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詰みゲー! 4-31

†††4-31

ジョンが具象化を覚えた四日後の朝食。
食堂にはジョン、シャープ、クラリス、ロベルトがいた。ミリアとベンは仕事。

「ロベルト、この後の予定は?」
「ありません。私は常にここにいるよう言われておりますので」
「では、ワシからレインに言伝があるんだが、頼めるか?」
「ええ、もちろん」
「言伝って?」
「お前のことだ、ジョン。お前の伸びが思ったよりも速くてな。次の段階へ進むに当たって準備をしたいと思ってな」
「どんな準備なんや?」
「クラリスも興味があるのか?」
「いや、面白そうやったら見よかな思て」
「面白くないよ。どうせロクでもないことだし」
「それがええんやんか。ウチ、ジョンが困ってるとこ見んの好きや」
「いい性格してるぜ・・・・・・」

***

朝食を終えて、道場にて。

「さっきも言ったが、ワシもまさかお前が一月足らずでここまで伸びるとは思わなんだ」
「いやあ、それほどでも」
「ウチも思わんかったわ」
「そんなにつき合い長くねえよ」
「さて、今日はいよいよC級の魔術師としての最大の関門に挑戦する」
「最大の関門?」
「そうだ。これができるか否かで魔術師の強さが変わる」
「固有魔法か?」
「いや違う。それはA級とB級の境界だ。今からやるのはB、C級の境界・・・・・・」

シャープの口元がにやりと歪む。

「属性魔法と『譜(スペル)』だ!!」
「楽しみやなあ~」

†††

詰みゲー! 4-30

†††4-30

「よーし、ジョン。稽古を始めるぞ。マテリアルの作成だ。具象化と呼ばれる」
「マテリアルって魔力を具象化させた物体だよな」
「そうだ。無属性魔法、と言えば大体これのことだ。魔法の基本にして最も重要な技術と言えるな」
「よーし、いってみよー!」

道場に響きわたる声でジョンが気合いを入れる。

「まずは手本だ。よく見ておけ」

そう言ってシャープが手を前に出す。稽古を積んだジョンには、シャープの手が魔力を帯びていることが視認できた。
魔力は気体や液体、ましてや個体などといった現実の物体とは異なる「なにか」だ。形すらない。ジョンはそれを表現する適切な言葉を知らなかったが、数週間にわたる稽古で存在を感じ取ることはできるようになっていた。

手の魔力が徐々に「現実性」を、強いて言えばどろどろとした粘性のようなもの、を纏いだした。
現実性を帯びた魔力が、液状になり、次に手のひらで沸き立つ。

「面白いだろう?」

食い入るように掌上のショーに魅入っているジョンにシャープは笑いかける。ジョンは視線を外さずにうなずいた。

「具象化は魔術の基礎でありながら無限の可能性を秘めておる。まあ、最も単純な例を見せよう」

掌の上で沸き立っていた魔力が勢いを鎮める。
シャープは一度手を閉じると、今度は勢いよく開いた。それと同時に大量の魔力を放つ。
そして風船程度の大きさでハチミツほどの粘性を持った流体が、シャープの顔の前でふわふわと浮かぶ。シャープのその様はさながら大きなシャボン玉か風船を披露するピエロのようだ。

「具象化には段階がある。魔力の段階、半具象の段階、完全に具象化した段階、これはまだ半具象の段階だ。だからまだ意志の力で魔力に戻すこともできるし整形することもできる。こんなふうにな」

そう言ってシャープは風船を手に取り、鳥や剣、人の顔などに変えて見せた。
最後に風船の一つを槍に変えてシャープは続ける。槍はまだふわふわと浮いている。

「そしてこれが完全な具象化だ」

シャープの手が重力に逆らえなくなった槍を受け止める。

「こうなっては魔力に戻すのは一苦労だ。魔力に還元するためにエネルギーとして魔力を消費する必要がある」
「なんじゃそりゃ。どういうこったい?」
「例えば、剣を作るときには鉄を溶かすよな。溶かすとなると熱、つまりはエネルギーが必要だ。その熱が今で言うと魔力でまかなわれるワケだ」
「へー・・・・・・」
「具象化したマテリアルは術者の望んだ性質を有する。・・・・・・まあ、能力次第というところもあるがな」
「たとえばどんな性質があるんだ?」
「例えばかなり頑丈で、なおかつ軽い物体なんかを作ることができる。そういったマテリアルを鎧にしたり、家や道路、それから城なんかにも要所要所で使われたりしている」
「要所要所?全体的に使えばいいじゃん」
「具象化魔法は確かに初歩だが、だからと言って誰でも『使いこなせる』かと言うとそんなことは全くない。何を作ってもふにゃふにゃしたワカメみたいなマテリアルしか作り出せないんじゃ、しょうがないだろ?そんな連中に家の建造などは任せられない」
「じゃあ、できる連中でやればいいじゃん」
「確かにそうだが、一般的には魔力量の制限がある。人間が抽出する魔力量は多くはないのだ」
「抽出?」
「魔力は食べ物や空気などから取り入れられると考えられている。その魔力を獲得する過程を『抽出』と呼ぶのだ」
「へえ」
「ちなみに魔力はこの世界では通貨としても使用できる。覚えておけよ」
「へー・・・・・・、面白い」
「まあ、最近の話だがな」

そこでシャープは無駄話を打ち切るように、さきほど作った槍を立てた。

「実は具象化はけっこうな魔力量を食う。当然と言えば、当然だがな」
「当然なのか?」
「まあな。さてこの槍だが、特に何の特性も与えていない。頑丈さだとか、軽いだとか、そういったものをな。だから・・・・・・」

シャープはいきなり槍を膝蹴りでへし折った。真っ二つになった槍を見せてシャープが続ける。

「この通り、非常に弱い。魔力消費は少なくて済むがな」
「いや、あんたが強すぎるんだよ。ヒザは大丈夫なのか?」
「問題ない。・・・・・・話を戻すが、これに頑丈、とか軽量化、とか意志を持たせていくと必要な魔力量が跳ね上がってくる。お前なんてすぐにガス欠だ」
「この世界に何でガス欠なんて言葉があるんだよ」
「で、わかったのか?」
「はいはい。・・・・・・ところでシャープの魔力量って多いの?」

ジョンは自分の師匠である老人の強さがどの程度なのか知りたくなった。

「多いとか少ないとか、そういう考え方はあまりしないな」
「は?どういうこと?」
「さっき言ったように魔力は限定的ではあるが、通貨として使用できる。例えば、列車だな」
「列車ァ!?列車がこの世界にあんの!?」
「ああ、あるぞ。先の戦争の遺物だ。現在は便利な長距離移動手段となっている」
「・・・・・・まさか飛行機なんてないよな?」
「ヒコーキ?なんだそれは?」
「空を飛ぶ乗り物だよ。無いのか?」
「いや、あるぞ。飛行船だな。これは高いくせに遅い代物だ。金持ちの道楽にしか使われんよ。・・・・・・お前、乗りたいのか?」
「ちげーよ。・・・・・・ああ、なんかイメージ壊れたなあ」
「ははは。おや?脱線してしまったか。元の話題は・・・・・・そうだ、魔力量の多寡だったな」
「そんな話してたっけ?」
「してたぞ。通貨として使用されるということは魔力は買えるんだ。だから極端な話、歴戦の強者よりも金持ちのボンボンの方が魔力量は多い、という場合さえ考えられる」
「ほー・・・・・・」
「・・・・・・さてと。無駄話はここまでだぜ、ジョン」

そう言ってシャープはにやりと笑みを浮かべる。ジョンは、げ、と顔を歪ませた。何度もこの意地悪い笑みを見てきたからだ。

「お前の魔力を具象化してみろ!」



その五時間後、ジョンは具象化を修得した。


†††

詰みゲー! 4-29

†††4-29

「?」
「どうしたのよ、ジョン」
「クラリスだよ。入り口のところにいるだろ?」
「そうね、なにかしら」

そのとき、ジョンとミリアは道場で組み手の訓練をしていた。シャープはまだ朝食中だ。
稽古まであと一時間以上はあったが、気晴らしに一つ、と組み手をしていた。
ジョンとミリアがクラリスの存在に気がつくと、視線に気づいたクラリスがこちらに歩み寄ってきた。

「ちょっとミリアを借りてもええかな、勇者くん?」
「え?ああ、まあ、俺はいいけど・・・・・・」
「何かあったの?」
「何もないよ。大したことやない」
「・・・・・・まあいいわ。悪いわね、ジョン」
「おおきに。堪忍な、ジョン」

***

「ちょっと頼みたいことがあんねん」
「頼みたいこと?」

道場を出て二人は、色とりどりの花が咲き乱れる中庭を横切っていく。

「ごめんやけど、ウチの部屋に入って荷物を取ってきて欲しいねん」
「え?どういうこと?」
「まあその・・・・・・、部屋の鍵をなくしてしもうてん。それで部屋に入れへん」
「ああ、なるほど。それであたしの魔法で入って取ってこいと・・・・・・」
「ええやろか?」
「もちろんよ。それくらいお安いご用だわ」
「そおか!おおきに!」
「それで何を取ってくればいいの?」
「メガネや。ウチ目ぇ悪いんや」

***

「・・・・・・おおきに。助かったわ」
「いいのよ」
「あの・・・・・・もうひとつええかな?」
「なに?」
「できたら・・・・・・、ウチと友達になってくれへんかな?」
「え?」
「いや、だからほら、ここって女の子少ないやん?メイドさんとかおるけど、それはまたちゃうって言うか・・・・・・」
「あたしと?友達に?」
「あかん?」
「いえ、そうじゃないけど・・・・・・」
「けど?」
「うーん。聞いてないかしら?ほら、あたし東狼団のメンバーなのよ」

その言葉はミリアがクラリスを慮って発したものだった。もしも、クラリスが東狼団の中心メンバーと親密な間柄にでもなろうものなら、彼女は陰口を言われてしまう。
ジョンについてもまあ、同じなのだが。

「なに言うてんねん。そんなん気にするほどウチは器量狭ないで?」
「でも・・・・・・」
「ウチはミリアと友達になりたいんや。・・・・・・ミリアは?」
「あ、あたしも・・・・・・」
「おんなじ?」

ミリアがこくりとうなずく。

「あたしここに何日かいたんだけど、どうも男が多くて・・・・・・。メイドさんとも話したりしたんだけど、どうにもかみ合わなくて・・・・・」
「あはは、おんなじや」
「そうなの?・・・・・・じゃあ、あたしからもお願い。友達になって?」
「こちらこそや、ミリア!」
「ありがとう、クラリス!」

二人はがしっと手を取り合って同時に宣言した。

「ウチらは今日から友達やで!」
「あたしたちは今日から友達よ!」

†††

詰みゲー! 4-28

†††4-28

「なんやて?クラリスに言うたことがホンマか、やて?」
「はい、陛下」

上国国王グレゴリオは自室にて側近の参謀官が発した質問をそっくりそのまま聞き返した。
参謀官の表情を見て王は鼻を鳴らした。

「わかってて聞くな。嘘に決まってるやろ」
「やはり、ですか・・・・・・。娘にくらい嘘をつくのをやめませんか?」
「やめへん。本当のこと言うてどうなる?あいつは聞かんで」
「まあ、そうでしょうな」
「わかってるんやったらとやかく言うな」
「わかりました。・・・・・・例の件ですが」
「報告がきたんか」
「はい」
「そうか。報告書を持ってきてくれ。目ェ通しとくさかい」
「承知しました」

†††