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北の海の魔女 98

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捕虜軍の行進が首都前で停止した直後、その報を受けた東の国の臣下たちは混乱していた。
城の中のある一室において、戦場に赴かず首都に残っていた文官、武官は一堂に会し、長机を囲んで対策を練っていた。

「どういうことだ!なぜあの軍はあそこで止まった!?率いているのは誰なのだ!?」
「例の少年ですよ」
「例の・・・・・・?ああ、『幻影』を連れてアヴィンに行ったガキか」
「ガキだなどと侮ってはいけません。彼は少なくともアヴィンの関で二万の軍勢を『幻影』と二人で一晩のうちに完全に制圧した張本人なのですよ」
「それは報告が正しければ、の話だ。少年が西の国を手引きしたということも考えうる」
「問題は正にそこだ。小僧は敵なのか、味方なのか・・・・・・。早急に、かつ見誤ることなく、判断せねばならない」
「彼の出身は?割れてるのか?」
「辺境の村だそうだ。詳しくはまだわからんが、西の国とつながってはいなさそうだ。妹の件も本当のようだ。もっとも、目撃者はいないそうだが」
「妹・・・・・・?」
「忘れたのか?あの子の妹は北の海の魔女にさらわれたのだ。だから・・・・・・」
「ああ、思い出した。だから旅をしているのだったな」
「本題からずれてるぞ。で、奴はシロか?」
「少なくとも村を出るまではシロなんじゃないか?」
「うーむ・・・・・・。いや、その判断は早いが・・・・・・、やはり決め手が無いな・・・・・・」
「判断できないと?」
「あの・・・・・・、彼は子供ですよ?どう考えてもクロってことは・・・・・・」
「普通、子供ってヤツは無垢で、単純で、頭が悪く、感情も上手く殺せない。スパイなんてとうてい無理・・・・・・と思われているがな。子供の中にも切れ者はいる。この小僧にしたってそうだ。あの報告が正しくても正しくなくても、この小僧は恐ろしく頭が切れる。怖いほどにな」
「・・・・・・今、首都にある戦力は?」
「首都にいる兵で捕虜軍を討つ気か?残念ながらそれは厳しい。首都に残した兵はあれの四分の一に満たんよ。他は皆戦地だ」
「五千ほどか・・・・・・。上手くやればいけるんじゃないか?」
「何をバカなことを。この辺りは丸ごと平野だぞ。山や谷が隣接しているならともかく、奇襲は不可能だ。夜に上手く紛れたとしても追いつめられなければ効果は小さい。余程に上手い作戦と連携が必要だ。難しすぎる。守りに徹するしても虚を突かれれば負ける。この城の弱点が知れれば一気に攻め込まれよう」
「城外へは出ずに守りに徹し交戦も避ける、か・・・・・・。排除は本当にできないのか?」
「『幻影』以外の宮廷魔法使いは・・・・・・、いるわけがないか。皆戦地だな。排除は難しかろう。」
「ところで使者は送ったのか?送っていないでは話にならないぞ」
「それなら先ほど連絡があった。『用があればこちらから使者を送る。そちらは妙な動きを見せないことよう』・・・・・・だそうだ」
「使者は誰からその言葉を受け取ったのだ?」
「いや、使者は捕虜軍の陣営に入ることはできなかった」
「どういうことだ?」
「入り口で拒否されたのだ。しかし、返事は文として受け取ることができた」
「それでのこのこ帰ってきたと?間抜けなヤツだな」
「まあ。そう言ってやるな。奴はよくやったよ」
「なぜ姿を見せなかったのだろう?」
「捕虜軍の指揮官か?」
「指揮官か・・・・・・。本当にあの子が軍を停止させたのだろうか。もう、指揮権は他に移っているのではないか?」
「ホルトゥンが指揮を執っていると?」
「そうではない。西の国の将校のことを言っているのだろう。小僧と『幻影』がどのように指揮権を奪ったにせよ、西の国が指揮権を取り戻した、というのはあり得ない話ではない」
「なるほど。西の国が指揮権を・・・・・・。それなら話が合いそうだ」
「捕虜軍の指揮権は二人が握っていたが、首都を目前にして、西の国が指揮権を取り戻した」
「指揮権を取り戻した軍は首都を目の前にしてこちらの戦力を計りかねているんだ。だから、動けない。下手をすれば全滅だからな。せっかく、首都の懐に刃を突きつけることができたのに」
「だとすれば待機は必須だな。我々の戦力を見極め、援軍を呼び寄せる時間を稼いでいるのか」
「援軍は呼んだか?外回りから展開しているところから五万ほど戻してはどうだ?」
「その手は無かろう。援軍は各地から呼んである。だが、なにせ遠いからな、時間がかかる。他の戦地も似たようなものだ。最短で三日はかかる」
「三日!西の国の援軍の方はどうだ?」
「無論、連中の方がやや遅い。距離だけでなく、我々がただでは通さんからな」
「では問題は『三日間如何に首都の戦力を隠し通すか』、だな」
長机を囲む臣下たちが皆一様にうなづき合う。同意がなされたようだ。

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