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北の海の魔女 75

†††75

将軍率いる軍がある程度進み、グルップリー魔法戦闘指南役が軍を動かすときがきた。
「スプリング隊長、前進の号令を頼む」
「はい、・・・・・・全体!前進せよッ!!!」
自分の号令に呼応して後軍の隊長達が命令を伝搬していく。ほどなく軍は前進を開始した。

後軍が進軍を始めてしばらくして前軍が関所に到達した。
グルップリー指南役は難しい顔をしていたが、特に何の反応もしなかった。

真昼の太陽が焼いた荒野を進み、もうしばらくすると中軍が関所にさしかかった。
指南役の体が傍から見ていてわかるほど強ばっていた。何かが起きると思って緊張しているのだろう。

中軍が関所の門をくぐり抜けていく。
そのまま中軍も何の攻撃も受けずに関所の門を通った。

ただ、中軍のおよそ半分ほどが通過した時に、指南役は一言、
「・・・・・・くそっ」
と言って舌打ちした。

†††

詰みゲー!3-5

†††3-5

私が今日どうしてもお嬢様を学校へと行かせたかったのには理由がある。あまり褒められたものではないが。

私は旦那様に、「被害が最小限になるようにお嬢様に明日のことを伝える」という大命を頂戴している。
そのため、私はお嬢様に、旦那様は明日は会議にいかなければならず、お嬢様と遊ぶことはできなくなった、という旨を伝えなければならない。
先述の通り、お嬢様にお屋敷の中でそのことをお伝えするのはリスクが高すぎる。暴れる可能性が高いからだ。

というわけで、私はお嬢様を学校へと誘導し、そこでお伝えしようと考えていたのだ。

それが正しかったのかはわからないが。

†††

詰みゲー! 3-4

†††3-4

「私には魔術が使えないからよ」
お嬢様は学校に行きたくない理由を、静かに、告げた。
少しの間私は口を開けなかった。その言葉がいつものお嬢様とあまりにもかけ離れていたから、である。普段から大人びてはいるが、それでもどこか年相応に元気一杯で手に負えない、そんな子供なのだ。
しかしながら。
今、彼女はいつもの元気など欠片もなく、まるでしおれかけた花のようだった。そこには無条件で手を差し出したくなる、助けたくなるような魔力があった。
しかし、助けたくなるのと、実際に助けられるのか、差し出した手が花の助けになるのかどうかはまた別の話だ。

「それは一体どういう・・・・・・?」
私がそう質問しかけるとお嬢様はベッドから勢いよく起きあがり、
「もういい。学校に行く。支度をせよ」
そう執事である私に命令した。

†††

詰みゲー! 3-3

†††3-3

この町の貴族は皆学校へ行く。
国の法で定まっているわけではないし、町にそんな条例があるわけでもない。ただそのような暗黙のルールがこの町にはあった。

レインお嬢様もその例外ではなく、学校に通っている・・・・・・のだが。

「今日は行かなーい」
「行きましょう!お嬢様」
「やだー」
私はベッドに寝転がって足をぱたぱたさせながら本を読んでいるお嬢様を学校に行かせようと躍起になっていた。

お嬢様は学校に通ってはいるが、なぜだか普段は学校に行きたがらない。
要するにサボり魔だ。

「では、お嬢様、こうしましょう」
そんなお嬢様を今日こそは学校に行かせるべく私は知恵を絞った。
お嬢様は勝負事が大好きでおまけに負けず嫌いである。これを利用するのだ。
そんな私の計算が功を奏し、お嬢様は本から顔を上げた。
「私とチェスで勝負して、お嬢様が負けたら・・・・・・」
「やだ」
お嬢様は興味をなくしたようにふいっと再び本の世界に戻ってしまった。
「な、なにゆえ・・・・・・」
「だってお前強いもん。また負けるに決まってるわ」
しまった。負けず嫌いなことが裏目に出てしまった。負けず嫌いすぎて「負ける勝負はしない方がいい」と考えているのか。

「で、では・・・・・・」
なおも諦めない私にお嬢様は、
「もう諦めよ。私は今日は学校へは行かない」
と宣言した。これでもう私は口出しできなくなった。
全身の力が抜ける。私はお嬢様のベッドに座り込んだ。
そして本を読むお嬢様の姿を見てふと一つの疑問が湧く。

「お嬢様はどうして学校がそんなにお嫌なのですか?」

私がうっかりそう言うとお嬢様は目を細くしてこちらを振り返った。これは怒っているときの表情だ。あわてて私がいい繕おうとすると、お嬢様は目を下へ反らした。

「私には魔術が使えないからよ」

†††

詰みゲー! 3-2

†††3-2

「お呼びですか、旦那様?」
「入れ」
部屋に入ると見慣れた威厳にあふれた高貴な顔がこちらを見ていた。
つまりは見ていただけだ。
「何用でございましょう?」
私は一礼をしつつ尋ねた。
「うむ・・・・・・。忘れていたのだが、明日は三年に一度の定例会でな。どうしても出なければならん」
「はい」
留守にするということか?しかしそんなことは別に珍しくない。他に何かあるのか。
「だが、困ったことに明日はあの子と遊ぶ約束をしていたのだ」
「ああ、なるほど」
私は旦那様が何を懸念されているのかようやく理解できた。
「このことをあの子に話せば・・・・・・」
「駄々をこねられるでしょうね、間違いなく」

旦那様の一人娘、レイン様は気むずかしいお父さんっ子だ。
一言で言えばそんな性格。

仕事で留守にすることが多い父親と休日を過ごせると思っていた彼女が真実を知ったときには・・・・・・。考えただけでもぞっとする。

「・・・・・・前はどうなったんだったかな?」
「前回旦那様が約束を反故になさった際、レイン様は家中の皿という皿をほぼ全てお割になられました」
旦那様はああ、と思い出したように息を吐いた。

「・・・・・・お前を呼んだのは他でもない。あの子のことだ」
旦那様はどこか苦々しげに口を開く。
「今日、あの子にこのことを伝えてくれ。できれば被害が最小限にとどまるような時と場所を選んでな」
「かしこまりました」
「まだある。明日あの子と私の代わりに遊んでやって欲しい。それであの子の気がすむとも思えないが・・・・・・頼む」
旦那様の最後の言葉はただ「主人が従僕に命令した」というよりも、「一人の父親が娘の世話を頼んでいる」ように私には思えた。

「承りました、旦那様」

†††

北の海の魔女74

すみません、北の海の魔女の73に書きもらしがあったので書きなおしておきました。



†††74

三つの軍の行進が始まった。
まず補佐の率いる軍が関所に向かって行く。続いてヒゲの率いる中軍、そしてその後に私の率いる後軍が続いた。

「スプリング隊長」
私は隣で私の指揮を軍全体に伝える号令係のスプリングに声をかけた。号令係ではあるが三つに分割する前は隊長だったので隊長と呼んでいる。
「はい」
なかなかに好感がもてるいい返事だ。
「私の帽子をかぶらせるにあたって適任なのは誰だ?」
「・・・・・・第二分隊の隊長がよろしいかと」
「よろしい、彼に渡そう」



私は文官の格好をしている。元々軍人ではない私は高位の軍人のかぶる帽子をかぶらなければただの文官にしか見えない。軍を三つに分けた今、帽子はそのまま指揮権を意味している。
つまり帽子は敵にとっての目印になると言うことだ。
敵が攻撃してくるとすればこの帽子をかぶった人間を狙うだろう。

指揮官として倒れるわけにはいかない。
・・・・・・つまるところそんな理由でリスクを回避しようとする人間なのだろう、私という奴は。

†††

詰みゲー! 3-1

†††3-1

陽暦4932年
旧ウェストリア帝国領
北西にある町
エストラルト公爵家
東棟二階

「お早うございます、お嬢様」
「ああ、お早う」
少女は眠たい目を無理に開けた。
執事になどに眠気に負けるところなどみせるものか、と言わんばかりであった。
しかし、まだ十歳にもなっていない少女が睡魔を完全に御し切れるはずもない。まぶたはゆっくりと閉じていった。
「朝食ですよ、お嬢様」
私は笑いをこらえながら言った。
案の定、少女ははっと目を開けた。
「わかっている」
私が今日の予定をお嬢様に全てお伝えしたところで一人のメイド、ニーナが一礼して入室してきた。
「ちょっと」
ニーナはこそこそと私のそばに寄ってくると耳打ちをした。
「旦那様が?」
私が聞き返すとニーナはこくりとうなずいた。

ニーナによれば、旦那様がお呼び、らしい。
一体何を言われるのだろう?

「わかった。ではお嬢様を下までお連れしておいてくれ」
私はニーナに、新入りメイドに、初めての任務を言い渡し、困惑するふりであたふたする彼女をおいて四階の書斎へと向かった。

†††

北の海の魔女 73

†††73

草一本無い平原の上に重い鎧を着た兵士達が正午の太陽に真上から焼かれていた頃、
「ふう、あっついなあ、ここは」
「そうだね。もうちょっと換気したいね」
そんなホルトゥンと少年の会話が関所のどこからか聞こえる。
関所の城壁の辺りだろうか。
「工兵の人がよくがんばってくれたのはよくわかるけれど・・・・・・、この暑さも考慮してほしかったなあ」
「弱音を吐いちゃダメだよ。余計暑くなる」
「・・・・・・本当にいるのかい?魔法使いなんて」
「いるとして行動しなくちゃ。魔法使いだったら君の『幻影』、見破れるんでしょ?」
「まあ、実力があればね」
「じゃあ、使えないよ」
だらだらと玉の汗が二人の首元を伝う。
城壁の上には通路、通常なら兵士が見張りをしている所、がある。その通路の端には一際高い物見やぐらがあった。そこは城壁の足下から階段で上るようになっており、通路から入ることはできなかった。
その辺りから声が聞こえているのだ。
「ふう。ん、あいつらが動くみたいだね」
「え、やっと進軍してくるの?結構長いことしぶってたなあ。まあ、こんなモンかな?」
「おや?変じゃないかい?三つに分かれてるよ」
「ああ、分けるのか・・・・・・。なるほど」
「おいおい、大丈夫かい?僕は一体どうすればいいんだい?」
「大丈夫。作戦は変わらないよ、打ち合わせ通りで」
「わかった」

†††

詰みゲー! 0-1

†††0-1

この物語はどのような物語だろうか?
空想か、あるいは史実か。
実の所、どちらとも言えない。
この物語の語り部として私はそう言っておく。
私は私の手元にある史料を元に、想像力を働かせて物語を紡いでいる。
だから史実ではない。
かといって完全な空想物語でもない。
全てを私の頭の中でひねりだしたわけではないからだ。

まあ、そんな下らない前置きは置いておくとして私がいきなりひょっこり出てきた理由を説明しよう。
説明、まさにそれだ。
物語の流れ上、オーレンという男が坂井翔太に延々とこの世界についての説明を繰り広げることになるだろう。

そしてそれは長く、単調である。
語り手として私は「オーレンは説明しない」というシナリオにはできない。それはおそらく史実に反してしまう。それでは私の信条にも反する。
では、どうするべきか?

その問いに対する私なりの答えは用意して置いた。説明そのものよりもおそらくは、はるかに遠回りではあるが・・・・・・。

諸君等も、この話のいささか緊迫感の欠けた展開に飽き飽きしてことと思う。
そろそろこの物語の本筋、というやつの片鱗でもお見せしようではないか。
ああ、言い忘れていた。今から語る物語はある人物の主観から語る。そのことは十分に留意していただきたい。

では再び話の流れに身を委ねてもらおうか。

†††

女神テミスの天秤 11-12

†††11-12

「言えないって・・・・・・」
「・・・・・・悪いけど言えないものは言えない」
渡は頑なな声で続ける。
「昨日事情を聞くこともなく泊めてくれたことには感謝してる。・・・・・・伝わりにくいかもしれないけど、ものすごく感謝してるんだぜ?・・・・・・それでも、これだけは言えない」
「・・・・・・いいさ、わかった。さっきの質問は忘れてくれ」
クチナシはまたため息をついた。

クチナシがそこで更に踏み入ってこなかったのは、渡を慮ってのことか、それとも、せっかくできた友人を逃がさないためか。
どちらなのだろう、という問いがほとんど無意識の内に渡の心の底に、白くだまになった醜いねとねとしたものみたいな形質で沈殿した。

「さっさと俺の家に帰って昨日のゲームの続きでもしようぜ」
「え・・・・・・?またアレやるのか?」
「なんだ?イヤか?」
「いや、でもお前強すぎるんだよなあ・・・・・・」
渡はボソボソとぼやきつつもクチナシと共に夜道を街灯の明かりに照らされながら歩いていった。

†††