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さまよう羊のように7.0

†††

「まだ言わないのか」
「誰がてめえらなんかに・・・・・・」
ごすっという鈍い音がした。
「言わなければ延々とこれが続くぞ」
「大したことねぇよ、こんなもん」
「・・・・・・そうか。俺も少々飽きてきたところだ。ちょっと趣向を変えるか」
そういうと男はその部屋の暗がりへ一度入り、すぐにまた出てきた。
手には何か妙な道具を持っている。
「・・・・・・気になるか?」
男はイスに縛られた男の目がその道具に吸い寄せられているのを目ざとく発見して、にやりと不気味に笑い、その道具を少し持ち上げてそう言った。
「・・・・・・いや」
しかし、縛られた男の覇気は少々なりをひそめたようだ。
「・・・・・・ほどほどにしとけよ。ギャット」
部屋の暗がりの中から声がする。
「わかってるよ。話ができる程度には手加減する」
ギャットと呼ばれた男は道具をひらひらと振って暗がりの男に返事をする。
「いや、それはいい。書ければ問題ない。・・・・・・まだ書けるよな?」
「ああ、問題ない」
「じゃあ、いい。悲鳴をあまり出させるなよ。場所がバレるからな」
「・・・・・・喉を締め付けながらやればいいかな?声も出ないかもよ」
「それでいいんじゃないか?」
じゃあそれで、と言ってギャットと呼ばれた男が縛られた男を振り返ると男は、
「わかった!吐く!しゃべるから!どうか・・・・・・」
「・・・・・・何を?」
暗がりの男が静かに尋ねる。その問いかけに情は微塵も無い。
「や、奴の居場所だ!さっきから何度も聞いてるだろ!」
「わかった。言ってみろ」
ギャットが少し縛られた男から距離を取る。
「イゴイのホテル、『金科玉条』。その五階だ」
「・・・・・・本当に?」
暗がりから声が響く。
「本当だ」
「・・・・・・ギャット。そいつの舌を抜け」
「了解」
「な、・・・・・・なんで・・・・・・?」
縛られた男は絶句した。
「理由はお前一番よくわかってるだろ?・・・・・・ギャット、ロープはどこにある?」
「その机の上にあるだろ?右端だ。焼きゴテの下」
「ああ、あったあった」
暗がりから男が姿を現す。ロープを持って表情無く縛られた男に近づく。
「な、なんでだ!お、俺はちゃんと居場所を・・・・・・」
「嘘だろ?」
暗がりから現れた男は刃物のような短い言葉を吐いた。
「う、嘘じゃ・・・・・・」
縛られた男がそう言う間にも暗がりから現れた男は歩みを止めることなく縛られた男の後ろに回り込む。ロープを持って。
「ギャット、顎を抑えなくても大丈夫か?」
「大丈夫だろ、これを口に入れちまえば」
ギャットはそう言って大きなハサミのような形状の鉄の塊を揺らす。
「じゃあ、やってくれ」
「わかった!わかった!話す!話す!話すからやめてくれ!」
縛られた男は金切り声を上げた。
「うるさい」
しかし、ロープを持った男もギャットと呼ばれた男も手を止めない。ぐりぐりと力づくで作業を進めていく。
「ア、アルカッロの!ホテル『一挙両得』!そこの四階!四〇三号室!」
たまらず縛られた男はそう叫んだ。

†††

「やっとだな」
ギャットは部屋の外に出て煙草を吸い始めた男に言った。暗がりにいた男だ。
「ああ」
暗がりの男は煙をふーっと吐いて応えた。
「あいつどうする?」
ギャットが部屋を指さす。部屋の中にいる男のことを言っているのだ。
「ホテルを確認するまでは放っておけばいい。どうせ何もできない」
「ん。了解」
そう返事をしてギャットは立ち上がった。部屋の中の男を移動させるのだろう。再びドアに進もうとした。
「ありがとよ、ここまで付き合ってくれて」
暗がりの男はドアノブをつかんだままのギャットへそうつぶやいた。目はむこうを向いている。ギャットはその男の様子に喉の奥からクックッと笑い声を出した。
「お前こそお疲れさま。ココ」
そう言ってギャットは部屋の中へ消えた。

†††

「ここだな」
ギャットがホテルの前で車を停める。
夜の闇に車のランプが吸い込まれていく。すぐ先さえ何も見えない。
「ああ」
二人は車から降りてホテルに向かう。
安いホテルだ。ホテルと言うよりもただの宿。ホールは狭く、汚い。
そのままエレベーターに乗ろうとするとボーイが二人を止めた。
「すみません、お客様以外はお通しできません」
妙なところは律儀だった。だったら掃除を丁寧にしろと思わなくもない。
「そうか・・・・・・。悪い悪い、うっかりしてたよ」
ギャットは少し迷ってボーイに返事をし、チェックインに受付に向かった。彼ならばその気になればそのまま進めるのだが、あまり目立つのもどうかと思ったのだろう。
「すまん、待たせた」
「構わない」

†††

「四〇三号室だったか・・・・・・」
エレベーターで上昇しているときにココがつぶやく。
「また罠かな?」
「さあな」
エレベーターが四階に着く。二人は腰に帯びた拳銃を確認する。
エレベーターの扉が開く。

・・・・・・マフィアはいない。

「ふう」
ココは思わず詰めていた息を吐き出した。
二人はエレベーターの外へ足を踏み出していく。
四〇三号室の前に立った。
二人とも実の所生きた心地がしなかった。
今にも目の前の扉から散弾銃や機関銃の弾丸を喰らうかもしれない。
隣室の扉からマフィアがわらわらと出てきて一斉射撃されるかもしれない。
中に入った途端、撃ち殺されるかもしれない。
中に入った途端、地雷式のトラップで吹っ飛ぶかもしれない。

ギャットがココに目配せする。
ココがうなずき拳銃をドアに向けて構えた。
ギャットはドアノブをつかみ、回した。

†††

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