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詰みゲー!4-41

†††4-41


深夜に屋敷から抜け出そうとしたジョンはあえなくオーレンに見つかってある部屋に案内されました。

「失礼しまーす」
「あら、もう来たの?」
「あれだけ脅したのになァ……。ワシの負けか」
「はい。早く一万ゴールド払ってください、准将」
「私にもですよ」
「くそおおおぉぉぉ・・・・・・」

目の前の状況が理解できずに入り口に突っ立ったままのジョンであった。


***


「ジョンがどれくらいで屋敷から出ようとするのか賭けておったのだよ」
「いえ、また出ようとするのかどうかで賭けたのよ」
「結果は私たちの勝ち。儲かったわ、ありがと」
「・・・・・・ただの賭けでこんな夜中まで起きていたんですか?」
「まさか。賭けはただの暇つぶしよ。本題はこれから。・・・・・・オーレン、彼女を」
「わかりました」

彼女って誰だ、とか疑問に思う間もなくレインがジョンに話しかける。

「ジョンはスキルを使えるようになった?」
「いや」
「じゃあ、スペルは?」
「シャープに聞いたんだろ?どっちもまだだよ」
「そうイライラしなさんな。本来は習得に何年もかかる代物よ。三ヶ月くらい経ったかしら?その程度で覚えられるわけがないのよ」
「え?そうなのか?」
「ああ。だからワシも別に期待はしてなかった」
「早く言ってくれよ。俺には才能が無いんだと思ってめちゃくちゃ落ち込んでたんだし、焦ってたんだぜ?」
「それはすまなかったな。水虫が心配でそこまで気が回らんかった」
「弟子より自分の水虫かい!」
「・・・・・・とにかく、ここいらで両方覚えときましょう」
「は?どうやって?習得には何年もかかるんだろ?『隠者の忍び屋敷<ハイドアウトマンション>』でもせいぜい一年しかいられないぞ?」
「フッフッフ・・・・・・。まあ、見てなさい」

その時、部屋の奥か眠たそうに大あくびをする少女が現れた。

「なによ、こんな時間にたたき起こして・・・・・・。起こされるこっちの身にもなってよね・・・・・・」
「ごめんごめん。でもあなたもババ抜き一緒にやればよかったのよ」
「いやよ、そんなジジ臭い。いや、ババ臭い・・・・・・?とにかく、徹夜なんて真っ平だったのに、起こされるなんてっ」
「ごめんって。魔譜の値上げを上に掛け合ってあげるから」
「マジで?やったー!レイン大好き♪」
「調子いいわねえ、全く・・・・・・」

ぽっかーんとしているジョンにレインが気づいた。

「ああ、ごめん。彼女はえーと・・・・・・」
「ヒドい!親友の名前を忘れるなんて!あたしはアニーよ。アニー・ミルキーウェイ」
「これはどうも。・・・・・・ジョンです」
「ジョンだけ?」
「・・・・・・今のところは」
「おや?サッキー・ジョンでは?」
「アンタは親友の名前から覚えろ!」
「さーて、ジョン君・・・・・・」
「う・・・・・・。なんですか、アニーさん」
「君はいつもどんな夢を見ますか?」


†††
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詰みゲー! 4-40

†††4-40


つかつか、つかつか。

ジョンがもの凄い早足で屋敷の廊下を歩いていく。屋敷を出る前にミリアが買ってきた服を着て。今まではやや気恥ずかしくて敬遠していたその服の帯を思い切り締めて。

ジョンは玄関扉の脇に立っているロベルトを見つけた。

「おはよう、ロベルト」
「おはよう、ジョン」
「鍵くれ」
「断る」

しばらくジョンとロベルトは睨み合った。
やがて、ロベルトが口を開く。

「確かに手紙を見せたのは私だ。だが、それはお前には知る権利があると思ったからであってお前に助けに行ってほしかったからではない」
「ああ。わかってる。別に助けに行く気なんか無いさ。ただ新しい服を買いに行きたいだけだ」
「・・・・・・ミリアが買ってきた服か?似合ってるじゃないか。勇ましい服だ。・・・・・・さっさと道場に行って稽古してこい。お前ではまだ彼女は助けられん」
「だったらいつ助けられるんだよ?ベンジャミンか、シャープくらい強くなれば行ってもいいのか?一体何年かかるんだよ」
「私にあたるな。私だってつらいんだ」
「はっ」

ジョンは足下にあった椅子を蹴っ飛ばした。
そのとき、会議を終えたシャープ、レイン、オーレンが二階から下りてきた。

「あら、ジョン。椅子が嫌いなの?」
「ああ、大っ嫌いだね」
「こりゃあ、大分キレてるな。お疲れ、ロベルト」

オーレンの労いの言葉にロベルトは黙って会釈した。

「ジョン、いい加減にせんか。ワシらだってお前のことを・・・・・・」
「やかましいッ!」

子供を諭すようなシャープの言をジョンは遮った。

「ミリアを助けるのか、助けないのか、どっちだ!ハッキリ言葉にしろ、シャープ!」
「助けん。ミリアは見捨てる。これがワシらの決定であり軍の決定だ」
「ふざけんな!」
「ふざけるわけなかろうがッ!」

ジョンの罵倒にシャープの堪忍袋の緒が切れた。

「ミリアのことでワシがふざけるわけないだろうが、小童が・・・・・・。ミリアを助け出したいのはお前だけだとでも思っているのか!思い上がりも大概にしろ!」
「ミリアが死ぬんだぞッ」
「構わん!」

シャープの怒鳴り声を聞いてジョンはシャープを睨み、足早に自室へと戻っていった。


***


深夜。
午前二時を時計が示した時、ジョンはむくりと何の前触れもなく起きあがった。そのまま十分間ほど自分が何をしようとしているのか改めて考えて、ベッドから床に足を下ろした。

その時に限ってやたら軋むドアを開けてジョンは廊下に出た。ひたひたと冷えた素足が妙な足音を立てた。手に持ったランプの灯りで写った自分の影がおどろおどろしくゆらめく怪物のように見えた。
ロベルトの部屋の前まで来てジョンはためらうことなく、ドアノブを回した。
部屋の右の方からロベルトの寝息が聞こえた。ジョンは彼が起きないようにできるだけ静かに部屋の左側へ移動し、そこにある棚を次から次へとひっくり返すように物色していった。
本職の泥棒ではないジョンはおおいに緊張し、おおいにもたついていた。しかしそれでも、部屋の主が起きなかったことが幸いしてジョンはお目当ての「鍵」を手に入れた。

意気揚々と部屋を出たジョンはそのまま玄関へ向かうと鍵をドアノブに突っ込んで回そうとした。
が、鍵は回らなかった。

「え・・・・・・?」

その後も何度も何度も試すが鍵は回らなかった。ジョンは鍵をじっくりと見直したが、それは大きさや装飾のデザインがミリアが何度見せてくれた鍵にそっくりだった。
鍵は合っているはずなのに回らなかった。

「くそぉっ!」

ジョンは鍵を床に叩きつけた。
するとその鍵を拾う手があった。

「ダメじゃないか。物を乱暴に扱っては」
「オーレン・・・・・・。起きてたのか」
「ついてこい」


***


すたすたと歩いていくオーレンの後ろを歩きながらジョンは尋ねる。

「なんでまだ起きてたんだ?」
「君を待っていた」

振り返ってオーレンが微笑む。

「君なら諦めずに出ようとするだろうと思ってね。鍵を盗るってのも予想してたうちの一つだよ」
「他にはどんな予想を?」
「まあ扉を力づくで、とか、誰かが帰る瞬間に、とか、かな」
「その手があったか」
「フフ。どうして鍵が使えなかったかわかるか?」
「わからない。違う鍵だったんじゃないの」
「惜しい。ここの鍵は<鍵番>との契約を示す『譜<スペル>』が必要なんだ。君は契約したか?」
「いや。俺はそもそもスペルを修得してないから……」
「まあ、落ち込むな。何事もこれからだ。どう進むか、が肝心なのだ」

そう言ってオーレンは一つの扉の前で立ち止まる。ジョンも止まった。

「昼間のシャープの話、どうだ?納得いったか?」
「いや、俺には無理だ」
「よし」

オーレンはどん、とジョンの背中を叩くと目の前の扉を指さした。

「入りな」


†††

詰みゲー! 4-39

†††4-39


翌日の朝。

屋敷の一室でシャープ、レイン、オーレンの三人が長机を囲んで話し合っていた。シャープが「ジョンに手紙を読まれてしまった」と言って、二人を呼んだのだ。シャープはついでに外の状況も確かめるつもりでいた。

「すまんね、今忙しいだろうに」
「いえ、構いませんよ。ジョンにはショックだったでしょう。ジョンはどうなったんですか?」
「ああ、昨日はミリアを助けに行くと喚いていたが、まだ眠っている。目を覚ませばどうなることか・・・・・・」
「どうやって助け出すと?」
「さあな。ワシは聞いとらん」
「・・・・・・だから手紙はくれぐれも隠すようにと・・・・・・」
「まあまあ、オーレン。過ぎたことだわ。准将を責めてはダメよ」
「すまんな、大尉」
「・・・・・・いえ、こちらこそ言葉が過ぎました」
「・・・・・・さて、何が起こったのか聞きたいのだが」
「はい。ブリッジの第一防護壁に穴が開きました」
「どいつにやられた?」
「クイーン級の魔物です。詳細はまだわかりません。どうも未確認の個体のようですね」
「そのクイーンは無力化できたのか?」
「ベンジャミン中尉に封じてもらいました。今はオネ平野(第一と第二防護壁の中間の平原)で停止しています」
「どのくらい保つ?」
「二、三週間はいけると」
「よし。穴は塞いだか?」
「はい。ペパル准将の指示で」
「穴から魔物はどの程度侵入した?」
「ざっと五千」
「そうか。まあ、軽微な方だったな。キングの指示で侵入したと思うか?」
「はぐれたクイーンがただ暴走しただけではないか、という見方が大半ですね。キングが絡んでいれば万単位の敵が押し寄せるはずだ、と」
「それで中佐と大尉は?」
「・・・・・・私たちはキングの指示があった、と見ています」
「理由を聞いても?」
「防護壁はたとえクイーンでもそう容易く破れるようにはできていません。はぐれただけの個体がそこまでするとは思えないというのが一点。全力で壁を殴るわけですからね。私ならイヤです」
「・・・・・・そうか。もう一点は?」
「あの日、ミリアが大量のスキル保持者を連れてオネ平野北側で中間拠点の増設・補強の作業を行っていたのです。今回の襲撃で優秀な工兵がごっそり行方不明になりました。・・・・・・正直、偶然とは思えません」
「オネ平野は広い。工兵が作業していたら運悪くすぐ近くの壁が破壊されて襲撃されるなんてあまりに出来過ぎている、と?」
「何もそこまでは。ただ運が悪いの一言で片づけらていいとは思えません」
「まどろっこしいことを。本音は何だ。ハッキリ言え」
「・・・・・・間者が紛れ込んでいるかと」
「そうだ!ようやく認めたな」
「・・・・・・本当に裏切り者がいると?」
「いる。むしろいなければおかしい。・・・・・・中佐、間者が誰か探ってくれないか?」
「え、私がですか!?」
「ああ、まあ、多忙であれば誰か信用のおける人物に任せてもいい。とにかく私は中佐に依頼したいのだ。他の連中はしたたかな狐か尻尾を振るだけの犬かどちらかだからな。中佐のような者は少ない」
「・・・・・・わかりました。ではこの件はオーレンに任せます。・・・・・・いいわね、オーレン」
「お任せください、お嬢様」
「任せたわよ」
「ふむ。オーレンであれば安心だ。頼むぞ」
「はい。裏切り者をすぐにでも明らかにして見せます」


***


「さて・・・・・・、ひとまず、差し迫った対応については意見がまとまったな」
「これでなんとかなります。お時間をとりました」
「いや、時間ならある。ジョンが・・・・・・アレだからな。稽古がつけられん」
「詳しくは聞きませんでしたが、ジョンはどんな様子ですか?」
「手紙を読んだ直後、ミリアを助けに行くと喚いていたことは話したな?」
「ええ。それで今は眠っていると」
「実は昨日はあまり騒がしいんでワシが殴って気絶させたんだ」
「え・・・・・・?」
「そんな顔するな。傷つくだろうが」
「す、すみません。それで?」
「そのまま眠っておる」
「はあ・・・・・・、かわいそうに・・・・・・」
「・・・・・・オーレン大尉、おぬしはどう思う?」
「何がですか?」
「ジョンはミリアを助け出せるか?」
「限りなく不可能に近いでしょうね」
「レイン中佐は?」
「・・・・・・ジョンはどの程度まで仕上がったんですか?」
「体術はそこそこ、魔術は具象化まで」
「さすがにその程度では話にならないでしょうね。魔物と遭遇した瞬間に死ぬでしょう」
「スペルとスキルを習得したら?」
「その場合でもどんなスキルか見てみないと」
「まあそうだな」
「・・・・・・どうしたんですか、シャープ准将。何かお考えでも?」

シャープはにやにやといつもの意地の悪い笑みを浮かべた。

「耳を貸せ」


†††

詰みゲー! 4-38

†††4-38


平野と裏庭をつなぐ門が大きな音を立てたのでシャープが振り向くと、走ってきたのだろうか、ロベルトが息を切らせて門を開けていた。それを見て門の近くにいたシャープは馬から下りた。ジョンは門にもロベルトにもまだ気づいていない。

「どうしたんだ、ロベルト。そんなに慌てて・・・・・・」
「シャ、シャープ、ちょっと来てくれ」

ゼエゼエ喘ぎながらロベルトはシャープに歩み寄り、一枚の紙切れを差し出した。シャープは眉をひそめつつその紙切れを受け取った。
その紙切れは一通の手紙だった。
シャープは「例のアレ」についての手紙だと思ったが、すぐに打ち消した。その手紙が緊急時に用いる赤封筒に入っていたからだ。

無言で手紙を受け取り、封を切る。赤封筒ということもあってシャープも多少の覚悟を持って中身を読んだ。
しかし、その手紙はシャープの予想よりはるかに悪い内容の手紙だった。

手紙の内容を要約すると、以下のようになる。

『橋<ブリッジ>』がクイーン級の魔物に襲撃されて大打撃を受けてしまった。その際に魔物に侵略された地域で活動していた国軍隊員が多数行方不明になったこと。
その中にはミリア・ワッフルワイン小尉も含まれていること。
ジョンの今後の成長の妨げになる恐れがあるため、親しい間柄であった小尉の消息については秘匿すべきであるということ。

シャープは手紙を握りつぶした。


***


シャープは手紙をぐしゃりと握りつぶし、震える手で白いあごひげを撫でつけた。
ロベルトが不安そうな表情でシャープを見る。

「いったいどんな内容だったのですか?」
「・・・・・・」

シャープは黙って大尉からの手紙をロベルトに見せた。手紙を読むにつれてロベルトの顔が大きく歪む。

「ミリアが・・・・・・!」

手紙を読み終えたロベルトはキッと顔を上げると、シャープが下りた馬の鐙(あぶみ)に足をかけた。

「おい、何をしている」
「見てわかるでしょう。馬に乗ってます」
「・・・・・・どこへ行く」
「ジョンの所へ」
「なぜ」
「・・・・・・お察しの通りですよ」
「命令違反だぞ」
「そうですね」

肩をすくめるロベルトを見て、シャープはため息をつき、ひらひらと手を振った。

「わかったよ。好きにしろ。尻拭いはしてやる」
「すみません」
「いいさ、ワシが言う手間が省けた」

ロベルトは泣きそうな顔で苦笑すると、鞭を振るってジョンの所へ馬を走らせた。


†††

詰みゲー! 4-37

†††4-37


ミリアが屋敷を去った一週間後。つまり屋敷の中で一ヶ月以上が経った頃。
道場にて。


「こんなものか!ジョン!」
「まだまだァ!」

ジョンとシャープが槍を突き合う。ぶつかり合った槍ががんがんと音を立てる。途切れることなく突きを繰り出すジョンの槍をシャープは流れるような捌きで受け切った。

(ミリアがいなくなって動揺するかと思っておったが、結局は杞憂だったか。ここに来たときにあった暗さまでもが消えている)

ぱっ、と槍を持つ手を離して、ジョンが前に出る。シャープは間合いを取るために跳び退いて距離を取った。槍は間合いはあるが逆に詰められると弱い。

(迷いもない。これもやはりミリアのおかげだろうな。あの子と日々を穏やかに過ごして心に余裕ができたのだ)

距離を取りながらいくつもの突きを繰り出すシャープに対して迷わずに距離を詰めるジョン。猛スピードで突っ込んでくるジョンにシャープが槍を突き出す。
が、ジョンはひらりと紙一重でそれを躱し、シャープの目の前に裏拳を
寸止めした。

「・・・・・・よくやったな、ジョン」

ジョンが照れて薄く笑みを浮かべる。ジョンは以外に照れ屋だ。

「だが、やはりまだまだ」

そのとき、ジョンはようやくシャープの槍の尻が自分の喉元に突きつけられていたことに気づいた。


***


ミリアが屋敷を出ていってから一ヶ月の間、ジョンはやはり修行漬けの毎日を送っていた。食事、風呂、睡眠とわずかな自由時間以外はずーっと稽古である。
それでも未だに『譜<スペル>』は何一つ扱えるようにはなっていなかった。
仕方ないのでシャープは体術の稽古を少し増やした。ただ強引に練習量を増やせばいいという問題でもないからだ。

その日の午後は平野で馬上での戦闘訓練を行っていた。
ジョンは馬に乗りながら槍と剣を振り回している。まだ少しバランスが取りづらいようだ。
シャープは遠くからジョンが苦戦している様子を見守っていた。

(まだレインに頼んだ「例のアレ」は来ないのか・・・・・・。いくらなんでも遅くはないか・・・・・・?まだ時間はあるが、このままではジョンが仕上がるのよりも先にブリッジで戦が始まってしまうぞ)

などとシャープが思っていた矢先のことだった。

ばん!

大きな音とともに、裏庭から平野への門が乱暴に開けられた。そこには目を血走らせたロベルトが立っていた。


†††

詰みゲー! 4-36

†††4-36

屋敷の玄関ロビーで大きな鞄を持ったミリアが立っていた。それを見送るためにジョン、シャープ、ロベルト、クラリス、キティが集まっていた。ベンは外の世界にいる。ベンにはいずれ知らせることになるだろう。

「じゃあね、みんな。元気で」

ミリアが全員に別れを告げ、ポケットから小さな鍵を一つ取り出した。

「ロベルト。はい、鍵を返すわ」
「持っていてください」
「でも、あたしはもう・・・・・・」
「持っていてください。あなたはここの住人です」
「・・・・・・ありがとう、ロベルト」

ミリアはロベルトから鍵を返されると、シャープが普段の威勢のいい声とは打って変わったつらそうな声を出した。

「さみしくなるな」
「そんなこと言わないでください、シャープ。またいつか指導してくださいね」
「うむ。いつでも指導してやろう。待っておるぞ」
「はい、必ず行きます」

シャープと約束すると、ミリアは沈んだ様子のクラリスとハグした。

「ミリア・・・・・・」
「クラリス、笑ってよ。せっかくの美人が台無しだわ」
「・・・・・・こうかなぁ?」
「うん。それでいいわ。きっとジョンくらい簡単に落とせるわよ」
「うぅ。がんばるわ」
「がんばって!」

クラリスに小声でささやくとハグを解き、飼い主を見上げる黒猫の目を上からのぞき込んだ。

「ごめんね、キティ。どうしても連れていけないの」
<ミリアぁ・・・・・・!>
「キティ・・・・・・!」

ミリアは飼い猫を力強く抱き上げた。

<ミリアぁ、行かないでよ・・・・・・>
「ごめんね、キティ・・・・・・」

ミリアはキティを下ろすと、指を一本立てた。

「代わりに何でも一つ言うことを聞いてあげるわ。何がいい?」
<ミリアと一緒にいたい!>
「キティ・・・・・・」
「キティ、そのくらいでやめてやれ。ミリアが困ってるだろ?」
「ジョン・・・・・・」
<ジョンのバカ!本当はジョンだって、>
「ちょっと黙ってな、キティ」

ジョンはキティを抱き上げるとキティの口をムリヤリふさいだ。

「悪いな、キティ」
「ジョン、キティを頼むわね」
「ああ。ところでミリア、賭けの決着がついていないがどうする?」
「賭け?・・・・・・ああ、ひまわりのヤツ?」
「そうだ」
「・・・・・・もちろん、咲いてるのを見た方が勝ちよ」
「わかった。次に合う時を楽しみにしてるよ」
「はいはい。・・・・・・じゃあね」
「ああ。じゃあな」

ミリアは鞄を持って屋敷の玄関扉を開け、一度振り返り、全員に手を振ると、扉から外に出ていった。

†††

詰みゲー! 4-35

†††4-35

ジョンが午前中の稽古を終えて、平野から戻って(『屋敷』には中庭の奥に馬術訓練等に適した「平野」まである)、中庭を通ると、ベンチにミリアがまた無表情で座っているのを見つけた。


「・・・・・・今日はどうしたんだよ?」
「あら、ジョン。今日は馬術?」
「ああ、そうだよ。で、質問の答えは?」
「今日はどうしたかって?別にどうもしないわよ」
「座るぜ?」
「お好きにどうぞ」

ミリアが少しベンチを詰める。
ジョンはミリアが微妙に視線を外そうとしているように思えた。
視線をベンチの正面の梅の木あたりに固定したままでミリアが口を開いた。

「ねえ、ジョン」
「なんだ?」
「・・・・・・花蓮さんのこと、聞いていい?」
「・・・・・・ああ」
「どういうところが好きだった?」
「いきなりだな」
「いきなりよ」
「そうだな・・・・・・。たとえ、相手がどんな人間でも困っていたらつい助けてしまう・・・・・・、そんなところかな」
「ふぅん」
「なんだよ、変な目で見るな」
「具体的には?」
「・・・・・・ちょっと昔話をしたいなあー」
「どんな?」
「聞けばわかる」
「いいわよ」
「じゃ、遠慮なく。・・・・・・昔々、それはそれは酒癖の悪い男がおりました」
「変な冒頭ね」
「男はそれはそれは性格の悪い女と結婚し、しばらくすると男の子が一人できました」
「あら、おめでたい」
「男と女は男の子を置いてどこかに行ってしまいました。男の子が後で聞いたところでは、女は浮気、男は借金、とのことでした」
「へーえ」
「男の子はその後、親戚の家をたらいまわしにされました」
「あらあら大変ね」
「男の子に両親がいないことを知ると近所の子供たちはよってたかって彼にケンカを売ってきました。」
「つらい、つらいなぁ~」
「少年は売られたケンカは全部買う主義だったので、毎日ケンカに明け暮れていました」
「壮絶な幼少期ねえ」
「中学校に行く頃には少年の周りに敵はいませんでした」
「中学校?」
「中くらいのガッコ。少年は中学校でもケンカケンカの毎日でした」
「まさに仁義無き戦いねー」
「高校に上がる頃にはもう誰も少年とケンカしなくなりました。また家賃の安いアパートで一人暮らしも始めました」
「それはヤバいわね」
「少年はようやく手に入れた平穏な日々を孤独に有意義に過ごしていました」
「要はぼっちでしょ?」
「・・・・・・そんなぼっち少年はある日、風邪をひいてしまいます。当然、看病してくれる人などいません」
「ははは、マヌケね」
「・・・・・・」
「冗談よ。続けて続けて」
「・・・・・・。しかし、少年が目を覚ますと、一人の少女が目の前に座っていました。彼女が看病をしてくれていたのです。彼女は先生に頼まれた、と言っていました」
「あら、急に早口になって」
「・・・・・・こんな感じかな?ビビりながら不良の看病するような奴なんだよ、アイツは」
「嬉しかった?」
「・・・・・・ああ。・・・・・・当たり前だ」

ジョンはベンチから立ち上がって、思いっきり伸びをした。

「アイツのおかげで俺がどれだけ救われたか・・・・・・。今、俺が笑えるのはアイツのおかげだよ」
「そんなに?」
「ああ。アイツと出会わなければ俺は道を踏み外してただろうな」
「・・・・・・言い切れる?」
「ああ」

その返事を聞いた後で、ミリアもベンチから立ち上がった。

「ねえ、ちょっとひまわりを見に行きましょうよ」

***

「やっぱりまだ咲いてないわね」
「それでももうすぐ咲くぜ」
「わかるの?」
「わかる」
「ふうん。でもあたしはそれを見れそうにないわ」
「どうしてだ?」
「あたし、仕事が入っちゃってね。ここには戻る暇もないくらい忙しくなるのよ。だからここから出ていこうと思ってるの」

ジョンは驚いたようにひまわりを見るミリアの横顔を見やり、すぐに自らの視線もひまわりに移した。

「そう、か」
「荷物は全部持っていくわ。でもキティは置いていこうと思ってる」
「なんでキティを置いていくんだ。連れていけよ」
「忙しくてね。かまってられないのよ」
「そんなに忙しいのか・・・・・・?」
「うん」
「・・・・・・やめちまえよ、そんな仕事」
「そうもいかないのよ」

ミリアが首を振る。ジョンはミリアの目を見た。

「・・・・・・わかった。キティは置いていけ。世話くらいしといてやる」
「ありがと」
「メイドさんがな」
「あたしの感謝を返せ」
「やだね。まあ、でも無理するなよ。いつでも昼寝に来ればいい」
「・・・・・・ふん、生意気なこと言うわね。プータローのくせに」
「うるせえよ、さっさと出てけ。この魔女め」
「言ったわね」
「言ったぜ?」
「後悔させてやるっ。おらー!」
「うおっ、やめろ。杖で殴るなー!」
「まてこらー!」
「やーい、ここまでおいでー・・・・・・」
「まちなさーい・・・・・・」

ジョンはミリアから逃げて庭園の奥へ、ミリアもジョンを追いかけて後へ続いていった。きっと追いかけっこは昼ご飯まで続くのだろう。平和なことだ。
・・・・・・こんな平穏な日々がいつまでも続けばよかったのに。


†††

詰みゲー! 4-34

†††4-34

ミリアは一つ深呼吸してからドアをノックした。ワンテンポ遅れて中からはい、と返事が聞こえた。

「ミリアよ」
「どうぞ」

ミリアが中に入るとクラリスはいつもの場所でいつものお茶を飲んでいるようだった。

「いつもの?」
「せや。なんでわかったん?」
「いつもと同じ香りだからね。・・・・・・それにしてもどうしたのよ、クラリス。わざわざ手紙で呼び出すなんて」
「ミリア。折り入って、」
「話があるんでしょ?聞くわよ、折り入らなくても」

クラリスに対して正面に置かれたソファに座るように促されて、ミリアは礼を言いながら座り、クラリスが話し始めるのを待った。

「・・・・・・ウチな、その・・・・・・」
「?」
「・・・・・・。・・・・・・ジョ、ジョンが」
「ジョジョン?」
「いや、ジョジョンじゃなくて。その、ジョンが・・・・・・」
「ジョン?ジョンがどうしたの?」
「・・・・・・ウチ、ジョンが好きやねん」

クラリスはミリアを気遣わしげに見やり、ミリアはただ呆気にとられてぽかんとしていた。

「え・・・・・・?」
「ウチはジョンが好きや。ミリアは?」
「え、ええ!?あ、あたしは・・・・・・」
「ウチ、ミリアとジョンが仲ええの知ってるさかい・・・・・・、もしかしたらミリアもジョンのことが・・・・・・」
「ううん、そんなことない、わよ・・・・・・」
「ホンマに・・・・・・?」
「・・・・・・本当に」
「でもジョンは・・・・・・」
「ジョンがどうしたの?」
「ジョンはきっとミリアのことが好きや。見てたらわかる」
「そんなことないわよ。あいつはあたしのことなんて毛ほどにも思ってないって」

さもおかしそうにミリアが笑う。だが、クラリスは二人の間のテーブルをばん、と叩いた。テーブルの上の二つのカップが危うく倒れそうになった。

「ちゃうもん!もうジョンはミリアのことが好きや!わかるねん、ウチには!」
「本当にジョンが・・・・・・?」
「ホンマや」

ミリアはもう笑わなかった。じーっとクラリスの目を、クラリスが冷や汗をかく程に、見つめた。そして、不意に視線を外して独り言のように言う。

「ウソとも思えないけど・・・・・・。やっぱりそんなことないわよ。あいつは・・・・・・」

死んだ恋人のことを想っているもの、とミリアは心の中で続けた。

「ちゃうもん!そんなこと言うて本当はミリアがジョンをとるんやろ!?ミリアがジョンのこと好きちゃうんやったら、ミリアが出てったらええもん!そしたらジョンは、ジョンは・・・・・・ウチのこと、いつか・・・・・・。うううぅぅ・・・・・・」

目から大粒の涙を流してクラリスは泣き崩れた。ミリアはクラリスの突然の感情の決壊に驚いて、彼女の肩を抱いて背中をさすった。わかったわ、とミリアは繰り返しクラリスに呟いて慰めた。


「わかったわ、クラリス。わかったわ」
「ううぅ・・・・・・。ごめん、ミリア。ウチ、ヒドいこと・・・・・・」
「いいのよ、クラリス。あなたの言うこと、もっともだわ。あなたがジョンのこと好きだって言うなら、あたしは出ていくべきなのよ」
「ごめん、ミリア・・・・・・。ウチ・・・・・・」
「このこと言うために呼び出したんでしょ?」

ミリアがにっこりと笑って尋ねる。クラリスは泣きながらうなずいた。

「あたしたちは友達でしょ?何を遠慮してるのよ、クラリス」
「くっうううぅぅ・・・・・・。ごめん、ごめん、ミリアぁ・・・・・・」
「いいのよ。本当にジョンに惚れられてたら迷惑だもの」

†††

詰みゲー! 4-33

†††4-33

シャープは一枚のお札のような紙切れを懐から取り出した。

「今度は何の御札?」
「属性を調べるための『譜』を記した物だ。これは高いんだぞ。ちょっと前にロベルトに頼んで用意してもらっていたんだ」
「ふーん。で、どうすんの?」
「こんな感じだ」

シャープは手を伸ばし、身体からお札をやや離し、魔力を注いだ。
すると、いきなりお札からボウッと火が噴き出した。
ぎょっとして跳び退いたジョンを見て、シャープとクラリスがケラケラ笑う。

「まあ、札に宿る意志を感じ取り、それに合わせるように魔力をそそいでやればいい」
「ほ、ほお~・・・・・・」

ジョンはこわごわ札を受け取る。やはり、単に文字が書いてあるだけの紙切れにしか見えなかった。
では、魔力はどうか、とジョンが「視て」やると、確かに魔力は札に宿っていた。
ほのかな意志は感じるが、「どこ」に魔力を注げばいいのかはジョンにはわからなかった。

「むむむ・・・・・・。難しそうだな」
「せやで。まあがんばりぃやー」

***

そんなこんなでその日はジョンは七時間以上も属性判定譜を発動させようとがんばったが、結局判定譜に反応が出ることはなかった。
落ち込むジョンはシャープとクラリスに肩を叩かれ、明日があるさと励まされてその日の稽古を終えた。

しかし、一週間経ってもジョンは判定譜を含めたスペル系の術を扱えるようにはならなかった。

†††
スペル=譜、です。ややこしいですネ。

詰みゲー! 4-32

†††4-32

「属性魔法と・・・・・・『譜<スペル>』・・・・・・?」
「そうだ」
「『譜』は難しいでー」
「まずは属性魔法の説明をしよう。属性は全部で六つ。雷、火、氷、風、水、そして土だ」
「どれが一番強いの?」
「そんなもんはありゃあせん。正直、ワシはお前がこれを覚える必要性は無いと思っとる」
「はあ?なんだよ、そりゃあ」
「属性魔法は多数を相手にするときに使う術だ。つまりはザコを片づけるのに使う」
「ふーん。で、なんで俺にはそれが要らないの?勇者なんだからザコとか一掃するんじゃないの?」
「・・・・・・アンタ、何するんか聞いてへんの?」
「聞いてない」

クラリスはうーん、と上を向いて困った顔をした。
ふむ、と唸ってシャープは顎に伸びた白い髭をなでた。

「・・・・・・」
「どうしたんだ?」
「いや、説明しなければならないのかなと思ってな」
「すればいいじゃん?」
「それは面倒くさいわあ」
「そうだな」
「ひでえな。そんなに面倒くさいのか?」
「割とな。まあ、ザコ相手ではないことは確かだな」
「ごっつ強い連中を相手にすんねんで。一体で一個大隊を壊滅させるような敵とか」
「・・・・・・冗談だろ?」
「それは本当だ。中佐もそのつもりだぞ」
「中佐って・・・・・・レインか?」
「そうだ。お前は中佐の直属の部隊に配属になるだろう」

(あいつが俺の上官になるのか・・・・・・。大丈夫かな・・・・・・?)

ジョンは自分の名前すらまともに思い出せない少女を思い出して底知れぬ不安を感じた。

「そういうわけで属性魔法は無用だ。まあ、おいおい覚えればよい」
「はいよ。で、もう一つは?」
「譜は重要だ。これを覚えずして戦場には出れん、と言っていい」
「そんなに重要なのか」
「せや。覚えんと行くなんて丸裸で北極へ行くようなもんやで」
「はいはい、わかったわかった。で、どんなのなんだよ」
「まずはこれだな」

そう言ってシャープはジョンの目の前で一枚の紙切れをヒラヒラさせた。紙切れにはよく見れば文字のようなものが書かれている。御札に似ている気もしなくもない。

「なんだよそれは?・・・・・・あとニヤニヤしないでくれ」
「これは魔譜だ。以前に魔力は通貨として使用できると話したな?通貨として使うときはこのように『譜』で誰でも使えるように還元するのだ」
「『譜』って魔力を込めた御札のことなのか?」
「いや、違う。魔力を媒体にして魔術師の意志を込める術だ。魔力は抽出したあとで自分の波長に合うように加工されるのだ。まあ、個人差だな。だから他人から直接魔力を受け取っても使えない。場合によっては毒にさえなる」
「へー」
「そこで『譜』を使う。この魔譜には二つの意志が込められている。一つは『魔力を保存する』こと。魔力がこもっていなければ話にならないからな。二つ目が『魔力の波長を使用者の波長に合わせる』こと。この意志によって初めて魔力の補給が可能になるのだ」
「へー。ややこしいなあ。・・・・・・で?」
「何がだ?」
「どうやって使うんだ?」

ジョンの言葉にシャープとクラリスが唖然とした顔をした。

「図太いと言うか何というか・・・・・・。アンタ、考えるん苦手やろ」
「おお、よくわかったなクラリス。その通りだ」
「ほめてへんよ?」
「・・・・・・ジョン、魔譜はな、噛みちぎればいいんだ。それで魔力が供給される」

ため息混じりにやる気なさそうにシャープが魔譜の使い方を教える。懇切丁寧に説明したにも関わらず聞き手がこれでは気落ちもするだろう。
ジョンは言われたとおりに魔譜を勢いよくビリッと噛みちぎった。
すると魔譜から魔力があふれだし、ジョンに吸収された。

「お、おお~・・・・・・。こりゃあ、すげえ・・・・・・」

ジョンは何ともいえないじんわりとした高揚感を覚えた。何というか、「レベルアップしました」みたいな気分だ。

「レベルアップしたみたいな気分だよ」
「そうか、よかったな」
「何言うてんの?」

ジョンはちょっと落ち込んだ。

†††