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投稿した文章について(ネタバレなし)

「さまよう羊のように」
気晴らしに親友の住む国に海外旅行してきた男ココはマフィアに追われる少女を無意識に助けてしまう。
ココと少女は無事に逃げ切れるのだろうか?その代償は?

……的な物語です。

「理の魔法使い」
名前は仮です。さっきつけました。なので変更するかもしれません。そこはご了承ください。
*現在は「女神テミスの天秤」になってます。


普通の大学二回生の関静(せき・しずか)は空手サークルに所属している友達のちょっと少ない、片思いをしている女子。そんな彼女の下宿の部屋に突然男が現れた。その二十代の男・時瀬渡(ときせ・わたる)は未来から家出してきた魔法使いで、おまけに静の家に住み着くと宣言する始末。
この物語はそんな静の片思いをサポートしたり茶々を入れたりな渡と真面目で短期で振り回されがちな静と友人たちの一年間を描く。
*戦闘シーンはほぼないです。というかやる予定ないです。

……という話です。

なお両作品とも完全なハッピーエンドではないです。そこのところは理解しておいて下さい。
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女神テミスの天秤 1.0

鞄の中から鍵を取り出してがちゃりとドアを開けてみるとテレビが点いている音がするし、部屋の明かりも漏れている。
泥棒か・・・・・・?
泥棒が下宿する貧乏学生の部屋をわざわざ選んでくるとも思えないし、テレビを点けてくつろいでいるわけがないのだが、実際にバラエティ番組の爆笑は聞こえる。
・・・・・・というか見てる奴の笑い声も聞こえる。
静はなるべく音を立てないように中へ入り、そろりと下駄箱の裏から非常用の木刀を取り出した。
彼女は木刀の使い方を習ったことはなかったが、空手をやっていることもあって、迫力はあった。
抵抗したらこれでぶん殴ってやる。
色々な意味で彼女が危ない娘であることは認めよう。
ともかくも静はその長身によく似合う木刀を構えてじりじりと、テレビのある居間へとにじり寄っていった。近づくほどにテレビの音は大きくなる。彼女の緊張の度合いと心拍数ももがんがん増していく。
静はついに居間へのドアのノブに手をかけた。
ごくりと唾を飲み込んで静は勢いよくドアを開けた。
「うわっ!」
・・・・・・泥棒はすっ転んだ。静の愛用のファンシークッションの山に頭から。寝そべっていたのにどうやって転んだのだろう。
泥棒は寝そべってテレビを見ていたのだ。スナック菓子もつまんでいた。そこに静がばっと現れたのでびっくりしたのだ。
静があきれて絶句したことは言うまでもない。
「いきなり何だよ!び、びっくりするだろうが!」
いまだ興奮冷めやらぬ、というやつか。口ごもりながらも見当違いもいいところな文句を言っては「まだどきどきしてる」と胸に手を当てている。
泥棒(?)はそう文句を言った瞬間、静の目を見て絶望した。野獣がそこにいた。
「ああ?」
泥棒(?)はびびった。心底。
「あんた、何?泥棒?」
「い、いえ、違います」
木刀を肩に担いで眼下に転がる泥棒もどきを睨みつけるその様は誰かのトラウマになりそうな程の迫力があった。
「じゃあ、何?」
静が一歩詰め寄る。泥棒もどきの動揺も上がる。
「あ、えーと・・・・・・」
泥棒もどきは口ごもる。すると静は泥棒もどきの顔の前に木刀をびゅっと振り下ろした。
「・・・・・・!」
声もなく後ずさる泥棒もどき。静もそろそろ可哀想になってきたのか、
「正直に言ってごらん」
と笑って小さい子供に言うように告げる。しかし彼女が木刀を背負っていることを忘れてはならない。笑顔も迫力があった。
泥棒もどきはぼそりと何か言った。
「は?」
静が聞き返す。声は少々乱暴だ。テレビの爆笑が聞こえる。静は鬱陶しかったらしくリモコンでテレビを消す。
静が再び泥棒もどきに向き直ると、息を整えて、
「・・・・・・魔法使い」
と言った。
「・・・・・・は?」
泥棒・・・・・・もとい自称魔法使いの告げた言葉を静は目を閉じ約三秒かけて吟味した。
静が目を開けた。結果が出たようだ。
すがるような目で自称魔法使いも静を見上げる。
しかし、現実は非常だった。

・・・・・・自称魔法使いの右頬には丸三日間消えないアザができた。



「で、あんた、何よ?」
下宿大学生の家にふさわしいちゃぶ台ほどのテーブルをはさんで向かい合わせに座って静は自称魔法使いに問いかける。
「名前はトキセワタル。魔法使いだ」
トキセと名乗った男はよく見るとそれは変な格好をしていた。魔法使い、のコスプレっぽかった。黒いローブ、黒いマント、脇に置いた黒いとんがり帽。
トキセは頬杖をついてぶすっとした顔で言い、さっきから消えているテレビを点けるべくリモコンに手を伸ばした。
その手首をがっきとつかんでぎりぎりと止める静。続いてリモコンをベッドまで投げ飛ばした。
ああ、と残念そうな顔をするトキセ。その鼻の前に静は人差し指を突きつけ、ぐいっと身を乗り出して言う。
「真面目に答えなさい」
トキセは人差し指から自らを守るように手のひらをかざした。
「人を指さすなよ。褒められたことじゃないんだろ?あと、俺は真面目に言ってる」
この時トキセは妙な言い方をした。理由はすぐにわかるだろう。
「じゃあ、使って見せてよ。そうしたら信じるわ」
自信満々で言う静。勝利を確信している顔だ。
それを苦々しい顔で見るトキセ。
「今か?」
「今よ」
静は即答した。
「一、二週間後じゃだめか?」
「何でそんなに待たなくちゃならないのよ。今よ」
トキセはふーっと息を吐いた。この上なく嫌そうである。
トキセはぴん、と人差し指を立てた。それになんとなく静も目を奪われる。
次にその指をベッドへと向けた。少し変な表情をする静。
するとベッドの向こうからふわふわと黒い物体が飛んできた。
トキセはそれを両手で捕まえ、テレビに向けた。
「ほらな」
バラエティ番組は終わって、ドキュメンタリーに変わっていた。トキセは心底残念そうな顔をした。



「あ、あんたが魔法使いだってことはわかったわ」
静が再び口を開いたのはトキセが収穫したリモコンで番組の品定めを終わらせた少し後だった。初めて見た出来事を整理していたのだ。結局できなかったが。
「物わかりがいいね」
テレビからちら、と一瞬目を離してトキセは言う。
「それはそれとして、よ」
静が動揺から立ち直って言う。魔法云々は後回しする事に決めたようだ。トキセが少し首を傾けた。聞いてるよ、ということのようだ。
「なんであんたがあたしの家にいるのよ」
「あー、それなー」
テレビに目を向けたままでトキセは返事する。聞いていないのではなく、話しづらそうな感じである。
「長・・・くはないんだけど、わかってはもらえないと思うよ」
「いいわよ。説明終わったら出てってもらうから」
「・・・・・・結論から言おう」
そう言ってトキセはくるりと直角回転。静に向き合った。
「俺はこの家に住む。それも少なくとも一年は」
静はもう何と言っていいのかわからなかった。
「は、え、は?」
「落ち着いてくれ。多分その方がいい」
「どうしてあんたがあたしの家に住むなんてことになるのよ!あたしの家なのよ、勝手に決めないでよ!」
「いやまあ、その通りなんだが」
「じゃあ、さっさと出てってよ!」
トキセは参った、とばかりに頭をかいた。
「・・・・・・言い分を聞いてもらってもいいかな?」
「だめよ」
キッパリと静は断言した。
「じゃあ、悪いけど出ていくのはあんただ」
静はそのときのトキセの瞳の色を一ヶ月は忘れることができなかった。
真面目、とかそんな次元ではない。有無を言わせず実行する、というのが近いだろうか。それでも完璧な説明ではない。
「な、なんであたしが出て行かなくちゃならないのよ!あたしの家なのよ!」
「だから、そんなことは分かってる」
トキセは恐ろしい程静かに言う。
「俺がこの家に居座らなければならないのは、お前とは一切関係のない決定事項だ。もっとひどいことになってもいいのか?」
「ひどいことって何よ」
トキセは答えようとしたが口を閉じ、一瞬間を取って
「その前に俺がどこから来たかを話そう。大事な情報だ」
「どこよ?」
トキセはふ、と笑って次の言葉を接いだ。信じないだろ、と言わんばかりの笑みで。
「未来だ」
静が再び絶句したことは言うまでもない。

テーマ : オリジナル小説 - ジャンル : 小説・文学

さまよう羊のように・2

少女はずっと泣き続けていたがようやく泣き止み、さてどうしようか、とココは考えた。
おそらくさっきの男達はマフィアかなにかだろう。その位の迫力はあった。迷子の保護でさえ俺の身には余ることなのにあんな連中が絡んでいるとなるといよいよどうしようもない。
「警察に行くか」
当然の判断だったと言えよう。。このままずっと少女を連れ回すわけにもいかない。しかし、あの男達に見つからないように細心の注意を払わなければならなかった。地図で場所を確認して言った方が賢明だろう、とココは考えた。
「よし、行くか。ついておいで」
と少女に言いつつ、ココは立ち上がった。少女は何事かという目でこちらを見たが、ココがおいでおいでと手招きすると、意図が伝わったらしく、立ち上がってココの顔を見上げた。次の指示を待つ忠犬のようなかわいらしい仕草であった。
よし、とうなずき、ココたちは匿われていたテントもどきから出た。ホームレス達が近付いてきたのでとりあえずジェスチャーで感謝の意を示す。案の定伝わらなかったらしかったが、少女が補った。ホームレス達は各々の独自のジェスチャーで返事をした。多分、がんばれよ、とか、元気で、とかそんな感じだったのだろう。それに応え、ココ達はこの広場を後にした。
幸い交番はそう遠くなかった。ホームレスの広場からせいぜい歩いて五分位の所にあった。
地図を見つつ、おそるおそる道を歩き、曲がり角では先の男達の影に気を付け進んでいった。
ココはケンカは強くもなく弱くもなくといったところだった。とても本職のケンカ屋と正面からやり合うことはできないだろう。

それにしてもどういう訳でこんな十歳位の女の子が強面の男達に追われるはめにあったのだろうか。正直、どこにでもいる普通の女の子にしか見えないが。

そんな栓のないことをココが考えていると、彼らは交番に着いた。気を張りながら歩いてきたのでココには非常に長く感じた。とりあえず物陰に隠れて誰もいないかを確認する。傍目からすればまるで泥棒のようにしか見えなかっただろう。
交番に着いた時、警官にどういう風にして「この娘は迷子なんです」と伝えるか、ココはまだ考えてなかった。言葉の壁はこの娘がなんとかしてくれるだろう、と楽観的に考えていた。
その時、声を掛けられた。ココが振り向くとおそらく目の前の交番の警官であろう男が立っていた。見廻りでもしていたのだろうか。その腰に下げている拳銃はココの国の警官の持つ小さな銃などよりよほど大きかった。そういう物が必要な国だということなのだろうか。
「この子は迷子なんです。保護してもらえますか?」
ココはダメもとで聞いてみた。もちろん英語ではない。迷子の報告などココの英会話能力を越えていた。警官がけげんそうな顔をする。当然だった。
「マフィアカラニゲテルンデス」
女の子が言った。ココには意味は分からなかった。。
すると警官は女の子と目線を合わせるため少し腰をかがめて話を聞き始めた。少女はその警官に何か言う度徐々に安心していくようだった。さっきまで蒼い顔をしていたが顔色がだんだんと戻っていくのが見てとれた。
やっぱり警察は頼りになる、来て良かった、とココが思っていると男が一人歩いてきた。スーツ姿でいかにも紳士という感じの老人だ。彼は警官に用があるらしかった。道でも聞きに来たのだろうか、とココは思った。
紳士は懐から写真らしき紙を取り出して警官に見せた。
「オ、コイツダナ」
警官が写真を見たまま何か言った。それを聞いて少女は鼻の頭に蠅でもとまったみたいな顔になった。
「アア、コイツダ。ウンガヨカッタナ。オモッタヨリ、ハヤクミツカッタヨ」
紳士が少女を見ながら言う。その目には何の感情もない。
少女は切れかけの綱に身を預けるような表情で警官を見た。
警官が少女とココを見た。その目には悪意さえ感じられた。
「マッタク、ニゲタトキイタトキハドウナルカトオモッタゼ。シナモノノカンリハチャントシロヨナ」
警官そう言ったときばねが弾けたように女の子が走りだそうとした。が、紳士に力ずくで抑えつけられる。
同時にココは拳銃を引き抜こうとした警官に襲いかかった。反射的なものだった。警官が握った銃をココが抑えて奪い合いをする形になった。
警官の拳がココの腹を何度かえぐるように当たり、ココの肘が警官の胸を打つ、といった攻防が約三十秒続いた。
おそらく神様はココの方がマシな人間だと判断したのだろう、警官がいつの間にか安全装置を外し、指をかけていたトリガーが奪い合いの最中で引かれた時、銃口は警官の足を向いていた。
警官が激痛に崩れる。ココは警官の手から拳銃を奪い取り、女の子を引きずりながら電話をかけようとしているさっきの紳士に駆け寄り、映画でよく見るように、銃の台尻で殴った。
紳士は痛みで頭を押さえ、体をイモムシのように丸め、警官は膝を抱え、痛みに呻いていた。二人に蹴りの一発をお見舞いしたい衝動がココをとらえたが、さっさと逃げるべきだという理性が勝った。紳士の電話先が気になった。つながっていたのならここに留まるべきではないだろう。
一旦、先ほどのホームレスの所に戻ろう、とココは判断した。他に安全な場所は知らなかった。あそこを偶然見つけられて本当に幸運だったと言えるだろう。戻る場所があることでほんのわずかながらココに安心感を与えた。まあ、ホームレスの寝床というところが難だが、それでも無いよりもずっとましだったのは言うまでもないだろう。

***

ココ達は何とかホームレス広場まで戻ることができた。来た道を戻っただけなのだが、スーツ達の姿は全く見なかった。今のところかなりの強運だろう。不運であることには変わりがないが。
先ほどのホームレス達に再びテントの中に匿ってもらった。本当にありがたいことだとココは思った。見ず知らずの他人を助けるなんてなかなかできることじゃない、とココは完全に自分も危険な状況にいることを忘れて考えていた。一種の逃避といえるかもしれない。体の緊張がすこしずつ解れていくのを感じつつココは漠然と、この少女に詳しい話を聞くしかない、と感じていた。
そこでココはごそごそとポケットをいじり携帯電話を取り出した。そして一瞬ためらうような素振りを見せたがすぐに電話をかけた。
「もしもし。俺だ」
「金なら無いぞ」受話器からナッツの声がした。
「詐欺じゃねーよ」
ココは少し深呼吸をした。
「いきなりで悪いが、ちょっとお前に通訳してほしいんだよ」
「・・・・・・どういうことだ?誰の?」
「女の子だ。詳しくは俺もよくわからん。とにかく聞いてやってくれ」
「・・・・・・わかった」
ナッツがかなり嫌そうな声で言った。それでもやってくれるあたりがやはりいいヤツなのだ。
ココは電話を少女に差し出した。少女は少し驚いたようだったが、受け取った。

***

やれやれ通訳か、面倒だ、とナッツは思った。
「もしもし?」
「もしもし、君の名前は?」
「フォン」
「フォンか。どうしたんだい?」
「マフィアから逃げてきたんです」
「え・・・・・・?」
さすがにナッツの言葉が途切れる。
「本当に?」
「はい」
「そうか・・・・・・。どうして捕まっていたんだい?」
「何日か前に両親に売られました。それでマフィアの所に連れていかれて・・・・・・、そこで、売春させられるか臓器を売られるって聞いて」
やはりか、とナッツは思った。こんな子とマフィアがらみで考えられることと言ったらそれくらいだ。
「・・・・・・・・・・・・・・それで逃げ出したの?」
「・・・・・・そうです」
「わかった。さっきのヤツに代わってくれるかい?」
「はい。・・・・・・あの」
「うん?」
「お名前を聞いても・・・・・・?」
「俺はナッツでそいつはココって呼べばいいよ。あだ名だ」
「ありがとうございます。代わりますね」

***

「もしもし?」
「・・・・・・かなり重いぞ。覚悟しとけ」
ナッツの珍しく真面目な声色にココは身構えた。。
「ああ。まあ、そうだろうとは思ってたから大丈夫だ」
「そうか・・・・・・とにかくその子はマフィアの所から逃げ出してきたんだ」
「やっぱり」
それはココの予想通りだった。
「追われてたのか?」
「現在進行形だ」
「ふむ。マフィアの目的は売春か臓器売買だ」
「・・・・・・本当に?」
「本当だ」
「・・・・・・・・・・・・・」
ココは言葉に詰まった。言うべき言葉が見つからず、腹に変な感触が広がった。湧いてくる言葉がせき止められて腹の中でぐちゃぐちゃにかき混ぜられているみたいな気分だった。
「今どうしてるんだ?無事なのか?」ナッツが静かに問う。
「ああ。ホームレスに匿ってもらってる」
「ホームレスか・・・・・・。早く移動した方がいいな」
「そうか?」
「ああ。多分そういうところは目を付けられやすい」
「わかった。なんとかしてみよう」
かと言ってココにはどうするあてもなかったのだが。
「・・・・・・なあ」
ナッツが言いにくそうに言う。
「何だ?」
「・・・・・・・・・・・言いにくいことなんだが」
図星だった。
「なんだよ、早く言えよ」
「友人として忠告するけどな、今すぐその子を捨てろ」
ナッツはそう言った。文字通りココは自分の耳を疑った。ナッツがそう言ったと信じるより、自分の耳が一瞬悪くなったと考える方がまだ信じられた。
「何て言ったんだ・・・・・・?」
それでも頭のどこかでは紛れもなくナッツの言葉だと理解してもいた。
「命ってのはお前が思っているほど軽くない。親だからわかる。親だからこそ俺はその重みに耐えられるんだ」
ナッツは一旦言い出すと堰を切ったように話し出した。しかし、ココの思考は全く追いついていない。
「何言ってるんだっつってんだろ!」
ついにここは電話口に怒鳴りつけていた。そばで少女が怯えた顔をしたのが視界の端で見えた。
しかし、ナッツは続ける。
「お前はその子の親じゃない。ましてやさっき拾った小娘だろ?お前にとってその子は何の縁もない子だ。お前はその子を拾ったことを・・・・・・」
「黙れ!」
ココは続きの言葉を聞きたくないとでも言うようにナッツの言葉を遮った。次の言葉は確実にココの心にとどめを刺すとわかっていたからだ。
しかし、ナッツは残りの言葉を言った。
「・・・・・・いつか必ず後悔する」
ココはのどに何かが詰まった気がした。そして、その言葉に未来が暗示されたかのように目の前が真っ暗になった。
「俺は・・・・・・」
「その子を助ければ十中八九お前も何らかの傷を負う。おそらくはお前のこれからの人生を狂わせるだろう。そして、それをいつかお前は悔やむ」
「・・・・・・やめてくれ」
「・・・・・・お前にその覚悟はあるか?」
ココは思わず傍らに不安そうに座る少女を見た。目が合った。少女は怯えたような素振りを見せた。
ココは自分の顔がきわめて頼りなく、惨めな表情になっていることに気づいた。
ココはそれに気が付いて少女から目をそらした。
そうだ、そうなのだ。この子は自分を頼っていたのだ。この子にとって頼れるのは自分くらいのものだ。
それなのに。
それなのに、自分はあまりにも非力で頼りない。それが分かっていても俺を頼るしかないのだ。なら、俺はどうするべきだ?情けない俺でもできることは何だ?
眉間をもみほぐす。もう一度少女を見た。今度は見返してきた。ココは少女の目を見ながら、ナッツの問いに答えた。
「無いね」
「そうか」
「でも」ココは低い声で続ける。
「この子を捨てたらもっと後悔する」
と言った。この瞬間、ココは様々なものを切り捨てる感触を味わった。
「・・・・・・・・・・・・いいのか」
「いい」
言ったそばからココは後悔しそうだった。
しかし、ココは思う。そう言ったことは悔やまない。この先何年経ってもきっと大丈夫だ。
俺が少女のためにできること。それは覚悟だ。
この足下で小さく震えるばかりの鳥の雛みたいなこいつを何に代えても護ってやると腹をくくることしかできない。
「・・・・・・わかった。お前がバカだってことは知っていたさ。とりあえず、その子はうちに連れて来い」
これぞため息混じりという口調でナッツは言った。
「いいのか?お前も無事では済まないぜ?」
「ふん、下らねえこと聞くな。お前はここを目指して来い」
「・・・・・・ありがとう。恩に着る」
「くどいぜ?」
「そうだな」
「ああ、そうだ。その子な」
「ん?」
「名前はフォンだ」
女の子、フォンに目を向ける。
「よろしく、フォン」
と電話片手に手を差し出す。フォンは
「ヨロシク、ココ」
と握手を返した。ココにも「ココ」は聞き取ることができた。

さまよう羊のように 1.0

その国がどこにあるかとか、どういう名前だとかは関係ない。知っておくべきは彼はぬるま湯のように平和な国から旅行に来た男で、その国の実状など知ろうと思ったこともない、ということである。その国は古くからの伝統を、風習を、プライドを捨て、国際社会で生き残るために経済大国の論理を、価値を、傲慢を受け入れていた。その途上を、すなわち捨てたものは多く、されど得たものは少ないという時期を正にその国は通過しつつあった。

「もしもし。ナッツか。着いたぜ」
空港の出口近くで、シャツにジーパン、サングラス姿の男がスーツケースを左手で引きつつ、右手の携帯電話に話しかけている。
「了解。悪いな、迎えに行けなくて」
電話から声がする。彼の友人の声だ。この友人は本人は認めないが勤めている会社から五年前に左遷されて以来この国に住んでいる。初めはジェスチャーとつたない英語でしかコミュニケーションがとれなかったそうだが、今では現地の言葉もほとんど問題なく扱えるようになったらしい。
ちなみにナッツというのはピーナッツが好きだった彼の学生時代のあだ名だ。それがあって男は今でも彼のことをナッツと呼んでいる。そして男はナタデココ大好きココである。
「いやいや、空港からまだまだ電車に乗らなきゃダメだろ。そんな所までさすがに呼べないぜ」
ナッツと呼ばれた男の家は空港のある町からはかなり遠いところにある。田舎という訳ではないが空港が要るほど開発が進んでいる訳でもない。
「まあな。実際洒落にならない位遠いぞ。気を抜くなよ。向こうと違って治安が良いってことは無いんだからな」
ナッツがふと声を低くする。本気の忠告なのだろう。
「わかったよ。気を付けていく。奥さんによろしくな」
ナッツは三年前に現地の女性と結婚した。そして、娘も一人生んでいる。ナッツ一家とは半年前に会ったことがある。ナッツが家族を連れて帰郷してきたのだ。正直ちょっと嫉妬する位よくできた奥さんとかわいい子だった。ちなみにココは独身で、彼女もいない。
「ああ。お前も早くカミさんもらえよ」
若干のうらやましさをめざとく感じ取ったのかナッツが言う。ココの目にナッツのにやにや笑いが目に浮かんだ。
「うるさい。じゃあな、また明日な」
今はまだ昼下がりだが今からでは真夜中になってしまう。そもそも電車も途中でなくなる。今日はこの町で一泊して、明日の電車でナッツの家まで向かうことになっていた。
「じゃあな。気を付けて来いよ」
それで電話は切れた。ナッツは二度も押してきたのだ。これだけ言うということは自分も何かひどい目に遭ったのだろうか。

ココはショルダーバッグを持ってこなかったことを心から後悔した。荷物はほとんどスーツケースの中なのだ。これでは地図とかをすぐ見ることができない。そのくせパスポートはズボンのポケットの中だ。旅行慣れしていないと言えばそれまでの話ではある。しかしココは元来落ち込みやすい性格であった。
「昔っから俺はどこか抜けてるんだよな。もっと深く考えて行動しないと」
仕方ないので空港近くの店で一番まともそうな携帯用の鞄を購入した。柄は正直彼の好みではなかった。路上で荷物整理する訳にもいかないので近くの喫茶店に入り、窓際のテーブルに座った。幸運にも席が個別に分かれているタイプの喫茶店だった。とりあえずコーヒーを指さして注文した。コーヒーの到着を待つ間に、スーツケースを開きセカンドバッグに荷物を移した。
荷物整理しているとコーヒーが来た。一口飲んでみたがもう一口、はやめておいた。
ようやく荷物を整理し終わってココはソファにどっかりと座り直した。飛行機の中でもたっぷりと休んだはずだがあれはノーカウントだったらしい。窓から外の景色を眺めてココはあらためて外国に来たんだと実感した。いや、した気分になっていただけかもしれない。
彼にとって今回の旅行はただの気晴らしだった。忙しい時期が過ぎて仕事がふっと楽になったのだ。このままだとまとまった休暇をぼんやりと消化してしまう、それはなんかいやだ、そうだ今は外国にいる親友の所で少々刺激のある休暇でも取ろう。これが彼の考えであった。
そうして、スーツケース片手に来たわけだがすでにホームシックになりかけていた。元がインドア派なので急激な環境の変化についていけなかった。
「異国の地で休暇を、なんてやめた方がよかったのかなあ・・・・・・」
と呟きつつうっかりコーヒーをすすり、ココは少し後悔する。なんか俺はこのハンパな味のコーヒーみたいだ、と男は思った。ちゃんと苦みがあるわけではなく、ただまずい。そこまで考えたところでため息を吐いて、席を立った。コーヒーは、残したままだった。

そのまま数十分間バスで待ち、ようやく来たバスに乗り、予約した宿と電車のある町へ向かった。
バスを降りて、見たこともないような形で、見たこともないようなでかい木が何本も地面から突き刺さっている道路の左側の歩道を歩いた。その木々さえどこかココを脅かしているようだった。
広い通りだがどこか閑散としており、所々道路が壊れていた。車も人もほとんど通っておらず、当然店もあまり開いていなかった。まるで廃墟だが地図によれば、宿はこちらにあるようだった。
宿屋に向かって通りをぶらついていたそのとき、脇道から飛び出してきた女の子が歩道を走っていた自転車にぶつかった。勢いに負けて転がる女の子に何か(おそらくは気を付けろとかそんなん)言い捨てて自転車は走り去っていった。近くで起こった当て身事故に思わず近寄って女の子のそばにしゃがみこんでココは
「大丈夫か?」
と英語ですらない彼の母語で聞いた。理解できるはずがない、と気付いた彼が英語で言い直すより早く、
「タスケテクダサイ」
と女の子は言った。現地語である。ココは少々後悔した。しまった、言葉もわからないのに関わるんじゃなかった、と。
「悪いな。言葉わかんないや」
あわてて言い捨てて自分も自転車の男と同じく行ってしまおうとした。情けないとは思うがどうすることもできない。幸いけがもなさそうだ、と勝手に判断してそそくさと立ち去ろうとした。
しかし、女の子はココのシャツの袖にすがるようにつかみ、
「タスケテクダサイ、タスケテクダサイ」
と言った。必死に何かを繰り返し言っていることはココにも分かったが、だからといってどうすることもできない、そう言い訳するようにココは頭の中で呟いた。しかし、すがる手をふりはらうこともできなかった。
そうしてココが立ち尽くしていると、女の子の様子が変わった。何かを見つけたように目を見開き、顔は青ざめ、がたがた震えだした。
思わずその視線の先に目をやったココは、女の子が飛び出してきた通りを見るからにスーツ姿の男が四人、こちらに近付いて来るのを見た。走ってはおらず、ゆっくりと歩いてこちらへ近づいてきていた。
そのときの娘の怯え方は尋常では無かったが、当て身の際に足を痛めたらしく、立ち上がることもできず呻き声とも叫び声ともとれる悲痛な声を出すことしかできていなかった。
男達が現れてからの出来事は実際には全てが二秒ほどの間の出来事であり、その二秒とはココが次の行動を決定するのに要した時間であった。
ココは女の子を抱きかかえ、いままで歩いてきた通りを走って戻った。視界の端で男達も走り出したのが見えた。
走りながら左右を見て隠れられそうな建物を必死に探す。男達はまだこの通りに出てはいないはずだがあまり遅いと隠れるところを見つかってしまうだろう。
その時たまたま通りの反対側、斜め向こうにこの通りに直行する別の通りが見えた。車がないことを音でだけ確認し、女の子を抱えてココは通りを全力疾走で横断した。通りに入り、足をゆるめず次の道を探し、進み、次々と角を曲がっていった。考えなしではあるが方向感覚はあるようだった。元の道に戻るなどというへまはしなかった。
ココは昔は鬼ごっこが得意だった。

おそらくはかなり引き離したと思われる辺りでココはホームレスと思しき人々がたむろしているのを見つけた。何かに火をつけて暖をとっていた。後ろには何かの材料で作ったテントとおぼしきものが見えた。そのテントの中に入れば隠れられる、とココは思った。
助けてもらおうと近付いて行って、言葉の壁を思い出した。助けてもらいたいが、言葉は通じないという事実に声が詰まった瞬間、
「タスケテクダサイ、オワレテルンデス」
と腕の中の少女が言った。相変わらず何を言っているのかはココにはわからなかったがその言葉を聞いてホームレス達がかくまってくれようとしていることは分かった。
女の子を下ろすと、ホームレスに手招きされて、寝床に案内された。彼らの寝床のスペースへ入れられて、彼らへの感謝とそこの臭いへの嫌悪感でココは複雑な気分になった。
男達は巻いたはずなのでここまで来ることはないだろう。そう思ってココは少し安堵感を覚え、そしてとんでもないことに気付いた。
鞄が無い。
あの鞄の中にはパスポートこそ入っていないが現金も入っていたし、着替えも当然入っていた。なにより、宿代と電車のチケットが入っていた。
いま現在の異常な状況を忘れ、しばし呆然としていたココであったが、袖を引かれる感触に女の子に顔を向ける。彼女は、
「アリガトウ」
と言った。何を言っているのか理解できなかったが、それが感謝の言葉であることはわかった。
なぜなら彼女が顔中涙でぐちゃぐちゃにしながらそう言ったからだ。
その後も少女は泣きながらえんえんとその言葉を言い続けた。
泣き続ける女の子の頭をなでてやりながらココは、えらく刺激的な休暇になったもんだ、と思った。

あいさつとして

どうもはじめまして。このブログは私が執筆した文章(小説)を載せていくものです。
多分不定期の掲載でおまけに長いこと放置になると思いますが、大目に見てやってください。
では短いですがあいさつを終えます。