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ドレス&タキシード1

新しいやつでーす!
でも一話完結でテキトーに書くのでそこんとこヨロシク!



†††

ここはとある国のお城の中。数ある廊下のうちの一つ。
今、そこに聞こえるは二つの大きな足音。

「姫様ー!今度という今度は許しませんよー!」
「ほーほほほほ!なんのことかしらー?」
先を走るのはドレスを着た姫。後に続くのはタキシードの執事。
この二つの足音を聞いて廊下で仕事をしていた家来たちは手早くそこから撤退していく。
姫が袋小路に入る。お城では廊下にそんな所さえあったりする。執事はそれを見てにやりと笑う。
「姫様!さあ、観念・・・・・・して、下さい・・・・・・」
しかし、そこにはいるはずの姫はいなかった。
「あー!またやられたー!」
・・・・・・そう、お城には隠し通路というものもあるのだ。

†††

「ふふふ、まだまだね」
姫の部屋に戻ってきた執事は優雅に紅茶を飲んでいる姫をげんなりした顔で見つめた。
姫様だ。
「ひどいですよ、アレは」
「まあまあ。約束は約束よ。捕まらなかったわ」
「はあ、そうですね。その通りです。今日も姫様の勝ちです」
やった、と姫は嬉しそうに叫んだ。

この姫と執事はある約束をしている。
それは、
『一日に一回だけ姫がイタズラをする。執事がそれをやめさせるにはイタズラの後で逃げる姫を追いかけて捕まえなければならない』
というもの。
さて、そんなこんなで今日は四十七日目。

今日は執事の背に『私の命令として仕事をさせてもいいわよ』と書いた紙を貼ったのだ。

家来たちも心得たもので顔色一つ変えずにしめたもの、と自分の仕事を執事にさせた。
結果、執事は背中の紙に気づいてそれを床に叩きつけるまで休憩なしで働き通しだった。

「ホントにひどいですよ、もう・・・・・・」
なおもぼやく執事に姫は笑って謝る。
「わかったわかった、ごめんごめん。明日の昼食はあんたの好きなものでいいから」
「・・・・・・本当ですか?」
「本当」
「じゃ、じゃあ、ステーキが食べたいです!」
「そうしましょう」

これで仲直り。今日も元通り。そして明日もまた同じこと。繰り返し、繰り返す。いつまでも続く追いかけっこ、いつまで続くか追いかけっこ。

†††

女神テミスの天秤 10.0

†††

「はあ?」
静は目の前の男に向かって思いっきりバカにしたような声を出した。
これが十日間一緒に暮らしてきた男に「お前誰だ?」と言われた際の静の返事だった。
「何言ってんの、あんた」
「いや、だから、俺は・・・・・・」
静の迫力に負けて渡は不安そうに言いよどむ。
「何よ。俺は記憶喪失だ、とでも言うわけ?」
そう言って静は鼻で笑った。渡はそんな静の態度にむっとして食ってかかった。
「そうだよ。記憶喪失だ。一年前から記憶がすっぽりと抜けてやがる。あんたはそれがそんなにおかしいのか」
それを聞いて静はじーっと渡の目を下からのぞき込んだ。
「マジなの?」
「マジだよ」
「証拠は?」
「記憶喪失になった証拠って何だよ」
「それもそうね」
静はのぞき込むのをやめて少し下がった。
「でもまだ信じられないわ」
すると渡は手に持っていた紙を静に差し出した。
「何よ、それ?」
「『俺』が書いた手紙。多分だけど」
静は怪訝な顔をしてその紙を渡から受け取った。
静はその手紙にしばらく目を通していたが、
「何よ、これは。こんな汚い字読めないわよ」
と吐き捨てて紙を放り投げた。
「汚すぎるでしょ、何よこの字は!」
渡は放り投げられた紙を拾った。
「そうだよなあ・・・・・・。やっぱり読めないか」
「わかってて書いたの?」
「いや・・・・・・」
渡は拾い上げた紙の文面に目をやりながら、つぶやく。
「俺は書いた記憶がない。字から判断して多分記憶をなくす前の俺が書いたんだとはわかるだが・・・・・・」
「自分で書いたんでしょ、読めないの?」
「・・・・・・読みづらい」
渡は手紙をひらひらさせて言う。
「・・・・・・読めるの?」
「まあ、時間をかければ」
「かけて」
静が腹立たしげに言う。
「あんたにしかその手紙は読めないのよ。だったらあんたが読むしか無いでしょうが。読めば記憶が戻るかもしれないじゃない」
渡は静の顔をじろりと見た。まるで考えでも見透かすように。静はその視線にひどい嫌悪感を覚えた。
「・・・・・・。わかった。読めばいいんだろう。・・・・・・多分無駄だけどな」
この言葉は正しかった。

†††

「読めたぞ」
インスタントの麺を二人で会話もなくすすった後、静がテレビを見ていると渡が疲れた声で報告した。
ほら、とパソコンの画面を指さす。手紙の文面を解読してはパソコンに打ち込んでいたのだ。
どれどれ、と静がのぞき込む。内容は次の通りだった。

『すまない。帰ってみれば俺の記憶が無くなっているものだからさぞ驚いたことだろう。昨日君が僕を友達だと言ってくれたのは本当にうれしかった。でも僕はこのままだと本当の意味で君と友達になることはできない。***(判読不能)なんだ。意味がわからないだろうけれど、わかってほしい。***友達にはなれない。繰り返して言うけれども無理なんだ。だから僕は僕自身の記憶を一年ほど消すことにした。これで問題は解決するんだ。僕、記憶を消された僕ならちゃんと君の友達になれる。***がある。彼ならきっと僕よりもずっといい友達になるだろう。
記憶をなくした後の僕は本当に状況がわかっていないので色々と迷惑をかけるだろうが、どうか辛抱してほしい。
十日ほどしか一緒にいなかったけれどとても楽しかった。ありがとう。

・・・・・・それから俺へ。君にもすまないと思っている。こんなことをするなんてわがままにもほどがある。何もわからない君をいきなり放り出してしまったことはどれだけ***してもしきれないだろう。
少しでも君の助けになることを期待して今からいくつか説明する。
①この世界は君が暮らしていた三百年前の世界だ。
②そして君は関静という女性の家に居候している。
③彼女の家には一月に一度だけ彼女の要望で魔法を使う、家事全般を手伝い、彼女の恋を助けることを条件に住まわせてもらっている。
④この家周辺のラフルール値を五六〇未満に保ってほしい。低い分にはかまわない。とにかく越えないよう気をつけてくれ。機材はソファ脇の箱の中にあるAと書かれた測定機を使ってくれ。知らないとは思うがラフルール値は魔法によって生じる歪みみたいなものを表すパラメータだ。この調節のためこの家から出て行ってはいけない。魔法を使えば上がるので気をつけること。家から離れても同じことなので注意せよ。
⑤このアパートにはクチナシという男が住んでいる。一度しか会ったことはないが彼とは友人だ。もちろん、君の正体は知らない。
⑥君の記憶に関してだが、元の世界での九月三〇日から六月二日、この世界に来てから昨日までの記憶を全て消去してある。なお、記憶は来年の五月一五日になれば自動的に修復される。
この手紙は関に読んでも構わないが言っていないこともあるので、できれば言わないで欲しい。健闘を祈る』

「何よ・・・・・・これ」
「俺の手紙だよ」
「わかってるわよ!そんなこと!」
静はやる気なく返事した渡に怒鳴った。
「あんた、あんたが自分で記憶を消したってことなの・・・・・・?」
「そうだろうな」
静は渡のその口調が気に障ったらしく渡の胸ぐらをつかんだ。
「あんたはっ!どうしてそうヘラヘラしてられるのよ!自分のことでしょ!何とかしなさいよ!」
そこまで言って静はへたりこんだ。
「そんな・・・・・・。せっかく・・・・・・」
「さっき言ったよな、無駄だって。記憶は消えちまったんだよ、もうあきらめろ」
静の気持ちを一切斟酌しないその言葉に静は伏せていた顔をキッと上げた。
「なによ、あんたなんかッ!あんたなんかッ!」
そう言って渡を突き飛ばす。
突き飛ばされた渡も負けじと怒鳴る。
「仕方ねえだろうが!記憶を失くす前の俺はもういない。俺が自分の手で記憶を消したんだからな!」
「わかってるわよ、そんなこと!あんたは記憶をとっとと取り戻せばいいのよ!」
その言葉に渡は自分の存在を否定された気がした。
「ああ?だったら今の俺はなんなんだよ!」
「あんたは前のあんたの代役に過ぎないのよ!」

言い過ぎた、と静は思った。
渡はその言葉に硬直し、目を丸くして静を見つめている。静も何も言えなかった。どう何を言えばいいのかわからなかった。ただ、謝ることは絶対にできなかった。
やがて渡は無言でするりと居間のドアを抜け、そのまま玄関から出ていってしまった。
部屋には静一人が残った。

†††

北の海の魔女 43.0

†††43.0

少年も監獄の外に出るとホルトゥンが待っていました。
「君はこれからどうするの?」
「あの男の人に会いたいんだけど・・・・・・」
「馬車ごと崖から落ちたって言うあの男かい?」
「そう」
少年はあの男に会って話をしたいと思っていました。
「わかった。君を彼のところまで案内して僕は帰るとしよう」

少年と魔法使いは城下町を通って男の所へ向かいました。少年にとっては初めての町だったので、どうしても目移りしてしまいます。
「気になる?」
ホルトゥンはそんな少年の様子に気づいて聞きました。
「うん。こんな町初めてだから」
「来て良かった?」
「・・・・・・どうかな」
少年は少し考え込みました。
「僕はさらわれた妹を捜して旅をしてるんだ。だからそんなことが無ければ旅に出ることもなかった。町に来ること自体はいいんだけど・・・・・・」
「妹がさらわれるのはごめん?」
「そう。当たり前だけど」
「そうか・・・・・・」
ホルトゥンは遠くを見やりました。

しばらく歩くと屋敷ばかり建ち並ぶ区域にやってきました。
「ほら、着いたよ。この家だ」
ホルトゥンは立ち並ぶ屋敷の一つの前で立ち止まりました。他の屋敷に比べても大きい屋敷でした。
「え、ここなの・・・・・・?」
「そうだよ。・・・・・・この子がさっき言った子供だ。客として丁重にもてなした方がいいぞ」
ホルトゥンはその屋敷の門番にそう言って少年の背を押しました。
「じゃあ、僕は仕事があるからこれで。また会おう」
ホルトゥンはくるりと少年に背を向けて立ち去りました。

†††

北の海の魔女42.0


†††42.0

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おさらい
①盗賊に化けて洞窟に侵入。
②少年を認識させなくする。
③洞窟から出ていった盗賊たちを丘の上で柵と兵士を出現させて捕縛。
④そのまま連行。
というのがホルトゥンの一連の魔法でした。
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「僕の魔法は『幻影』。詳しくは言えないけど幻影を見せる魔法だよ」
少年の開いた口がふさがりません。
「じゃ、じゃあ、さっきまでいた兵士は?」
「幻影」
「丘の上に現れた柵、盗賊の腰から消えた武器、盗賊の手を縛っていた縄は?」
「それも全部幻影だよ」
盗賊たちはそれを聞いて呆然としていました。当然でしょう、自分たちは本当は何も拘束などされていなくて、その気になれば逃げられた、ということなのですから。
「・・・・・・まあ、僕の幻影を破れるのは凄腕の魔法使いくらいなもんだよ。君たちに破れたはずもない。落ち込むことはないさ」
魔法使いはそう言って監獄を後にしました。

†††

北の海の魔女 41.0

†††41.0

少年たちは都に着きました。道には一般人があふれています。
「おふれとか出さなかったの?道を開けとくように、とか」
「んー、まあ、必要ないからね」
そう言って魔法使いことホルトゥンは手を振って兵士長に合図した。
「盗賊を捕らえた!町民は道を開けよ!」
兵士長が一声叫ぶと町民はことごとく道の脇に退いた。あれほどの人間がどこへ行ったのかと思わなくもない。
そんな調子で一行は魔法使いについていって軍の施設が立ち並ぶ地帯まで来た。
「さあ、もう一息だ」
そう言ってホルトゥンは建物の一つに入っていく。中は監獄か留置所だった。檻が並んでいる。
兵士長がなにやら看守と会話した後、兵士長が合図し兵士たちは連れていた盗賊たちを次々と牢に入れていく。
ふうーっと少年とホルトゥンは大きく息を吐いてその場にへたりこんだ。
「ははは、こ、腰が抜けちまったよ」
「ぼくもですよ、はは・・・・・・」
そして盗賊たちがざわついていることに少年は気づいた。
そんなことにはまるで頓着無く立ち上がり座り込んだため服についてしまった埃を払うホルトゥン。
その姿を見ているうち少年は気がついた。
先ほどまで盗賊たちを連行していた兵士たちの姿が見えない。一人として。

少年のあぜんとした顔を見てホルトゥンが不適な笑みを浮かべる。
「わかったかい?これが僕の魔法さ」

†††
次回が魔法の説明回でーす。

北の海の魔女 40.0

†††40.0

「どうやったの?」
「何が?」
「いや、その・・・・・・」
どう言っていいかわからず少年はただ一列に行儀よく行進させられている盗賊たちを見つめるだけでした。
そんな少年の視線に気づいたのか、魔法使いことホルトゥンは、
「ああ。なるほど。どうやってこんな風にやったのかってこと?」
少年はただうなずきます。それに対してホルトゥンは意味ありげな含み笑いを見せました。
「見事なもんだろ。・・・・・・でもね。本当はまだ終わってないんだ。全部終わったら説明するよ」

†††

北の海の魔女39.0

†††39.0

突然の出来事に盗賊たちは皆ぎょっとしたようです。ある者は無くなった腰の武器を手に取ろうとし、ある者は逃げようとして柵に阻まれ、ある者は収拾をつけようと号令をかけますが聞く者はいません。
盗賊たちはあっと言う間に全員捕らえられてしまいました。
ただ、あの魔法使いが化けている盗賊だけが一人立っています。
他の全員が地面に伏せて、後ろ手に縛られ、兵士に組み伏せられている中で、その男が手を一振りします。
すると兵士たちは盗賊を立たせて、歩かせ始めました。

男はその様子をしばらく注意深く見ていましたが、盗賊たちが一列に並んで行進するのを確認してふうと息を一つ吐き、
「やあ、ごめんごめん」
と言って男は少年が立っている方向へ向かって指を振りました。
すると、少年が現れ、魔法使いの姿も変わりました。
すらりとした赤毛の青年です。長い髪を後ろで縛っています。服装は少年は知りませんが実は宮廷の文官と同じ格好です。

少年は丘の頂上へ、魔法使いの所へと向かって歩き、魔法使いは少年へ向かって歩いてきました。
「僕はホルトゥンだ。よろしく」
と魔法使いは手を伸ばしてきました。
「よろしく」
少年は手を握り返しました。

†††

夢幻 4.0

1 †††
その後どうなったのか全く覚えていない。
どうやって自分が教室に戻ったのか。
あの女はどこへ行ったのか。
・・・・・・マキノはどうなったのか。

ほとんど幽霊のようになりながらその日の残りを過ごした。
俺を追いかけていったマキノが戻らずに俺だけが戻ったことはおそらくクラスメートにかなりの違和感を与えたのだろうが、マキノについて聞いてくる奴はいなかった。
しばらくすると、全てが終わったことを知らせる鐘が鳴り、クラスメートが全員教室から出ていっても、気づけばぼうっと窓の外をみつめていた。

「帰らないの?」
窓に向けていた目線を前にやると、あの女がいつの間にか少し前の席の椅子に後ろ向きに座り、あごを背もたれの上に乗せてこちらを見ていた。
「・・・・・・」
怒りのあまり、彼女のやる気のない目をにらみつけたまま何も言えなかった。
「・・・・・・彼なら裏の林に置いてきたわ。何日かすれば見つかるでしょう
ね」
「あいつは死んだのか」
少女は俺の目を正面から見据えて言った。
「ええ。間違いないわ」
「俺が殺したんだな」
「そうね」
少女は目を窓の外へとやり、そのまましばらくの間黙って窓の外を見つめていたが、やがて口を開いた。
「来て欲しい所があるの。来てくれる?」
「・・・・・・名前は?」
俺の不意打ちに少女は、え?と少し高い声を出した。
「お前の名前だよ」
そう言って少女を見る俺の目には敵意、のようなものが混じっていた。
それに気づきつつも少女は、
「楓よ」
と名乗った。

†††

「来て欲しいところってのは森の中なのか?」
「そうよ」
背が高く、葉の生い茂った木が何本も立っている。うっすらと霧がかっていて、遠くまでは見通せない。それでも辺り一面が森だ、ということは確かだ。
静かな森だ、と思った。この森が近所にあることは知っていたし、少しくらいなら入ったこともある。しかし、ここまで深い所まで来たことはなかった。正直不気味だ。
「まだなのか?」
「まだよ」
「迷わないだろううな」
「大丈夫よ」
少年の問いかけに楓は即答した。この様子なら迷うことはないだろう。
「それで、誰に会わせるつもりなんだよ。いい加減教えてくれよ」
もう何度目かもしれない質問をまたしてみた。まともな答えが返ってくるとは思っていなかった。ただ、無言で歩いているのが気まずく感じたからまたやっただけだ。
「・・・・・・いいわ。わかった。ちょっとだけ教えてあげるわ。相手はね、人じゃないのよ。神様。神様なのよ」
若干投げやりな感じで楓が言う。
ぽかん、と鳩が豆鉄砲でも食らったような顔になった、と思う。
「・・・・・・え?何、神様?」
「そーよ」
何が気に入らなかったのか、楓はつまらなさそうに口をとがらす。
しばらくの間、楓が何か説明するのを待ったが、いつまでも彼女は説明を始める様子を見せなかった。考えているそぶりもない。
「・・・・・・説明してくれないか?」
「嫌よ、そんなの」
楓はおそるべき台詞をしゃあしゃあと吐いた。
「おい、説明しろよ、そこは。気になるだろうが」
そう文句を言っても、のれんに腕押し。堂々としたもので、
「着けばわかるわよ」
などと言っている。
俺にはただ頭をかきむしり、歯ぎしりすることしかできなかった。

†††

「お、おい、なんだよアレ」
「『社』よ。私たちはそう呼んでるわ」
楓が社、と呼んだ物は一言で言えば神社だった。ただし鳥居は無い。水を柄杓ですくったりするところも無い。あるのは社殿と灯籠だけ。
しかも全体的におそろしく古かった。
そのためか全体的にかなり異様な雰囲気を醸し出している。いわゆる「出そう」な建物だ。
楓がすたすたとその社に向かっていく。社には近づきたくない、と思ったが、ここは深い森のまっただ中。一人でいるのは正直かなり怖かった。口が裂けても言えないけど置いて行かれたくない、と思って少し小走りで追いかけると、楓が振り返って、
「置いて行かれるのが怖かったの?」
と、口元にうっ・・・・・・すらと笑みを浮かべていった。
「こ、怖くねえよ!」
俺は思わずちょっと大声を出してしまった。

社に向かって少し歩くと社殿の中から男が一人出てきた。上が深い赤の道着、下が黒の袴。なんとなく弓を射る人のイメージが浮かんだ。理由は未だにわからない。
ちなみに楓はシャツにジーパンの普通の格好だ。格好の善し悪しは生憎と俺のセンスが無さすぎて判断つかない。
「なんだそいつは」
その袴男が楓に向かって言った。楓の知り合いなのだろう。少なくとも俺の知り合いではない。
「式よ」
シキ?なんだそりゃ。
しかしつくづく説明の少ない女だな、とも心中でつぶやいた。
「式だと?アレを成功させたのか」
「見りゃわかるでしょ」
あの返事で納得した男もすごいが、楓のおそろしく無愛想な返事もすごいな。だけど何よりも『アレ』ってのが気になる。
俺一人だけが頭の中にたくさんのもやもやを抱えていた。

「ふうむ・・・・・・。ならいいか。入るがいい。ただし粗相の無いようにな」
「わかってるわよ」
「全く・・・・・・。もういい、さっさと入れ」
最後には袴男は面倒になったのか手をひらひらとさせてどこかへ行ってしまった。
楓がこちらを見る。その目には何の感情も見えなかった。
「入るわよ」

†††

まず、障子を開けた。なかなか広い畳の部屋があった。広い部屋なのだが、もったいないことに何も置いていなかった。これまたちょっと不気味だった。
「ほら、行くわよ」
楓は下駄を脱いでずんずんと部屋の奥の襖に向かっていく。俺も慌てて靴を脱いで追いかけた。
次の襖を開ける。これまた似たような部屋だった。歩いていって楓はまたも奥の襖に手をかける。
まさか、と思ったがそのまさかだった。
次も似たような部屋だった。
「なに変な顔してんのよ。さっさと行くわよ」
楓は歩みを止めた俺に向かって非難するような目で言った。

†††

一体何回襖を開けたのか数えていなかったが、おそらく何十回目かの襖の前で楓は止まった。ずっと直進してきたわけではなく、途中で何度か左折したり右折したりした。左折を四回続けたところもあった。必要なのかと楓に聞くと、
「必要よ」
という一言が返ってきた。

襖を前にして楓が言う。
「この次にいらっしゃるわ」
「か、神様が?」
楓がこくり、とうなずく。実は社に入ったあたりから緊張していたのだが、いよいよ緊張は頂点に達した。神様がこのさきにいるなどあるわけないと思っていても、体は強ばっていた。
楓が襖の前で正座したので、それにならう。
「入るわよ」
「ま、待ってくれよ」
深呼吸くらいさせてくれ、という言葉がのどから出る前に楓は奥の間に厳かな声で願い入れた。
「入ってもよろしいでしょうか」
そんな言葉遣いでいいのか、と思ったが、
「入れ」
とすぐに返事が返ってきた。案外神様の扱いも軽いのだろうか。使う敬語がその辺の面接で使うのと大差無いじゃないか。
楓が面を下げたまま襖を開けた。やはり楓にならって顔は上げなかった。
「新入りか?」
「はい。式神にございます」
「ほお・・・・・・」
式神?
「なるほど・・・・・・。面を見せてみよ」
俺のことかな、とそろそろと顔を上げてみた。首が強ばってぎしぎし言った。
『神様』は人間みたいな格好をしていた。
顔は半分しか見えなかった。お面をしていた。狐の面。下半分、口の周りの部分が無い、上半分だけの面。それで、全体的に白で所々に赤の線が走る着流しを着ている。
そこでしげしげと神様をみつめている自分に気づいて目を伏せた。
「この者を神官としてもよろしいでしょうか」
楓が顔を伏せたまま言う。
「よい」
シンカン?なんのことだろう?
「用は以上か?なら下がれ」
「はい。失礼しました」
楓が襖を閉じる。
「ふう、緊張した」
楓はほんの少しだけ感情を表に出してそう言った。

北の海の魔女 38.0

†††38.0

しばらくして盗賊達は少年を捜すのをやめてぞろぞろと洞窟から出ていき始めました。
少年は魔法使いから言われたとおりに一番後ろを歩く盗賊のさらにその後から付いていきます。一番後ろは少年を見張っていた若い男でした。一番下っ端だったようです。
盗賊達は口々に今回の収穫について話しています。よほどの収穫だったのでしょう。
やがて少年にも洞窟の入り口が見えました。そこに光が見えます。
少年も日の光を浴びます。ずっと暗いところだったので慣れるのに時間がかかりました。
そのまま一行は野原を進んでいきます。

しばらくして、
「君はそこで止まって」
少年の耳元でまたも魔法使いのの声がしました。
やがて盗賊達がすぐそばの丘の頂上を通ろうとしたとき、異変が訪れました。

いきなり丘の周囲をぐるりと囲むように柵が出現し、盗賊達の武器が消え、弓を持った兵と槍を持った兵が姿を現したのです。

†††

北の海の魔女 37.0

†††37.0

自称魔法使いが目を丸くする。しかし、その顔には余裕があった。
「へい、お頭。小僧がどこにもいませんぜ」
「何だと!」
お頭が自称魔法使いをすり抜けて少年の目の前に立った。・・・・・・少年と目が合った。
「・・・・・・いないな」
しかし、お頭はそうつぶやくと、大声で少年を見張っていた若い男と思われる名前を大声で叫びながらどこかへいってしまった。
少年は魔法使いに、何が起こったんだ、と言おうとした。
何が、くらいは言ったはずだ。

しかし少年には何も聞こえなかった。
ぎょっとして耳をすますと普通の物音はきちんと聞こえた。
だんだん頭が混乱してきた少年だがもう一度声を出してみた。
何も聞こえない。
少年は藁にすがるような気持ちで魔法使いを見た。魔法使いはくるっとそっぽを向いてどこかへ行ってしまった。
まさか、と思って追いかけようとした少年の耳元で小さな声がした。
「しばらくじっとしていて」
魔法使いの声だった。
「この洞窟にいる誰も君を見ることはできないし、君の声を聞くこともできない。君自身にもだ」
少年はえっ、と思って自分の手を見た・・・・・・つもりだったがそこには何もなかった。
「気づくのが早いね。君は君自身からも透明だ。でも君の触覚は残してある。だから気をつけて」
「触覚があるってことは誰かに触れられてしまえばバレるということ?」
と少年は何も聞こえないため困難だったが声にした。魔法使いが傍にいる気がしたからだ。
「本当に鋭いな、君は。そうだ。誰にも触れられてはいけないんだ」
一呼吸おいて魔法使いは続ける。
「いいかい。しばらくしたら盗賊達が移動し始める。そうしたら君は盗賊達の少し後から付いてくる程度でいいから付いてきて。いいかい、付いてくるんだよ。離れすぎちゃ、ダメだ。それに誰にも触れられちゃダメだからね。いいね」

少年はしばらくその言葉を吟味するように考えていましたが、やがて
「わかった」
と言いました。

†††