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詰みゲー! 3-36

†††3-36

「いや、大丈夫忘れてないわよ、うん」
傍から見ると明らかに嘘とわかるようなどもった口振りで、視線を逸らしてお嬢様が答える。
「本当か・・・・・・?」
半信半疑な視線がお嬢様に刺さる。

「お前たちは俺が襲うとは思わなかったのか?」
赤服が改めて問い直す。
「思わないわ」
「思わないね」
赤服の問いに私たちは二人して頭(かぶり)を振った。
「それはなぜだ?」
「「勘!」」
勘ですよね、うん、勘よ、と私とお嬢様と頷き合った。
赤服は完全に呆れ返っている様子だ。
「だって、あんた全然本気出してこなかったし。それに、」
私の言葉を聞いてわずかに赤服の瞳が揺れたように見えた。
「あんたが悪い奴に見えなくなっちまったからさ」

†††
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詰みゲー! 3-34

†††3-34

時間が一瞬、停まったように感じた。
「お、お嬢様?」
私の口からおろおろと慌てた声が出る。
このとき、私はほぼ完全に赤服の存在を失念してしまっていたが、幸運にも彼は攻撃してこなかった。
「離して下さい。一人で立てますから。・・・・・・あなたは、」
お嬢様は立ち上がり、赤服を見て動きを止めた。
「敵ですね」
お嬢様のその言葉に赤服の目がやや細く険しくなった。

†††3-35

「・・・・・・どうしてそう思うんだ?」
赤服が静かに問いかける。
「勘ですよ、ただの」
お嬢様はにこっ、と『敵』に笑いかける。
「勘で他人を敵と断定するのか、お前は?」
「私の勘は当たるのよ?」
ふわふわとした笑みを浮かべてお嬢様は応える。
しかし、その表情は私が今までに見てきたお嬢様のどんな表情とも違っていた。
「記憶が無いんだろう?なぜそんなことがわかる?」
「それも勘よ♪」
「ちょ、ちょっと待った!」
どうした、という顔で二人はこちらを見る。
いや、信じられないのはこっちだ。
「き、記憶が無い・・・・・・?お嬢様のか?」
「あら、お嬢様っていうのは私のことかしら?」
お嬢様がふふっ、と嬉しそうに笑う。
赤服がやや呆れたように説明する。
「・・・・・・さっき、こいつは明らかにお前のことがわかっていなかっただろう。なら記憶の欠損は自明。程度はわからないが・・・・・・」
「そういうことよ」
お嬢様がにこにこと赤服の説明を裏付ける。
「そんな・・・・・・」
がっくりと崩れるように落ち込む私にお嬢様は駆け寄り、私の頬をむにっ、と引っ張った。
痛いですよ!と抗議する私を見てお嬢様はからからと思いっきり笑った。
「あなたが落ち込むことは無いわよ。これは私の問題。そして、私は別に困ってない。なら問題ないじゃない?」
「いやいやいや、おかしいおかしい。記憶喪失は当人だけの問題じゃないんですよ。だから・・・・・・」
「あーはいはい。わかった、わかりましたよー。早く思い出すよう努力しますー!」
「お願いしますよ」

「お前たち・・・・・・」
ん、とお嬢様と私は発言した赤服の方を見た。
「俺のこと忘れてただろう?」

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北の海の魔女 90

†††90

「ふふふ、君があんなことを考えていたなんてね」
地面に落ちていた木の枝をリズミカルに振りながら、ホルトゥンが笑う。
「正直以外だったかな・・・・・・。君は僕にも全部話してくれなかったし」
魔法使いはやや非難の色を込めた口調で言う。
「悪かったね。君は宮廷魔法使いだったし、あるいは僕の敵になるかもしれない、と思ったんだよ」
少年は素直に申し訳なさそうに謝った。
「信用無いなあ。王様が僕に命じた言葉を忘れたのかい?」
「えっと・・・・・・、僕に協力しろ、だっけ?」
「『おぬしをその子に付けることにしよう』って命じられたんだよ。僕は今宮廷付きじゃあない」
ホルトゥンはそこでビシッと少年を指さして断言した。
「君に付いているのさ!」


・・・・・・このときのホルトゥンがちょっとカッコよかったので鳥肌が立ってしまった、というのは少年だけの秘密。

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北の海の魔女 89

†††89

「・・・・・・そうか」
少年の叫びを聞いても大人二人は涙することは無かった。
グルップリーは冷静な目のままで少年の論理を評価し、ホルトゥンは無表情で少年の顔をただじっと見つめていた。
「お前の言いたいことはわかった。お前の目的は飽くまでも戦争の阻止であって西の国には敵意が無い、ということだな」
西の国の魔法使いは淡々と確認する。
そうだよ、と少年はうなずく。
「では西の国はどうやって阻む?まだその説明がまだだが?」
「西の国を阻むには協力してくれる人が・・・・・・あなたが必要なんだよ」
「・・・・・・それは俺が協力すると言うまで教えられない、という意味か」
「そういうこと」
やれやれ参ったな、とグルップリーは頭を掻き、どっかりと地べたに座り込んだ。
そのまま口に手を当て、うつむき、考え込んだ。
二万人の命を一手に握っているのだから時間もかかるだろう、と少年はその場を離れることにした。
するとホルトゥンも同じことを考えたのか立ち上がり、少年の所へやってきた。
「ちょっと話さないか?」

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詰みゲー! 3-33

†††3-33

「あんた・・・・・・、ひょっとして殺したくなかったのか・・・・・・?」
半信半疑で尋ねると、赤服は一度視線を落とし、また持ち上げてこちらを向いた。
「・・・・・・必要であれば誰であろうと殺す。俺はそういう存在だからな」
答えになってないぞ、と言おうとしたその時、
「ん、んん・・・・・・。ん?」
私の腕の中でお嬢様が動いた。
「お嬢様!気が付かれましたか!?大丈夫ですか?どこか、」
「あなたは、」
お嬢様はぼんやりとした表情で私の頬を撫でながら、私の言葉を遮った。
「だぁれ?」

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詰みゲー! 3-32

†††3-32

「お、とうさ、ま・・・・・・?」
お嬢様が再び吸い寄せられるように足を出した。足下でバラまかれた煉瓦がかすかに音を立てる。
私がお嬢様へようやく追いついたそのとき、
「いやあああああああああああぁぁぁぁっ!!」
お嬢様はいきなり絶叫すると、その場に崩れ込んだ。
私がすんでのところでお嬢様を抱えこんだ。おかげで怪我は無かったが、どうやら、気絶しているようだ。
「お嬢様・・・・・・?」
私は顔を上げてお嬢様が見ていた時計塔の部屋の中を見た。
「・・・・・・ッ!旦那様!」
旦那様、お嬢様のお父上が無惨な姿で横たわっていた。

「・・・・・・あれが小娘の父親なのか?」
いつの間にか背後に立っていた赤服が尋ねる。
しばらく私の返答を待っていたようだったが、こちらが無言でいると、頼んでもいないのに話し始めた。
「彼は一筋縄ではいかない男だったよ。父上の要求に頑として首を縦に振らなかった。町民を危険にさらせない、と言っていた・・・・・・。最後は自爆に近い強力な魔術を使って俺たちを殺そうとしたんだ」
赤服が淡々とした口調で独白をした。
私は赤服が言った内容と口調に驚いて彼の表情を確認した。
やはり感情のない表情だったが、その目はどこか後悔しているような鈍い光を帯びていた。
まるで、殺したくなかった、とでも言いたげに。

†††

詰みゲー! 3-31

†††3-31

「え・・・・・・?」
お嬢様が小さな声を出して吸い寄せられるように一歩、時計塔に近づく。
「お嬢様っ・・・・・・!」
私はお嬢様を止めなければならない、と感じてその手をつかもうとしたが間に合わなかった。
お嬢様は時計塔に向かって一目散に走り出していた。
私は赤服を目の前にして少し迷ってしまった。
「行けよ」
赤服がお嬢様を無表情で指さす。

煉瓦が通り一面にばらまかれ、時計塔の中の一室が見えた。
その様は臓物をぶちまけた人間の腹の中のようにも見えた。
その前でお嬢様は立ち止まった。
そして中にある何かを私がたどり着くまでの間、見つめていた。

†††