「・・・・・・」
「だからそんな顔しないでって。あたしはもちろん、今の団員もその点はどうしようもなく恥じてるわ。同じ団員であるあなたにまでそんな目で見られたくはないのよ」
「・・・・・・悪い」
「・・・・・・。団員は基本的に先代の息子や娘が代々受け継いでいく形態よ。騎士団としては異質だけどね。そういうのがあるから、現団員は親の世代の失敗を理解して恥じていても、大っぴらに認めたくはないのよ。なんせ、自分の両親の過ちだからね。仮に団員が先代の行為を肯定する発言をしたとしてもそれは完全な本心ではないかもしれないということは覚えておいてね」
「ややこしいなァ」
「そーね。・・・・・・まぁそういうわけで上国との関係は悪いわ。おまけにゲリラ活動したせいで西側はもちろん、中央、東側にまで嫌われてるわ。当然といえば当然だけどね。今は魔物の侵攻とかがあって西側は仕方なく手を組んでるけど・・・・・・」
「けど?」
「・・・・・・なんでもないわ」
「・・・・・・そうか」
「ええ」

ミリアの言葉が終わり、シャープの突きの連撃がジョンを襲う。いくつかをまともにもらいつつもジョンはシャープの小手に突きをかすめることに成功した。
ジョンが喚起の雄叫びを上げ、シャープの驚愕の表情を見ながらミリアは思う。

魔物が本当にいなくなれば、次に狩られるのは誰かしら、と。

†††

詰みゲー! 4-23

†††4-23

コンコン コンコン

「はい?」
「ベンジャミン・ワッフルワインです。姫様にご挨拶申し上げたく」
「開いてるで」

ベンがドアを開けると、一人で優雅にお茶をしているクラリスがいた。

「そのお茶は姫様が?」
それがベンとクラリスの最初の会話だった。それがおかしかったのか、クラリスがくすくすと笑う。

「ちゃうちゃう。これはメイドに淹れてもおたんや」
「左様ですか」
「ああそれと、敬語は要らんで。他の皆にも言うたけど」
「伺っております」
「・・・・・・。まあええわ。ところで、アンタがベンジャミンか・・・・・・。『狼』の若頭、やな?」

狼という単語にベンの顔つきが一気に険しくなる。

「・・・・・・ご存じでしたか」
「当然やろ。これでも姫やで。こないだはちょっとトボけたんや」

クラリスが茶をすすり、横目でジロリとベンを見る。明らかに品定めをしている目だった。

(ふん。こんなこったろうと思ったぜ!王が王女をこんな所に確認もせずに送り込むものか!)

「アンタを見込んで相談があるんやけど、乗ってくれるか?」
「・・・・・・内容と見返りによりますね」

ベンはクラリスに言葉を選んで慎重に返事をした。その油断ならない様子がクラリスはますます気に入ったようだ。

「それでこそや。見返りは・・・・・・、ウチとアンタの間にパイプができるんやで。これ以上の見返りはあらへんやろ?」
「確かに強いコネではありますが、やはり内容にもよります」
「慎重やなあ。内容は・・・・・・ひょっとすると妹さんを傷つけることになるかもしれへん」
「・・・・・・どういう意味です?」
「・・・・・・。『王様の命令』は誰かに教えてもうたか?」
「次世代の軍の幹部候補と交流を持て、では?」
「ちゃうねん。本当は『ジョンと恋仲になれ』、や」
「・・・・・・は?」

ベンはハトが豆鉄砲を食らったような顔をした。それを見てクラリスが吹き出す。

「あはははは!せやろ!そおなるやろ!ウチもなってん!言われたとき!」

クラリスがケラケラと笑い転げる。それを見てベンはますます訳が分からなくなった。

「ええと・・・・・・。それは一体どういう意味でおっしゃられたので・・・・・・?」
「わからへん。ウチの意見なんか全然聞かんと、『あいつはいつか必ずお前の役に立つ。せやからとりあえず惚れさせて来い』ゆうて。頑としてゆずらへん。しゃあないから、ウチ、とりあえずここに来たんやけど・・・・・・」
「けど?」
「まあ、ウチもな、アホらしいとは思ってんねんけどな。一応、あの勇者クンを惚れさそうと思て来たんや。そしたら、もう先客がおったんや」
「先客?あいつを好いている奴がいると?メイドの中ですか?」
「何トボけてんねん。アンタの妹やないか」
「ああ!?」

ベンがいきなり叫び声を上げたのでクラリスはびっくりして危うく椅子から転げ落ちそうになった。

「ミリアが・・・・・・ミリアが・・・・・・あいつを?本当ですか、それは?」
「ほ、ホンマやで。ここに来てから二日ほどあの二人見とったけど、あれはくっつくで」
「ぬあーっっ!!!!」

ベンは両手で頭を抱えて絶叫した。それをクラリスがうるさそうに横目で見る。

「やかましいなあ・・・・・・。なんぼ兄貴やからってちょっとうるさいで」
「俺が兄貴だから騒いでるんじゃないですよ・・・・・・。俺はあいつの父親に頼まれてるんで」
「変な言い方やなあ。アンタの父親でもあるんやろ。仲悪いんか?」
「俺とミリアは義理の兄妹です。本当はいとこ同士なんですよ」
「ええっ!?」

今度はクラリスが大声を出す番だった。

†††

詰みゲー! 4-22

†††4-22

王女クラリスの襲来の三日後。ジョンは屋敷に昼寝に来たベンと玄関ホールで出くわした。

「・・・・・・ふーん。そりゃあ、あれだ。『次世代の軍の中核をなすであろう者達と交流を持っておけ』って意味だよ」
「次世代・・・・・・?」

仮眠を取るために屋敷に来たベンに、玄関ロビーで、ジョンは三日前の出来事を話した。前から来ると言っていた王女が来た、王様の命令でここに住み着くらしい、といった具合に。
ついでにジョンはクラリスの言っていた「王様の命令」の意味をベンに聞いてみたのだ。

「王様は多分、お前が訓練してる所はよほど『イイところ』だと思ったんだろうぜ。きっと次世代の幹部候補生達がわんさかいるようなところだと思ったんだ」
「幹部候補生???」
「・・・・・・わかるよな?将来のお偉いさんだよ。まあ、お前はこの戦役で勇者という称号にふさわしい活躍をすれば確実に大出世さ。間違いない」
「何言ってんだよ、ベンもだろ」
「ふ・・・・・・。まあな」

ベンはジョンの問いかけには答えず、ひらひらと手を振った。ジョンは俺には活躍なんて無理さ、と言っているのだと解釈した。

「ベンならいけるさ!一緒にがんばろうぜ!」
「あーはいはい。わかりましたよ。・・・・・・じゃあ、俺は姫様の所に挨拶に行くわ。一応、『住人』だしな」

そう言ってベンは階段を上り始める。クラリスの部屋に行くためだ。

「ああ、わかった。また後でな」
「仮眠したらすぐ出るよ。忙しいからな」

中庭に消えていくジョンに階段の上からベンは手を振る。

「・・・・・・無邪気なヤツだな」

一言つぶやくとベンは、はあ~、とため息をついてクラリスの部屋に向かった。面倒だったのだ。

†††