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詰みゲー! 3-15

†††3-15

「お嬢様、その通りでございます」
弱音を吐いてはならない、その言葉を肯定する呪詛を私はお嬢様に言わねばならない。
しかし・・・・・・それを私ごときに言う資格があるのか?
こんな中途半端な私が?
私はうつむくお嬢様に提案した。

「お嬢様。私と約束していただけませんか?」
「約束?」
「私はこれより生涯にわたり一切、弱音を吐きません。ですからどうかお嬢様、お嬢様もどうか弱音を吐かないで下さい」

お嬢様はきょとん、と目を丸くした。その目にじわり、とにじんだ光が宿る。
わずかな微笑とともに再びお嬢様は目元を隠すようにうつむいた。
「いいだろう。お前の約束に乗ってやろう。忘れるなよ?」
「もちろんです、お嬢様」
「・・・・・・さて、お前への謝罪も済んだことだからわたしは帰ろう」
「あ、お待ちを。お嬢様」
立ち上がりかけたお嬢様を私はとどめた。

†††
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詰みゲー! 3-14

†††3-14

「お、お嬢様・・・・・・!」
「・・・・・・入るわよ」
お嬢様は無表情のままで、そう私に告げると半ば私を押し退けるように部屋へと入ってきた。そのまま部屋を横切り、部屋の真ん中に陣取った。
「椅子は無いの?」
「は、はい。こちらに」
私は急いで椅子を部屋の隅から取ってきた。
しかし、表面にホコリが積もっていた。
「ちょ、ちょっとお待ちを」
「いえ、いいわ。ベッドに座るから。その椅子にはお前が座りなさい」
そう言うとベッドの端にちょこん、と腰掛けた。
やはり表情は無く、ただじっとこちらを見つめているだけだ。

「お嬢様。私は、」
「わたしが悪かったわ」
目を合わせることなくそっぽを向いて一息に言った。
いきなりのことで私は面食らってしまった。
おそらくは目をまん丸くしたのであろう私の顔をちらりと見てお嬢様は少し笑った・・・・・・気がする。
「さっき、木の下でお前はわたしを挑発したろう。あれは効いたぞ」
「・・・・・・申し訳ありません」
「よい」
うなだれて謝辞を述べる私にお嬢様はただ手を払っただけだった。
「あのような言葉がわたしには必要だとお前はそう思ったのだろう?・・・・・・わたしはどうしても魔術を覚えなければならないのだ。あんなことくらいで弱音を吐いていてはいけない・・・・・・よな?」
お嬢様は言葉の最後で悲しげな微笑を浮かべて、少し視線を下へ落とした。

お嬢様は普段から強気な態度でいるが、十歳そこそこの女の子でしかないのだ。
魔術ができないことで他の子に対して引け目を感じ、
その差を埋めようと必死になって、
でも辛さで弱音を吐いてしまいそうになる。

それのどこがいけない?
弱音なんていくらでも吐けばいい。

しかし。

しかし、お嬢様は貴族の娘だ。
例え誰も見ていなくとも、高潔で誇り高く人々の規範たらねばならない。
故に、私はお嬢様に優しい言葉をかけることなどできない。厳しい言葉を、激励の言葉を、かけることしかできないのだ。

私は椅子から立ち、床にひざまずいた。お嬢様が驚いた顔を見せる。
私は頭を垂れ、激しい自己嫌悪に陥りつつ次のような言葉を吐いた。

「お嬢様、その通りでございます」

†††

さまよう羊のように 8-3

†††8-3

ギャットがゆっくりとドアノブを回し、ドアそうっとを開ける。
それに合わせてココが拳銃を下に向けて中に入る。
部屋に入ったところの廊下には誰もいなかった。誰かがドアの開いた音に気づいた様子もない。
続いてギャットがゆっくりと後ろから入ってくる。
ギャットがドアを大きく開け放ち、閉まらないようにする。音を立てないためだ。

ココとギャットが前後を入れ替える。やはり本職の人間が先行すべきだろう。
ギャットがじりじりと音もなく廊下を進み、やがて角にたどり着いた。
その先は部屋だ。普通なら部屋には行って三、四歩のところで右に曲がり、大部屋に入るものだが。
ココにはその角が生死の境にさえ思えた。
ギャットも同じようなことを考えていたのだろう。でなければ角で一瞬立ち止まり銃を構え直した意味がわからない。

ギャットは意を決したように短く息を吸い込み、バッ、と身を大部屋にさらし、同時に大部屋にいるであろう人間に銃を向けた。
それをココは廊下で銃を構えて見ていた。
しかし、ギャットは銃を構えたまま微動だにせず、その表情は堅いものから徐々に崩れて完全に困惑したものへと変わった。
挙げ句、ココに顔を向けた。
「おい、これはどうなってるんだ?」
ココは角からひょい、と頭を出して見た。
大部屋には誰もいなかった。

†††

北の海の魔女 83

†††83

テントの入り口に男が立っていた。格好からして西の国の文官か、と少年は思った。
「・・・・・・君は西の国の魔法使いか?」
ホルトゥンが男、グルップリーに特に身構えた様子もなく尋ねる。
「そうだ」
グルップリーはホルトゥンを用心深く観察して目を逸らさないようにしつつ頷いた。
「何が起こったかはわかってるのかい?」
グルップリーの醸し出す緊迫した雰囲気に対していささか間の抜けた印象さえ受ける口調でホルトゥンが質問する。
「ああ。お前が幻影魔法で俺たちをはめた」
ホルトゥンがふんふんと頷く。少年は黙ってグルップリーを観察し続けていた。
「わかってはいるんだね・・・・・・。じゃあ、何しに来たんだい?」
「お前たちを殺しに来た」
ホルトゥンの質問にグルップリーは眉一つ動かさずに淡々とした口調で答えた。
「・・・・・・へえ。殺しに?」
ホルトゥンの口調はこれまでと比べてやや低い。
「できないとでも?」
「いや。君は十中八九、攻撃の魔法を使うんだろう。それがもしも僕たちに当たれば僕たちは死ぬだろうよ、造作もなくね。もしも、だけど」
「当たるさ。俺には、」
「僕の魔法が見切れると?」
ホルトゥンが口元に微笑を浮かべる。
その言葉に、いや挑発に、グルップリーが一歩踏み込む。もはや二人は至近距離でぎりぎりとにらみ合っている。
次に口を開いたのはホルトゥンだった。
「僕はね、見切れるとか見切れないとかそんな単純な掛け方はしてないのさ。試しに僕を攻撃してみなよ、さあ」
ずい、とホルトゥンが半歩進む。二人はもう鼻先が触れ合うほどの距離だ。
しばらく二人は無言でにらみ合っていたが、グルップリーが根負けしたように目を逸らした。
「・・・・・・どういうことだ。俺には見切れないだと?説明してもらおうか」
「ダメだよ」
そこで少年が横から声をかけた。

†††

北の海の魔女 82

更新遅れてソーリー!!
でも次も遅れるよ。その辺よろしく!

†††82

宴会が始まって数時間。すでに宴会場はつぶれた兵で阿鼻叫喚と化していた。
ちなみに武器庫の番の兵も幸いなことに宴会に出られたらしく、武器庫の前には現在誰もいない。

そんな折り、ようやくグルップリーは動き出した。

武器庫の辺り、あるテントの陰から彼はするりと姿を現した。
そのままゆっくりと武器庫の一つのテントに近づいていく。
そして彼の耳には二人分の声が段々と大きくなって聞こえてきた。

「・・・・・・あとは火を点けるだけだね」
「・・・・・・いや、そう上手くはいかないみたいだね」
グルップリーがテントの入り口に立ったとき、二人組の背の高い方が振り向いてちょっと笑みを浮かべた。
「ここからが大変だ」

†††

詰みゲー! 3-13

†††3-13

「はあ・・・・・・どうしよう・・・・・・」
私はいつの間にか涙目になっていたニーナをなだめた後、自室で服を着替えた。
その後、食事と風呂をすませつつ、日中にやり残した仕事をこなした。
そして今日の仕事を全て終え、いざ眠ろうとしたときのことである。

思い出したのである。
お嬢様とのケンカ、ではない。
忘れていたのは、旦那様は明日は会議にいかなければならず、お嬢様と遊ぶことはできなくなった、とお嬢様に伝えること。

とんでもない大失態。
お嬢様を疲労困憊にし、自信を喪失させ、更に追い打ちをかけ怒らせ、その上、当初の目的を忘れる。

ありえない。
執事としてありえない失敗である。

しかし、こうしてただ蒼い顔してベッドに腰掛けているだけではいけない。
せめて今日中にお嬢様に伝えなくては。
例えお嬢様にどれだけ嫌われていようと、どれだけ嫌われようとも。
仕事は仕事だ。

そう決意し私がベッドから立ち上がり、着替え、お嬢様の部屋へ行こうとドアに手をかけた時、ノブに触れる前にドアが開いた。

誰が来たのかと驚いてドアの向こうを見るが誰もいない。
どういうことだ・・・・・・、と背筋に寒いものを感じた俺にもっと冷たい声が刺さる。

「おい。下だ、下」
下を向くと眉をつり上げて不機嫌そうなお嬢様が立っていた。

†††

詰みゲー! 3-12

†††3-12

帰りの馬車の中、お嬢様は一言も話さず、私と目も合わせず、ずっと馬車の窓から野原や町を眺めていた。

「すまなかったな」
「いえ、大丈夫です。いつもご迷惑かけてばかりですから」
「ははは、なるほどな。その通りだ」
「ヒドいですよ、そこは否定してください」
「悪い悪い。お前はよくやってるよ」
「えへへ」
私はお嬢様を部屋へ送り届け、後の世話をメイドの一人に任せ自室へと戻ろうとした。
その途中でニーナと出くわしたのである。

ニーナの屈託のない顔を見て、私はつい言わずにいられなかった。
「・・・・・・私は間違えたのかもしれない」
「どうかしたんですか?」
ニーナは笑顔を引っ込めて真顔になった。
「お嬢様にひどいことを言ってしまった」
「どうしてですか。理由があるんでしょう?」
私は真顔のニーナを見て、少し笑った。
「どうしてそう思う?」
「オーレンさんは理由もなくそんなことしないでしょう?」
「そうだな・・・・・・。だが、理由はともかく、間違ってたのかもしれない。問題はそこだよ」
「そう・・・・・・なんですか?」
「そうさ」
私はちょっと微笑んだ。苦笑いに近かったかもしれない。
「私はお嬢様に御自身の力不足を理解して頂きたかったんだよ」
「どういうことですか?」
「自分の力不足を痛感すれば嫌でも本気を出すだろう、と思ってたんだよ。・・・・・・でも、言い方を間違えちゃったんだよ」
「いえ、どういうことですか?お嬢様に何か教えてたんですか?算数?」
「・・・・・・私も少々苛立ってたんだろうな、多分」
「あ、歴史ですか?ややこしいですからねー」
「もっと上手く教えられると思ってたのに・・・・・・。そこの差に苛立ったのかな・・・・・・」
「かく言う私も歴史は・・・・・・」
「あそこまできつい言葉を投げかけるなんて・・・・・・」
「・・・・・・無視しないでくださいよう」
ニーナはしゅん、と俯いてしまった。

†††

北の海の魔女 81

†††81

「はーい、武器はこっちに置いてくださーい。奥の方から詰めてね。あ!順番は守って!」
ずらりと並んだ武器と鎧を置くためのそれぞれのテントの前で係りの人が非常に忙しそうに走り回っていた。
「大変だな・・・・・・」
「ああ・・・・・・」
「係りに回されなくてよかった・・・・・・」
「全くだよ・・・・・・」
二人はやたらと忙しい上に武器の番をして最後まで宴会には出られないであろう係りの人たちに憐れみの目をやりつつ、テントの中にがしゃん、と武器と鎧を置いた。
「こっちのテントはもう上がりでーす!」
「わかったー!十三番の方を頼むー!」
「りょーかーい!」
ありがとう、君たちの分まで俺たちが宴会を盛り上げるから、と心で誓い、二人は晴れて会場へと向かう。
「宴だ、宴だ!」
「酒が飲める酒が飲める酒が飲めるぞー♪」
鼻歌交じりにスキップ。上機嫌な二人はランラン気分で宴会場に向かって行った。

†††

詰みゲー! 3-11

†††3-11

「お疲れさまです、お嬢様」
私は夕方まで大木に手を当て続けていたお嬢様にりんごを差し出した。
今、お嬢様は練習で神経をすり減らしたためか大木の下に大の字になって寝転がっている。
「いらん」
お嬢様はりんごにちらりと視線をやると、寝返りを打って向こうを向いてしまった。私はりんごを持った手をゆっくりと引っ込めた。

「・・・・・・なあ、オーレン」
「はい、お嬢様」
お嬢様はこちらに目を向けずに、夕日の沈んでいく様をじっと見つめていた。
「私って才能無いのかな・・・・・・?」
「無いですね」
お嬢様が頼りない声で問いかけた言葉に私は即答した。
これには私自身も少し驚いた。お嬢様を奮い立たせようと言った言葉だったはずが想像以上に口調が乱暴だったからだ。
「・・・・・・やっぱり・・・・・・」
お嬢様はいつもなら怒りだしただろうが、今は別。
一日中ずっと集中しっぱなしで、精神的にまいっている今は反撃もできないのか。
お嬢様は寝返りを打ったまま、黙り込んでしまった。
夕日もほとんど沈んでしまって、辺りは段々と暗くなっていく。

「・・・・・・それでいいんですか?」
寝転がり、押し黙ったままのお嬢様に私は一言だけ質問した。私の言葉はまだややぶっきらぼうだった。
「・・・・・・何が言いたい?」
こちらに背を向けたままでお嬢様がややトゲのある声色を出す。
「お嬢様はいつまでそうやって寝ていらっしゃるおつもりですか?」
「・・・・・・別にいいだろう。少しくらい」
「そう思いますか?」
「・・・・・・一日中練習してたんだぞ」
「あんなの大したことありませんよ」
途端にお嬢様は起きあがり、真っ赤な顔で叫んだ。
「お前はッ!お前という奴はッ!なぜ私の神経を逆撫でするようなことを言うのだッ!!」
「・・・・・・お嬢様、」
「黙れッ!口を開くなッ!」
私の言葉をお嬢様は叫び声でかき消した。
お嬢様は小さな手をぎゅっと握りしめると低い声で言った。
「・・・・・・帰るぞ。支度をせよ」
「・・・・・・。・・・・・・わかりました、お嬢様」

†††

詰みゲー! 3-10.5

†††3-10.5

「お嬢様、お昼にしましょう」
「ふう、やっとか・・・・・・」
ずーっと木に手を当てて集中しっぱなしだったお嬢様は疲れきった様子でふらふらとこちらに近づいてきた。
もっとも私が準備を始めた頃からそわそわと落ち着かない素振りを見せていたのだが。
「メニューは?何だ?」
「野菜や肉をパンで挟んだものですよ」
「素直にサンドイッチと言いなさいよ」
「それは向こうの世界の単語なので」
「この発言ってNGじゃないの?」
「・・・・・・大丈夫だ、って書いてありますよ。ほら、カンペに」
「あー、空からカンペが下りて来たー・・・・・・。ってこれ、どういう状況よ!?」

ともあれ食事は進んだ。お嬢様は気力の限界というやつか、普段よりややグチっぽくなっていた。
「そもそも何で魔術が使えないといけないのよ。使えなくてもいいじゃない」
「ツールとして非常に便利なんですよ」
「別にわたしが使えなくても、使える人を雇えばいいじゃないの」
「それは・・・・・・」
「全く、こんなの時間の無駄よ。全く・・・・・・」
ぐちぐちぐちぐち・・・・・・。
その後もしばらくお嬢様のグチにさらされて私はちょっと思考が過去に飛んで行ってしまった。逃避の一種だろう。

私が魔術を習ったときは今日の比ではなかった。大体同じような魔力を感じ取る、という訓練を朝から晩まで(ここは同じだが)対人でやるのだ。
対人の方がやりやすいんじゃないのか、と思うかもしれないがそれは違う。むしろ危険だ。
初心者にとって、相手が達人級の人でない限り、対人で魔力の読みとりをするのは危険だ。魔力を感じ取ろうと無防備なところに未熟な相手の不安定な魔力が流れ込むのだ。素手で火に触るようなものである。

だから今日も私の魔力を感じ取るのではなく、木の魔力を感じ取るという形式にしているのだ。

昔流の無駄に厳しい訓練を思いだしていると、自分とお嬢様を比較して考えていることに気づいた。
ダメだ。今はもう時代が違うのだ。
比べるな、比べるな・・・・・・。

「おい、聞いてるのか!」
「はい!き、聞いてますよ!もちろんです!」
「じゃあ、今わたしが何と言ったか言ってみろ」
「そ、それは・・・・・・」
今の方がずっと試練の時かもしれない。

†††