FC2ブログ


女神テミスの天秤 1.0

鞄の中から鍵を取り出してがちゃりとドアを開けてみるとテレビが点いている音がするし、部屋の明かりも漏れている。
泥棒か・・・・・・?
泥棒が下宿する貧乏学生の部屋をわざわざ選んでくるとも思えないし、テレビを点けてくつろいでいるわけがないのだが、実際にバラエティ番組の爆笑は聞こえる。
・・・・・・というか見てる奴の笑い声も聞こえる。
静はなるべく音を立てないように中へ入り、そろりと下駄箱の裏から非常用の木刀を取り出した。
彼女は木刀の使い方を習ったことはなかったが、空手をやっていることもあって、迫力はあった。
抵抗したらこれでぶん殴ってやる。
色々な意味で彼女が危ない娘であることは認めよう。
ともかくも静はその長身によく似合う木刀を構えてじりじりと、テレビのある居間へとにじり寄っていった。近づくほどにテレビの音は大きくなる。彼女の緊張の度合いと心拍数ももがんがん増していく。
静はついに居間へのドアのノブに手をかけた。
ごくりと唾を飲み込んで静は勢いよくドアを開けた。
「うわっ!」
・・・・・・泥棒はすっ転んだ。静の愛用のファンシークッションの山に頭から。寝そべっていたのにどうやって転んだのだろう。
泥棒は寝そべってテレビを見ていたのだ。スナック菓子もつまんでいた。そこに静がばっと現れたのでびっくりしたのだ。
静があきれて絶句したことは言うまでもない。
「いきなり何だよ!び、びっくりするだろうが!」
いまだ興奮冷めやらぬ、というやつか。口ごもりながらも見当違いもいいところな文句を言っては「まだどきどきしてる」と胸に手を当てている。
泥棒(?)はそう文句を言った瞬間、静の目を見て絶望した。野獣がそこにいた。
「ああ?」
泥棒(?)はびびった。心底。
「あんた、何?泥棒?」
「い、いえ、違います」
木刀を肩に担いで眼下に転がる泥棒もどきを睨みつけるその様は誰かのトラウマになりそうな程の迫力があった。
「じゃあ、何?」
静が一歩詰め寄る。泥棒もどきの動揺も上がる。
「あ、えーと・・・・・・」
泥棒もどきは口ごもる。すると静は泥棒もどきの顔の前に木刀をびゅっと振り下ろした。
「・・・・・・!」
声もなく後ずさる泥棒もどき。静もそろそろ可哀想になってきたのか、
「正直に言ってごらん」
と笑って小さい子供に言うように告げる。しかし彼女が木刀を背負っていることを忘れてはならない。笑顔も迫力があった。
泥棒もどきはぼそりと何か言った。
「は?」
静が聞き返す。声は少々乱暴だ。テレビの爆笑が聞こえる。静は鬱陶しかったらしくリモコンでテレビを消す。
静が再び泥棒もどきに向き直ると、息を整えて、
「・・・・・・魔法使い」
と言った。
「・・・・・・は?」
泥棒・・・・・・もとい自称魔法使いの告げた言葉を静は目を閉じ約三秒かけて吟味した。
静が目を開けた。結果が出たようだ。
すがるような目で自称魔法使いも静を見上げる。
しかし、現実は非常だった。

・・・・・・自称魔法使いの右頬には丸三日間消えないアザができた。



「で、あんた、何よ?」
下宿大学生の家にふさわしいちゃぶ台ほどのテーブルをはさんで向かい合わせに座って静は自称魔法使いに問いかける。
「名前はトキセワタル。魔法使いだ」
トキセと名乗った男はよく見るとそれは変な格好をしていた。魔法使い、のコスプレっぽかった。黒いローブ、黒いマント、脇に置いた黒いとんがり帽。
トキセは頬杖をついてぶすっとした顔で言い、さっきから消えているテレビを点けるべくリモコンに手を伸ばした。
その手首をがっきとつかんでぎりぎりと止める静。続いてリモコンをベッドまで投げ飛ばした。
ああ、と残念そうな顔をするトキセ。その鼻の前に静は人差し指を突きつけ、ぐいっと身を乗り出して言う。
「真面目に答えなさい」
トキセは人差し指から自らを守るように手のひらをかざした。
「人を指さすなよ。褒められたことじゃないんだろ?あと、俺は真面目に言ってる」
この時トキセは妙な言い方をした。理由はすぐにわかるだろう。
「じゃあ、使って見せてよ。そうしたら信じるわ」
自信満々で言う静。勝利を確信している顔だ。
それを苦々しい顔で見るトキセ。
「今か?」
「今よ」
静は即答した。
「一、二週間後じゃだめか?」
「何でそんなに待たなくちゃならないのよ。今よ」
トキセはふーっと息を吐いた。この上なく嫌そうである。
トキセはぴん、と人差し指を立てた。それになんとなく静も目を奪われる。
次にその指をベッドへと向けた。少し変な表情をする静。
するとベッドの向こうからふわふわと黒い物体が飛んできた。
トキセはそれを両手で捕まえ、テレビに向けた。
「ほらな」
バラエティ番組は終わって、ドキュメンタリーに変わっていた。トキセは心底残念そうな顔をした。



「あ、あんたが魔法使いだってことはわかったわ」
静が再び口を開いたのはトキセが収穫したリモコンで番組の品定めを終わらせた少し後だった。初めて見た出来事を整理していたのだ。結局できなかったが。
「物わかりがいいね」
テレビからちら、と一瞬目を離してトキセは言う。
「それはそれとして、よ」
静が動揺から立ち直って言う。魔法云々は後回しする事に決めたようだ。トキセが少し首を傾けた。聞いてるよ、ということのようだ。
「なんであんたがあたしの家にいるのよ」
「あー、それなー」
テレビに目を向けたままでトキセは返事する。聞いていないのではなく、話しづらそうな感じである。
「長・・・くはないんだけど、わかってはもらえないと思うよ」
「いいわよ。説明終わったら出てってもらうから」
「・・・・・・結論から言おう」
そう言ってトキセはくるりと直角回転。静に向き合った。
「俺はこの家に住む。それも少なくとも一年は」
静はもう何と言っていいのかわからなかった。
「は、え、は?」
「落ち着いてくれ。多分その方がいい」
「どうしてあんたがあたしの家に住むなんてことになるのよ!あたしの家なのよ、勝手に決めないでよ!」
「いやまあ、その通りなんだが」
「じゃあ、さっさと出てってよ!」
トキセは参った、とばかりに頭をかいた。
「・・・・・・言い分を聞いてもらってもいいかな?」
「だめよ」
キッパリと静は断言した。
「じゃあ、悪いけど出ていくのはあんただ」
静はそのときのトキセの瞳の色を一ヶ月は忘れることができなかった。
真面目、とかそんな次元ではない。有無を言わせず実行する、というのが近いだろうか。それでも完璧な説明ではない。
「な、なんであたしが出て行かなくちゃならないのよ!あたしの家なのよ!」
「だから、そんなことは分かってる」
トキセは恐ろしい程静かに言う。
「俺がこの家に居座らなければならないのは、お前とは一切関係のない決定事項だ。もっとひどいことになってもいいのか?」
「ひどいことって何よ」
トキセは答えようとしたが口を閉じ、一瞬間を取って
「その前に俺がどこから来たかを話そう。大事な情報だ」
「どこよ?」
トキセはふ、と笑って次の言葉を接いだ。信じないだろ、と言わんばかりの笑みで。
「未来だ」
静が再び絶句したことは言うまでもない。
関連記事

テーマ : オリジナル小説 - ジャンル : 小説・文学

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)