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詰みゲー! 3-30

†††3-30

「贈り物は気に入ってくれたかな?」
目の前に落ちてきた時計塔に目を奪われていた私たちは背後から聞こえた不気味な声に背筋を寒くした。
「お前があまりに小賢しい手ばかり使うので、私も真似したくなったんだよ」
道の幅は広いが、脇道は無い一本道。少なくとも降ってきた時計塔と赤服の間には無い。
つまりは逃げ道が無い。
「おや?小娘が増えているな・・・・・・。お前の娘か?」
「違うわよ!失礼ね!」
失礼なのか?
お嬢様が下ろせ、と暴れ出したので、仰せのままに、と下ろしてやった。
「おやおや、これは失敬」
「・・・・・・アンタたち、この町の人をどうしたのよ」
お嬢様は赤服たちのことを知らないはずだが直感で犯人だと理解したのだろう。冷静さと怒りと隠し切れない恐怖の混ざった声で尋ねる。
「つくづくお前たちは同じことを聞くんだな・・・・・・。彼らならそこにいるだろう?」
淡々とした口調で何でもないことのように言った。
「そこ、だと?」
「そこだ」
赤服はそう言って私たちを、いや、私たちの後ろにある時計塔を指さした。

†††
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北の海の魔女 88

†††88

「牽、制・・・・・・?」
西の国の魔法使いは言っている意味を理解しようと必死になっているのか、おうむ返しにそうつぶやいた。
「そう。牽制」
少年は座っていた木箱から下りて、偉そうに指を振りながら説明口調で話し始めた。
「東の国の首都に護送されてきた西の国の捕虜の大群がいきなり息を吹き返したらどうなる?・・・・・・これは詰みだよ。首都の軍はほとんど出兵してる。城の警護さえ手薄になってる。まあ、決して少ない訳じゃないんだけどね」
一個大隊だったら押し破るのはワケない、と少年は何でもないことのように言う。
「ど、動機は!お前がそうする理由は何だ!」
グルップリーは少年に人間的でない何かを見たような寒気を覚えた。
「動機か・・・・・・」
少年はグルップリーの問いにしばらく視線を落とし、ぐるぐると歩き回っていた。

「・・・・・・僕はね、最初は妹を探すために旅に出たのさ。魔女にさらわれてしまってね・・・・・・。それで途中で一匹の狼を助けたのさ。彼は言ってたよ」
少年は立ち止まり、何度も深呼吸しました。
まるで沸き上がる怒りでも抑えようとしているかのように。
「何の罪もない生き物を自分の手で殺してその肉を食らうことがたまらなく嫌だって。自分の存在さえ否定するほどにその嫌悪は激しかった。それでも彼は最後にはその業を背負って生きていくと決めたんだけど・・・・・・」
少年が一息をつく。東と西の国の大人二人は子供の長い演説を口を挟むことなく聴いている。
「彼は狼だから生きるためには食べなければならない。その過程で殺すことは必要なことだ。人間だって同じ。家畜を殺して、その肉を食べるし、その時にはきちんと祈りを捧げる。でもさ・・・・・・」
少年は突然、顔を歪めた。その表情は怒りを含んだ悲痛なものだった。
「これから起きようとしてることは違うだろ!食べるためでも無いし、もちろん生きるためでもない!何がしたいんだ!何が目的なんだよ!?無数の生命を散らしてまで何がしたいんだよ!?
宗教?思想?人種?金?領土?下らないんだよ!・・・・・・僕たちは人間だ。わざわざ殺しあう必要のない人間なんだ。他者の命を奪う必要性の無い者がどうして殺しあってるんだよ。そんなのおかしいだろ・・・・・・」
少年は、はらはらと涙をこぼしながらその口元を怒りに歪める。
「そんなの僕は認めない。そうでなければ、僕は、僕はあの狼にも、鹿の長にも面目が立たない。断固として拒否する。僕の目が黒いうちは・・・・・・」
少年は涙を拭き、決然と顔を上げて二人の大人に宣言した。
「戦争なんてやらせない!!!」

†††

詰みゲー! 3-29

†††3-29

その後五分程度の間、道を走り、お嬢様を『石盾』で閉じこめた地点までたどり着いた。
「解除ッ!」
走りつつ、右腕を振ってお嬢様を閉じこめておいた『石盾』を解く。
「オーレン、さっきの竜巻はな・・・・・・」
「後にして下さいっ!」
なにやら言いかけていたお嬢様を走ったままで抱えてそのまま走り続けた。
「あっ、何よっ、何なの・・・・・・きゃっ」
お嬢様の抗議の言葉は途中で悲鳴に変わった。
私がお嬢様を抱えたまま急に立ち止まったからだ。

私が足を止めたのは、五十メートル程先の地面に巨大な影が落ちたからだ。
抱えられたままで影が見えないお嬢様が、何よ、と身をよじらせたその時、
凄まじい音と共に時計塔が地面に落ちてきた。

†††

詰みゲー! 3-28

†††3-28

「・・・・・・案の定か」
赤服が無感情に呟く。
『災厄を招く竜巻』が赤服を攻撃している間にオーレンはもういなくなっていた。
竜巻と瓦礫の波状攻撃が止んだ後、赤服の青年は無傷で立っていた。
彼の『障壁』は魔術師としては異常な程の強度によって彼を保護していた。
「さて・・・・・・、どうしたものかな・・・・・・」
赤服はかりかりと頭を掻いて立ち尽くしていたが、しばらくすると歩き始めた。




「バケモンが・・・・・・」
走りながらオーレンは歯噛みする。
あんな奴、どう考えても一人の力では一矢報いることすら不可能。
現時点で最も理想的な結果は、
赤服から逃げきり、お嬢様を連れ、隣町へ報告。
という流れか。
逆に最悪の場合は、
赤服からは逃げられず、お嬢様も見つかり殺され、この事件に誰一人気づかない。

・・・・・・奴らは次に何をするのだろうか?
黒服は贄だとか言っていたが・・・・・・。
オーレンは自身が感じる薄気味の悪い不安に背筋が寒くなった。

†††

詰みゲー! 3-27

†††3-27

赤服はやれやれ、と首を振りつつ、近づいてくる。
「生きて帰れたらいいがな」
「ふん・・・・・・。さてと、よくも私の盾を壊してくれたな。礼ははずませてもらうぞ」
立ち上がり、『障壁』を修復しつつ赤服を睨みつける。
私の頬の辺りを上から垂れてきた血が伝っていく。
この格好でお嬢様には会えないな、と頭の片隅でため息混じりの声がする。
「フ・・・・・・。礼など要らん。貴様の首で十分だ」
赤服がこちらに近づきながら応える。
「高くつくぞ」
「上等!」
赤服がその言葉を合図に突進して来た。
「『風刃(ウィンドバード)』!」
先ほど黒服に使った魔術を今度は赤服に使う。
実際のところ『風刃』は魔術師相手に使う類の魔法じゃない。こいつのは無論、普通の魔術師の『障壁』さえ通らない。
「こんなものただの、・・・・・・ッ!」
風刃に対して自動で展開される『障壁』のみで突っ込んできた赤服はいきなり目の前に現れた石の壁に激突した。
「『石盾』!」
「小賢しい真似をしやがって・・・・・・!」
衝撃でばらばらと崩れ落ちている壁の向こうから赤服の怒気をはらんだ声がする。
動きの止まった一瞬の隙を見逃す訳にはいかなかった。
「『石盾(ストーンウォール)』!『災厄を招く竜巻(トルネード・ディザスター)』!」
今度は赤服を包み込み、拘束するように『石盾』が発動する。
風が止み、周囲の空気がすーっ、と静まり返っていく。
続いてふつふつと沸き上がるように徐々に空気が揺らぎ、いくつものつむじ風を成していく。
つむじ風は互いに混じり合い、大きく、強くなっていく。
地面の煉瓦がガタガタと揺れ、瓦礫が吹き上がる頃には既に立派な竜巻に成長していた。
そろそろ退くべきか。

巨大な竜巻は広場の外の道路のほとんどを覆い、周囲の家々を見境無く破壊していく。
「・・・・・・気にしてる場合じゃないよな」
・・・・・・無意識にだが、私はこの時既に、もう町は元に戻らないと言う予感があった。

竜巻の渦の中心は当然、赤服と奴を拘束した『石盾』にしてある。今頃は『石盾』が竜巻と巻き上げられた瓦礫で破壊され、奴自身がその攻撃を受けているだろう。

†††

詰みゲー! 3-26

†††3-26

「君が殺されるよ」
黒服がそう言った直後、赤服の男らしき影が目の前で動いた。
とっさに後ろに跳び退く。
その直後、ばりばり、と何かが砕ける音が聞こえ、黒服を見ていたはずなのにいつの間にか空を見ていた。
視界が転換したのは赤服の攻撃を食らい、身体が吹っ飛ばされたからであり、ばりばりという音は私の『障壁(バリア)』が砕けた音だ。
その音の正体がわかったのは吹っ飛んでいた自分の体が地面に落ちた後だった。

落ちたのは広間の外。五十メートルは飛ばされたようだ。
「ぐぁっ・・・・・・!嘘だろ・・・・・・?」
今までに食らったことのない衝撃に、殴られたのであろう腹部が燃えるように痛む。

痛みに意識が遠のきそうになりながらもハッキリと理解していた。
『障壁(バリア)』が破壊された。
食らったのはたった一撃。
かすかに見えたのは赤服が右腕を振り上げたところ。
とっさに跳び退いたのは正解だった。もしもそのままあの攻撃を食らっていたら即死していた。

赤服がゆっくりと歩きながら近づいてくる。その顔に表情は無い。
「お前は父上を攻撃した。残念だが生かして返すわけにはいかない」
私は痛みに思わず顔をひきつらせつつも立ち上がった。
「諦めろ。お前は俺から逃げられないし、勿論勝てもしない。大人しく殺されろ」
ふん、と私は思わず鼻で笑ってしまった。
「下らないな。確かにあんたは強いさ。それこそ絶対に勝てないし、逃げるのも難しそうだ。でもな」
一度深く息を吸い、続ける。
「殺されてやる程、私は暇じゃないんだ。仕事はそれこそ山のように、いくらでもあるんだよ」
赤服はやれやれ、と首を振った。

詰みゲー! 3-25

†††3-25

時計塔から出てきたもう一人の男、彼は男と言うよりも青年、という感じで、彼もやはり黒髪であり、服装は男と同じであったが色は赤を基調とした色違いであった。ちなみにかなり体格がよく、身長も見たことが無い程、高かった。

「どうかしましたか、父上?」
年齢的に明らかに肉親ではない黒服の男に対して赤服の青年はそう呼びかけた。
「ああ。ノルマは達成してるからさあ。こいつどうしようかなって」
「・・・・・・放っておけばよいのでは?」
「そうだな」
黒服はくるりと背を向けて元のベンチの方に戻り始めた。赤服はその場で私を見ている。

「待て!この町の人はどこに行ったんだ!」
私は黒服に向かって思わず叫んでいた。
すると黒服がゆっくりと振り向いた。
「・・・・・・あそこだ」
そう言って時計塔とその周りのいくつかの建物を指さす。
「あの中だよ」
「・・・・・・無事なのか」
黒服はその問いには答えなかった。視線をわずかに反らし、代わりにぼそっとつぶやいた。
「・・・・・・彼らはニエだ」
「・・・・・・?ニエ?ニエって何だ?」
耳慣れない単語だったので思わず聞き返してしまった。
「贄・・・・・・、生け贄・・・・・・と言えばわかるかい?」
「・・・・・・ッ!」
その瞬間私は「この男は殺すべきだ」と悟った。いや、最初に見たときから思っていたことが確信に変わったのか。
「『風刃(ウィンドバード)』!」
私は目の前の黒服にいきなり攻撃を仕掛けた。距離はやや開いているが、射程範囲内だ。

「・・・・・・風は目くらましで、攻撃の本質は石のナイフ、か・・・・・・。お前、戦闘訓練を受けたのか・・・・・・珍しいな」
『風刃』は確かに黒服に命中した。しかしナイフは全て何かに弾かれて地面に落ちた。
『障壁(バリア)』か、厄介だな。

「でもねえ・・・・・・、相手が違うな。俺を攻撃する前にそいつを攻撃しないと・・・・・・」
黒服は赤服を指す。と言っても、すでにそこに赤服はいない。

・・・・・・いない?
「君が殺されるよ」

†††

北の海の魔女 87

†††87

「・・・・・・?それの何が違うんだ?」
グルップリーの問いかけに少年はちっちっち、と指を振り舌を鳴らした。そのいかにも芝居がかった仕草にグルップリーは呆れた。
「東の国の捕虜になるということは完全に降伏すると言うことを指す。兵は全員武装を解除した後、捕らえられ、その後の生死は保証されない。数が数だから全員無事に帰れる、なんてことは無いと思うね」
「ペラペラとよく舌の回るガキだな・・・・・・。それでお前たちが捕虜にするというのはどういう意味なんだ?」
「全員に武装解除してもらうところまでは同じだよ。その後、東の国での首都に護送するんだ。捕虜として、ね」
少年の意味ありげな笑みに西の国の宮廷魔法使いはめざとく気づいた。
「護送として、とは?本当は何を意図しているんだ?」
「牽制、だよ。僕から東の国への、ね」

†††

詰みゲー! 3-24

†††3-24

「よいしょっと」
ベンチの男はそんなかけ声とともに立ち上がった。
黒い。全身黒づくめである。黒髪で、黒いマントを翻し、ゆったりとした長い袖が手首まで覆い、ズボンも靴も黒であった。

私は一目この男を見たとき背筋にぞっと寒気が走った。
何かとてつもなくおぞましいものでも見ているような気分に襲われた。
お嬢様を置いてきて正解だった、と心の底から感じた。

「君たちはこの町の人なのかな?だとすると・・・・・・、いや大丈夫か」
黒服の男はぶつぶつとつぶやきながら近づいてくる。
私はただ黙ったまま、男が歩いて近づいて来るのを見ているだけだ。
「ノルマは達成してるからなあ。じゃあ、どうしようかな・・・・・・」
男はちょうど半分ほど来たところで立ち止まり考え込んだ。

「な、何なんだ、貴様はッ!」
そこで私はようやく声を出すことができた。はなはだ情けない話ではあるが。
「んん?僕かい?僕は・・・・・・なんだろうねえ?」
男は私の問いに少し困ったように頬を掻いた。
「何だよお前・・・・・・。お前がそれをやったのか?」
私は時計塔を指さした。男は振り返って時計塔を確認する素振りを見せる。
「あれは・・・・・・。僕・・・・・・ではない、ね。僕では」
「じゃあ、誰が・・・・・・」
私がもう一度尋ねようとしたとき、時計塔からもう一人男が出てきた。

†††