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さまよう羊のように 9-4

†††9-4


ギャットを手当するベニーの姿を見ながらタームはイラついていた。幹部になる前なら彼はチャックを切り捨ててでもギャットの治療を断っただろう。タームの目的は三人組の捕獲・処分であり、チャックのようにいくらでも代わりのいる人材のためにそれが妨げられていることが我慢ならなかった。
タームがチャックを見捨てなかったのは彼の優しさなどではなく、「自分はこの組の幹部なのだ」という思いだけであった。もしもチャックを見捨てた、などということが部下の耳に入ったならばそれはターム自身の信頼を失墜させるだけではない。ボスや組全体に不信感を蔓延らせていただろう。

「弾丸は貫通しているようだがこの出血量・・・・・・動脈を傷つけたか・・・・・・?」

ベニーがギャットの服を切って患部を見ながら言う。その言葉を聞いてココが叫ぶ。

「助かるのか!?」
「そんなことワシが知るかっ。運が良ければ助かるだろうよ」
「そんな・・・・・・」
「うるさいわい。治して欲しければ黙って見ていろ」
「・・・・・・ちっ」
(・・・・・・助かるかは五分か)

ベニーとココの会話を聞いてタームは思案する。

「おい、お前こっちに来い」
「お前じゃねえ、ココだ」
「・・・・・・ココ、取引だ」
「取引はギャットが助かってからだ」
「そいつを助けたくないのか?」
「どういう意味だ」
「そいつを病院に連れていく必要があるんじゃないのか?・・・・・・違うか、ベニー?」
「当然だ。このままでは確実に死ぬわい」
「だそうだ。・・・・・・さてここで相談だ。聞くかね?ココ君」
「・・・・・・ああ」
「我々としてもギャット君には助かって欲しいと思っているのだがね。どうやら確実に助かるわけではないそうじゃないか。・・・・・・そこで、だ。君たちの身の安全は保障するからチャックの居場所を教えてはくれないかね?」
「・・・・・・どういう意味だよ。回りくどいんだよ、言い方が」
「いいからさっさとチャックの居場所を言え」
「さっきの取引はなんだったんだよ」
「マフィアを相手にまともな取引ができるとでも思ったのか?」
「断ればどうなる?」
「今すぐにそいつの治療を止めさせる」
「・・・・・・」

ココはしばらくタームを睨んでいたがやがてため息を吐き出した。

「わかった。言おう」
「ああ、さっさと言え」
「だが今は言えない。言わないんじゃなくて言えない。そもそも俺は場所を明確に覚えていない。元々外国人である俺は地図までは正確に読めないからな」
「・・・・・・」
「だから俺を連れていくしかないぞ」

ははあ、とタームは心の中で薄く笑った。

(こいつ何か企んでいるな・・・・・・。だが、むしろありがたい。自分から部下の目の前から離れてくれるとは。私がチャックを見捨てるような真似は部下の前ではできない・・・・・・。これはむしろこいつを消す好機!)

「・・・・・・いいだろう。連れていくとしよう」
「ただし、ギャットが無事に病院に着くまではチャックの所までは行かない。近くまでは行ってもいいがな」
「・・・・・・わかった。時間が惜しい。早く行こう」

(部下の目の前でこれ以上厄介な条件を増やされてはかならん!)

「まだある。ナッツをギャットに付き添わせるから二十分ごとに連絡させること。欠かせば取引は終了だ。その際にはベニーにも何か言わせること。更に・・・・・・」
「まだあるのか!」
「ある。あんたの部下を一人同行させろ。俺の保険だ。・・・・・・あんたならこの意味がわかるよな?」

タームはココのその言葉を聞いて心底忌々しそうに舌打ちをした。


***


ココ、ターム、タームの側近のキソン、また地下にいた部下の一人のカブ(適当に選抜)の一行がチャックの解放に向かうことになった。

(今は警官隊が来ているから敷地内から車で外に出ることはできん。一旦別の建物から地下道を通って外に出るか・・・・・・)

「こっちだ。絶対に敷地内にいる警官に見られるなよ。見られればギャットはその時点で死ぬ」
「チャックもな」
「そうだな。だが死に際のギャットを叩き起こして拷問させるのは忍びなかろう?」
「・・・・・・」

四人は第三棟(ココたちが捕らえられていた建物)から出た。キソンが先に出て状況を確かめに行く。キソンは数分で戻り、タームに報告した。

「部下に邸宅付近で騒ぎを起こさせました。通り道には誰もいません」「ご苦労」

キソンの言葉通りに四人は問題なく外へと続く地下道のある建物に到着した。

「ここは敷地のかなり奥にあるから警官はまだ来ていないはずだ。さっさと行くぞ」
「ギャットたちもここから出るのか?」
「いや、違う。もっと近い出口だ。地下道の出口に車は何台も置けないからな。私たちは遠い方だ」


***


ココ、ターム、タームの側近のキソン、存在感のない部下のカブの四人は地下道を抜けて無事に外へと抜け出た。抜けた先は山の中だった。タームが地下道出口近くに停めてあった車の後部座席(運転席側)に乗り込む。運転席にはキソン、助手席にはカブ、後部座席の助手席側にはココが乗った。キソンが車のエンジンをかける。

(危ない橋だった・・・・・・。それにしてもこいつは何を企んでいる?地図が読めないだと・・・・・・?はっ!嘘に決まっている。こいつをさっさと殺してしまいたい余りに一見思案の足りないこいつの提案に乗ってしまったが・・・・・・)

「おい、ナッツに電話をさせろ。時間だ」
「ふん・・・・・・。ほら、通話中だ」

タームがココに携帯電話を投げて寄越す。ココはそれを無言で受け取ると携帯を耳に近づけた。

「もしもし」
「もしもし。ココか?」
「ああ。ギャットの様子は?」
「ああ・・・・・・今車に乗り込んだところだが、まだ血が止まらない・・・・・・」
「・・・・・・そうか。ベニーに代わってくれ」
「ああ・・・・・・。・・・・・・何だ!手当して欲しいんじゃないのかクソガキめ!ワシの邪魔をするな!」
「・・・・・・すまん、悪かった」
「・・・・・・もしもし?まあ、そんな訳だ。ある程度走ったら救急車に乗り継ぐ。・・・・・・そっちもしっかりやれよ」
「ああ、任せろ」

返事をしてココは電話を切り電話をタームに投げ返した。

「それでどこに向かえばいいんだ?全く場所がわからんわけではないだろう?町の名前くらいは知っているはずだ」
「デメデメタウンだ」
「確かにお前たちはその周辺で騒ぎを起こしていたな。・・・・・・キソン、そこに運転してくれ」
「飛ばします」

キソンがアクセルを踏み込んだ。


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