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北の海の魔女 117 逆鱗結界

117 逆鱗の結界

前回のあらすじ
シャインは東の国が進軍しているという知らせを受け取るが、直後に真面目な西の兵たちによって捕らえられてしまう。ホルトゥンが第七区でベリオと抗戦しているとき、隣の第八区ではレイケンが雄叫びを上げていた。


ちなみに陣の区分けは
123
456  →  東の国
789
という感じで並んでいます。だから第五区だと真ん中ということになりますね。東の国は方角の参考に。
ちなみに4区に将軍の幕舎(作戦会議室あつかい)があります。

今回、シャインは5区、ホルトゥン&ベリオは7区、レイケンは8区と7区の境目くらい、グルップリー&ヒゲ将軍は9区にいるところからスタートします。
それでは。






「しつこいですよ先輩!いい加減に死んでください!」
「まだ、まだだ・・・・・・。はあはあ・・・・・・」

ベリオの襲撃から約十五分。<浮遊《フライ》>と<鉄《フェルム》>の魔法を使用し続けるベリオに疲れの色はほとんど見えなかったが、対照的にホルトゥンの息の荒さはすでに彼が限界であることを物語っていた。

「そろそろ限界みたいですねえ。それじゃあ、止めと行きますか!」
「マジか!?」

ベリオは両腕を天に向かって広げると、

「降り注げ!<鉄の雨《フェルムレイン》>!」

そう叫んで文字通り小さな鉄球を雨のように降らせた。

「いっ、いた、いて!痛ててててて!」

一つ一つは大した威力ではないのだが、なにせ量と範囲と密度が半端ではない。ホルトゥンは頭部を両手で覆ったが、覆いきれないところに無数の攻撃を受けた。
痛みと目眩でうずくまるホルトゥンに対してベリオが笑いながら声をかける。

「ふふふふふ・・・・・・。この技は神経使うから使いたくなかったんですけどね。先輩があまりにちょこまか逃げ回るから使っちゃいましたよ」

そしてホルトゥンを指さすと、

「これでもう動けないでしょ。おわかれです、先輩。俺、先輩のこと嫌いじゃなかったです」

そう言って右手を掲げ、特大の鉄球を作り出した。

「ま、嘘ですけどね」

ベリオはその鉄球を慎重に、狙いを定めてホルトゥンの上に落とそうとした。
しかし、そんなベリオの右腕から突然一本の矢が生えた。鉄球が見当はずれの方に落ちる。

「・・・・・・???」

いきなりのことに頭上に『?』を浮かべてベリオは一瞬戸惑い、そして、

「うおああああああああっ!なんだこれえええええっ!?」

絶叫した。やがて怒りの籠もったまなざしで地上を睨みつけた。

「貴様かっ・・・・・・!」
「俺様だ」

そこにいたのはレイケン将軍と数十人の西の国の兵隊たちだった。


      ***


「ほら、ボウズ!しっかり歩け!」
「う~、くっそー!あの伝令兵めー!」

シャインは歯噛みしながら兵士に第五区へ連行されていた。

「お前は今から医療舎行きだ!大人しくしてろよ!」
「え、優しい女の人とかいるの?」
「いるわけねえだろ。男の衛生兵ばっかだよ」
「なんだ・・・・・・。がっかりだよ・・・・・・」
「そう気を落とすなって」

第五区には怪我をした兵士たちを診るための簡易的な医療舎があった。シャインはまだ子供、ということで情けをかけられてそこに連行されていた。

そして数分後にはシャインは無事に第五区の衛生兵の所へと届けられた。


      ***


「弓兵ども、構えろ!」
「『ども』は余計だ、東の国の裏切り者め!」

レイケンの合図(?)で弓兵がベリオに向かって矢を一斉に放つ。
しかし、ベリオは<鉄《フェルム》>で鉄の盾を作り、これを防いだ。

「不意打ちでもなければ当たりやしねえよ!クソ将軍が、俺を傷つけたことを後悔させてやる!」
「やれるもんならやってみろよ、クソガキ」

レイケンが指先でちょいちょい、と挑発する仕草をした。ベリオは挑発に乗ってホルトゥンの頭上からレイケンの頭上へと移動した。
レイケンのそばにいる弓兵たちはベリオを見上げる格好になって射るのが難しそうだ。

「死ねよ、クソ将軍」

口調までがらりと変わったベリオが再び特大鉄球を出した。
落下する鉄球を紙一重でかわした将軍はにやりと笑った。

「死ぬのはお前だ、クソガキ」

瞬間、ベリオの左半身に矢が何本か突き刺さる。痛みで意識を失ったベリオは<浮遊《フライ》>で浮いていることができずに落下した。

レイケンは弓兵の班を二つ作り、一つをそばにひかえさせてベリオの前に姿を現した。もう一つの班は近くの物陰に潜ませていたのだ。ベリオは見通しの良い空中にいたがホルトゥンに夢中で彼らの動きに気づくことができなかった。
レイケンはベリオが頭上に来るタイミングーーーーー視野が最も狭くなるタイミングを見計らってもう一つの班に矢を放たせたのだ。


      ***


一方、東の軍の先頭。

「ふはははは!今、連中は突然侵入してきたベリオにかかりきりのはずだ!ホルトゥンめ、いまごろやられてしまったやもしれんな!」
「頭の良い大臣方の作戦です。成功間違いなしですよ」

先鋒を任された将軍とその側近が話している。
この二人はもちろん、大臣たちも彼らが攻める陣、砦にもう一人の魔法使いグルップリーがいることは知らない。
グルップリーは戦闘において顔を見せたことはほとんど無かった。いつもは顔を隠して遠くから魔法を使っているからだ。
故にグルップリーが西の国の遠征軍に参加していることを知っていた者はいなかった。そもそもその名前すら知られたものではないのだ。素性の知れないグルップリーはその魔法から『城門破り』の異名しか持っていなかった。
そして今回の戦闘で『城門破り』はついぞ姿を見せなかった。アヴィンの関所が開いていたからだ。
しかし東の国は『城門破り』でなくとも他の魔法使いがいる可能性は考慮していたらしい。
なぜなら・・・・・・。

「それにしても大臣方も贅沢なことをする!国宝級の代物を全部使うなど!」
「『盾』のことですか?そうですよね、今回の突撃だけでも三つも使うなんて!」
「原理はわからんが・・・・・・今あそこは魔法が使えなくなっているのだろう?そしてこちらの魔法は使える、と。反則のようで気が引けてしまうがな!ふはははは!」
「三つの『盾』で三角の陣を作り、敵の砦を囲む・・・・・・。それにより、敵の魔法を無効化する一方で味方の魔法は増長・・・・・・。確かに反則的ですね」

東の国が『盾』・・・・・・竜の鱗を利用して作り上げたのはかつて竜が作れと言った陣の真逆の性質を持つ陣だった。


      ***


ホルトゥンは地面に倒れたベリオから『盾』を奪い取ろうと、ベリオの身ぐるみをはいでいた。レイケンはそんなホルトゥンに多少ヒキつつも彼を手伝っていた。
不意にホルトゥンが立ち上がる。

「『盾』を持っていない・・・・・・ということは、これは『逆鱗の陣』だな」
「げきりん?」
「東の国が国宝として有り難がっているものは竜の鱗だ。竜の鱗は強力な魔法道具だから単独でも十分すぎる効果がある」
「魔法を無効化するってやつか。聞いたことあるな」
「だが、竜の鱗の真の効果は複数枚使用しての結界だ。完全なものを作るにはおそらく十二枚必要だが、弱いものなら三枚で十分作れる。これは本来の効果とは違うが・・・・・・」
「本来の効果?」
「本来は守護竜が守ってきた村の平和を願って作るようにいった陣だ。竜鱗の陣、と言う。外敵の魔法を無効化するのはもちろん、天災なども防いだはずだ」
「じゃあ、今は・・・・・・」
「ああ。おそらく逆の効果が発動している。『陣の中の対象者』はもれなく魔法が使えなくなる。兵も弱体化しているかもしれない。・・・・・・まあ、完全なものでないから効果は魔法に関するものだけだろう」
「そ、そうか・・・・・・」
「嫌な予感がするから私は竜の鱗を見つけて回収する。お前はシャインを見つけてこのことを伝えてくれ」
「お、おい!俺のことを信用しすぎじゃないのか!?」

痛む身体を動かしてホルトゥンはすでに歩きだしていた。
レイケンの言葉にホルトゥンは気だるそうに答える。

「シャインが信用したんだ。私が信じないわけにはいかないんだよ」

そう言うとホルトゥンはその場から立ち去った。

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