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詰みゲー! 5-4 一難去って…

お久しぶりです。天野孔雀です。まだ読んでくれてる人は果たしているのだろうか、いやいない(反語)。
というわけで一月ぶりくらいの更新です。今後も不定期でいくのでよろしく。



~前回のあらすじ~
魔動飛行船<キャシャラト>に乗って中央大陸(セントリア)へ向かっていたジョン、シャープとその他四人は海上で魔物、<大蜂《ジャイアントビー》>の群に出くわす。ポーン級の衝突に耐え、ルーク級を片づけたジョンたちであったが・・・・・・。


    5-4   一難去って…

<紫電槍《ライトニングジャベリン》>を頭部に受けたルーク級の<大蜂>は黒こげになった身体を崩壊させながらゆっくりと海へと落ちていった。

「これで敵はいなくなったか・・・・・・」

ふーやれやれ、とジョンが額の汗を拭いながら天井のハッチからハシゴを伝って降りた。するとジョンのところにシャープたちが寄ってきた。

「なんかわからんがよくやったのぉ、ジョンよ」
とシャープがジョンの肩を叩く。そんなことないさ、と謙遜しながらジョンの鼻が伸びているように見えたのは気のせいではないだろう。

そのとき、操縦席から「う、わー・・・・・・!」というどこか間の抜けた叫び声が聞こえた。ローシェがお腹でも下したのだろうか。

「どうした? 腹でも下したのか?」

ジョンたちが操縦席に入ると、ローシェは本当に具合の悪そうな顔で力なく笑い、

「ルーク級が空けた穴からポーン級がなだれ込んできました」

と言った。


         ***


「は?」

ジョンはぽかんとするばかりだったが、やはり経験の差というものはあるらしい。ペニーがいつもよりさらに髪を逆立てながら聞く。

「半壊したシールドを帰化させてスピードを上げれば振り払えるんじゃないッスか? 抵抗が減るッスから・・・・・・」
(※帰化・・・・・・魔力から具象化したマテリアルを再び魔力に戻すこと)

ペニーの提案にシエルがふるふると首を横に振る。

「試みたが、<大蜂>はすでに機体に取り付いてしまっている。速度を上げた程度では振り払えない。当然<魔銃>は使えない。機体が損傷するからな」
「えーっと・・・・・・、<大蜂>が機体に取り付いていたとして・・・・・・一体何がまずいのかしら?」

アーニャが割り込みで疑問を口にする。

「ただ機体に穴を空けられる程度なら問題は無いのじゃ。高度はさほど高くないからの。気圧や温度でどうこうということはない。問題はのぅ・・・・・・」
「スペルだよ、アーニャ」

大事なキーワードをローシェがしれっとした顔で口にした。シャープの恨めしげな視線に気づくことなくローシェは続ける。

「万が一、連中が飛行スペルに傷を付ければ<キャシャラト>は墜ちる。文字通り、墜落だ」

ローシェは手で飛行機が落ちる真似をした。その仕草はお世辞にも分かりやすくはなかったが、妙に落ち着いたローシェの様子が逆に不気味だった。

「墜落か・・・・・・。何とかならないか?」
「なりませ・・・・・・」

ジョンの質問にローシェはキッパリと答えようとして、止まった。

「・・・・・・ローシェ?」

黙りこくったままのローシェを心配してジョンが肩を揺する。するとローシェはホラー映画に出演できそうな形相で勢いよく振り返った。

「ジョンさん!」
「お、おう、なんだローシェ」

ジョンはローシェの形相にやや気後れしていた。ホラー系は苦手なのだ。

「なんとかしてください!」

そう言ってローシェはジョンの肩をがしっとつかんだ。


         ***


「なんとか・・・・・・ってこういう意味かローシェの奴・・・・・・」
「ほーお、こう一日に何度も来られると俺としては複雑な気分だな」
「黙ってろよ」

ジョンはスキル<魔導の極意《スペルハート》>で<試練の塔>に来ていた。おかげで会いたくもない<番人>と会うハメになったのだ。
四章の最後くらいに出てきた<試練の塔>。
<試練の塔>ではどのようなスペルでも獲得可能だ。
ただし、その能力は選ぶことはできても獲得条件の試練、獲得スペルに付与される使用リスクはジョン自身には決められない。

「ふん、用件はわかってるだろ。さっさと『物体を浮遊させるスペル』を修得するための敵を出せ」
「そうトゲトゲすんなよ。俺だって好きでお前をいじめてるワケじゃないさ。これが俺の『役目』なんだよ」
「・・・・・・いいから早くしろ」
「へいへい」

ジョンの言葉に応えて<番人>がぱちん、と指を鳴らす。ジョンは具象化した剣を構え、<番人>に向かって叫んだ。

「もったいぶるな!早くしろ!時間が無いんだ!」

<番人>はどこから出したのか長いベンチに寝そべって本を読んでいた。まるでこれから起こることには興味が無い、と言わんばかりだったが、それでも<番人>はやれやれと首を振ってジョンに忠告した。

「ふん、もう呼んださ。あと三秒後に部屋のまんなかに出てくるからな。ちゃんと見とけ」
「どんな敵が出てくるんだ?」

三。

「弱気じゃないか、怖いのか?」
「バカ言え。参考までに聞いてみたんだよ」

二。

「そろそろ出るぞ」
「ドンと来い!」

一。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

零。




部屋の中央に忽然と現れたそれは、


直径一メートルの、


ふわふわ浮かぶ、マンホール。



          ***


「マンホール!?」
「マンホールだよ。直撃もらうなよ、死ぬからな」

驚くジョンに<番人>がページをめくりながら忠告する。
その<番人>の様にイラッときたジョンだったが、すぐに注意をマンホールに戻した。

というか、高速でまっすぐ突っ込んでくる鉄の塊を前にしては<番人>なんか気にしていられなかった。

「速っ!」

通り過ぎざまにジョンが叫ぶ。ジョンはなんとかかわすので精一杯だった。

(でもドッジボールの玉よりいくらか速い程度だな!)

そのマンホールはまっすぐにジョンに突撃した後、直角に上に曲がり、急降下してきた。

「重力で加速するつもりかよ!だったらこれでどうよ!」

ジョンは具象化魔法(マテリアル)で自らを覆う巨大なイガグリが如きトゲ付き球体を作った。
マンホールはトゲの中に突っ込んでくるようなマネはしない、と高をくくっていたのだろうが、

「浅はかだな!」

<番人>のその言葉が正解だった。
マンホールは超加速落下の勢いゆるめることなくジョンのイガグリシールドに突撃した。

結果。

マンホール、無傷。

イガグリシールド、貫通。

ジョン、捕獲。


「・・・・・・誰が浅はかだって? クソヤロー」

ジョンは破壊されたイガグリシールドの中で氷の盾を構え、マンホールを凍結停止させていた。

「・・・・・・反撃特化のシールドなんて張らずに防御特化を張るべきだと思ったが、なるほど。防御の甘いシールドを張
り、突撃を誘ったわけか。やるじゃないか」
「ほら、さっさとスペルよこせ。勝ったぞ」
「厳密には殺してないがな。まあいい。くれてやろう。
<ナミノリ>だ」
「サーフボード?」
「人間なら重量に関係なく十人まで浮遊させられる。ただし使用者に触れていること。連続使用可能時間は五分。断続使用に制限は無し。魔力消費はかなり多め、だ」
「・・・・・・性能が良すぎるな。魔力消費はどのくらいなんだ?」
「連続五分使用可能と言ったが、一分で紫電槍一本分だな」
「あれ作るのに半日分の魔力使ったんだぞ? 残りの魔力で何秒飛べる?」
「魔譜を破ればいいだろうが。回復アイテムはどんどん使っとけ。死ぬぞ」
「へーへー」


           ***


「取ってきたぞ・・・・・・ってなにこれ落下中?」

ジョンが<試練の塔>から戻ると船室でシャープたちが浮いていた。自由落下というやつだ。かなりギリギリだったらしい。

「ちょうど良いところに帰ってきたのぉ」
「早く何とかしてください!」

のんびりとしたシャープとは対照的にアーニャが鬼気迫る表情でジョンに叫ぶ。
どうやら時間がないらしい。
迷っている暇は無さそうだ。

「仕方ねーなー・・・・・・」

ジョンはポケットから魔譜をごっそりと抜き取ると口にくわえて噛みちぎった。

ジョンの体の奥底から大量の魔力が溢れる。多すぎたかもしれないが、ケチっていられる状況じゃない。

「召喚、<ナミノリ>! 俺に捕まれ!」

ジョンの目の前にぼふん、とサーフボードが現れた。
ジョンはそれに乗ると浮遊魔法で移動し、仲間を回収し、
ハッチから外へ飛び出した。
同時にすさまじい砂嵐に襲われた。目を開けることも、口を開くこともできない。


この時点で<ナミノリ>発動から三十秒経過。


<キャシャラト>はジョンたちの脱出とほぼ同時に地面に墜落した。
バキバキと硬質のマテリアルが破壊される音が響く。
あれが墜落しなければミリア探しもどれだけ楽だったろう、などという考えがジョンの頭をよぎった。

しかし、すぐに
(過ぎたことだ)
と頭を振って着地地点を探し始めた。浮遊可能時間はいくらも残っていないのだ。

中央大陸(セントリア)に到着したらしく大地があるのは結構なのだが(海なら確実にジエンドだった)、いかんせん砂嵐が激しく、地面が見えず、下手をすると墜落よろしく地面に仲間を叩きつけてしまうかもしれなかった。

しかし
(・・・・・・ええい、ままよ!)
とジョンはキャシャラトが墜落した付近に突っ込んでいった。さきほどの音で地面までの大体の距離がわかると踏んでいたのだ。
このまま飛んでいればどの道、仲間を落としてしまう。なら一か八か!という思考が働いたようだった。

しかし、ジョンが背負っているのはお荷物ではない、仲間である。

「<ウィンディア>! ジョン、砂嵐は任せろ!」

ペニーの叫び声で砂嵐が割れて目を開けることができるようになった。

「サンキュー、ペニー!」

ジョンは地面に無事に着地し、仲間を下ろすとへたりこんだ。さきほどの魔譜の分の魔力はとっくに使いきっていた。
隣でペニーが再び風魔法<ウィンディア>を使う。砂嵐を晴らせて、目的地を見るためだ。

しかし、ペニーが晴らしてくれたおかげでジョンたちは数十体の人型の魔物に囲まれていることに気づいた。

「一難去ってまた一難・・・・・・」
ジョンは力無くそう呟くと、はは、と笑った。
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詰みゲー! 5-3 襲撃と衝撃


今週は詰みゲー!の更新です。今回はジョンが活躍してるかも。
ちなみに今後は更新がテキトーになります。ご了承ください。
それでは。




5-3 襲撃と衝撃


「敵襲じゃ!」

操縦席からジョンたちのいる第一貨物室へ入ったシャープは開口一番にそう言った。
ジョン、アーニャ、ペニー、シエルが一斉にシャープを見る。シャープは続けた。

「前方に<大蜂《ジャイアントビー》>の大群だ。空での戦闘経験が最も多いローシェが臨時でリーダーだ。指示をよく聞け」

ジョンは「俺の立場は?」と思ったが黙っておくことにした。人間関係に波風を立てないことは大事だ。
数秒後、船内の譜機械(スペルマシン。略してスペマ)でローシェの声が響いた。これの名前は『伝音機』という物で、無線や電話のようなものだ。

「<大蜂>の群れには約七十秒後に接触します。視認できる限りではポーン級が少なくとも百から二百。ルーク級の有無はわかりません。これから指示を出します」

そこでローシェが息継ぎを挟む。

「シエルは操縦席に、ペニーは砲撃台へ。准将とジョン、アーニャは第一貨物室で待機。ジョンとアーニャは准将の指示に従って下さい」

ローシェの指示でシエルは操縦室へ向かい、ペニーは天井への梯子を上り始めた。第一貨物室の梯子から船外に出ることができる。砲撃台は船の背中、ちょうどイルカの背びれのような位置にあった。

「砲撃、開始!」
「合点承知ってなもんよ!」

ローシェの合図とともにペニーの大声と銃声が聞こえてきた。
ちなみにペニーが砲撃台で撃ちまくっているのは<魔銃>という譜機械(スペマ)で、具象化結晶(マテリアル)の弾丸をスペルで撃ち出している。強力な武器で、マテリアルの鎧で覆われた魔物でもダメージは割と通るのだが、残念なことに重量と反動の関係で携帯武器にするのは難しい。

「砲撃、止め!シールド、展開!」

<大蜂>の群との距離が縮み、ローシェが新たな命令を下す。
<魔銃>なら<大蜂>単体にけっこうなダメージは与えられる。しかし群全体を食い止められるか、と言うとそれは土台無理な話だ。射程距離に入ってからシールドを張るまでのわずかな時間にペニーに撃たせたのは一匹でも減らしたいというローシェの本音があったからだ。焼け石に水でもやらないよりマシ、ということである。ちなみにシールド展開中は内から外への攻撃も遮断されるので<魔銃>も使えなくなる。

ガガガガガガガガガガガ!!

大量の<大蜂>がシールドにぶち当たる音が船内に響く。ついでに殺しきれなかった衝撃もかなり船内に来てしまっており、ジョンたちはたまらず船壁につかまった。
シールドはつまるところラグビーボールのような形をした巨大な具象化結晶に過ぎない。それをキャシャラト本体につないでいるだけだ。シールドは攻撃を受け続ければ壊れるし、衝撃も緩和されてはいるものの船内に伝わるのである。

しばらくすると、地震のように続いていた揺れがピタリと止まった。直後、ローシェの船内放送が流れた。

「ルーク級の個体を正面に確認!総員、衝撃にそな・・・・・・」

ローシェの警告の途中で衝撃はやってきたが、警告が十分早くとも大して意味は無かったろう。知っていても到底耐えきれる衝撃ではなかったのだ。
シャープが吹っ飛び、ペニーは梯子から落ち、アーニャが宙に浮き、ジョンは操縦席への扉に叩きつけられた。

「うおっ!」
「ぎゃっ!」
「きゃっ!」
「ぐはっ!」

ジョンが打ったらしい頭をさすりながら貨物室のメンバーの様子を見た。全員深刻なケガは無さそうだった。そして振り返ると操縦席への扉が開いており、ローシェとシエルの姿が見えた。二人とも無事らしい。
そこまで確認してジョンはふと視線を上にずらした。フロントガラス越しに外を確認しようとしたのだ。

奇怪な物が視界を遮っていた。
それは巨大な一つ目の模様。誰かが壁に書いた大きな目玉のラクガキ。いくらかコミカルにも見えるそれはこの緊迫した雰囲気にひどく不釣り合いだった。

その巨大な目玉模様を持つ魔物がルーク級の<大蜂>であり、たった今シールドを破壊したのだとジョンが理解するまでに三秒かかった。


***


ルーク級、ポーン級とは、魔物たちを分類する等級である。ポーン級は雑兵、ザコに当てられ、ルーク級はとりわけ大きな個体や重量のある個体に当てられる。
ポーン級の<大蜂>は体長一メートル。昆虫の蜂としては十分に大きいが、ルーク級は体長五メートルである。小さいの巨大ロボ並の迫力がある。
五メートル大の巨大な具象化結晶の塊が正面から突っ込んでくれば堅固なシールドでも破壊されるのは無理のない話だ。しかしシールドも最後の意地くらいは見せてくれたらしく、<大蜂>はシールドの一部を破壊した所で亀裂に挟まった。じたばたと暴れる<大蜂>を見てローシェが声を上げる。

「あいつ、挟まったのか!?」
「そのようだな」

シエルが冷静に応える。そして顎に手をやって続けた。

「ふむ、攻撃するなら絶好のチャンスだな。奴はすぐにでも邪魔なシールドを破壊して中に侵入するぞ。そうなったらもう駄目だ。打つ手が無い。<魔銃>も効くまい」
「遠距離攻撃のスキルなら僕とペニーだが、威力が無いからトドメは刺す前に奴は抜け出してしまうな・・・・・・」

そこで二人はうーん、といって黙りこんでしまった。ジョンは思わず、

「え、終わり?」

と聞いてしまった。するとローシェが怒ったように答える。

「あの蜂を攻撃するなら砲撃台からです。ですが、<魔銃>はルーク級を殺すには役不足です。だからスキルでの攻撃を考えなければいけないのですが、遠距離攻撃のスキルでもかなりの時間がかかります。つまり我々には打つ手が・・・・・・」
「ある!!俺なら奴を殺せる!!」

ジョンはローシェの言葉を遮って声高に叫んだ。

「何を言っているんですか、ジョン?遠距離攻撃のスキルも持たないあなたが奴を殺せるわけ・・・・・・」
「できる!」
「どうして・・・・・・」
「俺は勇者だからな!」

そう言ってジョンはにひひ、と笑った。

「信じてくれ、ローシェ。俺は勇者だ。みんなを守るくらいのことはできる」

ローシェは自称勇者の顔を穴の開くほど見つめていたが、不意にため息を吐いた。

「・・・・・・わかりました。あなたを信じましょう。砲撃台へ行ってください」
「ああ、任せとけ!」


***


ジョンは砲撃台への梯子に手をかけながらシャープたちに、

「行ってくるぜ!」

と言った。するとシャープはグッと親指を突き出して、

「うむ、行くがよい!」

と言った。信頼されてるなあ、とジョンは少し嬉しくなった。
アーニャとペニーがぎゃーぎゃーと騒ぐ中、ジョンは砲撃台に上った。

周囲は全て透明なシールドに囲まれている。シールドを透かして青い空と海が見えた。魔物さえいなければ絶景なんだけどな、とジョンが心の中でつぶやく。
魔物、ルーク級の<大蜂>はまだシールドに挟まったまま身動きがとれないでいた。だが、亀裂が広がっているので抜け出してまうのも時間の問題だろう。

「化け物め、年貢の納め時だぜ!」

ジョンはそう言って右手を突き出した。

「召喚・紫電槍!」

宣言に呼応するようにジョンの右手に一本の槍が現れた。長さは約百九十センチ。スペルの書かれた擬木製の柄、先端には鋭い両刃を持ち、刃の根本には動物の毛のようなもさもさした塊がついていた。

召喚とかこの槍の詳しい話はまたいずれ。

ともかく。
ジョンは槍を構え、そのままの体勢でスペルを起動させた。槍の柄のスペル文字がぼんやりと鈍い光を放つ。
スペルを起動させるとジョンは槍を<大蜂>めがけて思いっきり投げた。

「突き破れッ、<紫電槍《ライトニングジャベリン》>!!!」

紫電槍はほぼ直線の軌道をとり、見事<大蜂>の顔面に突き刺さった。
突き刺さった槍は一度だけバチリと小さく鳴くと、船をも震わす咆哮を上げて<大蜂>の身体を食い破る雷と化した。
メキメキと轟音を上げて<大蜂>に絡みつく紫電の帯はさながら獲物を絞め上げる大蛇のようだった。

詰みゲー! 5-2  空の旅、異変の影

「詰みゲーもここまで来たか」感があります。でも「ここまでしかこれてないのか、まだ」感の方が圧倒的に強いですが。でもこれから(も)がりがり頑張って更新していきます。
でもたぶん来週はドレタキ更新です。忙しいから。


空の旅、異変の影

ごうんごうん。
ごうんごうん。

野太い軋み声を上げながら<キャシャラト>は順調に空を駆けているようだった。小窓からは豆粒ほどになった地上の建物が見える。おそらくこの世界の一般的な市民はこんな景色を見ずに一生を終えるのではないだろうか。
そんなわけで、

「うわー!高っかいですねー!」

そう言って窓にしがみついている少女がいるのも無理は無い話なのではないだろうか。

ジョンたちが<キャシャラト>に乗り込むと、中にはパッと見て三人の男女がいた。
一人は長身の男。髪の毛が『怒髪、天を衝く』状態になっている。おそらく二十代後半。
二人目は丸っこい体型の男。大人しそうな見た目で驚異的な丸顔であること以外には特にこれと言った特徴はない。怒髪と同じく二十代後半か。
三人目は赤毛の少女だ。丸メガネに三つ編みのツインテール。たぶん十代後半。

赤毛の少女が窓から離れてジョンとシャープに近づいてきた。他の怒髪と丸顔もそれに続く。

「ご苦労様です!ペンシル准将、勇者サッキー・ジョンさん!」
「うむ、ご苦労アーニャ。二人もな」
「「ご無沙汰しています、准将」」

ジョンは『サッキー・ジョン』と呼ばれたことで少しむっとした顔をしていた。赤毛の少女、アーニャはそれにめざとく気づいた。

「おや、どうしました。サッキーさん?」
「・・・・・・できればジョンと呼んでくれると、助かる」
「わかりました!サッキーさんですね!」
「これっぽっちもわかってないじゃん!」

ジョンが声高に叫ぶと赤毛の少女はくすくすと笑った。

「冗談です、ジョンさん。レイン様にからかうように言われていたので」
「あの白髪幼女め・・・・・・。今度会ったら高い高いしてやる」
「それは罰なのか?」

と、シャープ。ジョンはそれをスルーすることにした。

「それで、そちらのお二人さんのお名前は?」

ジョンが自己紹介も済んでいない怒髪と丸顔に話をふった。すかさず怒髪が名乗る。

「あっしの名前はペニー。その筋ではペネトレイターと呼ばれてまさぁ」
「どの筋だよ・・・・・・」

髪の毛だけじゃなく口調まで変なのか、とジョンは心の中でぼやいた。そこへ、丸顔の男が名乗る。

「私の名前はシエル。その筋ではシールドと呼ばれているよ」
「だからどの筋だよ・・・・・・」
「そのうちわかりますよ」
「ふーん。ところでこれで全員なのか?」
「いいえ、もう一人いますよ。今は操縦してます」
「ここに呼びますか?」

赤毛の少女、アーニャがメガネをきらりと光らせながら言う。

「いや、ダメだろ!船が墜落するわ!」


***


船を落とすわけにも行かないのでジョンたちはぞろぞろと操縦席へ移動した。
操縦席に座っていたのはキャスケット帽をかぶった少年だった。アーニャと同じく十代後半か。

「ご無沙汰しています、シャープ准将。はじめましてジョンさん、僕はローシェと言います」

席を立ちジョンとシャープに一礼すると、

「失礼します」

と詫びてローシェは再び席について操縦を始めた。

「大陸まではあと五時間くらいで着きます。その後はどうなるかわからないので皆さん、準備をしておいてください」
「何よ、ローシェ。回りくどいじゃない。何があるのよ?」

ローシェにアーニャが随分と砕けた口調で話しかける。ペニーがジョンにささやく。

「ローシェとアーニャはデキてるんでヤンスよ」
「そうなのか!?」
「あっしのカンでさぁ」
「カンかよ・・・・・・」

二人のささやきを聞いてか聞かずか、ローシェはアーニャに厳しい声で注意した。

「アーニャ、仕事中ですよ。何ですか、その口調は」
「いいじゃないの、もうこの先ずっと仕事じゃない。だったら全部プライベート扱いにしないと身が持たないわ」
「なんですか、その理屈は」
「いーからいーから。それで何があるのよ?」
「一番の懸念は魔物との遭遇です」
「あたし飛行型の魔物はよく知らないんだけど」
「海上には連中はほとんどいない。魔力が供給できないからね」
「ふむふむ」
「だから警戒すべきは大陸に入ってからだ。<キャシャラト>は速いけれど魔物と比べて格段に速いわけじゃないからな」
「なるほどねー」
「・・・・・・ちょっといい?」

ローシェとアーニャの会話に割り込んだのはジョンだった。

「魔物って生き物だろ。魔力が必要なのか?」
「魔物は生き物ではありませんよ。あれは<具象化結晶《マテリアル》>の身体を持った魔動人形です」
「え?」

ジョンはポカンとした顔をしてシャープを見た。

「言ってなかったか?」
「ひとッことも言ってねえよ!」
「すまんすまん。まあ、今わかったからいいじゃろ?」
「よくねえよ!」


***


ジョンがシャープにツッコんだ四時間三十分後。
ローシェとシャープは操縦席で話をしていた。

「見てください、中央大陸(セントリア)の陸影です」
「うむ、いよいよだな」
「はい。・・・・・・ん?」

そのとき、具象化ガラス越しに(要するにフロントガラス越しに)前方を見ていたローシェは眉をひそめた。

「どうした?」
「十一時の方角に<大蜂>の群です」
「・・・・・・あの黒い霧か!」
「視認できる限りではポーン級ばかりのようですが・・・・・・あの中にルーク級がいないとは断言できません」
「回避は?」
「不可能です。もう気づかれています」

そう言ってローシェは少し上を指さした。具象化ガラスの端に手のひらほどの大きさの半透明な置物が乗っていた。しかし、それが置物ではないことをシャープたちは知っている。

「<硝子鴉>か」
「たった今気づきました。申し訳ありません」
「いや、いい。気づいても何もできん」

シャープは徐々に迫ってくる黒い霧に背を向け、ジョンたちが休んでいる第一貨物室へと向かった。

詰みゲー! 5-1選択(後半)

今週は詰みゲー!です。ずっと前に前半を載せたまま放置していた第五章の一話の後半を書きました。五章までが長すぎたのですが、本番はここからです。あらすじを更新してこれまでの流れを書いておくので、長すぎると感じた人はそちらでショートカットしてください。それではまた。


***

「これが〈キャシャラト〉です!」

レインが指さしたのは流線型のフォルムを持った小型の輸送機だった。大きさは二十五メートルのプールにすっぽりと入る程度。色はくすんだ青と灰色。

「おー、これが〈キャシャラト〉か!カッコいいじゃん!」
「いいから乗れ!」

〈キャシャラト〉の大きさに感心していたジョンであったが、シャープによって機体のわき腹に付いているドアに突っ込まれた。

「ローシェ、もう時間が無いから飛ばしてちょうだい!」
「了解です!」

レインが操縦席の辺りに命令すると少年の声が返事をした。直後、〈キャシャラト〉が大きく揺れ始める。明らかに離陸が始まっていた。

「ジョン!」

レインに呼ばれたのでジョンは開けっぱなしのドアから首を出した。機体は既に少し浮いていて今にも飛び立とうとしていた。

「必ずミリアを連れ帰ってください!さもないと・・・・・・」

レインは二の腕を曲げた。

「お仕置きです!」

二の腕を曲げたのは失敗したら拳骨、という意味か。

「わかったよ!殴られたくないからな!必ず連れて戻るよ!」
「約束ですよ!」

ジョンがドアから頭を引っこめると同時に<キャシャラト>が低い機械音を発して飛び立った。


***


みるみる小さくなっていく〈キャシャラト〉を見上げてレインがつぶやく。

「行っちゃいましたね」
「そうですね、お嬢様」

レインがオーレンを見上げてニヤリと笑った。

「これから忙しくなりますよ、オーレン」

くるりと踵を返して足早に王城へと向かうレインと、その後ろを三歩退がってついていくオーレン。

……何年も続いてきたこの微妙な距離が修復しようもないほどに離れてしまうのはこれから一ヶ月後のことである。

詰みゲー! 5-1前半

北の海の魔女の次話を加筆修正する時間が無いので代わりに詰みゲー!を掲載します。まだ詰みゲー!の定期更新はしません。こいつの方がもっと書けていないので。本当にその場しのぎです。来週こそは北の海の魔女を載せます(超希望的観測)。
なお、今回の話は修正されるかもです。そこんとこヨロシク (*´∀`*)ノ!

五章から〈〉とか《》の付け方が変わります。あんまり気にしないで欲しいです。


第五章  盤上の仮面舞踏会

†††5-1 選択


〈隠者の忍び屋敷《ハイドアウトマンション》〉の中。玄関ホールにて。数十の蝋燭の灯を携えたシャンデリアの下で、勇者ジョンと将軍シャープを仲間が取り囲んでいた。旅立つ彼らを見送るためだ。

レイン中佐がいつになく真面目な顔をして指を三本立てる。彼女の瞳の中で蝋燭の灯がゆらゆらと揺れた。

「さて、勇者サッキー・ジョン君。セントリア大陸に向かうには三つの経路があります。一つは陸路。〈パンサー〉という乗り物と列車を乗り継いで〈陸橋《グランドブリッジ》〉を越えて中央大陸《セントリア》に入ります。目立たないため、危険性は最も低いでしょう」

レインが立てていた薬指を折る。残りは二本だ。

「次は海路。やはり〈パンサー〉と列車に乗り港町に向かいそこから魔動船〈ダック〉に乗り換えて航行し、中央大陸《セントリア》に侵入します。海中に魔物はいませんが、飛行型からの襲撃を受けるか上陸の際に待ち伏せを食らう恐れがあります」

レインが中指を折り、最後に人差し指が残った。

「最後は空路です。〈キャシャラト〉という魔動飛行船に乗って移動します。首都から空を一直線に突っ切って中央大陸《セントリア》に侵入します。この経路が最も危険ですが同時に最も早く中央大陸《セントリア》に上陸できます。ジョン、一体どの経路で行きますか?」

ジョンはレインの問いかけに間髪入れずに答えようとした。
しかしジョンは途中で口を閉ざしシャープの顔を見上げた。そんなジョンにシャープが厳しい声で言い放つ。

「ワシの顔色など伺わなくていい。今回の作戦のリーダーはお前だから好きなように決めるがいい」
「ええ、俺がリーダー!?」

ジョンが驚いてレインやオーレンの顔を見ると二人とも頷いた。すでに相談してあったことのようだ。
ならば、とジョンは晴れ晴れとした表情で断言した。

「空路で行く。俺たちは一刻も早くミリアを助けなければならない。だから空路以外の選択肢は、無い」
「やはり空路ですか。せいぜい気を付けてくださいね」

レイン中佐はやれやれ、とでも言いたげに首を振ると玄関ドアへ歩いていった。

「それでは、あなたの言うようにマジで一刻の猶予も無いのでとっとと出発しましょうか」

レイン中佐が屋敷のドアを開くと、外から風が吹き込んで彼女の髪をひらりと靡かせた。その様がジョンにミリアを思い出させた。思わず拳をきつく握りしめるジョンの肩をロベルトが叩く。

ジョンは振り返り、ロベルトだけでなくクラリス、キティにも宣言した。

「必ずミリアを連れて帰る。それまでみんな元気で」
「健闘を祈っています」

ジョンが拳を突き出すと、ロベルトは黙って自分の拳を突き返した。次にクラリスが、続いて彼女に抱えられたキティが小さな足でそれに倣う。

ジョンは寝食を共にした仲間たちと別れを済ませるとシャープたちと共に屋敷を出ていった。


***

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詰みゲー! 4-47 

†††4-47


本の中。試練の塔にて。
目の前にいた番人がジョンに声をあいさつする。

「よう、早かったな」
「ああ、急いでるしな」
「まあ、知ってるけどな。ここでの時間は元の世界では一瞬だからあんまり気にしなくてもいいぜ」
「それは助かるな」
「ああ、そういえば塔の外にお前に会いに来た奴がいるぜ」
「は?」
「早く行きな。彼女ずいぶん待ってるみたいからな」
「え?彼女?」
「いいから行けって」

番人が何を言っているのかまるでわかっていないジョンを塔の番人は外に押し出した。

「ほら、向こうの木の下だ。見えるだろ」
「・・・・・・!」

ジョンは草原に立つ一本の木の下に一人の少女が立っているのを見るや、その木に向かって走り出した。それを見て番人が笑ってつぶやく。

「おやおや、あんなに急いで。そんなに会いたかったのかねえ。・・・・・・まあ、知ってるけどな」


***


少年は木の下に立つ少女に遅れたことを謝った。

「悪い、待ったか?」
「・・・・・・遅いわよ。何かあったの?」
「悪い悪い。目覚ましが鳴らなくてさ」
「そもそもセットしてたの?」
「そうだったな。無かったな、目覚まし」
「まったく・・・・・・、変わってないわね」
「そうかな」
「・・・・・・どのくらい経ったの?」
「まだ一年経ってないよ」
「ふーん・・・・・・。それなのに新しい女に惚れちゃったのね」
「いっ!?」
「わからないと思ったの?あきれたわね」
「・・・・・・怒ってる?」
「ええ、ちょっとね。でもちょっと嬉しかったわ。あんたが立ち直ってくれたってわかったから。あたしが腹を立ててるのは、アンタがその女(ひと)をどこかにいかせてしまったことよ!知ってるんだからね!行かせた理由も!」
「り、理由?俺はあいつが仕事だって言うから・・・・・・」
「だったらアンタがついていけばよかったじゃない。今みたいに必死になって周りに頼み込めばよかったのよ」
「それは・・・・・・」
「理由を言いましょうか?・・・・・・あたしよね?あたしに遠慮したんでしょう?」
「・・・・・・そんなことは、」
「図星でしょ?」
「・・・・・・全部わかってるのか」
「そりゃあ、アンタの考えてることくらいわかるわよ。アンタ単純だもん」
「言ってくれるぜ・・・・・・」
「翔太」
「なんだよ」
「彼女を助けなさいよ」
「・・・・・・ああ」
「ゼッタイよ。約束して」
「ああ、約束する。必ずミリアを助け出してみせる」
「よし。では勇者クン。キミにこれを授けよう」
「なんだよ、そのノリ」

少女はポケットから黄色くて細長い物を取り出した。

「これは?」
「ハチマキよ。あたしからの餞別」
「・・・・・・ちょっとダサくないか?」
「ああ?」
「何でもないです」
「・・・・・・うん。よし、じゃあ、あたしは帰るわ」
「え!?もっといてくれよ!」
「あたしはもうアンタみたいなのとは関わっちゃいけないのよ。今回会えたのは本っ当にすごいことなんだからね」
「行っちゃうのか」
「ええ」
「もう会えないのか」
「ええ。二度はないわ」
「そうか。・・・・・・花蓮」
「ん?」

どこかに歩き去っていこうとしていた少女が振り返る。

「・・・・・・その髪留め、似合ってるぜ」
「ふふ・・・・・・。ありがと」

少女は笑って礼を言い、木陰から出て光となって消えていった。


***


「やっと戻ったか。・・・・・・泣いてるのか?」
「うるせえ。さっさとエヴリスと戦わせろ」
「そうせかせかするな。物事には順序がある。まず帰りの分と復活の分の魔譜を出せ。分量はわかるな?」
「ほらよ」
「確かに」
「早くしてくれ」
「わかったわかった。それにしてもお前そのハチマキはどうしたんだ?」
「うるせー。早くしろ」
「・・・・・・わかったよ。エヴリス!」

部屋の中央に巨大な鎧の騎士が現れた。


***


『隠者の忍び屋敷』玄関ホールにて。
出発の準備を終えたシャープがロベルト、レイン、オーレン、クラリスと別れのあいさつをしていた。

「おや、やっと大将の到着だ。・・・・・・どうだ、ジョン!スキルは手には入ったか!」
「ああ!バッチリだ!」

二階から下りてきたジョンにシャープたちが駆け寄って「どんなスキルだった?」「強い?」「使える?」「そのハチマキなに?」などとジョンを質問責めにした。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。いっぺんには答えられないって」
「じゃあ、スキルの名前は?」
「ずばり《魔導の極意<スペルハート>》だ!」
「スペルハート?どんな能力なんだ?」
「さあ?」
「は?お前のスキルだろう?」
「説明されたけどよくわかんなかった」
「おいおい・・・・・・大丈夫か?」
「大丈夫だって。また説明聞きに行けばいいんだし」
「まだ試練の塔に行けるのか?」
「ああ、行けるよ。来いって言ってたし」
「ま、まあスキルの詳細はそのうち・・・・・・。セントリアに入るまでには把握してくれ」
「オッケー」
「大丈夫かなあ・・・・・・」
「大丈夫だって」
「ところでその黄色いハチマキはどうしたんだ?」
「餞別だよ」
「誰からの?」
「・・・・・・さーてと。行くぜ、シャープ!」
「あ、ああ」

あからさまに話題を逸らしたことに誰もが気づいたが聞き直す者はいなかった。みんなは空気が読めますから。

「あ、待ってジョン」
「何だ、レイン?」
「今回のミリア奪還作戦は軍の正式な作戦になったわ。王様の許可も得てあります」
「あ。それはありがとう。知らないところで頑張ってくれて」
「いいのよ。つきましては、ジョンを正式に軍人に任命しなくちゃならないの」
「いいよ」
「そのためには名前が要るのよね。サッカーだかサッキーだかそんなあやふやな名前では困るのよ」
「いや、俺はサッカーなんて言った覚えないぞ。サッキーも無いけど」
「だから今決めてちょうだい、名前」
「坂井翔太で」
「却下」
「何で?ホント今更だけど何で?」
「呼びにくいし変換が面倒」
「おいお前いま変換って言ったか?」

そこでいきなりシャープが割って入った。

「ジョン。さっきのスキルの名前なんか中々いいじゃないか。アレにしたらどうだ?」
「は?」
「ジョン・スペルハートと名乗るのだよ」
「いやいやいや。それは無いだろ」
「なぜだ?」
「それだと俺はスキルを使う度に『スペルハート!』って自分の名前を叫ぶ奴になるじゃないか」
「うむ。だがそれがいい」
「何考えてんだ、爺さん」

更にそこにロベルトがやたら楽しそうに口をはさんだ。

「ではジョナサン・S・ハートにすればよいのでは?これで問題は解決です」
「いいわね、それ採用」
「勝手に採用するなよ、レイン。・・・・・・ロベルト、Sは何の略だ?」
「スペルです」
「やだよ!解決してねえよ!」
「うぉっほん!えー、それではジョナサン・S・ハートよ。汝を、」
「勝手に名前採用すんな。あと大事なことをドサクサに紛れてやろうとするな」
「いいじゃんしつこいもん。みんなも飽きてきてるよ?」
「ヤなもんはヤなの!」
「でも、もう書いちゃったもん。これ正式な紙で出生証明書とかに使う奴。変更できないんだよねー」
「え・・・・・・。ちょ、おま、なんて書いたんだよ・・・・・・?」
「サッキー・ジョン。」
「あー!あー!い、一番キライなヤツを書きやがった!」
「わたしはこれが一番気に入ってるからねー」
「う、ウソだろぉ・・・・・・」

かくして勇者は旅に出るのであった!!


†††

詰みゲー! 4-46

†††4-46


『隠者の忍び屋敷<ハイドアウトマンション>』の中庭。ひまわりの前にジョンは立っていた。ジョンがミリアと「先にひまわりが咲いているのを見た方が勝ち」という賭けをしていたあのひまわりである。賭けの対象となっていたひまわりは奇しくもミリアが屋敷を出た一ヶ月後にしてミリアが行方不明になった翌日に咲いた。

(・・・・・・これで俺の勝ちだな、ミリア)

ジョンはひまわりの鉢植えに「俺の勝ち」と書いたプレートを突き刺して中庭を後にした。


***


ジョンの自室にて。ちょうど出発のための荷物を小さなリュックに入れ終えたところだった。

「・・・・・・これでよし。荷物はこれで全部だな」

そのとき、部屋の扉をこんこんとノックする音が聞こえた。ジョンがどうぞ、と応えると扉を開けてノックの主が部屋に入ってきた。ノックの主はクラリスだった。
クラリスの顔はまるで一日中泣いていたかのようにぱんぱんに腫れていた。

「ジョン・・・・・・。今、時間ええやろか」
「あ、ああ。いいよ。ちょうど荷物をまとめ終わったところだよ。どうしたんだ?」
「その・・・・・・聞いといて欲しいことがあって・・・・・・」
「・・・・・・ふーん。まあ、座ってくれよ。ちょっと散らかしてるけど」
「おおきに・・・・・・」
「お茶いる?」

ジョンはクラリスを椅子に座らせ、テーブルの上や床に散乱した物を手早くまとめてベッドの上に放り投げた。ついでにクラリスに出すためのお茶を用意し始めた。

「もらうわ」

クラリスの様子を気にしながらジョンはお茶の用意をした。ミリアが出て行ってからクラリスはどこか雰囲気が変わったような気がしていたが、今日は特に変だとジョンに思わせるほどに挙動不審であった。


***


「はいよ。淹れたてのお茶」
「おおきに・・・・・・」
「さあ、話してくれ。何か大事なことなんだろ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「実は・・・・・・ミリアが行方不明になった原因は・・・・・・ウチ、やねん」
「え?」
「ウチがミリアを・・・・・・ここから追い出してん。せやから、せやから・・・・・・」
「クラリス、落ち着け」
「ウチが悪いんや、ウチが・・・・・・」

ジョンはいきなり泣き出してしまったクラリスをなだめてミリアが屋敷を出ていった本当の理由を聞いた。
クラリスが王様からジョンを惚れさせるよう言われたこと、ベンジャミンが協力したこと、計画は見事に成功してしまったこと。

「・・・・・・そうだったのか」
「今更何を言っても意味ないけれど・・・・・・、ジョン!ごめん!ごめんなさい」
「・・・・・・頭を上げてくれ、クラリス」
「ウチ・・・・・・」
「いいから」

ジョンは涙で顔を腫らしたお姫様を正面から見据えて断言した。

「クラリス、よく聞け。・・・・・・ミリアは俺が連れて帰る。必ずだ」
「ジョン・・・・・・」
「俺はクラリスのせいだとは思わない。それでも何か言いたいんならミリアに直接言ってくれ」
「・・・・・・」
「ビンタの一つくらいは覚悟しといた方がいいかもしれないけどな」
「・・・・・・せやな。ミリアにほっぺたひっぱたいてもらうわ。それでチャラにしてもらう」
「・・・・・・いつも通り図々しくなったな。それでいいよ。ちょうどいい」
「・・・・・・おおきに、ジョン」


***


「さてと・・・・・・」

クラリスが自室へ帰った後、ジョンは椅子に崩れるように座り、手で顔を覆った。

(・・・・・・・・・・・・)

クラリスに見せていた笑顔とは打って変わって沈んだ表情でジョンはしばらくの間何かを考えていた。


***


その夜。屋敷を出発する予定の時刻の一時間前。

「さて、と。心譜<スキル>を取りに《塔》に行くか。さっさとスキル取らないとシャープに置いて行かれるからな」

ジョンは一枚の札を具象化すると「入口」と書いた。そして仰向けに寝転がり、札を鳩尾のやや上あたりに置き、目を閉じた。


†††

詰みゲー! 4-45

†††4-45

ジョンは《隠者の忍び屋敷》の一室でパッチリと目を開けた。
目を覚ましたジョンにアニー(社長)、レイン(白髪の少女)、シャープ(爺さん)、オーレン(元執事)が声をかける。

「おー、目が覚めたね。おはよ~」
「あ、ジョン。おはよう」
「おお、起きたか」
「おはよう、よい夢は見れたかい?」

ジョンはあくびをしながら答える。

「・・・・・・ん、おはよう。時間はどのくらい経ったんだ?」
「まー、二時間くらい寝てたね」
「そうかぁ」
「でも多分『夢』に入ってたのは一瞬だよ。みんなそうだもん」
「アニー、みんなってなんだよ」
「あたしが今までに夢見の面倒を見てきた人たち。君はちょっとヘンだけどその点は同じだと思うよ」
「俺がヘン?」
「うんそう。君の夢にあたしいなかったでしょ?」
「いなかった」
「それよ。いつもだったらあたし夢の中に行くし、しゃらくせーから試練とか代わりにクリアしちゃうのに」
「するなよ」
「今回は入り口まで君を連れてったらそこでシャットアウト。ハイ、サヨナラって。ビックリしたねー、アレには」
「それって珍しいの?」
「珍しいって言うか初めてだねー。初体験さー。きっとなんかとんでもないもんがここに」

アニーがジョンの胸を指で何度もつつく。

「あるんだろうねー」
「やめてくれよ」
「おや、こりゃ失敬。・・・・・・で?どんなスキルだったの?見せてよ」
「それが・・・・・・」

ジョンは恥ずかしそうに頭をぽりぽりと掻いた。

「まだ取れてないんだ」

***

「つまり、取れたのはスペルの<抽出ポンプ>だけだったと?」
「うん、その通り」

翌朝、一旦眠ることにした面々は朝食前に一室に集まっていた。
なお、多忙なアニー社長は帰り、ここにいるのはレイン、オーレン、シャープ、今朝から参加したロベルト、そしてジョンである。
アニーはレインに「その後の経過を連絡してねー。あと、魔譜の件よろしく」と釘を差して出ていった。伊達に社長じゃない。多忙なんです。

「つまり・・・・・・どういうことですか?」

昨日の出来事をあまり理解していないロベルトが首をひねる。見かねてオーレンが説明を始めた。

「昨日、シャープがジョンに『ミリアが死んでも構わん』と言い捨てたのは実はジョンを試すためのものだったのです」
「そうなんですか」
「我々はジョンの決意が固ければ応援してやろう、という結論を出していたのですよ。で、見事ジョンはその晩に脱出を試みるという無謀な挑戦をしてその意志を示しました」
「そうなんですか」
「ミリアを助けるためにはまず力が必要です。つまりはスキル。そのためにわざわざスキル能力者まで手配していました」
「そうなんですか。で、その人はどこです?」
「昨日のうちに帰りました。忙しい人なので。それで、その結果、」
「魔力を抽出するスペルが使えるようになったんだよ」

最後はオーレンに代わってジョンが話した。

「昨日、夢の中の試練の塔ってところで鎧の騎士を倒したんだ。そしたら番人が『もう一回奴を倒したらスキルが使えるようにしてやる』って言ったんだ。でも、負けた場合に死んじゃうことを考えて一度戻ってくることにしたんだ」
「ほうほう」
「戻るって言ったら番人が今度は『騎士を一回倒したからスペルを一つだけ使えるようにしてやる』って言うから、」
「魔力抽出のスペルをもらってきたのか?」
「そうだよ」
「なぜそれなんだ?」

ジョンは試練の塔に行く際には、「往復」と「復活」に魔力が必要となることを簡単に説明し、抽出スペルがあれば魔力の回復が早くなるのだと説明した。
ジョンが説明を終えるとシャープが疑問を投げかけた。

「回復なんて待たなくても魔譜でいいんじゃないのか?」
「それがどうもダメみたいなんだ。俺が自分で貯めた魔力や魔譜でないと持っていけないんだって」
「理由は?」
「無いらしいよ」
「そうか。どのくらいで必要な魔力は貯まる?」
「今夜にももう一度『塔』に行くよ」
「そうか。なら出発は今夜だな。用意しておけよ、ジョン」
「・・・・・・ミリアを助けに行くのか?」
「そうだ。お前が言い出したことだろう?」
「シャープ!」

ジョンはいたずらっぽく笑う老人に抱きついた。シャープは「まさか孫と同じ年の子供と旅に出るとは」と言って苦笑した。


†††

詰みゲー! 4-43

†††4-43


そんなこんなでジョンは試練の塔で鎧の騎士(エヴリス)と一騎打ちをすることになった。
ちょっと緊張してきたジョンは剣を具象化しながら(ジョンと同じ顔の)番人と雑談を続けた。

「そういえばこれが初めての実践だな。夢の中だけど」
「あ、言い忘れてたけど死んでも大丈夫だけど生き返れる回数には限りがあるから」
「何回くらい生き返れる?」
「えーと・・・・・・。まあ、一回くらいは生き返れるぜ」
「へー」
「まあ、一回目は何も考えず行けば?」

へいへい、と番人の言葉を流しつつジョンは前へ進み出る。

無言のままのエヴリスは近寄るほどにその圧力を増した。

(でかい鎧だな。2メートルはある。どうすれば勝てるかな?)
「始めていいかー?」
「いいぜー」
「じゃあいくぜー・・・・・・、始めッ!」

番人の言葉とともにエヴリスの瞳に光が灯った。


***


エヴリスは起動するやいなやその右腕に握っていた長剣をジョンに向けてすさまじい速さで振るった。
ジョンとしてはちょうどいい距離を取っていたつもりだったが、エヴリスの動きが予想以上に機敏であったこと、そして予想以上に自分が動けなくなっていたことが原因となって、ジョンの剣は弾き飛ばされた。

「くそッ!」

動けない自分に悪態をつく間にエヴリスはとどめのもう一振りを構えていた。上段に高々と振り上げられた剣は見上げるほどであった。

(くっ、動けねえ!)

圧力にすくみあがってしまったジョンであったが、必殺の剣が振り下ろされるとジョンは反射的に硬質のマテリアルを具象化した。

がいん!

腕で頭をかばいながらも繰り出したとっさの魔術は未熟ながらも効果を示した。
もっともそれは致命傷を避けた、という程度の効果であり、逸れた必殺の斬撃はジョンの左腕の肘のあたりをすっぱりと両断していた。

「あ、あ・・・・・・」

完全にパニック状態に陥ったジョンは再び剣を構えるエヴリスを目の前にして、背を向けて逃げ出した。エヴリスは狭い室内で大量の血を流して逃げる相手を静かに、微動だにせず、ただ見ていた。
ジョンは番人が立っている部屋の隅に駆け寄った。

「た、助けてくれ!」
「何?」
「左腕がっ・・・・・・。血が、止まらない!」
「当たり前だ。斬られたんだからな」
「ち、治療を・・・・・・、」
「ふん、バカが!どちらかが死ぬまでこの決闘は続く。治療なんてするわけないだろ」
「そんな・・・・・・」
「ほら、離れろ。エヴリスがこっちに来るぞ」

ジョンが振り向くとエヴリスがのしのしと近づいてきていた。
ジョンは再びエヴリスに背を向けて走り出した。シャープがこの様を見れば「情けない」と言って叱るだろう。

「はあっ、はあっ」

がしゃん、がしゃん。

「うっ、くうっ・・・・・・」

ジョンが走っているうちはエヴリスは部屋の中央に陣取るように歩いてジョンを追いかけていたが、ジョンが立ち止まったその瞬間、

がっしゃ、がっしゃ、がっしゃ、がっしゃ!

とものすごい音を立てて走り出した。

「ッ!!!」

興奮状態から醒めてきて強く痛みだした左腕をかばうようにジョンはまたダッシュする。

「~~~~~~っ!」

走るときの振動が左腕に激痛をもたらす。

***

そんなジョンの様子を番人はため息混じりに見ていた。

(こりゃあ、ダメだな・・・・・・)

番人の感想としては、「あいつ、完全にビビってるな」だった。

(まあ、初の実践で「鎧の騎士」じゃなあ・・・・・・。スライムとかがいいよなあ)

ジョンは初の実戦で出くわした敵の圧力にビビってしまった。ビビってるから、正常な判断ができない。判断できないからきちんと相手の力量が測れない。力量がわからないから、怖い。怖いから逃げる。逃げると、逃げ道のない部屋の中でいつか力つきて殺される。

(悪循環だなあ。あ、循環じゃないか連鎖か。恐怖を克服できればいいんだけどなあ。できるかなあ)

心配そうに見ていた番人の予想通り、ジョンは一分後に後ろから足を切られ、その三十秒後に後ろから心臓を斬られて死んだ。


†††

詰みゲー! 4-42

†††4-42


平野。見渡す限り一面の平野が広がっている。どこもかしこも緑と空色で埋め尽くされている。

が、その平野に不自然なほどに細く、長い象牙色の塔が一つ立っていた。
その中にジョンは吸い寄せられるように入っていった。

***

「君はどんな夢をよく見ますか?」
「夢?」
「そーよ」

アニーがジョンの前で片膝を立てて座る。

「この前は仮面を付けた女の夢を見たよ。よく覚えてないけど」
「いつ?最近?」
「いや、屋敷に来る前」
「なあんだ」
「どう、いけそう?」
「だめねー。夢をあんまり見ないタイプよ。一番面倒くさい奴だわ。・・・・・・帰っていい?」
「ダメよ。仕事はキッチリしてって」
「しょうがないなあ。・・・・・・魔譜の件、頼んだわよ」
「はいはい」

レインとアニーのやりとりを見ながらジョンはシャープに質問した。

「アニーって何者?魔譜って?」
「魔譜は覚えてるか?」
「魔力を溜めとく譜を書いた札だろ?」
「そう。彼女は国軍の魔譜を製造している大会社の社長だ。まあ、それだけではないがな」
「社長!?俺と変わんない年なのに?」
「母親から継いだのだ。彼女はミルキーウェイ家の九代目当主だ」
「へー・・・・・・。ミルキーウェイ家って凄いの?」
「この国で十本の指に入る魔術師の名家だ。特に商業に特化した家だな」
「ふーん」
「あたしの話はそのくらいでいいでしょ?君は今すぐ寝なさい」
「は?」
「いいから寝なさい」
「え?どういうことだよ。え?」
「彼女のスキル『睡眠学習<スイミングスクール>』でスキルとスペルを習得するのよ」
「え?何?寝ればいいの?」
「「そーよ」」

最後はレインとアニーの返答がハモった。

かくしてジョン眠りにつき、アニー社長が魔女のような笑みを浮かべてすやすやと眠るジョンの頭の上で手をかざしたのだった。


***


見渡す限りの平野と一本の塔。

(ああ、夢か。あの社長のスキルのせいかな)

とりあえずジョンは塔を目指した。塔の入り口には「試練の塔」と書いた看板があった。ゲームみたいだな、と思いつつジョンはさっさと塔に入った。

「よーこそ」

入ってすぐの部屋にはジョンと同じ顔の男がいた。

「・・・・・・なんで同じ顔なんだよ」
「知らねえよ。そんなに不都合なことでもないだろーが」
「それもそうか。で、お前なに?」
「なにってなんだよ。番人だよ、番人。この塔の」
「へー・・・・・・」
「そっちは何しに来たんだ?」
「スキルをもらいに来た」
「あー、はいはい。アレね。じゃあ、とりあえずこいつと戦ってくれ」

男は指をパチンと鳴らした。すると部屋の中央にどこからともなく鎧の騎士が出現した。

「どこから出たんだ?」
「夢だからな。その辺は気にするな」
「ふーん。で、何?あいつを倒せばいいの?」
「そういうことだ。あ、あと今のお前の魔力の半分を魔譜にして渡せ」
「なんで?」
「魔力が無いとこっから現実世界に戻れないからな。預かってやるんだよ」
「ん?夢見てるだけなんだろ?なんで魔力が必要になるんだ?」
「細かいことを気にするな。いいからよこせ」
「ったく・・・・・・。仕方ねーなー」

ジョンは魔力を魔譜に込めた。

「あれ?俺スペル使えたっけ?」
「まあ、夢だからな。でも魔譜以外は使えないぜ」
「なんじゃそりゃ」
「背伸びは今の一回限りってことだよ」
「ふーん」
「じゃ、魔譜は確かに受け取った。存分にエヴリスと戦ってくれ」
「エヴリス?」
「ああ、あの鎧の騎士のことだよ」
「そういう名前なんだ」
「いや、今つけた」
「そんなんでいきなり呼ばないでくれる!?」
「じゃ、がんばれよー」
「おう」
「エヴリス」
「そっちかい!」


†††