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最近、お腹を強打しました。それはさておき、お知らせです。

こんばんは。ジャバウォッキーです。長い間書いたり書いていなかったりした「さまよう羊のように」ですが、無事に完結させることができました。これも皆さんのおかげです。いつも読んでくださりありがとうございます。

それにしても、最近は更新がかなり滞りがちですね。すみません。もっと時間を割くようにしたいのですが、いろいろ忙しくて・・・・・・。

次は「北の海の魔女」を書こうかなあ、と思っています。割と中途半端なところで止まっていますから。
切りがいいところまで書けたら連続投下します。それまで待っててねー。

ジャバウォッキーでした。

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さまよう羊のように 9-6

†††9-6


銃を構えたタームが機械の間を走り抜けていくココを追いかける。追いかける内にココとタームはパイプだらけの暗いボイラー室に入った。

(キソンとカブは俺たちを見失ったのか。逃がさないようにと分けたのは失策だったか!)

走りながらタームは顔を歪め、前を走るココに叫んだ。

「おい、止まれ!さもないとギャットたちを始末させるぞ!」
「やれるもんならやってみろ!俺は逃げてしまうぞ!」

バン!と低い発砲音が工場内に響く。タームが発砲したのだ。

「俺に当たればチャックを見つけられないぜ!いいのか!」
「この工場内にいるのだろう!貴様はもう用済みだ、消えろ!」
「へっ、用済みかどうかはまだわかんねえだろ?」

その時、ココは突き当たりの扉に入った。その扉にタームも迷わずに入った。真っ暗な部屋で明かりはどこかから一筋漏れているだけだった。銃を構えてタームがその一筋の光に向かってそろそろと歩いていく。
やがて光が漏れているのはカーテンのような布の隙間からだとわかり、タームはそのカーテンを勢いよく引いた。

(・・・・・・!)

そこにはひどく傷だらけで椅子に縛り付けられたチャックがいた。タームは口に人差し指を当てて「静かに」と合図した。

「これで俺はもう用済み、か?」
闇の中からココの声がする。タームは銃を構えて声のした方を探った。
「そうなるかな」
「残念そうはいかないんだな、これが」
「なぜだ?もうお前は袋の鼠だ。キソンが今頃応援を呼んでいるだろう。暗闇にいたところでいずれ死ぬのは目に見えているぞ」
「へえ・・・・・・、応援が来るのか。それは結構なことだ」
「なんだと・・・・・・?」
「アンタは気にしていたな。俺が発信機を持っていないかどうかを。だから服まで換えさせて、全身くまなく調べた。まあ、アンタらのアジトに行くときも同じことやったから無駄と言えば無駄だったけど」
「それがどうした。結局発信機は無かった。いや、確かギャットの上着に発信機らしきものがあったと報告があったぞ」

それが警官隊が来た理由なのだろうとタームは思っていた。身体検査はアジトに来た後に行われていたからだ。

「ああ。だがそれはダミーだ。何も見つからなければそれはそれでおかしいだろう?だからギャットと俺はそれぞれ絶対に見つからない場所に発信機を埋め込んである」
「・・・・・・体内か!」
「そうだ。今頃はこの周辺のアンタらの仲間をごっそり捕まえてるだろうよ」
「クソがっ!!やはり貴様らはあそこで始末するべきだったッ!!」

その時ばらばらと大勢の足音が聞こえ、警官がわらわらと部屋に入りタームとチャックを取り囲んだ。同時にココは暗闇から姿を現した。

「手を挙げろ!」

警官が叫ぶ。タームは拳銃を捨てて手を挙げた。ココも一応手を挙げる。

(これで一件落着、かな・・・・・・)

ココはふーっとため息を一つついた。


†††


数日後。

「よう。見舞いに来たぜ」
「遅かったな」
「俺のせいじゃない。中々帰してもらえなかった」

ココは片手でりんごをお手玉しながら病室に入ってきた。

「警察か?お疲れさん」
「ああ。大使館から口利きがなかったらそのまま捕まるはずだったらしい。拷問とかやったしな」

ココはりんごをぽいっとベッドの側にいたナッツに投げた。ナッツはりんごをキャッチすると果物ナイフで器用に切り分け始めた。

「刑務所に入れよ」
「まあ、気が向いたらな」

そこでココはギャットのそばの椅子に座った。

「・・・・・・寝てんのか?」
「・・・・・・起きてるよ。お前らがうるさくて寝られん」
「そりゃあ、悪かったな。一応は片づいたぜ」
「ご苦労様。あの敷地からは何か出たのか?」
「まあ、多少は出たらしいけどなあ。タームが口を閉ざしちまって特にこれと言った収穫は無いらしい」
「そうか・・・・・・。まあ、ナッツを助け出せたからよしとしようぜ」
「それはまあ、そうなんだけど・・・・・・」
「何だよ、まだ何かあるのか?」
「・・・・・・いや。テリフィオール組はまだ健在だろ?釈然としないものがあるなぁって」

独り言のようなココのつぶやきにギャットはため息まじりに返事をする。

「・・・・・・理不尽なんていくらでもある。忘れることだ。・・・・・・ところでナッツの奥さんたちは?」
「今は大使館にいるよ。フォンもな」
「・・・・・・国を出るのか?」
「仕方ないだろ。マフィアにケンカ売っちまったんだからな。このままだとおちおち寝られやしない」
「すまん、ナッツ」
「バカめ。俺たちはフォンを助けて正解だったよ。もしフォンを見捨てていたら国を出ても眠れなかったさ。それこそ一生な」
「はいはい、辛気くさい話は終わりだ。俺は大丈夫だからお前たちは準備でも何でも行ってくれ。いつまでここにいるつもりだよ」
「それもそうだな。じゃあ帰るかな」

その時ナースさんが病室にやってきた。

「ココさんはおられますか?お電話です」


***


電話は警察署からだった。至急来てほしいとのことでココは渋々警察署に出向くことになった。
到着したココを出迎えたのは新しい署長だった。

「・・・・・・何の用ですか?俺には大使館っていう後ろ盾があるんですよ。捕まえても無駄です」
「そこまで堂々と言う奴は初めてだよ。・・・・・・別件だ。あの幹部がお前を呼んでいるのだ。一度話をしたいとな」
「タームが?」
「そうだ」
「へー・・・・・・。それで俺を呼んだ本当の目的は?世間話をさせるだけに呼んだ訳じゃないでしょう?」
「話が早くて助かる。まだ奴から組に関する情報を一切絞り出せていないんだ。今回の件の裏付けが取りたい。出来れば、聞き出してくれないか?」

(裏付け・・・・・・?)

「どうして俺に?尋問なんて俺より上手い人なんていくらでもいるでしょうに」
「奴は君以外の人とは一切の会話を拒んでいるのだ。・・・・・・頼まれてくれんか?」
「はあ?・・・・・・わかりました。やってみますが保証はしかねますよ?」

それで構わないと新署長は言い、ココをタームのいる部屋へと案内した。

「ああ、そうだ。このことはもう聞いたかね?」
「なんです?」
「それはな・・・・・・」

新署長はココにあることを丁寧に話した。

「そうだったんですか・・・・・・」

ココはそれを聞くとマジックミラー越しにタームを見た。


***


ココは一つの小部屋に通された。部屋の中央には頑丈そうな机が一つ、椅子が二つあり、向かいの椅子にはタームが座っていた。

「お前か・・・・・・」
「よう。捕まる気分はどうだ?」

返事をしながらココは手前の椅子に座った。
ドアのすぐ側には屈強そうな警官が二人立っていた。立場がまるで逆転したな、とココは思った。

「気分だと?悪いに決まってるだろ」
「それはよかった。ところで俺としか口をきかないってなんだよ。俺はお前と仲良くなった覚えなんか無いぞ」
「ふ・・・・・・。何が起きたのかきっちりと聞いておかなければ私の気が済まん」
「ああ?お前の気が済もうが俺の知ったことじゃない。帰らせてもらおう」
「まあ、待てよ。俺も組に関する情報をお前に教えてやろう」
「・・・・・・なんだと?」
「以外か?」
「・・・・・・わかった、話そう。何が知りたい?」
「全てだ。事の顛末を全て話せ」

ココは旅行中にフォンと出会い、彼女を助けることになった所から話した。フォンを抱えて走り、警察に助けを求め、裏切られ、また逃げたこと。フォンの実の両親が彼女をマフィアに売ったということ。ナッツ、イプ、シャーミラ(とテト)の協力を得て貫通線に乗ろうとしたこと。失敗してナッツが離脱したこと。そして大使館を頼ったこと。ココはフォン、イプ、シャーミラ(とテト)に安全に大使館まで行かせるために別行動を取ったこと。

「それが半年前までのことだな。いつあの警官と出会った」
「ギャットが警官だってよくわかったな」
「素人ではない人間と組んだことはわかっていた。警官かまではわからなかったがな」
「あいつと組んだのは、フォンたちと分かれた二、三日後だ」

ギャットは大使館から派遣された警官だった。彼は外国人犯罪者を捕まえたのだが、その際に大使館といざこざを起こしたらしい。その事件を覚えていた職員が彼にアプローチしたそうだ。どうもやや脅しを含んだ「アプローチ」だったようだ。
ココはギャットと組んでマフィアから逃げながら英会話と現地語をマスターしつつナッツの救出に動く、という異常な日々を送るようになった。

「よくも身が保ったものだ」
「俺もびっくりした。俺もやれば出来るんだな」

そして半年が経ち、ココの会話能力もめざましく成長した頃にチャックを捕らえることに成功した、という訳だ。チャックから聞いた情報によってココとギャットはナッツが捕らえられている、と思われるホテルに向かった。

「そういえばあのホテルでは待ち伏せしてたな」
「ああ。チャックが捕まったと聞いてな。私が手配した」
「待ち伏せしてたくせにナッツもいたじゃないか。なぜナッツもあそこにいたんだ?移動させておけばよかったろうに」
「そこまでの時間は無かった。ホテルのフロントにいた見張りからお前たちが到着したという連絡があった時点でナッツまでは到底動かせなかった」
「フロントに見張りがいたのか」
「無論だ」

そしてタームたちに捕まり、マフィアのアジトに連れて行かれた。

「この後のことについて説明する意味が感じられないんだが」
「私には意味があることなのだ。お前たちを連行してすぐに敷地内に警官隊がやってきた。これは偶然ではないな?」
「ああ。俺とギャットに埋め込んだ、あるいは服に付いていた発信機が敷地内で消えたから突入してきたんだろう。発信機は二ヶ月くらい前から仕込んであった。まあ、何かあったら臨機応変に対応しよう、って決めていた程度だけれど」
「ふん。だからお前たちは逃げだそうとしたのか。外に逃げれば十分だと知っていたのだろう?」
「ああ、その通りだ。俺もギャットも知ってた。ナッツは知らなかったけどな。まあ、見張りがいたから言うわけにもいかなかった」
「誤算はギャットの負傷か?」
「そうだな。まあ、誤算ではないな。ギャットは想定内だって言ってたし。その場合の行動パターンが今回のアレだ」
「あらかじめ決めていた作戦だったのか・・・・・・」
「ああ。いい演技だったろ?」
「ふん。今思い返せばあちこちにおかしな点がある。それで練りに練った作戦と言えるのか」
「でもそんな出来損ないの作戦でもアンタは引っかかったじゃないか」
「・・・・・・」
「さて。これで俺が話せることは全部話しただろう。今度はアンタの番だぜ」
「なに?」
「組の秘密を吐いてもらう」
「はっ。貴様のような奴に、無論警察にも、くれてやる情報など無い」
「ああ?じゃあ、約束はどうなるんだよ」
「約束?笑わせるな。私が高々そんなもので組やボスを売ると思ったのか?」
「聞け。これは取引なんだぞ。上手いこと警察と情報の交渉をすれば・・・・・・」
「あいつらと売り買いする情報などいささかも持ち合わせてはいない。私はテリフィオール組だ。ボスに生涯の忠誠を誓った。死んでもボスに仇なすことは無い」
「・・・・・・!」

タームの覚悟に満ちた言葉にココが息を飲む。

「約束だと?お前とのチンケな約束など私の忠誠の前では毛ほどの意味も持たない。・・・・・・聞くことは聞いた。もういい、帰れ」
「最後に一ついいか?」
「何だ?」
「フォンみたいな子をどう思う?」
「フォン?」
「今回の事件の発端になった女の子だ」
「ああ・・・・・・。お前の話に出て来たな。さあな。ウチでは売春だの臓器売買だのはやっていないからな。考えたこともない」

タームは組が臓器売買と売春に関係していると言わないために言葉を選んで答えた。
ココはタームの「考えたこともない」という言葉が返答なのだろうな、と直感した。

「・・・・・・そうか。では俺は帰るとしよう。アンタに、」

ココは立ち上がり、椅子にかけていたコートを手に取るとタームの目をこれ以上無いほどに冷たい目で睨んで言った。

「アンタに同情した俺がバカだったよ」
「同情だと?それは一体どういう・・・・・・」
「ああ、忘れてたいいニュースがある。アンタのボスは・・・・・・アンタを売ったそうだ。アンタが隠していた案件やら一切合切を提供してその見返りに署長とより親密な関係を結びたかったんだと。よかったな。お前は牢屋から一生出られない」
「な、な・・・・・・」
「声も出ないか?気休めと言えばどっかの段階でしくじってその件が全部明るみに出ちまったってことだ。ボスも手が後ろに回ったよ。せいぜい同じ刑務所に行けるよう願うこったな」

ココはばたん、とドアを勢いよく閉めて部屋を後にした。残されたのは人生の全てを下らないものに捧げてしまった哀れな初老の男だった。


***


その後しばらくしてテリフィオール組は崩壊し、新聞でも大々的に報道された。最初は様々な説が飛び交っていたが最終的に内部抗争で自壊、という線に落ち着いた。ココたちの名前が出ることは無かった。ココたちは文句を言っていたが、散々好き勝手してきた彼らが檻の中にいないのは警察がうやむやにしてくれたお陰なのだ。報道などもってのほかである。
組がなくなったのでナッツたちは別に出国しなくてもよくなったが、ナッツが「ホームシックも限界だ」と言ってそのまま帰国することになった。シャーミラは別に構わないと言っているそうだ。本当によくできた奥さんである。
イプは元の家に戻った。当然といえば当然である。家に帰って早々にイプは半年ぶりの掃除に追われたとか。ホコリまみれで大変だったらしい。
ギャットは二週間して退院した。本当はもっと安静にしていないといけないそうだが、「退屈で死ぬ」と言って強引に退院に持っていったらしい。らしいと言えばらしい。

ギャットが退院したタイミングで皆でご飯を食べに行った。この国のポピュラーな食べ物だそうだが、ココの舌には合わない物だった(ギャットが知っていて店を指定したらしい)。嫌がるココにナッツとギャットが無理矢理食べさせるのを見て皆で大笑いしていた。終わった頃にギャットは「傷跡が開いたかも」と言って皆をひやりとさせた。

***

港内アナウンスがどこどこ行きのナントカ便について時刻やらをしゃべっている。それを聞きながらココはキャリーバッグをがらがら引いていた。

「ねー、あなた、いきなり押し掛けて私たち住む家あるんでしょうね?私あんまり調べてないわよ」
「ホントか?俺も詳しいことは知らないぞ。イヤだなあ、入国検査で引っかからないといいけど」
「こ、怖いこと言わないでよ」

何やら不安にさせられる内容の会話をしているのはナッツ夫妻だ。彼らはココたちと一緒に帰国することになっていた。そのためナッツはキャリーバッグを二つもがらがらしている。シャーミラの分らしい。シャーミラは、と言うとテトをおんぶしていた。彼女も半年で大きくなったものだ。

「寂しくなるなあ・・・・・・。このゆるい掛け合いが聞けなくなるなんて」
「泣くなよ、イプ。また来るって」
「うう~」
(やっぱりイプ泣いてる。そういう顔してるもんな~)

とココは思っていた。どんな顔だ。
そんなこんなでゲートに着いた。ここから先は塔乗者しか通れない。見送りの人とはここでお別れだ。

「ナッツ、ココ~」
「泣くな、泣くなよ、イプ」
「そうだよ、また来るって」
「うう~。フォン、フォンもがんばるんだよ~」
「う、うん。だ、だいじょうぶよ、おじさん」

まるで子供みたいだな、むしろフォンの方が大人だな、とココとナッツは思った。

「・・・・・・ギャットは来なかったな」
「ああ。確かあいつ、今日は仕事だよ」
「そうさ、仕事なんだぜ。本当は」
「「「「ギャット!?」」」」

すぐ側から聞こえた声にその場の全員が驚愕する。アロハシャツに麦わら帽子、サングラス、つけひげ、等々・・・・・・。空港にしてはテンションの高すぎる外国人旅行者だと思っていた人物はギャットだった。

「お前仕事は!?」
「すっぽかしてきた」
「おまっ・・・・・・。また停職食らっても知らねえぞ・・・・・・」
「ここに来ることに比べりゃあ大したことじゃねー」

言いながらギャットはタバコに火を点け、にやにや笑いながら煙を吐き、サングラス越しにココたちに言った。

「禁煙だぞ、ここは」
「うるさい。野暮なこと言うな。・・・・・・またいつでも来いよ。最高にスリリングな体験をさせてやるぜ」
「「いや、もう十分だよ」」
「ふっ・・・・・・。嬢ちゃんもな。故郷に帰りたくなったらいつでも来い。最高にスリリングな・・・・・・」
「いえけっこうです」

フォンは満面の笑みで淀みなく答えた。ギャットはけらけらけら、と笑うと手をひらひらと振って出口の方に歩きだした。

「じゃあな。また会えるといいな」
「ああ。必ず会いに行くよ」
「期待しないで待ってるぜ」

ギャットは雑踏の中に消えていった。
ナッツは腕時計で時間を確かめるとイプに告げる

「さてと・・・・・・もう行かないと。本当に世話になったよ」
「お互い様だよ」

イプは最後に親指を立てた。

「幸運を」

***

ココはフォンと共に飛行機に乗り込んだ。チケットの関係でナッツ一家とは離れた席だが、ココとフォンは隣だった。

「大丈夫か?怖くはないか?」
「う~ん、ちょっとこわいかも」
「ははは。まあ、新しい環境に足を踏み出すわけだからな。怖いのも当然だ」
「はあ~~~~~っ・・・・・・」
「そんなに重いため息つくなよ。俺まで気が滅入るじゃないか」
「そんなこと言ったって、こわいものはこわいの」
「はは、は。あ・・・・・・?なにか忘れてる気がする・・・・・・。なんだっけ?」
「え!?忘れ物!?」
「いやいや、待てパスポートは再発行してもらったし・・・・・・。忘れ物じゃなくて・・・・・・」
「しっかりしておじさん!もう飛行機出ちゃうよ!」

そこでココはハッ、と気づいた。

「俺の親に連絡すんの忘れてた。フォンを・・・・・・女の子を一人連れて帰るって」

フォンの口の形がえ、の形で固まる。

「携帯は?」
「昨日落として壊しちまった」
「じゃ、じゃあ・・・・・・」
「ああ。ショック受けないといいけどなあ・・・・・・」



飛行機は気流に乗って順調に進んでいった。


***


ココは空港のゲートで両親と会った。

「おかえり」
「ただいま。母さん、父さん」
「元気そうだな・・・・・・。ところでその子は?」

父親がフォンを指さす。電話でフォンの事を伝えていなかったから当然である。

「この子はフォンだよ」
「「フォン・・・・・・?」」
「旅先で拾った子なんだ。親に捨てられちゃって・・・・・・。連れて帰って来ちゃった」
「あんた何考えてんのよ!」
「いや、その・・・・・・」
「ちゃんと面倒見られるんでしょうね!?」
「え?」

母親は「厄介者を連れてきた」のではなく、単純に「後先考えずに女の子を連れて帰ってきた」という事に腹を立てていた。

「家は?学校は?養育費は?ちゃんと面倒見きれるの?」
「あ、ええと・・・・・・」
「母さん、あまりいじめてやるな。・・・・・・フォンと言ったか?」
「ああ」
「その子を育てるというのならお前はもう親だ。いいか、一人で抱え込むな。何かあったら相談しろ。お前はもうお前一人ではないのだ」
「父さん・・・・・・」
「言っておくが、お前一人では全部は無理だからな」
「ぐ・・・・・・。おっしゃる通りです・・・・・・」
「フォンちゃん、でいいのかしら?」

母親がにっこりと微笑んでフォンに手を差し出した。

「よろしくね」
「ヨ、ヨロシク・・・・・・」

フォンはたどたどしい口調で答え、おずおずと手を握り返した。
父親はココに視線をやり、

「よくやった」

と言って笑った。
そのとき、後ろからナッツの家族が追いついてきた。
ナッツはココの腕をぐいっと引っ張り強引に肩を組んだ。

「これから頑張れよ~。子育ては大変だぞ~」
「まあ、せいぜい頑張るよ」
「何かあったらいつでも言えよ。戦友のよしみだ。いつでも請け負うぜ」
「お前もな。何かあったら相談してくれよ」
「おうよ!・・・・・・じゃあな!俺はもう行くよ。テトの機嫌が悪いんだ。シャーミラが急かしてる」
「ああ。またな、ナッツ」
「またな、ココ」

ナッツは手を振って去っていった。
ココは母親、父親、フォンに静かに告げた。

「帰ろう。家が恋しいぜ」


-おしまい-



††††††

さまよう羊のように 9-5

†††9-5


「止めろ」

タームの静かな声に車内の全員が反応した。

「何を言っている。取引を反故にしたいのか」
「いや、確認をしたい。貴様が発信機を持っていないかどうかをな」
「ふん。ギャットたちも調べたのか?」
「あいつらはじきに救急車に乗る手はずになっている。連中とウチの組員が一緒にいるところを押さえられなければいいからな。あいつに付いていようがいまいがそんなことは問題ではない」
「なるほどな。こっちはずっと一緒に行くからな」
「そういうことだ。カブ、そこの店でこいつに着せる服を買ってこい。適当でいいから一分で戻れ」
「はい!」
「いや、ダメだ。キソンに行かせろ」
「・・・・・・。キソン、行け」

キソンが買い物に行く。車内に残ったのはココ、ターム、カブ。

「妙な奴だ。なぜキソンをそんなに行かせたがる?」
「・・・・・・そいつを買いに行かせてその間に俺を殺す魂胆だったんじゃないのか?ええ?」
「何を言っているんだお前!タームさんがチャックを見捨てるようなことするはずがねえだろ!」

助手席のカブが振り向いて後ろのココにつかみかかる。

「信頼されてるねえ、タームさん?」
「鬱陶しい奴だ。被害妄想も大概にするがいい・・・・・・!」

憎々しげにタームが吐き捨てる。相当に腹を立てているらしい。その時、着替えを買いに行っていた側近が戻った。タームは車内でココを素早く着替えさせ、カブに身体検査させると再び車を走らせた。


***


やがてナッツから無事に救急車に乗ったとの連絡が入った。

「よかった・・・・・・」

ほっと安堵のため息をつくココにタームは鋭く言い放った。

「さっさとチャックのところへ案内しろ。ギャットとナッツを助けたいならな」
「どういう意味だ」
「貴様が私を裏切ってチャックの居場所へ案内しないのならすぐにでも部下を病院へ向かわせて始末をつけさせる、という意味だ」
「けっ。・・・・・・安心しろよ。チャックの所へ必ず連れていってやるよ」
「それが賢明だな」

その後しばらくしてココたちは一つの廃工場にたどり着いた。

「チャックはこの中だ。・・・・・・入るぞ」


***


かつかつ・・・・・・

かつかつ・・・・・・

四人分の足音が静まり返った工場跡に響きわたる。何を作っていたのかはわからないが巨大な工具・機械がそこかしこに放置されたままになっている。買い手がつかなかった機械たちだろうか。

「この奥の小部屋だ」

ココが先導するように前を歩く。その少し後ろをタームが歩く。妙な動きをしないように、とココに銃を突きつけている。それはキソンも同じで、違うのはタームの左後ろにいるということ。カブはきょろきょろと辺りを見回している。

(妙な真似を始める前にこいつを始末するべきだが・・・・・・、チャックをこの目で確認するまでは殺せん!)

タームは額を流れる汗が目に入っても瞬き一つせずにココの動作を見ていた。
やがてココは奥にある小部屋の扉にたどり着いた。しかし、ココが扉を開けようとするとタームがそれを制し、キソンに開けるように指示を出した。

「待て。お前は下がれ。・・・・・・キソン、開けてくれ」

久しく油など差されていないのだろう。扉はひどく甲高い音を立てて開いた。暗い部屋だったので目が慣れるまで少しかかった。

・・・・・・中には誰もいなかった。

「キサマっ、騙したなっ!」

チャックの不在を確認したタームが激昂して銃を構えるが、そこにココの姿は無い。タームたちが部屋の中に気を取られている内にココは工場内に点在する機械たちの間を縫うようにして走っていた。

「こっちだ!チャックはこっちの部屋にいる。早く確かめに来いよ!」

走りながらそんなことを叫んでいた。

「くそっ。何が狙いだっ・・・・・・。お前たち、左右に分かれて奴を追えっ。私は真っ直ぐ行く。絶対に逃がすな!」
「「承知しました!」」


†††

さまよう羊のように 9-4

†††9-4


ギャットを手当するベニーの姿を見ながらタームはイラついていた。幹部になる前なら彼はチャックを切り捨ててでもギャットの治療を断っただろう。タームの目的は三人組の捕獲・処分であり、チャックのようにいくらでも代わりのいる人材のためにそれが妨げられていることが我慢ならなかった。
タームがチャックを見捨てなかったのは彼の優しさなどではなく、「自分はこの組の幹部なのだ」という思いだけであった。もしもチャックを見捨てた、などということが部下の耳に入ったならばそれはターム自身の信頼を失墜させるだけではない。ボスや組全体に不信感を蔓延らせていただろう。

「弾丸は貫通しているようだがこの出血量・・・・・・動脈を傷つけたか・・・・・・?」

ベニーがギャットの服を切って患部を見ながら言う。その言葉を聞いてココが叫ぶ。

「助かるのか!?」
「そんなことワシが知るかっ。運が良ければ助かるだろうよ」
「そんな・・・・・・」
「うるさいわい。治して欲しければ黙って見ていろ」
「・・・・・・ちっ」
(・・・・・・助かるかは五分か)

ベニーとココの会話を聞いてタームは思案する。

「おい、お前こっちに来い」
「お前じゃねえ、ココだ」
「・・・・・・ココ、取引だ」
「取引はギャットが助かってからだ」
「そいつを助けたくないのか?」
「どういう意味だ」
「そいつを病院に連れていく必要があるんじゃないのか?・・・・・・違うか、ベニー?」
「当然だ。このままでは確実に死ぬわい」
「だそうだ。・・・・・・さてここで相談だ。聞くかね?ココ君」
「・・・・・・ああ」
「我々としてもギャット君には助かって欲しいと思っているのだがね。どうやら確実に助かるわけではないそうじゃないか。・・・・・・そこで、だ。君たちの身の安全は保障するからチャックの居場所を教えてはくれないかね?」
「・・・・・・どういう意味だよ。回りくどいんだよ、言い方が」
「いいからさっさとチャックの居場所を言え」
「さっきの取引はなんだったんだよ」
「マフィアを相手にまともな取引ができるとでも思ったのか?」
「断ればどうなる?」
「今すぐにそいつの治療を止めさせる」
「・・・・・・」

ココはしばらくタームを睨んでいたがやがてため息を吐き出した。

「わかった。言おう」
「ああ、さっさと言え」
「だが今は言えない。言わないんじゃなくて言えない。そもそも俺は場所を明確に覚えていない。元々外国人である俺は地図までは正確に読めないからな」
「・・・・・・」
「だから俺を連れていくしかないぞ」

ははあ、とタームは心の中で薄く笑った。

(こいつ何か企んでいるな・・・・・・。だが、むしろありがたい。自分から部下の目の前から離れてくれるとは。私がチャックを見捨てるような真似は部下の前ではできない・・・・・・。これはむしろこいつを消す好機!)

「・・・・・・いいだろう。連れていくとしよう」
「ただし、ギャットが無事に病院に着くまではチャックの所までは行かない。近くまでは行ってもいいがな」
「・・・・・・わかった。時間が惜しい。早く行こう」

(部下の目の前でこれ以上厄介な条件を増やされてはかならん!)

「まだある。ナッツをギャットに付き添わせるから二十分ごとに連絡させること。欠かせば取引は終了だ。その際にはベニーにも何か言わせること。更に・・・・・・」
「まだあるのか!」
「ある。あんたの部下を一人同行させろ。俺の保険だ。・・・・・・あんたならこの意味がわかるよな?」

タームはココのその言葉を聞いて心底忌々しそうに舌打ちをした。


***


ココ、ターム、タームの側近のキソン、また地下にいた部下の一人のカブ(適当に選抜)の一行がチャックの解放に向かうことになった。

(今は警官隊が来ているから敷地内から車で外に出ることはできん。一旦別の建物から地下道を通って外に出るか・・・・・・)

「こっちだ。絶対に敷地内にいる警官に見られるなよ。見られればギャットはその時点で死ぬ」
「チャックもな」
「そうだな。だが死に際のギャットを叩き起こして拷問させるのは忍びなかろう?」
「・・・・・・」

四人は第三棟(ココたちが捕らえられていた建物)から出た。キソンが先に出て状況を確かめに行く。キソンは数分で戻り、タームに報告した。

「部下に邸宅付近で騒ぎを起こさせました。通り道には誰もいません」「ご苦労」

キソンの言葉通りに四人は問題なく外へと続く地下道のある建物に到着した。

「ここは敷地のかなり奥にあるから警官はまだ来ていないはずだ。さっさと行くぞ」
「ギャットたちもここから出るのか?」
「いや、違う。もっと近い出口だ。地下道の出口に車は何台も置けないからな。私たちは遠い方だ」


***


ココ、ターム、タームの側近のキソン、存在感のない部下のカブの四人は地下道を抜けて無事に外へと抜け出た。抜けた先は山の中だった。タームが地下道出口近くに停めてあった車の後部座席(運転席側)に乗り込む。運転席にはキソン、助手席にはカブ、後部座席の助手席側にはココが乗った。キソンが車のエンジンをかける。

(危ない橋だった・・・・・・。それにしてもこいつは何を企んでいる?地図が読めないだと・・・・・・?はっ!嘘に決まっている。こいつをさっさと殺してしまいたい余りに一見思案の足りないこいつの提案に乗ってしまったが・・・・・・)

「おい、ナッツに電話をさせろ。時間だ」
「ふん・・・・・・。ほら、通話中だ」

タームがココに携帯電話を投げて寄越す。ココはそれを無言で受け取ると携帯を耳に近づけた。

「もしもし」
「もしもし。ココか?」
「ああ。ギャットの様子は?」
「ああ・・・・・・今車に乗り込んだところだが、まだ血が止まらない・・・・・・」
「・・・・・・そうか。ベニーに代わってくれ」
「ああ・・・・・・。・・・・・・何だ!手当して欲しいんじゃないのかクソガキめ!ワシの邪魔をするな!」
「・・・・・・すまん、悪かった」
「・・・・・・もしもし?まあ、そんな訳だ。ある程度走ったら救急車に乗り継ぐ。・・・・・・そっちもしっかりやれよ」
「ああ、任せろ」

返事をしてココは電話を切り電話をタームに投げ返した。

「それでどこに向かえばいいんだ?全く場所がわからんわけではないだろう?町の名前くらいは知っているはずだ」
「デメデメタウンだ」
「確かにお前たちはその周辺で騒ぎを起こしていたな。・・・・・・キソン、そこに運転してくれ」
「飛ばします」

キソンがアクセルを踏み込んだ。


†††

さまよう羊のように 9-3

†††9-3


バババババ、とマシンガンが火を噴く。

「「ギャット!!」」

部屋の中からココとナッツが叫ぶ。返事は無い。

「ギャット、ギャット!返事をしろ!」
「おい、嘘だろ!返事しろ!」
「・・・・・・うるせーなあ・・・・・・。ちょっと黙ってろよ・・・・・・」

ようやく聞こえたギャットの声にココとナッツが安堵する。
「なんだよ、ヒヤヒヤさせるなよ。もしかしたら撃たれたんじゃないかと思ったぜ」
「・・・・・・そうか」

開け放たれたドアに赤い何かがへばりついた。

「もしかしたら、じゃねーんだけど、な・・・・・・」

ドアにへばりついていたのは血にまみれたギャットの手だった。

「「ギャット!!」」
「うるせー・・・・・・って。それしか、言えねえのか・・・・・・」

ドアの裏から現れたギャットの腹部は血で真っ赤に染まっていた。それがかすり傷などでは無いことは特別な知識の無いココとナッツにも一目でわかった。

「黙って・・・・・・ろ。今、縄を切ってやる、から・・・・・・」

一歩歩く度に白い無機質な床に赤い水玉模様が描かれていく。ギャットは命を削るようにして水玉を増やしていく。

「もういい!止まれギャット!連中に手当を、」
「ふ・・・・・・」

ギャットはココの叫びに微笑で答えた。答える意味が無いと思ったからか。

「ギャット!おい・・・・・・」
「縄は・・・切ったぜ・・・・・・」

ギャットはココとナッツの縄をナイフで切ると崩れ落ちた。床が見る見る赤く染まっていく。

「ギャット!待ってろ、今手当を・・・・・・」
「・・・・・・」

ギャットはココの言葉に微かな声で返事をしたがココにもナッツにも聞き取れなかった。

「・・・・・・!」

歯を思い切り食いしばってココが立ち上がる。

「ナッツ、すまん」
「・・・・・・?」

ナッツにはココの言っている意味がわからなかった。ココはドアに歩いていき、床にノビていた見張りの男の襟をつかんでゆすり起こした。

「起きろ!」


***


ギャットが先ほど殴り倒した見張りの男を揺り起こそうとするココにナッツは驚いた。

「何してるココ!どうして・・・・・・」
「うるせえ!黙ってろ!・・・・・・起きろ!」

見張りの男はようやく気が付き、鬼の形相で自分をつかんでいるココを見た。すかさずココは見張りの男の喉元を肘で圧迫するようにして身動きがとれないように壁に押し当てた。

「いいか、いますぐに幹部を一人連れてこい。さもないと・・・・・・」
「さもないと、何だね?・・・・・・全く間がいいんだか悪いんだか・・・・・・」

ココはすぐそばにタームが立っていることに気づいた。ココは押さえつけていた見張りの片割れを放した。

「ふん・・・・・・。二人で見張りしてこの様か。お前たちには後でたっぷりと灸を据えてやる。覚悟しておけ」
「は、はい・・・・・・」

見張りの男がすごすごと退がる。ちなみにもう一人の見張りはドアの後ろでまだノビている。タームは部屋をのぞき込むと出血しているギャットを見た。

「そういうことか。それで幹部に用とは? 何が望みだ」
「あいつを手当してやってくれ」
「あの出血ではもう助からんと思うが?」
「あいつがそんなにすぐ死ぬかよ。・・・・・・わかってないな。これは交換条件だ。俺たちが捕まえたおたくらの仲間を忘れたのか?」
「・・・・・・」
「やはりそうか。道理ですぐに殺されないわけだ。あいつはまだ見つかっていないようだな」
「ああ。見つかっていない。・・・・・・お前はうちのチャックとそこの半分死んでるような奴を交換しようと言うのか」
「チャックか。あいつそんな名前だったのか。そうだ。アンタらのチャックとウチのギャットを交換だ。今すぐにギャットの手当をしろ。ギャットが死ねば取引は無いぞ」
「・・・・・・ちっ」

タームはこれ以上は時間の無駄だと悟ったのだろう。諦めたようにため息をついた。

「おい、ベニーを呼んでこい。至急だ。・・・・・・いいか、外の連中には見つかるなよ」

タームが連れてきた側近の男に指示を出す。

「いいか、必ずあいつを助けろよ。さもないと・・・・・・」
「わかってる。最善は尽くさせよう」

ココはタームの顔から視線を外すとすでに意識のないギャットの元へ行った。


†††

さまよう羊のように 9-2

†††9-2


「ようやく厄介事が一つ減ったな、ターム」
「はい。おかげさまで片づきました」

三人が縛り付けられているのとは別の建物の中のやや広く薄暗い部屋にタームは来ていた。

「半年か・・・・・・。長い間ご苦労だった」
「すみません、思ったより長くなってしまって・・・・・・」
「いや、他の者には捕まえることすらできなかっただろう。お前だからこそだ」
「身に余るお言葉です」
「謙遜するな。あいつらの処分が済んだらお前に新しい仕事を任せたい」
「どのような内容の・・・・・・」

「しっ、失礼しますっ!」

そこで部屋にいきなり現れた下っ端の声で会話が中断する。そして下っ端はボスとタームが何か大事な話をしていたとわかって恐縮してしまった。見かねてタームがため息混じりに声をかける。

「・・・・・・何のようだ」
「そ、それが・・・・・・警官隊が来ています」
「警官隊だと?何人だ?」
「二十人ほどです」
「多いな」

タームの顔が困惑の色を帯びる。
「・・・・・・わかった。話はそれだけか?」
「はい」
「そうか・・・・・・。もういい、下がれ」

下っ端が出て行くとボスが口を開いた。

「どういうことか見当はつくか?」
「おそらくはあの三人組に関係しているのでしょう。タイミングが良すぎます」
「確かに。そう見るべきだろうな」
「重ね重ねすみません。私の不手際です」
「謝るのは後でいい。お前の思う所を言え」
「はい。恐らくは三人組のうちの一人が警官です」
「ほお・・・・・・、なるほど続けてくれ」
「捕虜を取り返そうとしていた二人組がなぜ中々捕まらないのか不思議だったのです。私が思うにそれは連中のうちの一人は警官だったためかと」
「なるほど。・・・・・・連中が警察と手を組んでいるとしてだ。警察は余程のことがなければワシの屋敷には踏み入れん。この場所にいると確信したから警官隊はここに来たわけだが、その確信はどこから来ていると思う?」
「考えられる可能性は二つあります。一つは連中は警察に見張らせていた場合。警察は連中を捕まえた我々の後を追ってきたのです。この屋敷の中にいると確信して隅々まで調べるつもりでしょう」
「二つ目は?」
「発信機です。おそらく警官が身につけているかと」
「どちらだと思う」
「後者です」
「そうだな、ワシもそう思う。三人組はどこにやった?」
「第三棟の地下です」
「ははあ地下か・・・・・・、抜かりないな。発信機の電波は届かん。さてはこの場の思いつきではないな」
「いえ、警察とつながっているという確信までは・・・・・・」
「さすがだな。・・・・・・警察は敷地内を虱潰しに探すだろう。三人組以外にも見つかるわけにはいかん物はいくらでもある。警察に挙げられても構わない案件をいくらか見つかる程度に隠せいで時間を稼げ」
「はい」
「三人組の方も一応増員しておけ。逃げられでもしたら終わりだ」
「幹部が一人ついています。心配は無いかと」
「油断は禁物だ。・・・・・・ワシは警官隊と挨拶でもするとしよう。お前も早く行け。時間がないぞ」


***


「暇だなあ。しりとりしようぜ。リンゴ。次はナッツな」
「いきなりだなぁ。ゴリラ。次はギャットだぞ」

部屋と三人の配置について正確に述べる。入り口から見て右から順にココ、ナッツ、ギャットである。ちなみに見張りは二人で扉の前に待機している。

「・・・・・・ん・・・・・・?」
「聞いてなかったのか?しりとりだよ」
「あ、ああ・・・・・・。そうか・・・・・・リンゴ」
「いや、ゴリラの次だよ」
「ああ・・・・・・ライオン」
「どうしたんだよ。何か心配なことでもあるのか?」
「俺は自分の安否が心配だよ」
「ナッツは黙ってろ」
「・・・・・・なんでもない。ただ少し眠いだけだ」
「ふーん・・・・・・。しりとりは止めとくか?」
「ああ」
「わかった。しばらく休めよ。・・・・・・ところでさあ、」

そこでココはいきなり見張りの二人に声をかける。

「見張りが二人って多くないか?そんなゴツい銃抱えてさあ・・・・・・。こっちだってけっこう神経すり減らしてるんだぜ?」
「ふん。そうは見えんがな!」
「こいつは眠いって言ってんだろ。そんな銃が目の前にあって眠れるかって。もうマジでしんどいから部屋から出てってくれよ、二人ともさぁ。部屋の外の小窓から見張ればいいじゃん」
「「・・・・・・」」
「休憩だってできるしさぁ。アンタらも何時間も立ちっぱなしできついんじゃないの?」
「・・・・・・」
「・・・・・・ちょっと一旦相談しようぜ」
「・・・・・・そうだな」

見張りの二人は休憩という言葉につられたのか部屋から出ていった。重い銃を抱えて交代無しで数時間も見張りをするというのは彼らにとってもこたえていたのだろう。

「これでしばらくはゆっくり眠れるぜ、ギャット」
「中々やるな。だが礼は言わねえぞ」
「なんでだよ、言ってやれよココに礼くらい。見張りをおっぱらったのに」
「礼は言わない。なぜなら、」

そのとき、ぶちぶちっと音を立ててギャットを縛っていた縄が切れた。切れた縄がはらりと床に落ちる。ギャットが隠していたナイフで切ったのだ。

「これであいこだからだ!」


***


長袖の生地の間に隠していたナイフで縄を切り、束縛から解放されギャットは扉に突進し勢いを殺さずにドアを開けた。それで見張りの片方に扉ごと体当たりをぶち当てた。
いきなり現れたギャットに驚いたもう片方の見張りの反応は驚きによってコンマ数秒遅れた。彼が銃を構えなければ、と思ったときにはもうギャットの掌底があごに炸裂し、膝から崩れ落ちた。

「死ね!このクソ・・・・・・」

体当たりを食らった方がドアの向こうからギャットへ銃口を向ける。ギャットは一度ドアを引き寄せ、見張りの男にドアを再度打ち当てた。衝撃でやや後ろに後退した男にギャットが追撃を仕掛ける。


が、男はギャットの予想よりもやや遠くまで後ずさっていたようだ。

「これでも食らえ!」

見張りの男はマシンガンの引き金を引いた。


†††

さまよう羊のように 9-1

†††9-1


テリフィオール氏の邸宅敷地内
第三棟 地下
B122号室

「・・・・・・縄がキツい」
「我慢しろ、ココ」
「俺は縛られるのに慣れてないんだよ。しょうがないだろ」
「さりげなく俺が慣れてるみたいな言い方すんな。・・・・・・慣れてるけどな」
「あー、アバラが痛え・・・・・・」
「折れてるのか、やっぱり」
「ああ、どうもそうらしい。・・・・・・くそっ」

眉間にしわを寄せて不機嫌そうにギャットが舌打ちをする。一般人二人が無傷で着地に成功したのに対し、現職の警察官(停職中だが)が失敗・骨折したという事実に彼のプライドは人知れず傷ついていた。

「あー・・・・・・、カッコ悪りい・・・・・・」

数時間前まで銃撃戦を乗り切った人物とは思えないほどの落ち込みようだった。


***


今までのことをまとめておくと、
ココとギャットは捕まえたマフィアの一人からナッツの居場所を聞き出した。これは彼ら二人にとって半年分の労苦が半分くらいは報われた瞬間であった。
それでも警戒しつつ向かったホテルで二人は待ち伏せ・閉じこめに遭う。入った部屋の入り口からマフィアが銃撃戦を仕掛けてきたのだ(ホテルの壁が分厚くて助かった。薄ければ隣の部屋から壁越しに撃たれるところだった)。
罠だ、と悟った二人。当然ナッツなど居るわけはない、と思われたが予想に反してナッツはその部屋にいた。ナッツを加えた三人で脱出もとい四回からの飛び降りを断行。ギャットがあばらを骨折しながらも逃げ仰せたかに思えた瞬間、現れた黒の外車。マフィアの幹部、タームのお出ましである。
タームは部下をも切り捨てると宣言し三人はその非常さを前に逃げきれないと観念して捕まったのである。そしてマフィアの敷地の隅っこの建物の地下の隅っこの部屋に連れられて仲良く三人イスに並んでぐるぐるに縛り付けられたのだった。


***


ココ、ナッツ、ギャットの三人の前には見張りのマフィアが二人。その奥に扉が一枚。その扉を出るとどうなっているのかは三人はよく知らなかった。なにせ目隠しをされていたのだ。階段を下りたことから地下だということはなんとなくわかっていたが。

「なあ、ココ・・・・・・。シャーミラはどうなった?」
「どうって?」

ココが怪訝な顔で聞き返す。ナッツが妙にしんみりした声色で尋ねたからだ。ちなみにシャーミラというのはナッツの妻だ。

「俺がいなくなって、その・・・・・・取り乱したりとか」
「・・・・・・強かったよ。さすがはお前の嫁さんだな」
「・・・・・・。ふん、当たり前だろ」
「泣くなよ」
「泣いてねえよ。やめろよ、本当に泣いてるみたいじゃねえか」
「じゃあ、間を空けるなよ」
「・・・・・・お前らホンット仲いいな。・・・・・・あぁ、アバラが痛え」
「そこまでアバラをゴリ押しされると嘘くさく聞こえるよな」
「・・・・・・。あぁ、大声が出ないなぁ。アバラが痛いなぁ」
「本当にそんなに痛いのか?フリしてるだけじゃないのか?」
「ナッツ君。ほとんど初対面なのによくそんなことが言えるな、おい」
「あれ?決めゼリフは?」
「あぁ~、アバラが痛いなァ~」

ココのからかいにナッツがすかさず乗る。

「俺はそんな間の抜けた声は出してねー!うっ、アバラが・・・・・・!」「ところで、ココ。俺が前にお前に言ったこと覚えてるか?」
「うん?アバラが痛い、だっけ?」
「あぁ、アバラが痛えぇ~・・・・・・」

ギャットも乗る。ナッツはそれには特に反応せずに続けた。

「フォンを助けて後悔しないのかって聞いたろうが。あれのことだよ」
「ああ、あったな。半年くらい前に」
「今の気分は?」
「後悔してるかって?」
「そうだ」
「してねーよ。まあ、強いて言うならアバラが痛いな」

ひゃははは、と三人が爆笑する。その光景をゴツい銃を持った見張りの二人は呆れ顔で見つめていた。


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