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北の海の魔女 72

†††72

ここで一旦、アヴィンの関所について少し説明しておこう。
左右に山があり、勾配は割と急である。特に関所に面した部分は崖になっている。側面の山からは弓矢での攻撃はともかく、剣や槍での接近戦は展開できない。
続いて城郭。一見したところただの石積みの建造物であるが、魔障壁としての面も備えている。
魔障壁というのは魔法を防ぐ壁のことであり、魔法使いが特殊な魔法をかけることで作られる。
城壁としては珍しくはないが決して多くはない、そういう代物である。
ちなみに今回のように西の国の軍隊に魔法使い、グルップリーのことだが、がいた場合は長期戦になりやすい。魔法使いは確かに平野における戦闘において非常に有能であるが、他面、攻城戦においても優秀である。
城そのものの破壊が容易なためである。

たとえばグルップリーは『火球』という魔法を使う。これは巨大な火の玉を前方に打ち出す、というシンプルな魔法だが、単純に威力が高い。しかも彼は『火球』を使い慣れているため、連射と正確性がかなりのものである。
故に、もしも東の国の軍隊が西の軍と正面衝突したなら、東の国の軍は最悪の場合全滅していたかもしれないのだ。

†††

詰みゲー! 2-23

†††2-23

「断言してもろた後でなんやけど、さっそくオーレンに説明してもうてくれ。・・・・・・オーレン頼むでー」
王様がそう言うと、王様の側の臣下の一人が、
「さ、こちらへどうぞ」
と言って、案内を買ってでた。それに従って大広間から出ると後ろからオーレンなる大臣も付いてきた。
「こちらで説明を受けてください」
案内役は廊下の中で適当な部屋を見つけると中に入るよう促した。



「説明を始めますよ、サッキー殿」
俺とオーレンが部屋にあったテーブルに対面で座ると、オーレンが話しかけてきた。
ちなみにオーレンは黒を基調とした服を着ている。何というか、タキシードに似ている。
「坂井です。お願いします」
「では説明を始めましょうか」

†††

女神テミスの天秤 11-11

†††11-11

「・・・・・・お前、今日はどうするんだ?」
「・・・・・・」
バイトが終わって、アパートへと帰る道すがら、クチナシは渡に質問した。もうすでに辺りは暗くなって電灯が点いている。
問いかけに対して無言のままの渡にクチナシはため息をついた。
「いいよ、今日もウチに泊まれよ」
「・・・・・・すまないな」
クチナシはアパートへ向かって歩きながら黙々と何かを考えている渡の横顔をちらりと見た。
「なあ、お前と、ええと・・・・・・」
「関か?」
「そう、関。お前と関って、付き合ってるのか?」
「・・・・・・付き合ってる、ワケじゃない」
「え?」
渡の言葉にクチナシは驚いたような声を出した。
「じゃあ、お前ら一体どういう・・・・・・」
「言えない」
渡はクチナシの質問を途中で遮った。

†††

北の海の魔女 71

†††71

関所の前の平野で一晩を過ごしてもアヴィンの関になんらの変化は見られなかった。

「将軍、どういたしましょう?」
「うむ・・・・・・」
補佐の問いかけにヒゲはうなるばかり。
敵軍の影も形も見当たらないのが逆に不気味なのだ。そしてその判断はおそらく正しい。
とはいえ、このままじっと軍を動かさずにいるわけにもいかないのだ。
「ひ・・・・・・。将軍。もう一度偵察を送ってみては?」
「そうだな・・・・・・」
私の提案にヒゲは腑に落ちないと言いたげな声色で言った。

結局、山中に敵軍はいなかった。

「将軍、軍を進めるべきでは・・・・・・?このままでは兵糧を無駄にするだけです」
「・・・・・・いや、軍を三つに分割しよう。それで順に関所を通せばよい。罠であれば残りの二軍が駆けつければよい。前軍はキヤリー、中軍は私、後軍はグルップリーが指揮する」
ヒゲにしては良い案を思いつく。
ヒゲの評価を改めた方が良さそうだ。
ちなみに前軍の指揮を執るキャリーとは補佐官のことだ。

かくして我々は正午に前、中、後の三軍に分かれ、関所及びそれに連なる山間の細い道へと進軍することとなった。

†††

詰みゲー! 2-22

†††2-22

貫禄のある中年の男は流暢な関西弁で宣言した。
「汝、サッキー・ジョンを勇者に任ずる!」
そこで俺が静かに異議の声を上げると、
「勇者がなんやわからんのか、しょうのないやっちゃな。説明したる」
「いや、そこじゃないです」
「勇者ってゆうのはな、今回特別に作った役職や。在籍すんのはお前一人。わざわざ『裏』から来てもうた客人を一般兵と一緒にはでけんからな」
「この国の人ってホント他人の話聞かねーよな!」
「お前に勇者としてやってもらわなあかんことは、『王宮(パレス)』の破壊や」
耳慣れない単語に俺は名前のことも忘れてしまった。
「パレス?」
「せや、『王宮(パレス)』や。細かいことは後で大臣にでも説明させるさかい、今は敵の本拠地やとでも思っとってくれ。オーレン、後で説明頼むわ」
王様は臣下の一人を指名した。
指名された臣下は深く礼をし、
「御意のままに」
と言った。
「詳しく頼むで」
王様は念を押すと俺に向き直った。
「勇者であるお前には『王宮(パレス)』を破壊してもらう。わしらの軍やレジスタンス連中では歯が立たんのや。せやさかいに、『裏』からお前をわざわざ喚び寄せたんや」
「あ、あの、ええと・・・・・・」
俺はどう言っていいのかわからなかった。山を下りたときにはこんな感じの展開を期待していたが実際に直面するとまた別物だった。
俺にできるのか?
これが最初に浮かんだ疑問だ。
この国の連中、レインをはじめとする人たちは「君ならできるよね?」感をぷんぷんさせて俺に話を進める。
しかし、俺はまだ何もわからない。
ミリアは俺には魔術師の素質があると言っていた。
だが、まだ俺は魔術師でもないし、実力なんてわかるはずもない。
自分も、相手も、俺にはまるでわからないのだ。
こんな状況で判断を下せと言う方がどうかしている。

だから俺はこう答えた。
「俺には、まだ何ともいえません。勇者にするのはもう少し待ってください」
「何言うてんねん、お前はもう任命されたやんけ。逃げられへんで」
王様は俺の提案を即座にはねのけた後、にやっと笑った。
「大丈夫や。そこにおる大魔術師がお前なら大丈夫やて、言うたんやから、お前やったら大丈夫やろ。そんな気張んな。失敗しても・・・・・・誰もお前のせいにしたりはせん」
俺は息をのんだ。
目の前の関西弁の王様は失敗することの、つまりは国が滅ぶことの覚悟はしているのだ。そしてその責任は、・・・・・・おそらくは国王である自分自身にあると思っている。そういう口調だった。

すべての責めを一身に受ける覚悟があるのだ。

それに引き替え、俺は無知を理由に断言することにビビった。勇者になってやる、俺に任せろ、と。

俺は昨日ミリアに誓ったばかりじゃないか、「この国の人のために戦う」と。
だったら何を迷うことがある?
覚悟なんてあの時にできてるはずだろ?

・・・・・・覚悟はいい?
「当たり前だ」

俺はぼそりとつぶやくと、顔を上げ、王様に向き直った。
「王様、必ずや『王宮(パレス)』を破壊してみせます。待っていてください」
王様は驚き、俺の目をまっすぐに見た後、ふっ、と笑った。
「気張んな、言うたのに」

†††

女神テミスの天秤 11-10

†††11-10

「え?ちょ、ちょっと待って。整理する時間をちょうだい」
「いいわよ。別に急いでないもの」
終始慌ててばかりの静に対して、桜はずっと落ち着いている。
「えーと、まず、あたしのどこが辛そうだったの?」
「さあ、そこまではわからないわ。でも私の推測では、男っぽい、って言われるのがイヤなんだと思ってたわ」
静かは息を飲んだ。当たっている。
「この十日ほどっていうのは・・・・・・?」
「なんとなく感情の起伏が激しくなったような気がしてたの。てっきりサークルを辞めようとしてるんだと思ったから先輩に励ますよう頼んだのよ」
この十日ほど感情の起伏が激しかったのか、と静かは唇を噛んだ。脳裏には憎たらしい顔が浮かんでいる。
「辞めようなんて思ってないわ。でもどうして止めようと思ったの?・・・・・・私たち、特に仲がいいわけでもないでしょう?」
そんな静の問いに桜は肩をすくめた。
「さあ・・・・・・、なんとなくあなたに辞められるのがイヤだったのよ」
「え・・・・・・、それって?」
そこで桜はちらりと腕時計を見、小さく舌打ちをした。
「ごめんなさい。もう時間だわ。行かなくちゃ」
「え?ああ、そうなの?」
静は既に歩き始めていた桜に聞き返すことしかできなかった。

そのまま更に数歩歩いた所で桜は立ち止まり、回れ右。静を正面に見た。
「できれば・・・・・・。いえ、何でもないわ」
桜は再び踵を返し、すたすたと歩き去ってしまった。
静はただ棒立ちになって、彼女のぴんとした背筋が小さくなっていくのを見ているしかなかった。

†††

北の海の魔女 70

†††70.0

関所に一人の兵もいないということが確認されたのはそれから三十分後、斥候が戻ったときのことだった。
その兵が言うには関所の門は開いており、中に入ってみたところ兵の一人も見当たらなかった、とのことだった。
「どういうことだ・・・・・・?」
ヒゲは思案顔でヒゲをなでた。
「将軍、罠です。間違いありません」
補佐は馬上でおろおろと落ち着きを失くしていた。
「将軍、左右の山に敵兵が潜んでいるかどうか、調べては?」
私は左右の山を指さした。
「そうだな」
ヒゲは補佐に合図し隊をいくつか山へ偵察に送らせた。

これが罠なら・・・・・・いや、罠だ。それは間違いない。
この守りやすい関所を放棄する利点は全くない。敵兵は必ずどこかにいるはずだ。

この罠のねらいはおそらくは我々の軍を城門から誘い入れ、左右の山に潜ませた兵に挟み撃ちさせる。
こちらの軍は二つの山の間を細い隊列で通ることになるので効果は抜群である。

しかし、これでは・・・・・・あまりに単純すぎる。こんなに幼稚な作戦であるはずがない。
何かもっと別の何かがあるはずだ・・・・・・。

今日は無人の城を目の前にして野営することとなった。

†††

詰みゲー! 2-21

†††2-21

「よし。ほな・・・・・・。あ。お前、名前は?何ていうんや?」
「坂井翔太と言います」
よし、ここできちんと名前を言いさえすれば皆にもちゃんと覚えてもらえるだろう。
「・・・・・・これでよし」
王様は目の前の机に置かれた紙に何かを書き留めた。
そしておそらくはその紙を持ち上げて読み上げた。
おそらくさっきのは俺の名前のサインか何かだろう。これで俺の正式な名前が記されたわけだ。
王様自ら書いたものだから変更は難しいだろう。王様がちゃんと聞き取ってくれたと信じたい。
ま、関西弁話すくらいだから大丈夫だろう。

「汝、サッキー・ジョンを勇者に任ずる!」
「なんでだあああああああああぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!!!!」
つーか勇者って何だよ!?

†††

女神テミスの天秤 11-9

†††11-9

「ねえ、桜さん」
稽古後、静は桜の元へ行った。更衣室ではない。他の女子に話を聞かれるのはなんとんくイヤだったからだ。
「なに?関さん?」
稽古中は外していたメガネにきれいな光を反射させつつ、桜は振り向いた。
「あ、あの、先輩から聞いたんだけど・・・・・・」
「うん?」
メガネの奥の桜のしずかな視線に静はどうにも落ち着かない気分になった。
落ち着かない静と対照的に、桜はじっと静の次の言葉を待ってくれていた。
「あなたが私のこと、最近元気がない、って言ったんだって・・・・・・?」
「そうよ。そう言ったわ」
桜は小さな声で答えた。
彼女の清らかな声は続く。
「あなたはずっと辛そうだったわ。去年からずっと。それがこの十日ほどちょっと変わったから、先輩に励ますよう頼んだのよ」

†††

北の海の魔女 69.0

†††69.0

そのまま進軍を続け一時間が経ち、再三に渡るヒゲの確認に私は頑なにGOサインを出し続けた。私が意固地になっていたわけではなく、逆にヒゲと補佐がが意固地になったのである。
私だって魔法使いにしろ、一般兵にしろ、あまりにも敵の姿が見えないので不安だが、かと言って進軍を止めるわけにも行かない。先ほど出した斥候もまだ戻る時間ではない。

そうしてさらに三十分移動した後、補佐官がとんでもないことを報告した。
覗いていた望遠鏡を下ろして彼は一言、
「将軍、関所がもぬけの殻です」
そう言った。