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北の海の魔女 12.0

†††

二人は森を抜け王様のいる町に向けて野原を進んでいます
もう王様の住む大きな城が見えてきたところでオオカミが口を開きました

「王都に着いたな。もうすぐお別れだ」
「ありがとう。君の案内のおかげだよ」
「いや・・・・・・」
オオカミは首を振ります

「どうしたんだい?」
男の子はオオカミが何かを言おうか迷っていることに気づきました
オオカミはじっと男の子の顔を見つめた後言いました

「君は肉を食べたことがあるかい?」
男の子はオオカミの目を見て答えました
「あるよ。年に何度かあるお祭りのときに食べる」
「祈りは捧げるか?」
「うん。命をいただくわけだからね。まず村長が祈りを捧げるんだ」
「そうか」

オオカミはそう返事をしてしばらく黙ってからぽつりぽつりと話し始めました
「私も祈るわけではないが食べる相手には敬意を払う」
「うん」
「食べた相手の顔やにおいは生涯忘れないことにしている。だから今まで食べた者達のことは皆覚えている。けれど・・・・・・」
そこでオオカミは考えるように少し言葉を止め
「彼は誰とも違ったな」
と言った

「彼っていうのはシカの長のこと?」
「長だったのか?なるほど・・・・・・」
オオカミは耳を力なく垂らしてこう続けました

「私は自分がオオカミであることがあらためて嫌になったよ」
「どうして?」
「私が生きていくためには他の誰かが死ななければならない。そのことはわかっていた。・・・・・・わかっていたはずなんだが、割り切れてはいなかったようだ。今回のことでそれがよくわかったよ」

オオカミはそこで一度息を整えて言います

「私は誰かを殺さなければならない。そうしなければ生きていけない。罪のない誰かを私が、この手で、この爪で、この牙で、捕らえ、殺し、肉を裂き、食べねばならない。私は、それが、たまらなく」

オオカミは消えてしまいたいと願うような小さな声で言います

「嫌なんだ」

その時一陣のさわやかな風が野原を通り抜けていきました。風にそって背の高い草が、目に鮮やかな緑の葉を宿す木々が波を立てていきます。その風を感じながら少年はオオカミに言います

「ぼくは・・・・・・仕方のないことだと思う。神様がそういうふうに決めたんだもの。それに他の誰かを殺さなければならないからといって君が死ぬというのもおかしい」

男の子は少し言葉を切って言いたいことを整理して続けます
「命は尊い。それは正しい。でも、だからといって絶対に守るべきものでもない、と思う」

そこで男の子は首を振ります
「いや、ちがうね。ぼくはあなたに生きていて欲しいんだ。だからあなたが生きることが嫌になったって聞いて、それは嫌だって思った。だから理屈をこねてるんだ」

それを聞いてオオカミは言います
「・・・・・・そうだな。私はお前に命を救われ、あのシカの命をいただいたんだ。そうそう命を捨てるわけにはいかないな」
「そうだよ」
オオカミは悲しげな笑みをうかべました

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