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北の海の魔女 105

†††105

東の国の城内の議堂にて。大勢の臣下たちが長机を囲んでなにやら話し合っている。

「・・・・・・さっき捕虜軍から使者が来た。どうも和睦を求めているようだ」
「はぁ!?」
「一体どういうことだ?」
「わからん。もう何がなんだか・・・・・・」
「・・・・・・だがまあ、これに乗らない手はあるまい。城に籠もっている分にはともかく、隙を突かれれば破られかねん」
「臆しすぎでは?籠もっている分には問題ないのだろう?」
「いや、連中の中にホルトゥンと件の少年がいることを忘れてはいかん。二万の軍を無傷で手中におさめたことを考えれば・・・・・・」
「だが連中は西の軍に捕らえられたのではなかったのか?」
「いやいや、それは仮定に過ぎない。ありとあらゆる可能性を考えた方がいい」
「連中も与している可能性、か?」
「ところで、密偵は入り込めたのか?」
「はい。ですが一般兵は何も知らないらしく・・・・・・」
「情報は無いと?」
「はい」
「待て。一般兵は知らない、とはどういうことだ。自分たちがなぜ首都の目前で停止している理由も知らないと言うのか?」
「そのようです」
「それは・・・・・・」
「妙な話だな」
「ああ」
「妙だ」
「単純に西の国の将軍が兵を操っているのなら一般兵に進軍の理由を隠す必要は無い。今後、首都を攻めるのなら大っぴらに宣言し、士気の高揚に努めるべき。とすれば・・・・・・」
「あの二人が・・・・・・」
「黒幕だな」

そのとき、議堂の扉が開いた。一人の兵が伝令を伝えに来たのだ。

「申し上げます!ただいま、西門にて例の軍より使者が参り、入門の許可を請うております。いかがなさいますか?」
「・・・・・・決して通すな!よいか、何人たりとも決して通してはならん。誰がやって来て何を言おうとも私が責任を取る、通すな。・・・・・・城門の守備兵全員に伝えよ。我々に確認無く城門を開けた者は厳罰に処すとな」
「はっ」

伝令兵はその返答を聞き、西門へと戻っていった。

「なにゆえ通してやらないのですか?こちらにとって現状は憂慮すべき事態。打開策が見つかるやもしれぬというのに」
「たわけ。先ほどの話を聞いていなかったのか?ほぼ確実にホルトゥンは我々の敵だ。ヤツの侵入はなんとしても防がねばならん。『盾』があると言っても、数は多くない。城内の兵全員を『幻影』から防ぐには足らんのだ」
「例えばヤツが城内に入り込み、城門を守備する兵などがホルトゥンにはめられれば、一巻の終わりだ。城門は開き、外の二万の軍勢は一気呵成に攻め込んでくるだろう。つまりヤツに侵入されてはならんのだ」
「どうすれば侵入を防げると・・・・・・?」
「ヤツの魔法は所詮幻術に過ぎない。物理的な事柄はどうにもできないのだ。今のように『決して城門を開けるな』と伝令すれば、ヤツは城門で立ち往生するしかない」
「ふーむ、なるほど・・・・・・」
「いや!それでも不十分だ。閂番主と門番主の最低でも二人に『盾』を与えねばならん」
「なぜだ?」
「門番が『我々の許可を得た』と錯覚した場合、閂番が門番の命令で門を開けることが可能だ。逆に閂番が『門を開けろと命令された』と錯覚した場合も同じだ」
「なるほど・・・・・・。誰かおらぬか!」
「はっ。ここに」

守備兵の一人が部屋のドアを開ける。

「人を遣って今すぐ門番主と閂番主に『盾』を与えよ」
「了解しました」

守備兵は部屋から退出し、直後に別の誰かに命令する声が聞こえてきた。命令をまっとうしたようだ。

「さぁて、どうなることか・・・・・・」


*閂番主と門番主という役職を出しましたが、こんな役職が実際にあるのかは不明です。この世界にはあります(笑)。なお、読み方は想像にお任せします。
ちなみに閂番が門を実際に開ける人で門番は門の開閉の命令を下す人、です。


†††
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北の海の魔女 104

†††104

ホルトゥンたちは捕虜軍が首都に着く前日に捕虜軍と合流した。

「将軍さん、出番だ。今から来る三人の中に将校が一人いるはずだから、その人を手厚くもてなしてくれ」
「・・・・・・了解、リーダー」

ヒゲ面の将軍は自らの半分の背丈ほどの少年に対して不服そうに返事をしてテントから出ると、高笑いをして向かってきていた三人を迎えた。

「ははははは!遠路はるばるご苦労であった!ホルトゥン!グルップリー!」
「「はっ!」」
「貴公はチョコ少将ではないか?貴公が陛下の命を賜ったのか?」
「いかにも」
「して、いかに?」
「和睦せよと」
「よし!」

ヒゲ将軍はやや大げさに手を叩いて見せた。だが、これはこれでごく自然な演技だった。元々こういう大げさな身振りが好きな人なのだろう。

「やはりな!陛下は大局を見ておられる!東が和睦をしたいと申し出てきたのなら乗るべきなのだ!」

もちろん東の国は和睦など申し出ていない。大ウソである。
しかし、これも少年がつくように指示していたことであった。
ちなみに和睦に乗るべき、というのは両国の確執を抜きにして、単純に利益のみを求めるのならば和睦は最前、と言う意味である。
西の国でも硬派軟派の意見が完全にまとまってはいるわけではないのだ。

「さあさあ、陛下の名代は体を休めなくては。あちらに客殿を設けた。旅の疲れを休めてくれ」
「感謝する。して、和睦はいつ結ぶ?」
「明日、午の刻に」 
「よし。では休ませてもらうとしよう」

ヒゲ将軍は部下を呼び、チョコ将軍を客殿へと案内させた。
そして彼の姿が見えなくなると悲しげに頭を振り、目の前のホルトゥンとグルップリーを睨みつけたが、しばらくして何も言わずに自らのテントへ戻っていった。

†††

北の海の魔女 103

†††103

『幻影』がかかっている中、グルップリーが『現実』で声をかける。
(早く城を出よう。ここにもそこそこの魔法使いはいるんだ。そいつらとハチ合わせしたらやばいぞ)
(大丈夫だ。僕の『幻影』はその気になれば通路一本分程度なら十分射程内だよ)

運よく三人は魔法使いと出会うことなく城から抜け出すことに成功した。もっともチョコ少将は何もわかってはいないが。


「チョコ少将、申し訳ありませんが少し宿に寄ります。荷物を取らねばならないので」
「かまわん」

もちろん荷物を取るというのは嘘である。本当はここまでグルップリーが担いできた大将をここで置いていくのが目的である。
そのためだけに二人は入城する前に宿をとっていた。

(さっさと済ませよう。城の連中が大将がいなくなったのに気づくのも時間の問題だ)
(ああ)

宿屋の主人にあいさつをし、預けていた鍵を受け取る。その鍵で部屋に入り、『幻影』の中でホルトゥンとグルップリーは置いてあった<荷物>を手に取った。『現実』では背負っていた大将を下ろし、縛っている縄、猿ぐつわを確認し、目立たないようにクローゼットの中に放り込んで戸を閉めた。

(これでこいつが見つかるのは当分先だな)
(後は私たちが逃げればいいだけだ)

「お待たせして申し訳ありませんでした、少将。・・・・・・参りましょう」

†††

北の海の魔女 102

†††102

ホルトゥンが『幻影』を再発動し、偽の<大将>を作る。
<大将>が外に向かって叫んだ。

<誰かいないか!>
すぐにやってきた警備兵に<大将>が命令を与える。

<将校を一人呼んでこい!>
「では、チョコ少将を呼んで参ります」
「うむ」

<大将>は満足げにうなずいた。



「お呼びですか、閣下」
ものの数分でチョコ少将が大将の部屋へやってきた。

<おぬし、これからこの者らに付いて行き、和平の使者となれ>
「は、・・・・・・。わ、へいの使者、でありますか」
<そうだ。陛下の密命が下った。この戦は中止じゃ>
「なるほど・・・・・・。了解であります!」
<よいな、おぬしは陛下の代理で行くのだ。冷静かつ的確に判断せよ。道中では何があっても漏らしてはならん>
「もちろんです、閣下。命に代えて口外しません」
<よし、ならば行け。・・・・・・ああ、それとワシは今から今後のことを集中して考えるから許可するまで誰も通すな、声もかけるなと警備兵に伝えてくれ>

ホルトゥンとグルップリーと士官は<大将>に敬礼し部屋を出た。
しかし、現実では大将も部屋を出ているのである。縛られてグルップリーに担がれているのである。

「大将が許可するまで誰も通してはならない。声もかけるな」
「はっ」
「ではよろしく頼むぞ」

†††

北の海の魔女 101

†††101

ホルトゥンは『幻影』を使用していなかった。グルップリーは敵とは言っても、数日の間一緒に旅をした仲だということがあって、信頼していたからだ。

「こやつは東の国の宮廷魔法使いです」
「なにっ!?」
「・・・・・・」

グルップリーの言葉に大将は驚いたが、ホルトゥンはただ黙っているだけだった。
驚いて未だ声の出ない大将の前にグルップリーが進み出る。

「大将、奴の魔法は危険です。奴と戦うのではなく、説き伏せて王の臣下とするのがよいかと」
「む・・・・・・。なるほど、心得た」

大将はしばらく豊かな髭を撫でて考えていたが、すぐにグルップリーの進言を聞き入れ、ホルトゥンの正面に立った。

「そなた、名は何という?」
「ホルトゥンと言う」
「ホルトゥンよ、西の国の臣下となれ。待遇は保証しよう」
「あんたたちに降(くだ)るつもりはない」
「降るのではない。仕えるのだ、我らが王に」
「同じことだ。裏切ることに代わりはない」
「何が望みなのだ?言ってみるがよい?」
「あんたたちに叶えられる望みなど、無い」
「ふむ、そうか。では、具体的に挙げていくとしよう。気に入るものがあるかもしれないからな。有り余るほどの金はどうだ?生涯、衣食住に困らない生活も約束するぞ?」
「要らない」
「この国の官職をやろう。つまりは、権力だ。欲しかろう?」
「欲しくない」
「では・・・・・・、王に頼んでお前に城と領地を、」
「くどい。例えあんたが金銀財宝を約束しようが、権力を与えようが、領土を分け、国をよこそうが、私の心は揺るがない。私は決してあの子を裏切らない。私の望みは・・・・・・、」
「・・・・・・おい!だれか、」
「《幻影(ファントム)》」

ホルトゥンの決意を見た大将はホルトゥンの言を待つことなく、大声をあげて、衛兵を呼ぼうとした。
しかし、そんな大将、さらにグルップリーに対してホルトゥンは先手を打った。
グルップリーと大将に『幻影』で「海で溺れる幻覚」を見せたのだ。
実際に溺れることはないが、少なくとも数秒間は沈黙させられることをホルトゥンは知っていた。
ホルトゥンは懐から小さな布切れを取り出し、大将とグルップリーの口に無理矢理突っ込んだ。これでもう声を出すことはできない。
ついでにグルップリーを無力化するために三重の『幻影』で別々に視界を回転させた。
要はタ●ムショックのアレみたいな感じだ。アレの三倍だと思えばいい。
これでグルップリーは完全に「今どちらを向いているか」を見失った。つまりはグルップリーにホルトゥンを攻撃することはできなくなったのだ。

「・・・・・・」
「ふー、ふーっ・・・・・・!」
「・・・・・・」

ホルトゥンは黙ったまま無表情で目の前の二人を眺めた。二人とも大回転のせいで床に手をついて四つん這いになっていた。
大将はほとんど床に倒れ込みそうになりながらも怒気を含んだ荒い息を吐き、血走った目でホルトゥンを睨んでいた。
グルップリーはただ静かな目でホルトゥンを見ていた。
ホルトゥンは『幻影』で剣を大将の首に突きつけ、二三の言葉を囁いて縄で拘束することに成功した。
グルップリーはただ黙ってそれを見ていた。

大将の拘束が終わった頃にグルップリーは完全に回復し、猿ぐつわを自らの手で取った。

「・・・・・・やはりこうなったか」
「グルップリー、君も物好きな奴だ。こうなると知っててやるんだからな」
「私は西の臣下だ・・・・・・。このくらいはやっておかないと示しがつかない。それにこれは君のせいでもある」
「僕の?」
「ああ。常に私に『幻影』をかけておかないからこうなる」
「ったく・・・・・・。これからは素直に手伝ってくれよ?さもないと、『幻影』で君は裏切り者だ、ってここの連中に吹き込むからな」
「よく言うぜ。もうここは私の帰れる場所じゃない。私は現に裏切ったんだからな」
「そうかい。じゃあ、さっさと仕事を片づけますか」
「ああ」

†††

北の海の魔女 100

祝100話!!
これからもガリガリ行くぜ!


†††100


「大将、アヴィンの関を攻略している軍から使者が来ております」
「二万の兵を与えたところだな?よろしい、通せ」
「御意」

大将の許可を得てグルップリーとホルトゥンが大将の部屋へ入る。
ホルトゥンはあらかじめ西の国の兵隊に鎧を借りていた。

「伝令をお持ちしました。お人払いを」
「なに?・・・・・・いいだろう。下がれ」

大将が部屋にいた数人の兵と付き人に手を振る。

「人払いは済んだ。申せ」
「はい。まず、アヴィンの関にて我が軍は敵の手中に落ちました」
「な、なに・・・・・・?なんだと・・・・・・?」

大将が頭を抱えて崩れるように椅子に座り込んだ。

「・・・・・・アヴィンの関が攻略困難とは知っていたが、手に落ちただと!?捕虜になったという意味か!」
「はい。二万の兵、全てが」
「なんだと!?」

大将はいきなり大声を上げて顔を二人に向けた。

「では貴様はなんなのだ、ああ!?全員が捕虜になったというのなら貴様がここにいるのはおかしいであろうが。貴様、軍に属し禄を食(は)む身でありながら軍を見限ったのか!」
「いえ、そうではありません。私は敵の懐に入り込み、機を待っていたのです」
「機だと?」
「はい」

(まさか・・・・・・!!)
ホルトゥンは戦慄し、その肌は粟だった。
グルップリーが傍らに立つホルトゥンを指さす。

「こやつは東の国の宮廷魔法使いです」

†††

北の海の魔女 99

†††99

捕虜軍が首都前で停止する四日前。

「着いたぞ、ホルトゥン。西の国だ」
「やっとか。遠かったな」

グルップリーとホルトゥンは数十騎の騎兵とともに西の国の首都の前に到着した。
町が見え始めてホルトゥンは再び思案する。二日ほど前から考えていたことだ。

(ここまでグルップリーに特に怪しい動きは無かった・・・・・・。途中から『幻影』を解いて来たが、この先はどうするか・・・・・・)

『幻影』の魔法は長時間持続させることは可能だがさすがに数日間かけ続けるのは難しく、発動と解除のタイミングにホルトゥンはかなり神経を使っていた。

「ホルトゥン」
「なんだ?」
「宿を取っておいた方がいいな」
「宿?我々にそんなヒマは無いぞ?」
「僕らが泊まるんじゃないよ。・・・・・・まあ、とにかく誰かに町の入り口近くに宿を取らせよう。多めに五日ほどの宿泊代金を払えばいいかな」
「・・・・・・ああ、なるほど。そういうワケか。確かに取っておく必要があるな」
「そうだろう」

(・・・・・・危なかった。ほとんど致命的なミスだった。・・・・・・この先彼に『幻影』をかけ続けるべきか・・・・・・。グルップリーにも『幻影』をかけるとなると最低でも三重か四重は『幻影』を重複して使用しなければならない。確かに可能だが、長時間使っていればどこかでボロを出してしまうだろう・・・・・・。どうしたものか・・・・・・)

ホルトゥンに残された思案の時間はもうあまり残ってはいなかった。

†††

北の海の魔女 98

†††98

捕虜軍の行進が首都前で停止した直後、その報を受けた東の国の臣下たちは混乱していた。
城の中のある一室において、戦場に赴かず首都に残っていた文官、武官は一堂に会し、長机を囲んで対策を練っていた。

「どういうことだ!なぜあの軍はあそこで止まった!?率いているのは誰なのだ!?」
「例の少年ですよ」
「例の・・・・・・?ああ、『幻影』を連れてアヴィンに行ったガキか」
「ガキだなどと侮ってはいけません。彼は少なくともアヴィンの関で二万の軍勢を『幻影』と二人で一晩のうちに完全に制圧した張本人なのですよ」
「それは報告が正しければ、の話だ。少年が西の国を手引きしたということも考えうる」
「問題は正にそこだ。小僧は敵なのか、味方なのか・・・・・・。早急に、かつ見誤ることなく、判断せねばならない」
「彼の出身は?割れてるのか?」
「辺境の村だそうだ。詳しくはまだわからんが、西の国とつながってはいなさそうだ。妹の件も本当のようだ。もっとも、目撃者はいないそうだが」
「妹・・・・・・?」
「忘れたのか?あの子の妹は北の海の魔女にさらわれたのだ。だから・・・・・・」
「ああ、思い出した。だから旅をしているのだったな」
「本題からずれてるぞ。で、奴はシロか?」
「少なくとも村を出るまではシロなんじゃないか?」
「うーむ・・・・・・。いや、その判断は早いが・・・・・・、やはり決め手が無いな・・・・・・」
「判断できないと?」
「あの・・・・・・、彼は子供ですよ?どう考えてもクロってことは・・・・・・」
「普通、子供ってヤツは無垢で、単純で、頭が悪く、感情も上手く殺せない。スパイなんてとうてい無理・・・・・・と思われているがな。子供の中にも切れ者はいる。この小僧にしたってそうだ。あの報告が正しくても正しくなくても、この小僧は恐ろしく頭が切れる。怖いほどにな」
「・・・・・・今、首都にある戦力は?」
「首都にいる兵で捕虜軍を討つ気か?残念ながらそれは厳しい。首都に残した兵はあれの四分の一に満たんよ。他は皆戦地だ」
「五千ほどか・・・・・・。上手くやればいけるんじゃないか?」
「何をバカなことを。この辺りは丸ごと平野だぞ。山や谷が隣接しているならともかく、奇襲は不可能だ。夜に上手く紛れたとしても追いつめられなければ効果は小さい。余程に上手い作戦と連携が必要だ。難しすぎる。守りに徹するしても虚を突かれれば負ける。この城の弱点が知れれば一気に攻め込まれよう」
「城外へは出ずに守りに徹し交戦も避ける、か・・・・・・。排除は本当にできないのか?」
「『幻影』以外の宮廷魔法使いは・・・・・・、いるわけがないか。皆戦地だな。排除は難しかろう。」
「ところで使者は送ったのか?送っていないでは話にならないぞ」
「それなら先ほど連絡があった。『用があればこちらから使者を送る。そちらは妙な動きを見せないことよう』・・・・・・だそうだ」
「使者は誰からその言葉を受け取ったのだ?」
「いや、使者は捕虜軍の陣営に入ることはできなかった」
「どういうことだ?」
「入り口で拒否されたのだ。しかし、返事は文として受け取ることができた」
「それでのこのこ帰ってきたと?間抜けなヤツだな」
「まあ。そう言ってやるな。奴はよくやったよ」
「なぜ姿を見せなかったのだろう?」
「捕虜軍の指揮官か?」
「指揮官か・・・・・・。本当にあの子が軍を停止させたのだろうか。もう、指揮権は他に移っているのではないか?」
「ホルトゥンが指揮を執っていると?」
「そうではない。西の国の将校のことを言っているのだろう。小僧と『幻影』がどのように指揮権を奪ったにせよ、西の国が指揮権を取り戻した、というのはあり得ない話ではない」
「なるほど。西の国が指揮権を・・・・・・。それなら話が合いそうだ」
「捕虜軍の指揮権は二人が握っていたが、首都を目前にして、西の国が指揮権を取り戻した」
「指揮権を取り戻した軍は首都を目の前にしてこちらの戦力を計りかねているんだ。だから、動けない。下手をすれば全滅だからな。せっかく、首都の懐に刃を突きつけることができたのに」
「だとすれば待機は必須だな。我々の戦力を見極め、援軍を呼び寄せる時間を稼いでいるのか」
「援軍は呼んだか?外回りから展開しているところから五万ほど戻してはどうだ?」
「その手は無かろう。援軍は各地から呼んである。だが、なにせ遠いからな、時間がかかる。他の戦地も似たようなものだ。最短で三日はかかる」
「三日!西の国の援軍の方はどうだ?」
「無論、連中の方がやや遅い。距離だけでなく、我々がただでは通さんからな」
「では問題は『三日間如何に首都の戦力を隠し通すか』、だな」
長机を囲む臣下たちが皆一様にうなづき合う。同意がなされたようだ。

†††

北の海の魔女 97

†††97

少年が西の国の魔法使いに作戦の説明をしたおよそ一週間後、少年とホルトゥンに乗っ取られていた西の国の一軍は少年が語ったとおりに東の国の首都の目と鼻の先に陣取っていた。

「なんだアレは!あの軍は小僧とホルトゥンが制圧したのではなかったのか!?」
東の国の王がこめかみに青筋を立てて怒鳴り声をまき散らす。
「はっ!報告ではその通りになっております」
「ではなぜ軍があの位置で停止しているのだ!おかしいではないか!」
一軍を丸ごと捕らえた、という報告がアヴィンからもたらされたのが数日前。捕虜として留める場所が無いので残りは首都に護送したい、というやや投げやりな文が届き、上層部は大混乱であった。文には既に捕虜二万人は出発したとあり、断ることはできない。戦後処理のためにも捕虜をないがしろにするのは極力避けたいところであった。
いきなりの要求だったが、数日のうちに首都以外にも津々浦々、数々の収容所に手配を済ませ、二万の席を確保した首都の役人達はこの物語において主人公達とは別の意味で最も苦労した人たちであろう。

しかし、彼らの努力は徒労に終わる。
首都までやってきた捕虜の群れは首都に入ることなく、停止したのだ。
役所に悲痛な叫び声が上がったことは言うまでもない。

†††

北の海の魔女 96

†††96

「・・・・・・うまくいったな」
「ふぅ~・・・・・・。緊張した。あのおっさん怖いよ、顔が。君とは大違いだよ」
「おお、ほめてくれるのかい?」
「うん。君に迫力が無くてよかった」
「ああ・・・・・・。そうかい、そりゃよかった・・・・・・。それにしたって、あんな嘘でよく引っかけられたな」
「魔法についてよく知らなかったんだろうさ。僕もぜんぜん知らないし」
「そーねえ・・・・・・。知らない人が多いね。まあ、あんな魔法が存在しないとしても、それを証明するのは至難の業だ。看破はできなかっただろうさ」
「誓約魔法か・・・・・・。無いの本当に?」
「さあ?どっかにはあるんじゃないの?僕は知らないし使えないけど」
「テキトーだなあ・・・・・・」
「このくらいがちょうどいいよ、僕には」
「はいはい、わかったよ。・・・・・・さて、次はグルップリーだね」
「えっと僕も行くんだよね?」
「そう。彼が言葉で何と言おうと、僕らは彼を信用できない。信用してはならない」
「悲しい話だね・・・・・・」
「それが戦だよ。・・・・・・とにかく、君は彼と一緒に西の国に行って交渉を成功させてほしい」
「オッケー」
「もしもグルップリーに攻撃されそうになったら・・・・・・」
「わかってるよ。先に何重もの『幻影』を使うんだろ?」
「そう。最初にグルップリーをハメた時みたいに『幻影を現実だと思いこませる』んだ。そうすればグルップリーは攻撃しているつもりでも本当は何もしていない、という状況になる」
「あれけっこう神経使うんだよね」
「泣き言言わない。これが終わったら・・・・・・なにかしてあげるよ」
「おお、ありがたいお言葉。期待せずに待っとくよ」


一時間後、ホルトゥンとグルップリーと十数人の兵たちは西の国へ向けて出発した。

†††