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北の海の魔女 110

†††110


ホルトゥンが〈幻影〉を発動させた直後に太鼓の音は止み、歓声は悲鳴に変わった。
異変に気づきレイケン将軍が振り返り、城門の兵の様子をうかがう。兵士たちは皆口々に何かを叫んでいたが、レイケンには何が起きているのか聞き取ることができなかった。叫んでいる人間があまりにも多いので何を言っているのかわからなかったのだ。

レイケンが振り返りホルトゥンを探すと、ホルトゥンは走り続けていたためすでに十分に距離を取っていた。離れた場所から自らを見ているホルトゥンをレイケンが睨みつける。

「貴様、何をした?」
「さあね。それよりも答えてほしい。どうしても僕を殺すのか?」
「そうだ。大人しく死ね」

将軍の簡潔な返答を聞いてホルトゥンは目をつぶった。その表情は悲しみとも怒りともつかない感情の色を帯びていた。

再び目を開けたホルトゥンがレイケンに静かに告げる。

「そうか……。僕たちはもう完全に敵同士なんだな。だったら僕も容赦はしない。どんな目に遭っても恨むなよ」

言い終えるとホルトゥンは踵を返して歩き去ろうとした。そんなホルトゥンの後をレイケンが追いかけようとした直後、再び太鼓の音が響き始める。その太鼓は鼓舞のためのものではなかった。

「全員弓を構えろ!」

突然の太鼓の音と号令の声に驚いたレイケンが振り返ったのと、兵士たちが一斉に弓を引き絞ったのはほぼ同時だった。

「放てッ!」

レイケンの目は幾百もの矢が宙を舞う様を捉え、耳は幾千もの矢羽が風を切るヒューッという音を聞いた。

「ぐっ・・・・・・!」

文字通り雨のように降り注ぐ矢を避け切れるわけもなく、レイケンの身体に一瞬で数十の矢が突き刺さる。それでもなお、逃げようとするレイケンに城門の兵士たちが取り憑かれたように弓を引く。

数十秒後、レイケンは夥しい数の矢をその身に受けて力尽き、地に伏していた。

「もう十分だな」

レイケンが倒れたことを確認したホルトゥンはレイケンの元へとゆったりとした足取りで近づいていった。


†††

次回投稿は来週です。
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北の海の魔女 109

††109


レイケン将軍は『盾』を背中に背負い、槍を構えると馬を走らせてホルトゥンに突撃した。
ホルトゥンがそのまま何もしなければ数秒後には彼は串刺しにされてしまうだろう。
『盾』は所持している者に効果をもたらす。だから、今のレイケンにホルトゥンの〈幻影〉は一切効かない。突撃してくるレイケンに〈幻影〉を見せても無意味なのだ。

レイケンの突撃を目の当たりにしたホルトゥンが他人事のように呟いた。

「こりゃあ、避けられないな」

レイケンの突進は速く、そして一分の隙も無かった。走ったり跳んで突撃を避けようとしても彼の槍からは逃れられまい。彼と彼の愛馬の人馬一体の突撃に仕留められないものは無いと言われているのだ。

「行くぞ、ホルトゥン!お前の心臓を我が愛槍で貫いてやる!」
「やってみな!〈幻影〉!」
「っ!」

ホルトゥンが〈幻影〉を発動させた瞬間、レイケンは突撃を中断した。正確には馬が走るのをやめた。
『盾』の所持者に〈幻影〉は効かない。しかし、所持者の乗る馬であれば〈幻影〉は効く。ホルトゥンはそれを利用して〈幻影〉で存在しない壁を馬に見せたのだ。

「小賢しい!馬を下りれば済む話だ!」

レイケンが馬を下り、槍をかかげ気合いを入れ直す。
それに合わせるように城門の兵たちが歓声を上げ、太鼓を鳴らす。
城門の上のやぐらにちらりと目をやったホルトゥンは左大臣の顔を見つけた。

(左大臣が見物か、珍しい。……ははあ、奴がレイケンを差し向けた張本人というわけか)

太鼓の音が鳴る。レイケンが雄叫びを上げ、自分の足で走って来た。歓声がより一層大きくなる。

(レイケンには歓声が聞こえているらしいな。……それを利用しよう)

ホルトゥンはレイケンから逃げるように走り出した。

「逃げても無駄だ、ホルトゥン!」
「逃げてるわけじゃない!〈幻影〉!」

ホルトゥンが〈幻影〉を発動させると同時に太鼓の音が止み、歓声が悲鳴に変わった。


†††

次回投稿はまた来週です。

北の海の魔女 108

†††108


武将はホルトゥンの目の前で馬を止めた。ホルトゥンもそれがわかっていたので何もせずにただ武将の目を正面から見据えた。グルップリーは二人から少し距離を取った。
「貴殿はホルトゥンだな」
「いかにも。あなたはレイケン将軍じゃないか。槍など持って来て・・・・・・。僕を殺しに来たのか?」
「い や、投降を薦めに来たまでだ。貴殿の席は空いている。陛下は貴殿の裏切りなど気にはしておられない」
「裏切り?人聞きが悪いな。僕が裏切ったなどと誰が言った?僕はただ敵将から伝言を伝えさせられているだけだ!」
「ならばなおさらだ。こちらへ来られよ。今なら貴殿の席が、」
「嘘をつくな、レイケン!僕の席などもう無いんじゃあないのか!?」
「そのようなことは・・・・・・、」
「ならばお前が持っている『盾』を捨てればどうだ!僕を中に入れるというのなら造作も無いことじゃないか!?」
「・・・・・・」
「ハッキリ言ってくれ、レイケン。あなたはここに何をしに来た?」
「・・・・・・私は貴殿を殺すために来た」
「それで騙し討ちにしようとしたのか?随分と 汚いマネをするじゃないか」
「・・・・・・」
「それで?君はいつになったら私を殺すんだ?」
レイケン将軍は無言で持っていた槍を構え直した。
それを見てホルトゥンが傍らのグルップリーに指示する。
「グルップリー、城門の側に立っていてくれ。そこが安全だ」
「死ぬなよ」
「君もね」
グルップリーはホルトゥンが不敵に笑みを浮かべるのを見た。
馬を下り、ホルトゥンがレイケン将軍を見上げる。
「さてと、同胞同士でやり合いますか!」
指を一本ずつ鳴らしながら、ホルトゥンはにやりと笑ってそう叫んだ。


†††

次回は4月22日に投稿します。それでは、また。

北の海の魔女 107

†††107
「それでその竜の鱗にはどんな作用があるんだ?」
「少なく ともありとあらゆる魔法を防ぐ効果があるみたいだ」
「ありとあらゆる魔法を・・・・・・?」
「そう。鱗を持っている人間は僕の幻術も効かないし、攻撃魔法も鱗で受け止めればかき消えてしまう」
「でたらめな性能だな」
「だろ?」
しかし、グルップリーはだが、と付け加える。
「数は多くない。多くても十二だろ?他は無防備だ」
「そう。だから門を開けさせるくらいは容易いよ」
「ほーお、そりゃあ頼もしい!ところで我々はこんなところでじっとしてていいのだろうか?」
「まだいいと思うよ。『盾』を使って攻撃してきたって・・・・・・」
ホルトゥンはそこで左の方に目をやり、あ、と言って口をぽかんと開けました。グルップリーが疑問に思ってその視線の先を追うと、馬に乗った武将が猛スピードで向かってきているのが見えた。
「い!?」
「見落としてた・・・・・・。単純に『盾』を持って殺しにくる場合。どうしようかな・・・・・・」
「どうするんだ?」
「まあ、相手の出方を見よう。ただの使いかもしれない」
「いきなり斬られたりして」
「・・・・・・大丈夫だよ、たぶん」

†††

次回更新は4月15日です。お楽しみに!

北の海の魔女 106

†††106
城門の前ではホルトゥンとグルップリーが馬に乗って待っていた。二人は門番の兵に気づかれないようにひそひそと相談を始めた。
「おい」
「なんだい?」
「返事が遅いぞ。バレたんじゃないのか?」
「そうだね・・・・・・。あの子もそろそろ気づくかもって言ってたからねぇ。僕が敵だっていうことに感づ いたのかもしれないね」
「バレていたらどうするんだ?」
「僕がいると知れば連中は決して門を開けないね。それから・・・・・・『盾』も使ってくるだろうね」
「『盾』?」
「『盾』っていうのは・・・・・・。そうだなあ。ヒマだから『盾』に関する昔話でもしようか?」
「そうだな・・・・・・。じゃあ頼む」
「・・・・・・昔すっごく才能のあった旅の魔法使いがいたんだよ。彼は通りがかりに東の国のある村に立ち寄ったんだ。でもどうにも村人は景気のいい顔じゃなかった」
「その理由は?」
「その村の近くに大きな山があるんだけど・・・・・・そこには昔から大きな竜が一匹棲んでいたんだ。まあ、村の守り神みたいな存在だった」
「竜?あの?」
「そう、竜。・・ ・・・・で、最近竜が暴れて村人は困り果てている、ということを知ったんだ」
「へー」
「それで旅の魔法使いは竜に会いに山へ向かうんだ」
「なぜ?村人に頼まれたのか?」
「確かに頼まれたけれど、多分ただの好奇心じゃないかな。そういう人なんだよ」
「ふーん」
「で、山頂で彼は竜に出くわした。侵入者を見た竜は今にも口から火を噴き出さんとしていた!」
「おお!」
「彼は持っていた杖を振りかざすと竜の炎を遮り、目くらましの光を放ち、問いかけた。『私はお前に会いに来ただけだ。お前はなぜ私を襲うのだ』」
「ふんふん」
「それに対して竜は何も答えなかった。ただ声のした方にまた炎を吐いただけだった」
「ひどいなぁ」
「村人から竜は 賢いと聞いていた魔法使いはこれはおかしい、と思った。賢いはずの竜が問いかけにも答えないはずがない。それで彼はピンときた」
「・・・・・・?」
「彼はもう一度杖を振りかざし、竜を縛り上げた。そして鞄の中から小瓶を取り出すと、その中身を縛った竜の口に流し込んだ」
「うわー」
「すると竜の口からねばついた黒い血の塊みたいなものが大量にあふれだした。竜はそのまましばらくの間、血を吐き出し続けた」
「えー・・・・・・」
「竜が血を吐き終えると、魔法使いは言った。『さあ、お前にかかっていた呪いは解いたぞ。これでもまだ私を襲うか?』」
「ふーん」
「竜は問いかけに答えた。『馬鹿なことを申されるな。貴殿のおかげで儂は己を取り戻す ことができた。誠に感謝している』」
「へー」
「竜は続けた。『呪いにかかっていたとはいえ、村の者には迷惑をかけた。儂はこの山を去る。ついては、儂の鱗を十二枚剥ぎ取ってくれんか。それを村の周囲に埋めてくれ。それで儂の加護を得られる』」
「鱗・・・・・・?」
「気づいたか?この竜の鱗が『盾』だ。この後、魔法使いは竜から鱗を剥ぎ取り、竜が飛び去っていくのを見届けた後、下山するんだ。それで、村人にことの次第を告げた」
「待ってくれ。鱗はどうなった?」
「山の上に置いてきた。とても十二枚は運べないからね。大きいし重いから」
「へー。で、それを聞いた村人の反応は?」
「芳しくなかった。全てを知った村人たちは竜が去ったこと を知って喜んだ」
「え?喜んだのか?」
「そう。彼らは竜を崇めてはいたがその有り難みをよく理解していなかった。むしろ、毎年の捧げものをする必要がなくなって喜んだ。そして、魔法使いが懇切丁寧に十二枚の鱗の使い方を教えたにも関わらず、彼が再び旅に出た後、鱗を全て売り払った。竜の鱗の珍しさに目がくらんだんだな。村は数年の後、戦でなくなった。魔法使いは旅先の露天で見かけた竜の鱗を見て事の顛末を知ったという・・・・・・」
「なるほどな。その竜の鱗が巡り巡って・・・・・・」
「ここにあるってワケだ」
グルップリーは目の前の城門を見て、はーっ、とため息をついた。


†††


次の更新は来週4月8日です!お楽しみに!