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ドレス&タキシード! 2-6 落とし物管理のプロ

更新に困ったときはドレタキというパターンが安定化してきている……。


2-6 落とし物管理のプロ 


丸メガネをかけた愛想の良さそうな女性がにこやかに話しかける。

「こんにちは。何か落とし物?」
「はい、ブローチを落としてしまって・・・・・・」

エリーが持っていたおしごと大全(第四巻)の導きによって執事、エリーそしてメイドBは四階の落とし物管理事務室にやって来ていた。

「誰がメイドBよ!」
「空気読めよ。静かにしろよ」
「何か期待されてる気がして・・・・・・」
「誰も期待なんかしてないよ」
「先輩方、静かに。」
「「うっ・・・・・・」」

新米メイドのもっともな注意に先輩二人は何も言えなかった。その様子を見て先ほどのメガネの女性がふふ、と笑う。

「どちらが先輩かわかりませんね」
「「うぅ・・・・・・」」

それだけは言葉にしてほしくなかった、と内心ごちる先輩二人であった。


***


丸メガネの管理人(フィローネさんという名前らしい)が持ち込まれた落とし物の一覧表のファイルをめくりながらブローチを探してくれている。エリーはその横からフィローネさんの手元を熱心に眺め、無能な先輩二人は仲良く指遊びをしていた。

「あ、ありましたよ。ブローチですね、百合の花を模したやつ」
「それです!よかった!」
「あ!、えーと・・・・・・ごめんなさい、勘違いです。もう持ち主がいらっしゃって返却済みですね」
「ええ!?」

面白そう、と役立たずな先輩二人は指遊びをやめて近寄ってきた。

「えーと、もしかして間違えちゃったりとか!百合のブローチなんてそんなに無いのでは?」
「確かに落とし物としてはあまり見ませんが・・・・・・」
「イニシャルで『E』って彫ってあるんです。ありませんでしたか?」
「あ、ああ!確かにありました、Eのイニシャル。ごめんなさい、間違えてしまったようね。返してもらいましょう」

そのとき、管理室の奥から年輩の男性の声が飛んできた。顔は見えないが上司だろう。なかなか渋い声だ。

「おーい、フィローネ君。そそっかしい犯人は誰だったかね?」
「えーと・・・・・・、クリスンさんです」
「それ、きっとメイドのクリス君だよ。また騙されたのかね、フィローネ君」
「え・・・・・・ええ!?」
「彼女の変装と偽名が見破れるようにならないうちはまだまだ君も一人前(プロ)とは言えないよ」
「そんなぁ・・・・・・」

何が起こっているのか皆目見当もつかないエリーたちの前でフィローネさんは意気消沈した。

「あ、あの、フィローネさん?」

エリーがこわごわ声をかけるとフィローネさんはいきなり復活した。ころころと感情が急転する人である。

「やってやるわよ!あのメイド、今日という今日は目にもの見せてやる!」

謎の決意表明をするフィローネさんの後ろで三人は話がこじれてきたことを痛感していた。

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北の海の魔女 114

読者の方がもしも寒気を感じてくれたら僕はとても嬉しいです。


114 幻


レイケン将軍は少年の言葉にぐうの音も出なくなったかに思えた。

しかし、当の将軍はいきなり低い声でのどを鳴らして笑い始めたのである。その寒気のするような笑いが終わるとレイケンは少年の耳元に低い声で囁いた。

レイケン「・・・・・・小僧、舌先三寸ではどうにもならにことがあるって教えてやるよ」

そう言うや、レイケンは少年の喉元に突きつけていた短刀の力を強くした。少年の首がわずかに切れて血が一筋垂れる。

少年「っ・・・・・・!一体、何を・・・・・・!」
レイケン「お前たちを殺して逃げるのさ」
少年「さっき言ったじゃないか!あなたは逃げきれないよ!」
レイケン「構わないさ。このままお前たちに利用されるよりもマシだ。いっそ逃亡途中で殺される方がいい」

その時、両手を頭の後ろに組んでいたホルトゥンが手を下ろした。

レイケン「おい!何をしている!手を・・・・・・」
ホルトゥン「下げたらどうだって言うんだ。どうせ、俺たちを殺すんだろ。だったら、」

関係ないじゃないか、そう言ってホルトゥンは振り返った。その目を見た少年は自分の首に刃物が突きつけられているということも忘れてしまった。

冷たい。そう表現するほかない。
その目で睨まれれば寒さのあまり凍死してしまいそうだ。
少年の背筋にぞぞぞぞぞ、と寒気が走り全身に鳥肌が立つ。恐怖で少年の瞳に涙がにじむ。冷たい瞳の宿す鋭い殺意で心が切り刻まれる。

少年が怯えていることに気づいたホルトゥンは一言、

「・・・・・・君はしばらく幻でも見ていろ」

と告げて少年に<幻影《ファントム》>をかけた。

少年が見たのは春の野にいるという暖かい幻だった。

ドレス&タキシード! 2-5

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北の海の魔女 112

待たせしました。更新が途切れていた北の海の魔女の続きです。
いつもよりちょっと長いです。でも次は短くなってると思います。
では、前置きはこのくらいにしておきます。更新はまた来週の水曜日に。




112


ホルトゥンとグルップリーが意識の無いレイケンを連れて陣に戻り大将の幕舎の中に入ると、少年と大将が今後の流れを打ち合わせていた。

「おかえりー、ご苦労様」

少年は二人を見ると嬉しそうに笑った。対照的に、ヒゲの大将は仏頂面。二人への挨拶もそこそこにホルトゥンが結果の報告をする。

「使者は連れて戻れなかった。代わりと言ってはなんだけど、将軍を一人捕まえてきたよ」

少年は問題ないよ、と笑って手を振った。
そして少年、ホルトゥン、グルップリー、大将で今後の段取りを確認した。

最初に少年が切り出す。

「これから東西の両国から連れてきたレイケン将軍とチョコ将軍を説得して誓約書を書かせる。ヒゲの旦那に書いてもらったときと同じ要領でね」

その言葉で大将(ヒゲの旦那本人)はぐぅ、と唸った。騙されて(現在進行形で騙されているのだが)サインしたことはやはり忘れがたい恥のようだ。
そのとき、ホルトゥンが誓約書に関する補足を入れた。

「誓約書の内容はまあ、よくある停戦協定だ。これの誓約に<国家の命運>をかける。今回の誓約は<国家の命運>をかけた魔法誓約だ。契約破棄すれば国家滅亡、という運命が決定する」

つまりは停戦という誓いを破った場合、破った方の国が何らかの原因で滅ぶ、という意味だ。

しかし、これは嘘も嘘、大嘘である。

少年、ホルトゥン、グルップリーはそのことを知っているが全ての事情を知らないヒゲ大将が同席しているため慎重に言葉を選んで発言している。<魔法誓約>というのは全くのデタラメで、実際に行うのはただの誓約である。要は「誓約を破れば国が滅ぶ」と書かれた何の変哲もない紙にサインさせるだけのことなのだ。

それ故に<魔法誓約>に効力が無いことは誰にも知られてはならない。現在、この陣を指揮しているのは実質的には少年たちだが、それはヒゲの大将が同じ手口に引っかかって「少年たちに逆らうと何らかの害を被る」と錯覚しているからに過ぎない。<魔法誓約>うんぬんが全くのデタラメだとバレた場合(反撃はできないにせよ)、ヒゲの大将を従わせることができなくなってしまうのだ。それでは全軍を上手く動かすことができない。
従ってヒゲの大将に<魔法誓約>に対する疑念を抱かせてはいけない。ただの紙切れを「国の命運を左右させる誓約書」と思いこませる必要があるのだ。


「誓約書の内容はもう書いた。だから残るは、将軍二人の説得だね」


***


確認の後、西の国のチョコ将軍の説得にはヒゲの大将とグルップリー、東の国のレイケン将軍の説得には少年とホルトゥンが向かうことになった。

「心配だなあ」
「なんとかなるよ」
「でも君は彼を半殺しにしたんだろ?」
「でも手当もしたよ」

心配症の少年と、楽観的な魔法使いのコンビはレイケンが眠っている幕舎へと入った。

「あれ?」
「ぐぇっ!ど、どうしたの、ホルトゥン」

幕舎に入るなりホルトゥンが立ち止まったので少年はホルトゥンの背中にぶつかってしまった。
そして少年の問いかけに対してホルトゥンは呆然とした声で応えた。


「レイケンがいない」


***


「え?」

ホルトゥンの返事を聞いて驚いた少年はホルトゥンの後ろから覗き込み、ベッドを見た。確かにベッドは空になっていた。

逃げたのか参ったな、と少年が頭を掻いていると不意に首筋にひんやりとした感触を覚えた。不思議に思って首に手をやると、

「動くな」

という短い命令が聞こえた。少年は背筋にぞぞぞと寒気が走るのを感じた。同時に首元の冷たい感触は刃物によるものだと理解した。

「・・・・・・あなたがレイケン将軍?」
「いかにも私がレイケン将軍だ」

ホルトゥンが振り返ろうとしたのを察したのか、レイケンが厳しい口調で言い放つ。

「ホルトゥン、お前はベッドまで進め。振り返るな。両手を頭の後で組んでひざまずけ」
「ずいぶんな物言いだねえ。矢の痛み、忘れた訳じゃないだろう?」

そう言ってホルトゥンは<幻影《ファントム》>をかけ、レイケンに矢の痛みをフラッシュバックさせた。


・・・・・・はずだった。
激痛に身悶えするはずのレイケンは平然と少年に短刀を突きつけていた。


「残念だったな。<幻影>をかけたんだろ、わかるぜ」
「効いてない、だと?」

普段のふざけた声色とは打って変わって真剣なホルトゥンの声だった。どうやら本当に効いていないらしい。

「俺が<盾>の欠片を持っていると気づかなかったことが運の尽きだ」
「くっ・・・・・・、お前の要求は何だ!何でも飲むからその子を放してくれ!」
「意外だな、ホルトゥン。お前がそんなに取り乱すなんて」
「うるさい!」
「・・・・・・ちょっといいかな?」

会話に割り込んできたのは少年の声だった。静かで落ち着いた声だった。

「レイケン将軍、あなたは僕とホルトゥンを利用してこの陣を抜けるつもりなんだろうけど、それはやめた方がいいよ」
「・・・・・・なぜだ」

レイケンは少年の言葉に耳を傾けてはいけない、と感じつつ思わず聞き返してしまった。

「あなたにとって得にはならないからだよ。僕を人質にしても、そもそも僕を知っている兵よりも西の国の将軍であるあなたを知っている兵の方が多いからあなたは殺されるよ。ただの子供と将軍の命を計り間違う兵はいないよ」
「ふん、武芸の腕で私に勝る者は・・・・・・」
「腕ずくで突破するつもりかい? 僕を抱えてるんだよ。邪魔するよ?」
「…ではこやつに」

レイケンはホルトゥンを指さして何かを言おうとした。しかし、将軍が言葉を続ける前に少年が遮る。

「ホルトゥンに<幻影>を使わせて兵を騙すつもり? ホルトゥンがそんなに素直に従うかなあ」
「先のこやつの動揺ぶりを見れば・・・・・・」
「でも今はもう落ち着いてるんじゃない?」

今やホルトゥンは動揺どころか笑いをこらえるのに必死だった。少年に完全にペースを握られているレイケンがおかしかったのだ。

「ええい!こやつは脅せば何とでもなる!<幻影>で逃げればよいのだ!」
「ふーん。仮に逃げおおせたとしても本当に王都に帰ることができるかな?」
「なに?」
「王都は今、全ての門を閉ざしてるんだよね? それは<幻影>を王都に侵入させないためでしょ。だったら敵陣から帰った将軍をそう簡単に入れたりはしないよ。<幻影>で偽装して引っ付いてくるかもしれないからね」
「そ、そんなものは<盾>を使って確認すれば・・・・・・」
「確かにそうなるよね。でもさあ、それはあなた一人の場合だよね」
「どういうことだ?」
「将軍がこの陣を脱出したら僕をどうするつもり?」
「解放してやる。もう用は無いからな」
「それで僕たちがあなたをおめおめと逃がすとでも? 当然百か二百の騎兵を率いてあなたを追いかけさせるよ」
「だったら、お前を連れて王都に入る。それで問題なかろう」
「あるよ。大有りさ」

そこで少年は意地悪く微笑んだ。

「例え僕を解放せずに連れていったとしても、ホルトゥンが騎兵を追っ手に出すから城門は開かない。開けられない。ホルトゥンがいなくても敵の騎兵を前にして城門を開けるような門番はいないよ」
「だ、だがそれはホルトゥンが騎兵を追っ手にしなければ済む話だ!違うか!?」
「違わない。でもあなたは今の発言で墓穴を掘ったよ。・・・・・・ホルトゥン、最悪の場合には騎兵を出してくれる?」

ホルトゥンは背を向けたままで答えた。

「ああ。もちろん。たとえ君がそのせいで死ぬとしても僕は騎兵を差し向けよう」
「……さて。他に何か策はありますか、レイケン将軍?」