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詰みゲー! 4-17

†††4-17

「うう、寒い寒い・・・・・・」

その日の夜、ジョンは用を足すために屋敷の中をうろついていた。

「トイレは洋式がいいんだけどなあ・・・・・・。こっちじゃあ無理か・・・・・・」

現代っ子なジョンはこっちの世界では到底不可能なことをぼやいては寝ぼけ眼をこすりつつ、自分の部屋へ戻っていく。しかし、途中で中庭の戸が少し開いていることに気づいた。

(道理で寒いわけだ・・・・・・。なんで開いてるんだ?)

扉を開けて中をのぞくと、奥のベンチにミリアが座っているのが見えた。普段と違うミリアの様子に疑問を抱きつつもジョンはそそくさとトイレへと向かった。


(ふー・・・・・・、スッキリ!)

数分後、ジョンがトイレを済ませて部屋へ戻っていく。するとやはり中庭の扉は開いていた。
まさか、と思って庭をのぞいてみると案の定、ミリアはまだベンチに座ってぼうっとした顔をしていた。



「・・・・・・何してるんだ。こんな夜中に。風邪ひくぞ」

歩いて近づいてくるジョンにミリアが気づいた。ミリアは慌てるでもなく、淡々とした声で返事をした。

「・・・・・・ジョン?何しに来たの?」
「お前が独り寂しくベンチに座ってるからだろ。座るぞ」

ジョンがベンチに近づくとミリアは少し横にずれた。ジョンがそのスペースに座る。
ミリアはピンクのふわふわした寝間着を着ていた。髪もいつものようなカールはかかっておらず、ストレートに近かった。ミリアの隣は少しだけいい匂いが漂っていた。

「風呂上がりか?風邪引くぞ、本当に」
「平気よ。・・・・・・へ、へっくちゅん」
「ふっ・・・・・・」

ミリアの予想外にかわいいくしゃみにジョンは笑いだしそうになるのをこらえられなかった。

「・・・・・・なに笑ってんのよ」
「くっくっく・・・・・・、悪い悪い。ほら、これ着ろよ。少しはマシだろ」
「む・・・・・・。ありがとう」

ジョンが着ていた羽織を差し出すとミリアは案外素直に受け取った。やはり寒かったのだろう。

「・・・・・・で、何してたんだよ?」
「・・・・・・花を見てたのよ」
「花ぁ?」
「他に何があるってのよ」

突き放すようなミリアの言葉にジョンは苦笑いする。実は独りで座っていたミリアが心配だったのだが、それが取り越し苦労だとわかったからだ。

「ったく・・・・・・。でもここの花、きれいだよな。なんかホッとする」
「ロベルトの趣味らしいわ。毎日欠かさず世話をしていたそうよ。最近はシャープと分担してるらしいけど」
「マメだなあ」
「この花だけどね。イーストリアの、東の大陸の花が多いのよ。彼の生まれ育った所がイーストリアだったからでしょうね」
「へえ。俺、こっちの花好きだな。日本の花によく似てる」
「ニホン?」
「俺の故郷の国だよ。和ってわかるか?和」
「ワ?なにそれ?」
「説明しろって言われると難しいな・・・・・・。奥ゆかしさ、かな?そういうものをここの花にも感じるんだよ」
「ふうん。ワ、ねえ。まあ、わからなくもないわ。あたし、派手な花はあんまり好きになれない。なにか作りものみたいに見えて・・・・・・。作りものなんかよりもそのまま生きている花が好きよ」
「へえ・・・・・・」

そういえばミリアとこんな話をするのは初めてじゃないか、とジョンは思った。

「花か・・・・・・。あいつとも・・・・・・」
花蓮ともよくそんな話をした、と言いそうになってジョンは直前でやめた。
そのことにジョン自身が驚いていた。

なぜ?どうして花蓮の話をしちゃいけないと思ったんだ?どうして・・・・・・?

「ジョン?」
「・・・・・・いや、何でもない。花蓮ともこんな話をしたなあって・・・・・・」
「へえ。彼女はどんな花が好きだったの?」
「あいつは確かひまわりが好きだったな。生命力のカタマリみたいだからって言ってた。まさにあいつの象徴だな」
「ひまわりかあ。どこかにあったんじゃないかしら?」
「ホントか?」
「確かあっちじゃないかしら。探してみましょうよ」
「いや、いいよいいよ」
「いいから早く行くわよ」
「・・・・・・わかったよ。袖を引っ張らないでくれ」

ジョンはしぶしぶといった様子でミリアについていった。

†††

詰みゲー! 4-16

†††4-16

昼過ぎにミリアとロベルトが戻ってきた。ミリアはいつもの魔女のような出で立ちであり、彼女のとんがり帽にはやはり小さな猫が乗っかっていた。
さらにミリアは両腕で抱えるように荷物を持っていた。
玄関ホールに出迎えにきたジョンにキティが甲高い声を上げる。

<ジョン、ひどいよ!僕を置いていくなんて!>
「来たのかよ、キティ」
<なにぃ、ジョンのくせに!>
「キティのくせに!」

いーっと歯をむき出してキティを威嚇するジョンをミリアが睨む。ジョンがその迫力にたじろいでいると玄関ホールにベンが現れた。

「おお、帰ってきたのか、ミリア、ロベルト。・・・・・・しかしすごい荷物だな」
「ただいま、兄さん」
「ただいま戻りました、ベンジャミン中尉」
<ベンもひどいよ!僕を置いていくなんて!>
「はっはっは、悪かったよ、キティ。こんなに長くなるとは思ってなかったんだよ」

飛び込んできたキティをベンが抱き止めてぐるぐる回る。ベンとキティはかなり仲がいいようだ。

「帰りが遅れてすみません。やあ、参った参った」
「えらく疲れたみたいだな。何があったんだよ、ロベルト」
「ええ、ジョン。今度『屋敷』へ来る客のことですがね、中佐に誰か聞いてみたんです。そうしたら・・・・・・」

***

「あれ?言ってなかったっけ?」
レイン・エストラルト中佐は個室の窓辺に置いた鉢植えに水をやりながら素っ頓狂な声を上げた。どうやら説明したと思いこんでいたようだ。

「ごめんごめん。王女だよ、王女。えっと、確か・・・・・・」
「クラリス姫です。お嬢様。クラリス第四王女」
「そう、そのクララさん」
「クラリスです、お嬢様」

中佐をオーレン大尉が援護する。この下りを飽きるほど見てきたロベルトだが、このときは心の中でツッコミをいれているどころではなかった。
王女が来る!という衝撃がロベルトの脳天を突き抜ける。
「大丈夫かロベルト小尉?」
「も、問題ありません」
「ふむ、そうか。・・・・・・王女は明日そちらへ行く。皆にも伝えておくように」
(明日ァ!?)

脳天からの衝撃が再びロベルトを襲うが、それを必死にこらえて彼は返事をした。

「り、了解しました」

***

「・・・・・・王女?」
「ジョン、あんた国王に会ったんでしょ?その娘よ。四女」
「クラリス姫がなぜここへ?」
「わかりません。前に聞いたのですが、理由は大尉たちも知らされていないようです。どうも王様の命令だそうで」
「王様の・・・・・・?」
「はい」
「目的は何だ・・・・・・?」
「さあ」
「・・・・・・・・・・・・まあ、いいさ。王女様が来ようが来まいが、私たちがやることは変わらない。ベン、そろそろ時間だ。シャープが待ってるぞ」
「ああ」

ジョンとベンは踵を返してシャープの待つ中庭へと向かった。

†††

詰みゲー! 回想編

†††

かんかんかん、かんかんかん。
かんかんかん、かんかんかん。

一人の女の子がボロっちいアパートの脇についている錆で赤茶色になった階段をリズミカルに駆け上っていく。
しかし、軽やかな足取りとは裏腹にその眉間には不機嫌そうにしわが寄っている。

(ったく、どうしてあたしがこんなこと・・・・・・。どうせ、サボってるだけの奴に・・・・・・)

不機嫌な彼女の足はアパートのある一室の前で止まった。


***


少女がアパートのボロ階段を上るおよそ一時間前。

「・・・・・・どうしてあたしに頼むんですか?」
「お前ん家、近いし」

職員室で少女は目の前の担任に面倒な仕事を押しつけられていた。それは「ある生徒の家にプリントを持って行く」というもの。
要は二日続けて欠席した生徒の自宅に寄り道する、というだけの話だ。相手が普通の生徒ならば何の問題は無い。
普通の生徒なら。

「どうして先生が、」
「職員会議があるからな。今日は行けないんだ」

少女は先生の表情を見て本当かなあと思ったが、その後も懇願し続けられて結局、折れた。担任が後日、飽きるほどかりんとうをくれるというのだ。乗るしかなかった。


***


少女は一旦家に帰ってから荷物を持って「仕事」に出かけた。
担任に手渡された手書きの地図によれば、「問題の生徒」の住むアパートはわりと近所だった。

数分後、少女の目の前には一軒のアパートが立っていた。
地図に記された名前と同じそのアパートを見つめる。
小さい。そしてボロい。
そのアパートの両脇には二つの立派なマンションが建っているのだが、それにあたかも押しつぶされそうになって、アパートは建っていた。見るからに日当たりは悪そうだ。

アパートは一階と二階とに分かれていて、二階に行くには錆びた階段を上らなくてはならなかった。
地図のメモ書きによると問題の生徒は二階に住んでいた。

問題の生徒。彼に関して、少女は悪い噂しか聞いたことがなかった。
中学では学校を牛耳る裏のボスだったとか、町に繰り出してチンピラ狩りしてるとか、他校の不良とグルになってバイクを乗り回したり、学校で火炎瓶を作っていた、という突飛なものもあった。
少女の高校は確かに素行の悪い生徒が多かったが、彼の噂は群を抜いていた。

(はーあ・・・・・・、やだなあ。噂ほどじゃないにしても、おっかない人だよ。ゼッタイ・・・・・・)

少女はやっぱりやめよう、と踵を返しかけた。が、脳裏にかりんとうがよぎり、彼女の足を引き留めた。

「ん、んん、んぎいいいいい・・・・・・!」

しばらくの間少女は葛藤、という人間特有の高度な精神状態にあった。
一分すると、少女はアパートに向き直った。かりんとうの勝利だった。


***


ぴんぽーん・・・・・・。
ぴんぽーん・・・・・・。

・・・・・・。
・・・・・・。

こんこん、こんこん。
・・・・・・こんこん、こんこん。

少女は二歩下がって、表札の「坂井」の文字を確認した。
合っている。
が、インターホンを鳴らそうが、ノックをしようが反応は無かった。
留守なのか、と少女が郵便受けにプリントを入れて立ち去ろうとしたとき、中からげほげほと苦しそうに咳をする音が聞こえた。

立ち去ろうとしていた少女の足が止まる。
少女は振り返って「問題の生徒」の部屋のドアをじっと見つめた。
もう咳の音はしなかった。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

少女はいきなりドアノブを引っつかみ、回してみた。
鍵はかかっていなかった。

「・・・・・・お邪魔します」

返事はなかった。
部屋に入ると、やはりボロっちい台所と、おそらくは居間に通じているであろうガラス戸があった。
台所のシンクには恐ろしい数の食器がたまっており、色々ととんでもないことになっていた。

(なんじゃこりゃ・・・・・・!)

少女は鼻をつまみ、顔をしかめつつ、台所を横切り、居間のガラス戸に手をかける。がたがたとうるさい音を立ててガラス戸は開いた。

「・・・・・・」

およそ想像通りの光景に少女が沈黙する。
台所のシンクばりにとっちらかった部屋の中、ゴミに囲まれて敷かれた布団に顔を赤くした少年が一人、眠っていた。
明らかに風邪かなにかで寝込んでいる少年の脇には、飲み物とか、水の入った袋とか、洗面器とかそういった類の物は一切無かった。
つまりおそらくはこの二日間、少年を看病する者はいなかったのだ。


***


ゆさゆさ、ゆさゆさ。
・・・・・・ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ。
・・・・・・・・・・・・ぱしん。

「・・・・・・ん?」

少年は頬に軽い痛みを覚えて目を覚まし、自分をのぞき込んでいる少女の存在に気づいた。

「・・・・・・誰だ?」

疑心が少年の瞳に浮かんでいた。少女はその目にやや動揺した。

「わ、私は同じクラスの、長谷川です」
「はせがわぁ・・・・・・?」

少年が上半身を起こし横目でじろりと少女を見る。

「・・・・・・何の用?」
「学校で配られたプリントを届けに」
「郵便受けに入れとけばよかったろ」
「入れたわ。そしたらあなたの咳が聞こえたのよ」
「だから?」
「だから・・・・・・お粥を作ったわ」
「お粥?」
「これよ。『スペシャル』なお粥よ」
「はぁ?スペシャル?」
「そうよ。おいしいんだから」

少女が床に置いた「スペシャル」なお粥を指さし胸を張る。少年は相変わらずの冷たい目で、胸を張る少女とスペシャルらしいお粥を見た。
少年は少女を横目で見ながらお粥を受け取り、スプーンで一口、二口と食べ始めた。

「どう?おいしい?ごめんね、スプーンしか見つからなくて……」
「……」

少女の問いかけにも答えることなく少年は黙々とお粥を食べ続けた。
少年は無言のままお粥を食べ終えると、スプーンを置いた。

「ありがとう、世話になった」
「いえいえ、お構いなく」
「いや、何か礼をさせてほしい」
「そんなこと急に言われても……」
「じゃあ、貸しだ」

冷たい目でお粥を見つめたままで少年はボソリと呟く。

「何かあったら力を貸そう。・・・・・・俺にできることなら、な」

少女と視線を合わせると少年はそう付け加えた。
少年の目は最初ほど冷たくなかったように、少女には思えた。


***


翌日、「例の少年」は無事に学校にやってきた。何か言われるかしらと少女は期待していたが、少年は彼女と目があってもほとんど反応を見せなかった。ただ、眉をぴくりと上げただけだった。

(なんなのよ、アイツ・・・・・・!)

眉を上げられた直後、少女は足取り荒々しく廊下を踏みしめて歩いていった。
まあ、そんなことが災いして。

・・・・・・どん。

少女は曲がり角で不良の集団にぶつかった。


***


「・・・・・・あん?」
「あ、あ・・・・・・」

少女はその場にへたりこんで自身の不運を呪った。

「・・・・・・なんだよお前。ぶつかったんなら謝れよ」
「す、すみません」
「痛いなァ・・・・・・。とりあえず、財布出せよ」
「おいおい、女相手だぜ?言葉を選べよ。・・・・・・金は持ってるかい、ベイビー?」

げひゃげひゃひゃと大声で笑う不良たちを見て、少女は本気で突っ込みを入れたくなったが自重した。

(仕方ないわね、財布を渡してやり過ごすしか・・・・・・)

少女がポケットを探るが、そこにあるはずの財布が無かった。
・・・・・・財布は家に忘れてきていた。

(私のばかーっ!!!)

少女は目の前で笑い転げる不良たちにおずおずと声をかける。

「あの、すみません、財布が、その、無いんですけど・・・・・・」
「「「「・・・・・・あ?」」」」
「いえ、その、ですから、たぶん、家に忘れて・・・・・・」
「へーえ・・・・・・、じゃあ、どんな方法で支払ってもらおうかな~・・・・・・?」
「え・・・・・・?」

ひひひひひ、と不良が気味の悪い笑みを浮かべる。
少女は背後でぺたぺたと誰かの足音が聞こえた気がした。
同時にぴたり、と不良の笑みが少しだけ凍り付いた気がした。後ろに気を取られている。振り返ると、「例の少年」が。
不良たちに対して怒りを露わにして立っていた!

・・・・・・ということはなく、ただトイレに行こうとしていただけだった。

「・・・・・・?」

少年は少女と目が合ったが、何してんの?、といった表情でトイレに入っていった。
しばらくしてトイレから少年が出てくるまで不良たちは物音も立てずにじっとしていた。

(アイツ、そんなに怖い奴だったの・・・・・・?)

そして、用を済ませた少年が少女を取り返すために不良にケンカを売る!

・・・・・・こともなく普通に教室に戻っていこうとした。思わず少女は叫んでいた。

「待った!」

少年の足が止まる。何だよ、と目が言っていた。

「助けて!貸しを返して!」

少女が叫ぶと、少年は手はポケットにつっこんだまま、足は一切動かさずに、目だけを動かして不良を一人一人見回した。

「・・・・・・お前ら、何してたんだ?」

少年は一言、ただ質問した。

「いえ、何も・・・・・・」
「はい、何もしてません。はい」
「・・・・・・だってよ。よかったな。じゃ」
「あっ・・・・・・」

少年は去っていった。これじゃあまた絡まれる、と少女は思ったが不良たちは悔しそうな目で少女を見ていた。
要は「あの坂井の知り合いの女」に手を出したことを後悔さえしていたのである。
少女にはその視線の意味がわからなかったが、その視線から逃げるようにして教室に戻った。


***


「・・・・・・あの、ありがとう」
「何が?」

少女は少年の席の前に立った。周りの生徒がひそひそと話していたが、少女は気にしなかった。

「助けてくれたじゃない」
「俺は質問しただけだぞ?」
「それでもよ」
「・・・・・・どうしても礼を言うのか?」
「もちろん」

少年は頬杖をついてこう言った。

「・・・・・・じゃあ、さっきので借りは返したな」
「・・・・・・へ?」
「お前がさっきのを『助けてくれた』って言うんなら、さっきのは借りを返したことになるだろう。違うか?」
「それは・・・・・・」
「俺の借りを下らんことに使わせるな。俺はただあいつらに質問しただけだ。礼は要らない」
「・・・・・・えーと、」
「ん?」

その時、休み時間の終わりを告げるベルが鳴り響き、少年は机に教科書を数冊積み、簡易の枕を作ると寝る体勢に入った。

「俺はもう寝るから。お前は席に戻れよ」
「・・・・・・あの。・・・・・・ありがとう」

結局、少女は席に戻る前に小さな声で礼を言ったが、少年には聞こえなかったのか、彼は何の返事もしなかった。


†††

詰みゲー! 4-15

†††4-15

シャープと手合わせし始めて数時間が経過して、ジョンは二、三回は斬りあえるようになり、ベンは斬り合ったり、離れたり、といったことを繰り返してかなり長時間手合わせができるようになっていた。
今はベンとシャープが斬り合っているところだ。今の手合わせはかれこれ十分ほど続いている。

(ベンはシャープとの手合わせでカンを取り戻したってところか。シャープは多分ベンに合わせてるな。本気でやってるわけじゃないだろう。ベンの力が伸びるように適当な力量でやっているのだろうな。・・・・・・あー、俺もシャープが手加減した程度で斬り合えるくらいの実力だったらなー)

退屈だなー、と頬杖を突いてぼんやりとジョンはその手合わせを見つめる。本来であれば自分よりも強い人の手合わせだ。いい勉強になるのでつぶさに観察すべきではあるが、なにせ数時間経っている。
武道の心得があるわけでもないジョンにとってはヒマな時間でしかなかった。

(・・・・・・心の整理、か)

ジョンは頬杖を突いたままで昨日のシャープの言葉を思い出す。

『・・・・・・。最近辛いことがあったのだろう。・・・・・・。早いうちに心の整理をすることだ。早くしておかないと後々厄介だぞ。・・・・・・』

(どうすればいいって言うんだよ・・・・・・。花蓮のことを忘れろってのかあ・・・・・・?そりゃあ、無理ってもんだぜ・・・・・・)

ジョンはため息をついて横になった。
そのままジョンは道場の中で寝入ってしまった。

†††

とりあえず第四章の終わりまではできる限り毎日更新していくつもり。できる限りは。

詰みゲー! 4-14

†††4-14

朝食後にはシャープによる近接戦闘の指導が待っていた。
ジョン、ベンとシャープは中庭の奥にある道場の中にいた。ジョンの服は『屋敷』にあった動きやすそうなものに換えてきていた。

「最初はなにがいいかのぉ・・・・・・。剣術、槍術、短刀術、徒手・・・・・・。どれがいい、ベン?」
「さあ、剣術がよろしいのでは?」
「そうだな。ほら、木刀だ」

シャープはいきなり床に置いてあった木刀二本を手にとって二人に放り投げた。
なんとかキャッチしたジョンとベンの前でシャープが構える。
しかし、構えたままシャープは微動だにせずじっとしていた。

「・・・・・・」
「?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・あの、」
「ぜぇいっ!」
「・・・・・・」

おずおずと声をかけたジョンのタイミングに合わせるようにしてシャープは大声を出した。しかし、ジョンは特に驚くでもなく平然としていた。

「おや予想外。おぬしなら腰を抜かすと思っておったが」
「・・・・・・見直しました?」

ドヤ顔を決めたジョンにシャープは指でドングリでも拾ったような形を作った。

「この程度な。・・・・・・まずは、ベン。ワシと手合わせじゃ。構えよ」
「・・・・・・はい」

ベンがシャープからやや距離を取って木刀を構える。
ドングリに格の上がったジョンは急いで二人から距離を取った。

(二人とも隙が無いなあ・・・・・・。やっぱりその辺のチンピラとは段違いだなあ)

距離のあった状態から二人はじりじりと距離を詰めていく。

(そろそろかな?)

ジョンがそう思った瞬間、ベンが大胆に一歩踏み込み、斜めに斬り上げる。
その一閃をシャープは木刀をほとんど動かさずに受け流す。
その受け流しを受けたベンはシャープの目の前でつんのめった。

慌ててベンが地面に手を突き、木刀を構えながら振り向くと、そこには既にシャープの木刀が喉元に突きつけられていた。
ベンは信じられない、とでも言いたげに目を見開いて地面を見つめた。

(一斬りで決着がついた・・・・・・。それだけ実力差があるってことか)

「勝負あり。・・・・・・次はジョン」
「・・・・・・はい」

ジョンもベンと同じようにシャープから距離を取り、木刀を構える。

(あの受け流しを食らったら負ける。・・・・・・多分ただの受け流しじゃない。ベンの表情がそう言っていた)

したがって、ジョンの取った作戦は「待ち」。

(距離を詰めきった後、ベンは急に踏み込んで返り討ちに遭った。俺はベンよりも弱い。同じことをしても勝つことはできない)

ジョンは距離を詰めすぎないよう注意しながら、ぎりぎりのところでシャープを誘い出そうと切っ先をゆらゆらさせていた。
切っ先を払いのけたシャープを後出しで斬る、という作戦だった。

(まあ、そんなに上手くはいかないだろうケド・・・・・・)

などと思って後出しのチャンスをうかがっていると、気がつけばジョンの手から木刀が無くなっていた。
さらに、次の瞬間にはシャープの木刀が首元にあった。

「・・・・・・は?」
「勝負ありじゃ」

手がやや痺れていたのでグーパーして、ようやく何が起きたのかを悟った。
シャープはただ目の前にあったジョンの木刀を払っただけだ。そしてジョンの木刀は吹っ飛び、シャープが間髪入れずとどめを・・・・・・。
後出しのチャンスはしっかりとあったのだ。ジョンには何一つとして見えなかったが。

「はぁあ~・・・・・・。負けたぁ~」
「いや、なかなかよかったぞ。ベンの失敗を踏まえたところがな。ただ、実力差があり過ぎたな」

シャープがかっかっか、と高笑いする。そしてまた木刀を構えた。

「さあ、もう一本いくぞ!」

†††

詰みゲー! 4-13

†††4-13

翌朝、部屋を出てばったり出くわしたミリアにジョンは昨日の訓練の成果を自慢げに聞かせた。

「聞いてくれよ、昨日は魔力の流れが感じ取れて、視えるようにもなったんだ!」
「へえ、やるじゃない。まぁ、あたしはその遙か先にいるけどね!」
「へん!すぐに追いついてやるよ。そん時になって泣いても知らないからな」
「泣かないわよ。泣くわけないでしょ、バカじゃないの?」
「バッ・・・・・・。バカって言った方がバカなんだぜ」
「うるさいわよ、サッキー・ジョン」
「てめっ・・・・・・!その呼び方キライって知っててわざとか!」
「さあねー」
「待てよ!」

騒がしいジョンとミリアが一階、左中央にある食堂の扉を開けると、シャープがすでに席に着いて本を読んでいた。

「おや、おはよう。二人とも。朝から元気だな」
「「おはようございます」」
「息もぴったりだ」
「ははは。そんな、ことは、ないですよ」
「ええ、そう、ですわ。ホホホ、ホホ」

二人は肘で互いを小突き合いながら笑顔で答える。そこにベンジャミンも現れた。

「おはようございます、シャープ。おはよう、二人とも。・・・・・・なんだ、えらく元気だな」
「おはよう、君もそう思うだろ。仲がいいんだな、この二人は」
「おはよう、兄さん。仲なんか、別に、よく、ないわよ」
「おはよう、ベン。そうだよ、ぜんっぜん、よく、ない」

互いに互いの顔を手のひらで押し合っているのを見てベンは思う。
(そういうのを仲がいいって言うんだよ。しかし、だとすると・・・・・・)

「おい、ジョン」
「なに?ベン」
「お前、俺がミリアを嫁に出させると思ったら大間違いだぞ」
「・・・・・・なぜそれを俺に言うのか全くもって理解に苦しむね」

なんやかんやでいつの間にか現れたロベルトと共に全員が席に着き、朝食。
ジョンはパンをむしり、ミリアは紅茶をすすり、ベンは目玉焼きを切り、ロベルトはベーコンを噛み、シャープは食後のコーヒーを飲む。

「ねえ、ロベルト。わたし一度帰りたいのだけれど」
「なぜですか?」
「わたしキティを置いてきちゃったから。それに服も取りに行きたいし」
「構わないですよ。朝食の後で<鍵>を渡しましょう」
「カギ?なんで?」
「私が創った<鍵>があればいつでも屋敷に帰れるようになります。ただ<鍵>を回すだけでいいんです」
「ガチャッと?」
「ガチャッと」

ミリアの鍵を回す仕草を、ロベルトが真似る。行き来は自由なのか、とベンが感心した声を出す。

「まあ、私が許可した人間だけですが。くれぐれも無くさないように。作り直すのは面倒です」
「『導譜(スペル)』を使うの?」
「もちろん」
「『導譜』?」

耳慣れない言葉にジョンが反応する。途中で割り込まれてミリアがイヤそうな顔をする。

「『導譜』っていうのは、魔法の一種よ」
「ミリア、魔法の一種って言ってごまかすこと多くないか?」
「~~~~っ!いいのよ!そのうち習うでしょ!」

ミリアはパンを一つ腹立たしげにむしって食べた。


***


「ああ、それと近いうちに新しい客人がいらっしゃるそうです」
「その人たちもここに住むの?」
「そう伺っています」
「ほう、よりにぎやかになるな」
「どんな人が来るのよ?」
「そこまでは知らされていません。ただ・・・・・・」
「ただ?」
「どうも身分の高い方だそうなので無礼の無いように、とは言われました」

ロベルト以外の誰もが顔を見合わせた。
名前も教えないのにそんなことだけ教えるなんてどういうことだと、どの顔にも書いてあった。

「おっしゃりたいことはわかります。私も腑には落ちませんがくれぐれもその点に注意して下さい」

†††

詰みゲー! 4-12

†††4-12

ジョン、ミリア、ベンはシャープについて中庭を移動していった。
その途中には色とりどりの花を咲かせた植物がそこかしこに生えていた。

「見事なものだろう?この庭園だけでもここに来た甲斐があるというものだ」

中庭の奥にはやや開けた場所があり、道場のような建物が建っていた。壁にはツタがびっしりと生えている。

「今日は使わないが、あの中にはそのうち入る」
「はい」
「ジョン、君は魔法は使えるのかね?」
「いえ、使えません」
「何か視えるか?」

シャープはジョンの目の前に手のひらをさしだした。ジョンには何かがあるようには見えなかった。

「何も見えません」
「よろしい。手を出しなさい」

ジョンが両手を出すとシャープはその手を取った。
体温とは別種のじんわりとした熱のようなものが手だけではなく、全身に伝わるのを感じた。

「何かを感じるかね?」
「はい」
「これが魔力じゃ。今、ワシの魔力を君に流しておる。この感覚をよく覚えなさい」

シャープが手を放すとジョンは軽くふらついた。

「あの、すみません。シャープさん」
「うむ・・・・・・。やや違和感があるな」
「シャ、シャープ・・・・・・?」
「うむ」
「あの、危険ではないのですか?」
「ん?ああ、並の人間ならな。だが、ワシがやれば問題ないのだ、ミリア」
「そうなんですか・・・・・・?」
「ああ。それに今回は急を要するのでな。やや乱暴でもやるしかあるまい」

他人の魔力を無闇に取り込むのは一般に危険なこととされている。だが、その危険性は十分に鍛錬を積んだものが指導する場合は回避できるのである。
それでもあまり推奨はされてはいないが。

「なるほど」
「ジョン、生物ならどれでも程度の差こそあれ魔力が流れておる。その木の魔力を感じ取ってみよ」
「やってみます」

ジョンはシャープの指した大木に近づき、幹に両手を添えた。

「感じたか?」
「これは・・・・・・魔力なのかな?」
「うむ。もう一度手を貸しなさい。・・・・・・この感じじゃよ」
「はい」
「よし、一時間で植物の魔力の流れを感じ取りなさい。二人は、この庭園の植物の魔力の流れを感じ取ってきなさい。それぞれの個体の違いがわかる程度に詳しくな」
「わたしは・・・・・・」

シャープはちらりとジョンを見たミリアの目の動きを見逃さなかった。ジョンに聞こえない程度に声を落としてミリアに忠告する。

「それは過保護というものだよ、ミリア」
「・・・・・・そうですか?」
「何にしても育てるときに手を出し過ぎるのはよくない。むしろ放って置いた方がよい」
「・・・・・・」
「どうするかね?」
「そうですね。・・・・・・わたしも植物を視てきます」
「うむ」

シャープはぱたぱたと中庭に駆け戻っていくミリアを見ていたが、すぐに踵を返し、懸命に木の魔力を感じ取ろうとしているジョンに近づいた。

「ミリアといったかの、いい子だ。優しいし、気が利く」
「・・・・・・そうですか?」
「いかんぞ、女性の心は難しい。丁寧に接しなさい」
「む・・・・・・」
「・・・・・・妙なところは素直でないな」
「よく言われます」
「ジョン、ちょっと目を見せてくれ」

ジョンが振り向くと、シャープはジョンの目をじぃっと見つめた。まるでジョンの心の中までも見透かすようなその瞳にジョンは動揺する。

「・・・・・・うむ。もうよいぞ」

シャープが視線をはずす。ジョンは思わず胸に手を当てて深呼吸した。

「何なんですか、一体・・・・・・?」
「ワシは目を見ればその人間がわかると思っておる。まあ、持論だがな。経験上、割と当たる」
「何割なんぐらいですか」
「まあ、二割だな」
「それは『割と』って言いませんよ?」
「ふむ、確かにそうだな」

シャープも今まで見てきた連中と同じくメチャクチャだなぁ、と悟った。

「それで?何かわかりましたか?」
「何か・・・・・・暗いものを感じる」

ジョンの動きが一瞬、ピタリと止まる。

「く、暗い?俺が、ですか?」
「最近辛いことがあったのだろう。違うか?」
「・・・・・・その通りです」
「早いうちに心の整理をすることだ。早くしておかないと後々厄介だぞ」
「・・・・・・。過去のこと、にはしたくないんですが・・・・・・」
「・・・・・・忠告はしたぞ」

シャープはくるりと方向転換をすると、庭園のどこかへ行ってしまった。

†††

詰みゲー! 4-11

†††4-11

「失礼します。訓練生を連れて参りました」

中庭の扉を開けてロベルトは中にいた老人に声をかけた。
扉の外には様々な植物が咲き乱れている庭園があった。老人は手にジョウロを持って、植木の枝から宙づりになっている鉢植えに水をやっていたところだった。

「うむ」

老人は返事をしつつ、足下のスイセンの鉢植えに水をやった。そこでジョウロの水はなくなってしまった。

「ちょうどよかった」

ロベルトはそこで中庭から出ていった。
老人がこちらへ手招きをする。ジョン、ミリア、ベンジャミンは呼ばれた子犬のように素直に老人の元へ駆け寄った。
老人は優しさと厳しさを含んだ独特の雰囲気を醸し出していた。

「訓練生は誰かね?」
「ぼ、僕です」
「はっはっは、震えずともよい。別に取って食ったりはせん。名は何という?」
「坂井翔太といいます」
「ほう、珍妙な名前だな」
「みんなはジョンと呼びますが」
「はははは!ならばワシもそう呼ばせてもらうとしよう! 後の二人の名前は何というのかね?」
「はっ、ベンジャミン・ワッフルワイン中尉であります」
「同じく、ミリア・ワッフルワイン小尉」
「ほう、兄妹か。ベンとミリアでよいな?」
「は、はい」
「ジョン君。ワシはレインから君を鍛えるように頼まれておる。今すぐにでも始めようと思うが、どうだ?いけるか?」
「はい!」
「いい返事じゃ。おぬしらはどうする?一緒にやるか?」
「是非とも」
「ご一緒したいです」
兄妹が口をそろえて参加を願い出たことが老人にはとてもうれしかったようだ。

「よろしい、来たまえ。ああ、そうそう、ワシの自己紹介がまだだな。ワシはシャープ・ペンシル。シャープと呼ぶがよい」

シャープはそう言うとにやり、歯を見せて笑った。

†††

詰みゲー! 4-10

†††4-10

「こちらです」

ロベルト小尉がジョン、ミリア、ベンジャミンを洋館へと招き入れる。
入ったところは巨大な玄関ホールだった。ホールには扉が左右に三つずつに、正面には大きな階段があって二階へと続いていた。一階正面のさらに奥には中庭に出る大きな扉があった。

玄関しか見ていないが明らかにジョンが今までの人生で見た中で一番の豪邸だった。


「とりあえず応接室で詳しく説明をしましょう。こちらです」

ロベルトは右側の手前から三番目、つまり一番奥の扉を開け、廊下へと出た。廊下はかなり長く、右側には部屋への扉が、左側には窓がずらっと並んでいた。窓からは中庭が見えた。ジャングルばりに緑が生い茂った庭だった。
ロベルトが手前から二番目の扉を開ける。
ベンジャミン、ミリア、ジョンが続いて中に入った。

その部屋には大きなソファが四つ、テーブルを囲むように輪になって置いてあった。四人がそれぞれソファに腰掛けるとロベルト小尉が切り出した。

「さて、それでは説明を始めたいと思いますが、なにかご質問はおありですか?」
「いいかしら?」

ミリアが小さく手を挙げる。どうぞ、とロベルトは手を差し出した。

「どうしてわざわざここで説明を?さっきの兵舎でよかったのでは?」
「それは私の魔法に関係があります」
「この屋敷か?」
「はい、ベンジャミン中尉。『隠者の忍び屋敷(ハイドアウトマンション)』と言ってこの中では時間は外の六倍遅く流れます」
「えっと・・・・・・それは、」
「つまりここで半年過ごしても外では一月しか経っていない、ということだよ、ジョン君」
「なるほど」
「外界とは隔離されてるのね?」
「はい、完全に。ただ、正面玄関から出入りは可能です」
「わかったわ」
「・・・・・・質問は以上で?」

ロベルトは三人の顔を順に見て質問がもう無いことを確認した。

「では説明を始めます。中尉と小尉はご存じでしょうが戦線がグランドブリッジに移動するまであと一月か、もって二月です」
「そうだな。この調子で行くとな」
「ねえ、地図はある?ジョンにはグランドブリッジはわからないわよ」
「ちょっとお待ちを」
「ありがとう、ミリア」
「いえいえ、無知なジョン君を気遣っただけよ」
「・・・・・・無知で悪かったな」

ロベルトが立ち上がり、部屋の脇にいくつかある書類棚の中を探し始めた。
しばらくするとロベルトが、ありましたよ、と言って戻ってきてテーブルに地図を広げる。ロベルトが地図を止める文鎮を置く間にミリアが地図を指さす。

「見ての通りこの世界には大陸が三つあるわ。右からイーストリア、セントリア、ウェストリア。今いるのがイーストリアよ」

地図には大ざっぱに言って三つの団子が並んでいた。アフリカ大陸よりやや大きい楕円形の大陸が三つ、横に並んでいる。大小はあるがおおむね同じ大きさだ。

「ミリア、今は『屋敷(マンション)』の中だ。首都がイーストリアにある、だろ」
「細かいわよ、兄さん。で、イーストリアとセントリア、セントリアとウェストリアはそれぞれ微妙に陸続きになっているの。このつながっている部分が『大地の橋(グランドブリッジ)』よ」

ジョンは大陸同士は一見互いに離れているように見えて間に細い陸地が一本ずつあることを確認した。

「いいかな、ジョン君?この橋(ブリッジ)戦はこの戦争における正に正念場なんだ。だから今後切り札に化けるかもしれない君が出るとすればここしかない」
「だからそれまでにジョンを鍛える、ということか?」
「その通りです、中尉。ジョン君はここで橋(ブリッジ)戦が起きるまでの約一ヶ月、訓練を受けてもらいます」
「その限られた一ヶ月を有効に使うために、あなたが来たのか」
「そうだ、ジョン君。私の『屋敷』の中であれば六ヶ月の訓練を受けられる。これでもまだ足りないくらいだが、あらゆる手を尽くして君を育てる。覚悟したまえ」
「・・・・・・えっとそれでどうして私たちを連れて来たの?」

ミリアが自分と兄を交互に指さしてロベルトに尋ねる。

「どうもジョン君にとってできるだけ快適な環境で訓練を受けられるよう配慮した結果のようだ。この世界でもっとも親しい人間と言ったら君らだろ?」
「まあ、そうね」
「しばらくしてジョン君がここに慣れれば出ていってもいいだろう。別に強制ではないので」
「了解した」
「申し訳ない。とにかく、ジョン君にはすぐにでも訓練を始めてもらいたい。今すぐにでも」
「俺なら大丈夫です。今すぐでも」
「よし。・・・・・・よろしければみなさんもどうぞ。紹介したいお方がいます。ジョン君の教官に当たる方です」
「どなただ?」
「シャープ・ペンシル准将です」
「えぇっ!?」

ベンジャミンは驚いてどこからか変な声を出した。ミリアは口に手を当ててベンジャミンのように声を出さないようにしていた。

「ペンシル准将が?今は『橋』にいるはずではなかったのか?」
「エストラルト中佐が頼み込んだそうです」
「・・・・・・」
「閣下をもう随分お待たせしています。お早く」
「そうか・・・・・・。わかった、早く行こう」

四人は部屋から出て中庭へと向かった。その途中でジョンがミリアに質問する。

「シャープペンシル准将って?誰なんだ?」
「まあ、一言で言うと英雄ね」

†††

詰みゲー! 4-9

†††4-9

ジョンが朝起きると周りには誰もいなかった。ベンはもちろんだが、昨日帰りが遅かった残りの二人もいない。昨日の真夜中、ようやく帰ってきた二人をベンがぼやきながら足でベッドに押し込んでいたのをうっすらと覚えている。

「あれ?寝過ごしたか・・・・・・?」

そう思ってジョンは窓の外を見る。日はそれほど高くはないので少なくとも、まだ昼ではないだろう。
着替えを済ませ、眠たい目をこすりつつ一階へと下りる。廊下や二階では誰とも出くわさなかった。

一階ではミリアとベンジャミンが知らない男とテーブルに向かい合って座って何かを話し合っていた。他には誰もいない。昨日の晩の騒ぎにも関わらずゴミ一つ無かった。
その見知らぬ男は青い軍服に身を包んでいて、髪の色は茶の短髪だ。
ちなみにミリアとベンジャミンも青い軍服を着ており、キティの姿は無かった。

ジョンが階段を下りると男が立ち上がりジョンに敬礼をした。
「私はロベルト。ロベルト小尉です。ジョン、君の処遇について決定しました。時間も無いのですぐについてきて欲しい」

ジョンはちらりとミリアとベンジャミンを見た。ミリアがうなずく。
「わかりました」
「ではこちらへ。今すぐに移動しましょう」

ロベルト小尉は懐から小さな鍵を取り出すと何もないところでがちゃりと回した。
すると鍵に合わせてロベルトの前に大きな扉が現れた。ちょうど洋館の玄関扉のようだ。

(これも魔法なのかな。まあ、ミリアのを何回も見てるからそんなに衝撃はないなあ)

ジョンが勝手な感想を抱いていると、ロベルトは扉を開けて三人をその洋館に招いた。

「さあ、こちらです」

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東狼団がほとんど出ないうちに場面転換。
マジか。