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詰みゲー! 4-27

†††4-27

「ミリアと友達に・・・・・・ねえ」

クラリスに秘策を授けるとベンはすぐに仕事に戻っていった。部屋に一人残されたクラリスはお茶をゆっくりと飲み干し、ポットからもう一杯分のお茶を注ぐ。
隣の部屋には使用人が待機しており、呼べばそのようなことでも喜んでやってくれるが、クラリスは一人で過ごす時間が好きだった。静かに考え事をしたいタイプなのだ。

(さっきは王様の命令について、『勇者は役に立つから』とか曖昧なこと言うたけど、ホンマはちゃうんや)

姫が一杯、茶をすする。

(父上はホンマは東狼団と仲良うしたいんや。なんせ強いしな。味方にすれば心強く、敵に回せば厄介ってヤツや。・・・・・・けど、大っぴらに仲良うはできん。国民の中には奴らに家族を殺された連中もおる。昔の話、では片づかんのや)

姫が伸びをして椅子の背もたれに体重をかける。

(ここで勇者の出番や。まだ従軍してへんけど正式に国軍に加わったら、勇者ははっきり言うて、国軍でもあり、東狼団でもあり、それでいてどちらでもない。正に微妙な存在や。あいつを上手く利用すれば、東狼団っちゅうごっつい味方を得られるかもしれん。・・・・・・ウチには失敗は許されへんのや)

姫は立ち上がると、侍女を呼び部屋を片づけさせると、ミリアを探すために部屋を出た。

†††
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詰みゲー! 4-26

†††4-26

「・・・・・・第一回作戦会議。題して『ジョンの魔の手からミリアを奪還!』・・・・・・。って感じですか?」
「ああ、もうそれでええで」

クラリスがお茶を優雅にすする。ベンは予定していた仮眠が取り消しになってやや疲れた顔をしている。

「ぶっちゃけ、ジョンが姫様を好きになるかはどうでもいいです。ミリアとさえ離れてくれれば」
「ぶっちゃけ過ぎやで。ウチはそうはいかんねんけどな」
「さて、作戦ですが・・・・・・。要はミリアにジョンのことを諦めさせればいいワケです」
「まあせやな」
「そこでですね・・・・・・。姫様には堂々と、私はジョンが好きだ、とミリアに言い切ってもらいます」
「いややわ、はずかしいわ~」
「くねくねしないで下さい。別にそういうのいいんで」
「・・・・・・アンタ時々やたらと失礼やんな・・・・・・?」
「姫様が堂々と宣言すれば、ミリアは大人しく引き下がるでしょう」
「ふーん。エラい簡単やな。ミリアが、ウチもジョンが好き!ってなる場合もあるやろ?」
「姫様の見立て通りにミリアがジョンに惚れていればありえます。やり方や姫様の言い方にもよりますが」
「ダメやん、アカンやん」
「大丈夫です。悪魔の秘策があります」
「悪魔て・・・・・・」
「まず、姫様にはミリアと友人になっていただきます」
「ん?」
「まあ、一週間程度ミリアと友達になって下さい」
「ふむ?」
「友達になって一週間経ったら、ミリアに『ウチはジョンが好き』宣言をして下さい」
「・・・・・・すると?」
「・・・・・・ミリアは義理堅いヤツです。間違っても友人を裏切ったり、敵になるような真似はしません。あいつは必ず姫様に対して一歩下がります」
「・・・・・・確かに悪魔の策やなあ。情の欠片もない」
「いかにも。しかし、ミリアをジョンから引き離すと決めた以上、やらねばなりません」
「ものすごい覚悟やな。せやけど、バレたらどないすんねん」
「そのときはそのときですよ」

†††

詰みゲー! 4-25

†††4-25

クラリスの部屋では、ベンとクラリスが話し合っている真っ最中であった。

「せやなあ・・・・・・。アンタとミリアちゃんが実の兄妹やないってことは
わかったわ。じゃあ、アンタがあの子の父親に頼まれたっちゅうのは何や?」

クラリスが目の前で立ったままのベンに質問をする。

「私の父には、ミリアを養子とし、ミリアが大人になるまで面倒をみること。私には兄としてミリアを守ること。特に男については必死で頼まれましたね。『男には気をつけてくれ!俺のかわいいミリアに悪い虫が付かんようにな!』って言ってました」
「・・・・・・確認やけど、それ今際の際の話やんなあ?」
「いえ。亡くなる三日前です」
「・・・・・・まあええわ。で?」
「で・・・・・・とは?」
「アンタとしてはジョンがミリアとくっつくのは反対なんか?」
「ええまあ。私は伯父に恩義がありますから。頼みを無碍にはできません」
「せやったら、ウチと協力してくれんか?組んだ方がやりやすいやろし」
「はい。・・・・・・それでどうするので?」
「ん?」
「え?」
「お?」
「・・・・・・あの、作戦・・・・・・は?」
「アンタが考えて♪」

お茶を楽しそうにすする王女を、ベンはげんなりした顔で見つめた。

†††

詰みゲー! 4-24

††† 4-24

所変わって、ここは道場。
ミリアはジョンにベンが実の兄ではないことを明かした。

「えええええっっっっ!!!!????」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「初耳だよ、ぐはあっ!」
「よそ見をするなぁっ!」

衝撃の事実を知ったジョンのわき腹にシャープが隙やり、と槍を突いた。
わき腹をさすりつつもジョンは槍を構えるとシャープも白い髭の生えた口元をにやりと歪めて槍を構えた。

さて、ジョンとシャープがまた槍の稽古を始め、それに合わせるようにミリアが話し始めた。
ちなみにこれはシャープの指示である。ジョンの気を逸らしているのだ。戦闘中に雑念が入らないようにするというれっきとした稽古である。きっと。


「・・・・・・まあ、あたしのお父さんの弟の息子なのよ、ベンジャミンは。あたしの両親は一緒にいられなくってね。あたしはお母さんに付いてったんだけど、あたしが八歳の時に母さんが病気で死んじゃって。で、今度はお父さんがあたしを引き取ってくれたんだけど、その二年後にお父さんも病気で死んじゃった。あたしはそのときに叔父さんの養子になったのよ。で、ベンが兄さんになったってワケ」
「・・・・・・俺に言えた義理じゃないけどお前もヘビーなことをかなりさらっと言うよな」
「そうねえ・・・・・・。うつったのかしら」
「病気みたいに言うなよ」

ちなみにジョンはミリアの話に気を取られてここまででおよそ七回打ち込まれている。

「ついでだから東狼団についても話しておくわね」
「ついでかよ」
「その前にまずはイーストリア連盟について。イーストリアは国家群よ。まあセントリア連合もウェストリア連邦もそうなんだけどね。東の大陸の国は大体がイーストリア連盟の加盟国よ。そういう関係がもう何百年と続いてるの」
「東の大陸の国で同盟を作ってると・・・・・・。リーダーの国とかはあるのか?」
「あるわよ。まあ、盟主はずっとアルモンド王国って言うところだったわ」
「へーえ」
「で、そのアルモンドの王族に代々使えてきた騎士団が・・・・・・」
「が?」
「東狼団よ!」
「おおっ!」
「でも統一戦争の時にアルモンド王族が皆殺しにされちゃって。行き場がなくなったのよ」
「・・・・・・統一戦争?」
「ああ。統一戦争ってのは五十年前の世界大戦よ。三大陸の国家群が全面戦争をしたの。結果は西側(ウェストリア)の完全勝利。以来、西側がこの世界を牛耳ってるのよ」
「じゃあ、俺があの城で会ったのは・・・・・・」
「そーよ。彼は上国インテグラリア第二代国王グレゴリオ・テラ・ドリアンよ。この世界の統治者。最高権力者ね」
「げ・・・・・・。俺そんなエラい人と口聞いてたのか。なんか吐きそう・・・・・・、ぎゃあ!」

顔色を悪くしたジョンにシャープが槍で猛攻をしかける。ジョンも必死で防ぐが、やはり防ぎきれずにいくらかはもらっていて、もはやボロボロになっていた。
だが、ジョンはそんな状況でも質問を続ける。

「で?アルモンドの王族が殺された後、東狼団はどうしてたんだよ?」
「まあ、その恨みから一部の過激な連中が上国と喧嘩したりしたわ」
「上国と・・・・・・喧嘩?」
「そーよ」
「どういう意味だよ」
「要するに・・・・・・テロとか、ゲリラよ」
「え・・・・・・」
「そんな顔しないでよ」
「・・・・・・」
「だからそんな顔しないでって。あたしはもちろん、今の団員もその点はどうしようもなく恥じてるわ。同じ団員であるあなたにまでそんな目で見られたくはないのよ」
「・・・・・・悪い」
「・・・・・・。団員は基本的に先代の息子や娘が代々受け継いでいく形態よ。騎士団としては異質だけどね。そういうのがあるから、現団員は親の世代の失敗を理解して恥じていても、大っぴらに認めたくはないのよ。なんせ、自分の両親の過ちだからね。仮に団員が先代の行為を肯定する発言をしたとしてもそれは完全な本心ではないかもしれないということは覚えておいてね」
「ややこしいなァ」
「そーね。・・・・・・まぁそういうわけで上国との関係は悪いわ。おまけにゲリラ活動したせいで西側はもちろん、中央、東側にまで嫌われてるわ。当然といえば当然だけどね。今は魔物の侵攻とかがあって西側は仕方なく手を組んでるけど・・・・・・」
「けど?」
「・・・・・・なんでもないわ」
「・・・・・・そうか」
「ええ」

ミリアの言葉が終わり、シャープの突きの連撃がジョンを襲う。いくつかをまともにもらいつつもジョンはシャープの小手に突きをかすめることに成功した。
ジョンが喚起の雄叫びを上げ、シャープの驚愕の表情を見ながらミリアは思う。

魔物が本当にいなくなれば、次に狩られるのは誰かしら、と。

†††

詰みゲー! 4-23

†††4-23

コンコン コンコン

「はい?」
「ベンジャミン・ワッフルワインです。姫様にご挨拶申し上げたく」
「開いてるで」

ベンがドアを開けると、一人で優雅にお茶をしているクラリスがいた。

「そのお茶は姫様が?」
それがベンとクラリスの最初の会話だった。それがおかしかったのか、クラリスがくすくすと笑う。

「ちゃうちゃう。これはメイドに淹れてもおたんや」
「左様ですか」
「ああそれと、敬語は要らんで。他の皆にも言うたけど」
「伺っております」
「・・・・・・。まあええわ。ところで、アンタがベンジャミンか・・・・・・。『狼』の若頭、やな?」

狼という単語にベンの顔つきが一気に険しくなる。

「・・・・・・ご存じでしたか」
「当然やろ。これでも姫やで。こないだはちょっとトボけたんや」

クラリスが茶をすすり、横目でジロリとベンを見る。明らかに品定めをしている目だった。

(ふん。こんなこったろうと思ったぜ!王が王女をこんな所に確認もせずに送り込むものか!)

「アンタを見込んで相談があるんやけど、乗ってくれるか?」
「・・・・・・内容と見返りによりますね」

ベンはクラリスに言葉を選んで慎重に返事をした。その油断ならない様子がクラリスはますます気に入ったようだ。

「それでこそや。見返りは・・・・・・、ウチとアンタの間にパイプができるんやで。これ以上の見返りはあらへんやろ?」
「確かに強いコネではありますが、やはり内容にもよります」
「慎重やなあ。内容は・・・・・・ひょっとすると妹さんを傷つけることになるかもしれへん」
「・・・・・・どういう意味です?」
「・・・・・・。『王様の命令』は誰かに教えてもうたか?」
「次世代の軍の幹部候補と交流を持て、では?」
「ちゃうねん。本当は『ジョンと恋仲になれ』、や」
「・・・・・・は?」

ベンはハトが豆鉄砲を食らったような顔をした。それを見てクラリスが吹き出す。

「あはははは!せやろ!そおなるやろ!ウチもなってん!言われたとき!」

クラリスがケラケラと笑い転げる。それを見てベンはますます訳が分からなくなった。

「ええと・・・・・・。それは一体どういう意味でおっしゃられたので・・・・・・?」
「わからへん。ウチの意見なんか全然聞かんと、『あいつはいつか必ずお前の役に立つ。せやからとりあえず惚れさせて来い』ゆうて。頑としてゆずらへん。しゃあないから、ウチ、とりあえずここに来たんやけど・・・・・・」
「けど?」
「まあ、ウチもな、アホらしいとは思ってんねんけどな。一応、あの勇者クンを惚れさそうと思て来たんや。そしたら、もう先客がおったんや」
「先客?あいつを好いている奴がいると?メイドの中ですか?」
「何トボけてんねん。アンタの妹やないか」
「ああ!?」

ベンがいきなり叫び声を上げたのでクラリスはびっくりして危うく椅子から転げ落ちそうになった。

「ミリアが・・・・・・ミリアが・・・・・・あいつを?本当ですか、それは?」
「ほ、ホンマやで。ここに来てから二日ほどあの二人見とったけど、あれはくっつくで」
「ぬあーっっ!!!!」

ベンは両手で頭を抱えて絶叫した。それをクラリスがうるさそうに横目で見る。

「やかましいなあ・・・・・・。なんぼ兄貴やからってちょっとうるさいで」
「俺が兄貴だから騒いでるんじゃないですよ・・・・・・。俺はあいつの父親に頼まれてるんで」
「変な言い方やなあ。アンタの父親でもあるんやろ。仲悪いんか?」
「俺とミリアは義理の兄妹です。本当はいとこ同士なんですよ」
「ええっ!?」

今度はクラリスが大声を出す番だった。

†††

詰みゲー! 4-22

†††4-22

王女クラリスの襲来の三日後。ジョンは屋敷に昼寝に来たベンと玄関ホールで出くわした。

「・・・・・・ふーん。そりゃあ、あれだ。『次世代の軍の中核をなすであろう者達と交流を持っておけ』って意味だよ」
「次世代・・・・・・?」

仮眠を取るために屋敷に来たベンに、玄関ロビーで、ジョンは三日前の出来事を話した。前から来ると言っていた王女が来た、王様の命令でここに住み着くらしい、といった具合に。
ついでにジョンはクラリスの言っていた「王様の命令」の意味をベンに聞いてみたのだ。

「王様は多分、お前が訓練してる所はよほど『イイところ』だと思ったんだろうぜ。きっと次世代の幹部候補生達がわんさかいるようなところだと思ったんだ」
「幹部候補生???」
「・・・・・・わかるよな?将来のお偉いさんだよ。まあ、お前はこの戦役で勇者という称号にふさわしい活躍をすれば確実に大出世さ。間違いない」
「何言ってんだよ、ベンもだろ」
「ふ・・・・・・。まあな」

ベンはジョンの問いかけには答えず、ひらひらと手を振った。ジョンは俺には活躍なんて無理さ、と言っているのだと解釈した。

「ベンならいけるさ!一緒にがんばろうぜ!」
「あーはいはい。わかりましたよ。・・・・・・じゃあ、俺は姫様の所に挨拶に行くわ。一応、『住人』だしな」

そう言ってベンは階段を上り始める。クラリスの部屋に行くためだ。

「ああ、わかった。また後でな」
「仮眠したらすぐ出るよ。忙しいからな」

中庭に消えていくジョンに階段の上からベンは手を振る。

「・・・・・・無邪気なヤツだな」

一言つぶやくとベンは、はあ~、とため息をついてクラリスの部屋に向かった。面倒だったのだ。

†††

詰みゲー! 4-21


†††4-21

ジョン達の前に現れたお姫様は屋敷に入るなり、きょろきょろと辺りを見回し始めた。

「姫様、お行儀が悪いですよ」
「ああ、せやな。初めて見る屋敷やからついな」

そう言ってケラケラと笑う。更に姫は首を傾げて言う。

「おかしいなァ。ここにおるんはメイド以外は五人やって聞いてたんやけどなァ・・・・・・」
「兄は今、私用で出ています」

ベンのことだ。

「そおなんか、残念やな」

耳元の髪をくるくるといじりつつ、姫が正面を歩いていく。脇にはジョン達やメイドさんがずらりと並んでいる。
貴人ってのはこういう人のことを言うんだな、とジョンは心の中で不思議に納得する。他人に敬われるべくして生まれた存在。生まれながらのナントカってヤツ。

「レイン中佐から聞いたとは思うけど、ウチは今日からここで住むことになってる。その間ウチのことは王女やと思わんでええよ」
「えっと、それはどういう・・・・・・」
「敬語でなくて結構!・・・・・・ってことや」

クラリス姫は一声元気よく叫ぶとにこっと笑った。その言葉を聞いてシャープが声をかける。

「・・・・・・よろしいので?」
「もちろんや。二言は無いで。ウチは女やけどな」
「では、クラリス。あなたはここへ何用で来たのかな。ここはただの訓練場だが」
「父上がウチにここに行け、言うてん。なんや次世代の軍がどうのこうの・・・・・・。よおわからんかったけど、まあ仲ようしてや」
「なるほど・・・・・・。わかった」

ジョンはなにがなんだかさっぱりだったが、シャープにはわかったようだ。

「みんなもこれでええかな?」

クラリスが輝く目でぐるりと周りを取り囲む人間を見る。その瞳に若干の不安の光を宿していたのを見て、まずミリアが声を発した。

「あたしは歓迎するわよ」
<じゃあ、ボクも>

続いてキティ。更にロベルトがうなずく。声が出なかったのだろうか。最後にジョンが、
「もちろん歓迎だ。大人数の方が楽しいし」
許可した。
それを聞いてクラリスは大げさなまでにガッツポーズを取った。

「いよおぉぉぉぉっしっ!!みんなよろしゅう!」

こうしてクラリスは満面の笑みとともに屋敷の住人となった。

†††

詰みゲー! 4-20

†††4-20

異変は朝早くに起こった。

「大変よー!!!みんな起きなさぁーい!!!」

午前五時の屋敷に黒い魔女の声が響きわたる。

「うるせぇー!!!!今何時だと思ってやがるぅー!!!!」

それに対して寝ぼけた勇者(仮)の怒号が返る。
ジョンの怒号の後、屋敷に一瞬の静寂が訪れる。静かになった、寝よう、とジョンは布団をかぶり直す。
直後、ジョンの部屋の扉がバァーーン!というものすごい音を立てて開いた。
戸口には黒い鬼の影があった。

「起きろっつってんだろうがァッ!!!」

鬼がジョンの布団を一瞬で取り上げる。

「うぅっ、寒い。何だ?・・・・・・ああ、冬か」
「寝ぼけんなッ!」

がつんっ☆


***


「・・・・・・ミリア、なんか頭が痛いんだが」
「寝起きだからじゃない?」
「・・・・・・コブになってるんだが」
「寝てるときにベッドから落ちたんじゃない?」
「・・・・・・俺は布団で寝てるんだが」
「さ!早く支度してよ。今から王女様がいらっしゃるんだから」
「・・・・・・王女様?」
「そ」

ミリアに文字通り叩き起こされて、言われるまま身支度を整えていたジョンの動きが止まる。

「あと三十分で王女様がこっちに来るから。準備できたら玄関広間に来てね、じゃ」

ミリアは言うだけ言って、手をひらひらと振りながら部屋から出ていった。


***


三十分後、ミリアの努力の甲斐あって、屋敷にいたメンバー、ジョン、シャープ、ロベルト、メイドさん一同、が玄関広間に整列した。メイドさんも含めると中々の人数であり、「お出迎え」という雰囲気が出ていた。
ちなみにベンは仕事の都合で今はいない。
いざ玄関ホールに集合してみると時間は十分にあったので整列したまま、ジョン、ミリア、シャープ、ロベルトの四人は小声で話し始めた。

(まさか今日来るとはなあ・・・・・・)
(予想外だったな・・・・・・)
(私は昨日再三言いましたが・・・・・・?)
(そうだったっけ?)
(そんなことはなかろう)
(だよねえ!)
(言いましたよ!忘れないでください!)
(アンタたち、静かに!)

ひそひそ話を始めたジョン達をミリアが小声でたしなめる。しかし、三十分後に着く、と言われて二十五分後時点から整列しているのだ。五分間待っているだけではあったが、やや退屈であった。

(王女様がいらっしゃるのよ、王女様!粗相があったらダメじゃないのーっ!)
(どうしたんだよ、ミリア。いつもだったらお前が一番だらけるところじゃないか)
(あたしがいつだらけてるってのよ、ああん?)
(いえ・・・・・・)
(だって、王女様よ?女の子の憧れなのよ?そりゃあ、尊敬もするわよ~)

ミリアが目を輝かせた瞬間、玄関のドアノブががちゃり、と音を立てて回った。


***


屋敷の人間が勢ぞろいして待っている前で、がちゃりと屋敷の玄関扉のドアノブが回った。
扉を開けて、ゆったりとした服を着た・・・・・・

おばあさんが入ってきた。
ジョンは一瞬、この人が王女!?かと思ってビビったが、おばあさんが脇に退いてドアを開けたのを見てようやく彼女が侍女であることに気づいた。

「どうぞ、クラリス様」

すると、ドアの向こうから紫色のドレスを着たお姫様が現れた。
さらりと肩まで垂らした黒の髪に、白い帽子、白い手袋、両耳に真珠のピアス。
何よりも印象に残ったのは彼女の容姿ではなく、緑の瞳に宿した強い意志だった。

「ウチがクラリスや!よろしゅう!」

†††

詰みゲー! 4-19

†††4-19

結論から言ってそれから十日が経っても庭のひまわりは咲かず、賭けは続行していた。二人とも毎日欠かさずひまわりの前に立ってはそれは念入りに観察した。
稽古はどうかというと、ジョンはシャープの指示通りに剣術、槍術、短刀術、馬術、弓術、魔術etc・・・・・・の訓練をキッチリとこなし、シャープの眉を細めさせた。
ジョンたちが屋敷に来た二日目からメイドさんがやってきてくれたのだが、ジョンの知らないところでシャープが彼女にこっそりと語ったところによると、
「あいつは才能がある!もう少し鍛える時間があれば、もっといろんなことを仕込むんだが・・・・・・」
だそうだ。

ベンとミリアは時々『屋敷』を出て外の仕事を片づけている。レイン中佐が取りはからって仕事を回さないようにしたそうだが、まだ色々と残っているようだ。何の仕事かというと、『橋(グランドブリッジ)』の周りの整理をしているようだ。
兵糧や武器の調達・配備、建造中の城壁の修繕、地形の観察・報告、その他・・・・・・、ちらっと聞いただけでジョンは頭が痛くなった。

結果として、ミリアとベンが『屋敷』に来るのは彼らが眠るときだけになった。時間の流れの遅い『屋敷』の中では外では仮眠しかとれないような短い時間でも、十分な休息をとることができた。
ベンはそうでもなかったが、ミリアはちょくちょく『屋敷』に来た。、ひまわりのチェックと昼寝だけをして帰っていくことが多かったが。

これがジョンたちがロベルトの固有魔法、『隠者の忍び屋敷(ハイドアウトマンション)』に入って十日ほどの日常であった。
しかし、ここにきてこの日常が大きく変わる。
クラリス王女の襲来である。

†††

詰みゲー! 4-18

†††4-18

ミリアとジョンはひまわりを探して庭園の中を歩き回っていた。

「・・・・・・よりどり緑だな。ほとんどジャングルじゃないか」
「羽虫もけっこういるしね」

あちこちに置かれた鉢植えや、地面に直接植えられた木々の間を縫うようにして二人は歩いていった。

「この辺だと思ったんだけどなあ・・・・・・」
「そろそろいいだろ。あんまり音を立てるとみんな起きちまうよ」
「もう少しだけ・・・・・・。あっ、あった!」

えっ、と驚いてジョンがミリアの指さす方向を見ると確かに二本のひまわりが別々の鉢植えに入れられていた。

しかし、花は咲いてはいなかった。

「咲いてない・・・・・・」
「時期じゃなかったんだよ。これでいいだろ?もう戻るぞ」
「よくないわよ。そうだ、これからこのひまわりがいつ咲くか毎日見に来ましょうよ。それがいいわ」
「やだよ。めんどくさい」
「そんなこと言わないでよ。あたしがやりたいんだから。ジョンもやりましょうよ」
「だったらミリアが一人で見ればいいじゃないか」
「あたし一人だと忘れちゃうのよ。ジョン、お願い!」
「・・・・・・」
「お願い!」
「・・・・・・」
「わかったわ。じゃあ、賭けをしましょう」
「わかったわじゃねえよ。賭けってなんだよ」

賭けとか勝負とか本当に好きだなあ、と思いながら自分よりやや背が低く、目がやたらと輝いている女の子を見る。

「先にひまわりが咲いているのを見た方が勝ち!どう?やる?」
「勝ったら?」
「敗けた方に一つお願い事ができる、ってのは?」

ミリアはこれ以上ないほどに歯をむき出しにしてニヒヒヒヒ、と笑う。

(本当に楽しそうな笑顔だ。自分が負けるなどとは微塵も考えていない。・・・・・・それを負かすのも面白いな)

ジョンもミリアと同じようにニヒヒヒヒと笑った。

「よし、乗った」
「はい、じゃあ決定!」

ミリアが握り拳を突き出し、ジョンはそれを拳で軽く突き返した。

†††