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さまよう羊のように5.0

ココ達は行く当ても無かったのでとりあえずイプの家に戻った。イプはココ達の姿を見ていつものにこやかな顔からはとうてい想像できないような驚きの表情を浮かべた。
だが、ナッツの姿が無いことがわかると、イプはココ達の顔色をしばらくうかがい、その表情をまた一転させて悲しみに変えた。目を見る間に赤くし、涙がこぼれかけた。イプの涙を見る前にココは中へ入った。

各自が思い思いの場所に座り込んだ。よほど疲れたのだろう、フォンは床にほとんど崩れるように座りこんだ。シャーミラは椅子に座った。だが背もたれは使っていない。目は一転を凝視したまま動いていない。少しでも気を抜くと死んでしまう、といわんばかりの格好のようにココには思われた。
ココは椅子にどっかりと座った。これは疲れたからだ。単純なココらしいといえばらしい。
イプは洗面所に向かった。水を顔にかける音が何度かした。他の音はしなかった。
そのまま誰も何も言わない時間が続いた。

†††

椅子に座ったまま、ココは考えている。

今まではどこかナッツを頼りにしきっているところがあった。
ナッツが作戦を立てているのだから大丈夫だろう。自分はなにも考えずただ従っていればいいだろう。
そう、心のどこかで思っていた。
自覚は無い、ふりをしていた。ちゃんと、ちゃんとわかっていた。しかし、考えることを怠けてしまった。

だが、もう怠けていられない。
ナッツはもうここにいないのだ。マフィアに、敵に捕まってしまった。
作戦を立てていた指揮官はもういない。
ならば誰かが代わりを勤めなければならない。
やるしかない。

ココは覚悟を決めた。

†††

なぜ。
なぜ、ナッツが「『貫通線』に乗れ」と言ったのか。
いや、「大使館に行け」と言わなかったのか。

理由は二つある。
一つはそもそも少し遠い。イプの家からナッツの家までの距離よりも大分遠く、かつ、交通の便が悪いからだ。少なくとも外国人観光客がすんなりと行ける場所には無かった。ナッツとしては一旦自分の家に匿い、落ち着いてから大使館に向かわせるつもりであった。
二つ目。ナッツはココが荷物を置き忘れた、と聞いてココの母国がばれるような何らかの情報が知られてしまった、と考えた。実際、その通りであり、マフィアはココの母国の大使館へのルートを貫通線以上に厳重に張っていた。

以上がナッツがあのような発言をした理由である。
ようやくこのことをココは理解した。

†††

ココは椅子に腰掛けたままじいっと動かないでいる。考えているのだ。さっきのことを、これからのことを。
さっきのナッツの行動は何だったのか?
おそらくはココ、フォン、シャーミラの三人に何らかの危険が迫ったのだろう。そうでなければナッツがあんなことをするはずがない。最優先すべきはフォンの安否なのだ。他の要因は考えにくい。
やはり、ばれたのだろう。おそらくはココの正体が知られたのだ。ココだけが唯一の外国人。ばれるとしたらココだろう。
ならば、貫通線はもう使えない。ココの顔を見た奴がいる可能性が高い。
ではどうする?
そもそも目的地はどこだ?またナッツの家を目指すべきなのか?

ナッツが捕まった今、彼の自宅に戻ることなどできない。ナッツが簡単に口を割るとも思えないが、割らないで耐え抜く、というのも同様に想像し難かった。しばらくするとナッツも口を割ってしまうだろう。マフィアの拷問がどの程度のものか知らないが、あまり悠長に構えて入られないと考えたほうがよいだろう。

当初の目的地が駄目となれば次の目的地だ。
それは・・・・・・。

<俺は大使館を目指すべきだと思う>
ココは顔を上げて、しかし誰に向けてかは自身さえわからずに英語で言った。ひょっとすると自分に言ったのかもしれない。
シャーミラとフォンがこちらを見た。シャーミラは一瞬だけ非常に儚い表情だったが、すぐに目に光を戻した。フォンはとても疲れているように見える。休ませたほうがいいかもしれない。

<なぜだい?>
と洗面所から戻っってきたイプがココの後ろから声をかけた。見てみると顔を洗ったからか少しさっぱりとした顔をしている。
<その前に、いいかな?・・・・・・フォン、今のうちに隣の部屋で休みなさい>
フォンは少し迷った様子だったが、首を振って起き直った。彼女の目に
も光が戻ったようだ。
イプがココの正面に椅子を持ってきて腰掛けた。
ココはイプに向き直った。

<まず、>イプが言う。
<何があったのか説明してくれ>

ココは事の顛末を自身の英語の能力の限り説明した。途中、シャーミラとフォンも加勢したが半分以上はココが一人で話した。

<・・・・・・それでどうして大使館なんだ?>
話を聞き終えてイプが改めて尋ねる。
<・・・・・・もうそこしか行くところが無い>
ココは続ける。そもそもナッツも大使館を最終的な目的地に考えていたはずである、だからナッツが捕まり、彼の家を目的地とすることは危険となった今、目的地を大使館へと変更するべきだと。

<いいんじゃないかしら>
今までほとんど黙って聞いていたシャーミラが口を開いた。
<もう本当に行くところが無いもの・・・・・・。それに早く移動したほうがいいと思うの。・・・・・・夫が、ここのことを話してしまう、かもしれない
、から>
シャーミラはほとんど泣き出しそうな顔で、言葉を切りながら、しかし懸命に涙をこらえて、自分の思うところを述べた。

それを見てフォンは顔を背けた。

†††
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