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詰みゲー! 5-2  空の旅、異変の影

「詰みゲーもここまで来たか」感があります。でも「ここまでしかこれてないのか、まだ」感の方が圧倒的に強いですが。でもこれから(も)がりがり頑張って更新していきます。
でもたぶん来週はドレタキ更新です。忙しいから。


空の旅、異変の影

ごうんごうん。
ごうんごうん。

野太い軋み声を上げながら<キャシャラト>は順調に空を駆けているようだった。小窓からは豆粒ほどになった地上の建物が見える。おそらくこの世界の一般的な市民はこんな景色を見ずに一生を終えるのではないだろうか。
そんなわけで、

「うわー!高っかいですねー!」

そう言って窓にしがみついている少女がいるのも無理は無い話なのではないだろうか。

ジョンたちが<キャシャラト>に乗り込むと、中にはパッと見て三人の男女がいた。
一人は長身の男。髪の毛が『怒髪、天を衝く』状態になっている。おそらく二十代後半。
二人目は丸っこい体型の男。大人しそうな見た目で驚異的な丸顔であること以外には特にこれと言った特徴はない。怒髪と同じく二十代後半か。
三人目は赤毛の少女だ。丸メガネに三つ編みのツインテール。たぶん十代後半。

赤毛の少女が窓から離れてジョンとシャープに近づいてきた。他の怒髪と丸顔もそれに続く。

「ご苦労様です!ペンシル准将、勇者サッキー・ジョンさん!」
「うむ、ご苦労アーニャ。二人もな」
「「ご無沙汰しています、准将」」

ジョンは『サッキー・ジョン』と呼ばれたことで少しむっとした顔をしていた。赤毛の少女、アーニャはそれにめざとく気づいた。

「おや、どうしました。サッキーさん?」
「・・・・・・できればジョンと呼んでくれると、助かる」
「わかりました!サッキーさんですね!」
「これっぽっちもわかってないじゃん!」

ジョンが声高に叫ぶと赤毛の少女はくすくすと笑った。

「冗談です、ジョンさん。レイン様にからかうように言われていたので」
「あの白髪幼女め・・・・・・。今度会ったら高い高いしてやる」
「それは罰なのか?」

と、シャープ。ジョンはそれをスルーすることにした。

「それで、そちらのお二人さんのお名前は?」

ジョンが自己紹介も済んでいない怒髪と丸顔に話をふった。すかさず怒髪が名乗る。

「あっしの名前はペニー。その筋ではペネトレイターと呼ばれてまさぁ」
「どの筋だよ・・・・・・」

髪の毛だけじゃなく口調まで変なのか、とジョンは心の中でぼやいた。そこへ、丸顔の男が名乗る。

「私の名前はシエル。その筋ではシールドと呼ばれているよ」
「だからどの筋だよ・・・・・・」
「そのうちわかりますよ」
「ふーん。ところでこれで全員なのか?」
「いいえ、もう一人いますよ。今は操縦してます」
「ここに呼びますか?」

赤毛の少女、アーニャがメガネをきらりと光らせながら言う。

「いや、ダメだろ!船が墜落するわ!」


***


船を落とすわけにも行かないのでジョンたちはぞろぞろと操縦席へ移動した。
操縦席に座っていたのはキャスケット帽をかぶった少年だった。アーニャと同じく十代後半か。

「ご無沙汰しています、シャープ准将。はじめましてジョンさん、僕はローシェと言います」

席を立ちジョンとシャープに一礼すると、

「失礼します」

と詫びてローシェは再び席について操縦を始めた。

「大陸まではあと五時間くらいで着きます。その後はどうなるかわからないので皆さん、準備をしておいてください」
「何よ、ローシェ。回りくどいじゃない。何があるのよ?」

ローシェにアーニャが随分と砕けた口調で話しかける。ペニーがジョンにささやく。

「ローシェとアーニャはデキてるんでヤンスよ」
「そうなのか!?」
「あっしのカンでさぁ」
「カンかよ・・・・・・」

二人のささやきを聞いてか聞かずか、ローシェはアーニャに厳しい声で注意した。

「アーニャ、仕事中ですよ。何ですか、その口調は」
「いいじゃないの、もうこの先ずっと仕事じゃない。だったら全部プライベート扱いにしないと身が持たないわ」
「なんですか、その理屈は」
「いーからいーから。それで何があるのよ?」
「一番の懸念は魔物との遭遇です」
「あたし飛行型の魔物はよく知らないんだけど」
「海上には連中はほとんどいない。魔力が供給できないからね」
「ふむふむ」
「だから警戒すべきは大陸に入ってからだ。<キャシャラト>は速いけれど魔物と比べて格段に速いわけじゃないからな」
「なるほどねー」
「・・・・・・ちょっといい?」

ローシェとアーニャの会話に割り込んだのはジョンだった。

「魔物って生き物だろ。魔力が必要なのか?」
「魔物は生き物ではありませんよ。あれは<具象化結晶《マテリアル》>の身体を持った魔動人形です」
「え?」

ジョンはポカンとした顔をしてシャープを見た。

「言ってなかったか?」
「ひとッことも言ってねえよ!」
「すまんすまん。まあ、今わかったからいいじゃろ?」
「よくねえよ!」


***


ジョンがシャープにツッコんだ四時間三十分後。
ローシェとシャープは操縦席で話をしていた。

「見てください、中央大陸(セントリア)の陸影です」
「うむ、いよいよだな」
「はい。・・・・・・ん?」

そのとき、具象化ガラス越しに(要するにフロントガラス越しに)前方を見ていたローシェは眉をひそめた。

「どうした?」
「十一時の方角に<大蜂>の群です」
「・・・・・・あの黒い霧か!」
「視認できる限りではポーン級ばかりのようですが・・・・・・あの中にルーク級がいないとは断言できません」
「回避は?」
「不可能です。もう気づかれています」

そう言ってローシェは少し上を指さした。具象化ガラスの端に手のひらほどの大きさの半透明な置物が乗っていた。しかし、それが置物ではないことをシャープたちは知っている。

「<硝子鴉>か」
「たった今気づきました。申し訳ありません」
「いや、いい。気づいても何もできん」

シャープは徐々に迫ってくる黒い霧に背を向け、ジョンたちが休んでいる第一貨物室へと向かった。

今週はお休みです

タイトル通り今週はお休み。北の海の魔女の展開を迷ってしまって……。前にラストまで書けるとか書いたとか言ってた気がするのですが、あれも間違いではないです。
あの時点では。
ただ投稿するときにちょっとずつ修正を加えていったら、上手くかみ合わなくなっちゃって。てへぺろですね。はは。
まあ、来週には何かしらのお話は投下できるとおもいます。

詰みゲー!のあらすじだよ!

詰みゲー!のあらすじ。1~4章まで。


ネタバレしてるのでそれでもいいよって人は読んでください。
よくない人はバックしてください。
読んだ人は(いないか!)整理のために読んでください。

















恋人を亡くしてしまった主人公・坂井翔太(たしか18)は自殺するために雪山を登っていたら、いつのまにか異世界に来ていた。しかもどうやら魔物に世界の七割くらいを占領されてるとかなんとか。
そんな(どんなだ)坂井少年が出会ったのはミリアとかいうかわいい魔法使い。恋人を亡くして半年経つとはいえ、彼は思いっきりかわいいと思ってしまいます。なんやかんやで彼女についていくことになって、王都へ。
王都で王様に謁見して勇者にしてもらいます。その後で魔物たちが現れるきっかけとなった事件を(恐ろしく長い時間をかけて)聞かされます(話が始まる前に第一章・二章が終わり、話で第三章がつぶれる)。
ちなみにこの話でわかるのは魔物の襲撃に黒い服と赤い服を着た男が関わっているということだけ。後はオーレンとレインという人物が元は主従関係にあったということとレインが記憶を無くしているということ。
話の後で、ジョン(坂井少年の愛称)はミリアの所属する東狼団というグループに入会し、ミリアの兄ベンジャミンと会う。
そして、ジョンは修行のためロベルトという男の能力で作られた異空間(なのかは作者も知らない)で半年分の修行を積むことになる。
師匠はシャープ准将という軍人さん。ミリア、ベンジャミン、途中参戦した王女クラリスとともに修行を続けていたジョン。ある日ジョンの元に凶報が届く。


(この先を読んでいない人で読む気が出てきた人は引き返すことを推奨します。)

















任務で外に出ていたミリアが敵(魔物側)にさらわれたのだ。
ジョンは(恋人は救えなかったが)今度こそ、という決意をしてミリアを救出するべく動き始めた・・・・・・。



というところから第五章です。
あんまり要約できていなかったですが、これが天邪鬼クオリティということで許してくださいな。

それではまた。




詰みゲー! 5-1選択(後半)

今週は詰みゲー!です。ずっと前に前半を載せたまま放置していた第五章の一話の後半を書きました。五章までが長すぎたのですが、本番はここからです。あらすじを更新してこれまでの流れを書いておくので、長すぎると感じた人はそちらでショートカットしてください。それではまた。


***

「これが〈キャシャラト〉です!」

レインが指さしたのは流線型のフォルムを持った小型の輸送機だった。大きさは二十五メートルのプールにすっぽりと入る程度。色はくすんだ青と灰色。

「おー、これが〈キャシャラト〉か!カッコいいじゃん!」
「いいから乗れ!」

〈キャシャラト〉の大きさに感心していたジョンであったが、シャープによって機体のわき腹に付いているドアに突っ込まれた。

「ローシェ、もう時間が無いから飛ばしてちょうだい!」
「了解です!」

レインが操縦席の辺りに命令すると少年の声が返事をした。直後、〈キャシャラト〉が大きく揺れ始める。明らかに離陸が始まっていた。

「ジョン!」

レインに呼ばれたのでジョンは開けっぱなしのドアから首を出した。機体は既に少し浮いていて今にも飛び立とうとしていた。

「必ずミリアを連れ帰ってください!さもないと・・・・・・」

レインは二の腕を曲げた。

「お仕置きです!」

二の腕を曲げたのは失敗したら拳骨、という意味か。

「わかったよ!殴られたくないからな!必ず連れて戻るよ!」
「約束ですよ!」

ジョンがドアから頭を引っこめると同時に<キャシャラト>が低い機械音を発して飛び立った。


***


みるみる小さくなっていく〈キャシャラト〉を見上げてレインがつぶやく。

「行っちゃいましたね」
「そうですね、お嬢様」

レインがオーレンを見上げてニヤリと笑った。

「これから忙しくなりますよ、オーレン」

くるりと踵を返して足早に王城へと向かうレインと、その後ろを三歩退がってついていくオーレン。

……何年も続いてきたこの微妙な距離が修復しようもないほどに離れてしまうのはこれから一ヶ月後のことである。

ドレス&タキシード! 2-6 落とし物管理のプロ

更新に困ったときはドレタキというパターンが安定化してきている……。


2-6 落とし物管理のプロ 


丸メガネをかけた愛想の良さそうな女性がにこやかに話しかける。

「こんにちは。何か落とし物?」
「はい、ブローチを落としてしまって・・・・・・」

エリーが持っていたおしごと大全(第四巻)の導きによって執事、エリーそしてメイドBは四階の落とし物管理事務室にやって来ていた。

「誰がメイドBよ!」
「空気読めよ。静かにしろよ」
「何か期待されてる気がして・・・・・・」
「誰も期待なんかしてないよ」
「先輩方、静かに。」
「「うっ・・・・・・」」

新米メイドのもっともな注意に先輩二人は何も言えなかった。その様子を見て先ほどのメガネの女性がふふ、と笑う。

「どちらが先輩かわかりませんね」
「「うぅ・・・・・・」」

それだけは言葉にしてほしくなかった、と内心ごちる先輩二人であった。


***


丸メガネの管理人(フィローネさんという名前らしい)が持ち込まれた落とし物の一覧表のファイルをめくりながらブローチを探してくれている。エリーはその横からフィローネさんの手元を熱心に眺め、無能な先輩二人は仲良く指遊びをしていた。

「あ、ありましたよ。ブローチですね、百合の花を模したやつ」
「それです!よかった!」
「あ!、えーと・・・・・・ごめんなさい、勘違いです。もう持ち主がいらっしゃって返却済みですね」
「ええ!?」

面白そう、と役立たずな先輩二人は指遊びをやめて近寄ってきた。

「えーと、もしかして間違えちゃったりとか!百合のブローチなんてそんなに無いのでは?」
「確かに落とし物としてはあまり見ませんが・・・・・・」
「イニシャルで『E』って彫ってあるんです。ありませんでしたか?」
「あ、ああ!確かにありました、Eのイニシャル。ごめんなさい、間違えてしまったようね。返してもらいましょう」

そのとき、管理室の奥から年輩の男性の声が飛んできた。顔は見えないが上司だろう。なかなか渋い声だ。

「おーい、フィローネ君。そそっかしい犯人は誰だったかね?」
「えーと・・・・・・、クリスンさんです」
「それ、きっとメイドのクリス君だよ。また騙されたのかね、フィローネ君」
「え・・・・・・ええ!?」
「彼女の変装と偽名が見破れるようにならないうちはまだまだ君も一人前(プロ)とは言えないよ」
「そんなぁ・・・・・・」

何が起こっているのか皆目見当もつかないエリーたちの前でフィローネさんは意気消沈した。

「あ、あの、フィローネさん?」

エリーがこわごわ声をかけるとフィローネさんはいきなり復活した。ころころと感情が急転する人である。

「やってやるわよ!あのメイド、今日という今日は目にもの見せてやる!」

謎の決意表明をするフィローネさんの後ろで三人は話がこじれてきたことを痛感していた。

北の海の魔女 114

読者の方がもしも寒気を感じてくれたら僕はとても嬉しいです。


114 幻


レイケン将軍は少年の言葉にぐうの音も出なくなったかに思えた。

しかし、当の将軍はいきなり低い声でのどを鳴らして笑い始めたのである。その寒気のするような笑いが終わるとレイケンは少年の耳元に低い声で囁いた。

レイケン「・・・・・・小僧、舌先三寸ではどうにもならにことがあるって教えてやるよ」

そう言うや、レイケンは少年の喉元に突きつけていた短刀の力を強くした。少年の首がわずかに切れて血が一筋垂れる。

少年「っ・・・・・・!一体、何を・・・・・・!」
レイケン「お前たちを殺して逃げるのさ」
少年「さっき言ったじゃないか!あなたは逃げきれないよ!」
レイケン「構わないさ。このままお前たちに利用されるよりもマシだ。いっそ逃亡途中で殺される方がいい」

その時、両手を頭の後ろに組んでいたホルトゥンが手を下ろした。

レイケン「おい!何をしている!手を・・・・・・」
ホルトゥン「下げたらどうだって言うんだ。どうせ、俺たちを殺すんだろ。だったら、」

関係ないじゃないか、そう言ってホルトゥンは振り返った。その目を見た少年は自分の首に刃物が突きつけられているということも忘れてしまった。

冷たい。そう表現するほかない。
その目で睨まれれば寒さのあまり凍死してしまいそうだ。
少年の背筋にぞぞぞぞぞ、と寒気が走り全身に鳥肌が立つ。恐怖で少年の瞳に涙がにじむ。冷たい瞳の宿す鋭い殺意で心が切り刻まれる。

少年が怯えていることに気づいたホルトゥンは一言、

「・・・・・・君はしばらく幻でも見ていろ」

と告げて少年に<幻影《ファントム》>をかけた。

少年が見たのは春の野にいるという暖かい幻だった。

ドレス&タキシード! 2-5

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北の海の魔女 112

待たせしました。更新が途切れていた北の海の魔女の続きです。
いつもよりちょっと長いです。でも次は短くなってると思います。
では、前置きはこのくらいにしておきます。更新はまた来週の水曜日に。




112


ホルトゥンとグルップリーが意識の無いレイケンを連れて陣に戻り大将の幕舎の中に入ると、少年と大将が今後の流れを打ち合わせていた。

「おかえりー、ご苦労様」

少年は二人を見ると嬉しそうに笑った。対照的に、ヒゲの大将は仏頂面。二人への挨拶もそこそこにホルトゥンが結果の報告をする。

「使者は連れて戻れなかった。代わりと言ってはなんだけど、将軍を一人捕まえてきたよ」

少年は問題ないよ、と笑って手を振った。
そして少年、ホルトゥン、グルップリー、大将で今後の段取りを確認した。

最初に少年が切り出す。

「これから東西の両国から連れてきたレイケン将軍とチョコ将軍を説得して誓約書を書かせる。ヒゲの旦那に書いてもらったときと同じ要領でね」

その言葉で大将(ヒゲの旦那本人)はぐぅ、と唸った。騙されて(現在進行形で騙されているのだが)サインしたことはやはり忘れがたい恥のようだ。
そのとき、ホルトゥンが誓約書に関する補足を入れた。

「誓約書の内容はまあ、よくある停戦協定だ。これの誓約に<国家の命運>をかける。今回の誓約は<国家の命運>をかけた魔法誓約だ。契約破棄すれば国家滅亡、という運命が決定する」

つまりは停戦という誓いを破った場合、破った方の国が何らかの原因で滅ぶ、という意味だ。

しかし、これは嘘も嘘、大嘘である。

少年、ホルトゥン、グルップリーはそのことを知っているが全ての事情を知らないヒゲ大将が同席しているため慎重に言葉を選んで発言している。<魔法誓約>というのは全くのデタラメで、実際に行うのはただの誓約である。要は「誓約を破れば国が滅ぶ」と書かれた何の変哲もない紙にサインさせるだけのことなのだ。

それ故に<魔法誓約>に効力が無いことは誰にも知られてはならない。現在、この陣を指揮しているのは実質的には少年たちだが、それはヒゲの大将が同じ手口に引っかかって「少年たちに逆らうと何らかの害を被る」と錯覚しているからに過ぎない。<魔法誓約>うんぬんが全くのデタラメだとバレた場合(反撃はできないにせよ)、ヒゲの大将を従わせることができなくなってしまうのだ。それでは全軍を上手く動かすことができない。
従ってヒゲの大将に<魔法誓約>に対する疑念を抱かせてはいけない。ただの紙切れを「国の命運を左右させる誓約書」と思いこませる必要があるのだ。


「誓約書の内容はもう書いた。だから残るは、将軍二人の説得だね」


***


確認の後、西の国のチョコ将軍の説得にはヒゲの大将とグルップリー、東の国のレイケン将軍の説得には少年とホルトゥンが向かうことになった。

「心配だなあ」
「なんとかなるよ」
「でも君は彼を半殺しにしたんだろ?」
「でも手当もしたよ」

心配症の少年と、楽観的な魔法使いのコンビはレイケンが眠っている幕舎へと入った。

「あれ?」
「ぐぇっ!ど、どうしたの、ホルトゥン」

幕舎に入るなりホルトゥンが立ち止まったので少年はホルトゥンの背中にぶつかってしまった。
そして少年の問いかけに対してホルトゥンは呆然とした声で応えた。


「レイケンがいない」


***


「え?」

ホルトゥンの返事を聞いて驚いた少年はホルトゥンの後ろから覗き込み、ベッドを見た。確かにベッドは空になっていた。

逃げたのか参ったな、と少年が頭を掻いていると不意に首筋にひんやりとした感触を覚えた。不思議に思って首に手をやると、

「動くな」

という短い命令が聞こえた。少年は背筋にぞぞぞと寒気が走るのを感じた。同時に首元の冷たい感触は刃物によるものだと理解した。

「・・・・・・あなたがレイケン将軍?」
「いかにも私がレイケン将軍だ」

ホルトゥンが振り返ろうとしたのを察したのか、レイケンが厳しい口調で言い放つ。

「ホルトゥン、お前はベッドまで進め。振り返るな。両手を頭の後で組んでひざまずけ」
「ずいぶんな物言いだねえ。矢の痛み、忘れた訳じゃないだろう?」

そう言ってホルトゥンは<幻影《ファントム》>をかけ、レイケンに矢の痛みをフラッシュバックさせた。


・・・・・・はずだった。
激痛に身悶えするはずのレイケンは平然と少年に短刀を突きつけていた。


「残念だったな。<幻影>をかけたんだろ、わかるぜ」
「効いてない、だと?」

普段のふざけた声色とは打って変わって真剣なホルトゥンの声だった。どうやら本当に効いていないらしい。

「俺が<盾>の欠片を持っていると気づかなかったことが運の尽きだ」
「くっ・・・・・・、お前の要求は何だ!何でも飲むからその子を放してくれ!」
「意外だな、ホルトゥン。お前がそんなに取り乱すなんて」
「うるさい!」
「・・・・・・ちょっといいかな?」

会話に割り込んできたのは少年の声だった。静かで落ち着いた声だった。

「レイケン将軍、あなたは僕とホルトゥンを利用してこの陣を抜けるつもりなんだろうけど、それはやめた方がいいよ」
「・・・・・・なぜだ」

レイケンは少年の言葉に耳を傾けてはいけない、と感じつつ思わず聞き返してしまった。

「あなたにとって得にはならないからだよ。僕を人質にしても、そもそも僕を知っている兵よりも西の国の将軍であるあなたを知っている兵の方が多いからあなたは殺されるよ。ただの子供と将軍の命を計り間違う兵はいないよ」
「ふん、武芸の腕で私に勝る者は・・・・・・」
「腕ずくで突破するつもりかい? 僕を抱えてるんだよ。邪魔するよ?」
「…ではこやつに」

レイケンはホルトゥンを指さして何かを言おうとした。しかし、将軍が言葉を続ける前に少年が遮る。

「ホルトゥンに<幻影>を使わせて兵を騙すつもり? ホルトゥンがそんなに素直に従うかなあ」
「先のこやつの動揺ぶりを見れば・・・・・・」
「でも今はもう落ち着いてるんじゃない?」

今やホルトゥンは動揺どころか笑いをこらえるのに必死だった。少年に完全にペースを握られているレイケンがおかしかったのだ。

「ええい!こやつは脅せば何とでもなる!<幻影>で逃げればよいのだ!」
「ふーん。仮に逃げおおせたとしても本当に王都に帰ることができるかな?」
「なに?」
「王都は今、全ての門を閉ざしてるんだよね? それは<幻影>を王都に侵入させないためでしょ。だったら敵陣から帰った将軍をそう簡単に入れたりはしないよ。<幻影>で偽装して引っ付いてくるかもしれないからね」
「そ、そんなものは<盾>を使って確認すれば・・・・・・」
「確かにそうなるよね。でもさあ、それはあなた一人の場合だよね」
「どういうことだ?」
「将軍がこの陣を脱出したら僕をどうするつもり?」
「解放してやる。もう用は無いからな」
「それで僕たちがあなたをおめおめと逃がすとでも? 当然百か二百の騎兵を率いてあなたを追いかけさせるよ」
「だったら、お前を連れて王都に入る。それで問題なかろう」
「あるよ。大有りさ」

そこで少年は意地悪く微笑んだ。

「例え僕を解放せずに連れていったとしても、ホルトゥンが騎兵を追っ手に出すから城門は開かない。開けられない。ホルトゥンがいなくても敵の騎兵を前にして城門を開けるような門番はいないよ」
「だ、だがそれはホルトゥンが騎兵を追っ手にしなければ済む話だ!違うか!?」
「違わない。でもあなたは今の発言で墓穴を掘ったよ。・・・・・・ホルトゥン、最悪の場合には騎兵を出してくれる?」

ホルトゥンは背を向けたままで答えた。

「ああ。もちろん。たとえ君がそのせいで死ぬとしても僕は騎兵を差し向けよう」
「……さて。他に何か策はありますか、レイケン将軍?」


ドレス&タキシード! 2-4

今週も北の海の魔女は更新できないよ!ごめんネ!今回は代わりにドレス&タキシードの続きです。前回めっちや中途半端なところで終わってるやん…。
はい、今週はそんな感じです。魔女は来週更新できるといいね!



†††2-4


家臣が帰ってしまった後で姫様が執事に話しかける。姫様の持つグラスの中で氷がからんと音を立て、姫様を日光から守るパラソルが風に揺れる。

「あんた、本題に触れてないわよね」
「え?」
「え、じゃないわよ」

言われて執事は本題本題、と考え始めた。そして新人メイドエリーの顔を見るや、素っ頓狂な叫び声をあげた。

「エリーが失くしたブローチ、あんた一人で探しなさいよね」

姫様は残った紅茶をずずっと飲み干すと立ち上がり、日陰から出てまぶしそうに目を細めた。

「暑い!パラソル!」
「はいいっ!」

落ち込む間もなく執事はパラソルを引っこ抜くとお嬢様を日差しから守るために走っていった。


***


「ううう、申し訳ない。すっかり忘れてた」
「いいんですよ、こうして探してくれてすごく嬉しいです」

耳慣れない感謝の言葉に少年執事は思わず感極まってしまう。

「ど、どうして泣いてるんですか!?」
「ごめん、この城の中にはそんなこと言ってくれる人いなかったから」


・・・・・・執事と新人メイドのエリーは彼女が失くしたというブローチを探して城の中を歩き回っていた。

話は少し(前々々回)にさかのぼる。廊下で泣いていた少女エリーは実はこの城に来た新人メイドさんであった。案内メイド(たぶんアリエル・A)はふらっとどこかに消え(どうせ皮下脂肪でも増やしていたのだろう)、あてどなく城をさまよった挙げ句、両親から奉公に行く娘に渡されたブローチを失くす始末。
不運には違いないが、そもそもこの城への勤務が決まった時点で既に彼女は不運だと言えよう。

「・・・・・・まあ、がんばるしかないさ」
「はあ・・・・・・」

先輩のこの上もなく実感のこもった言葉に新人はあいまいに相づちを打つ。彼女はどうやら常識人のようなので、三日もすれば先輩と同じ死んだ目ができるようになるだろう。いや、二日か。

「ところで城に来てからどこを通ったのかな。それがわかれば探しやすいんだけど」
「わたし方向音痴なもので・・・・・・」
「まあ、仕方ないか。この城、ただでさえ無駄に複雑だからなあ。無駄に」

そのとき、メイドのBと出くわした。

「誰がBよっ!」
「まだ何も言ってないよ」
「言われた気がしたのよ。・・・・・・ところでアンタ何してんの。仕事は?」
「すっぽかしてきました」
「すっぽかしてたんですか!?」
「新人の前で何言ってんのよ、アンタはっ!」

ベロニカは(突如出現した)ハリセンで執事をぶっ飛ばした。

「ふっ・・・・・・。仕事とは・・・・・・サボるためにあるッ!!!」
「ないわよっ!」

‥‥‥ベロニカの制裁はその後、五分間続きました。


†††

詰みゲー! 5-1前半

北の海の魔女の次話を加筆修正する時間が無いので代わりに詰みゲー!を掲載します。まだ詰みゲー!の定期更新はしません。こいつの方がもっと書けていないので。本当にその場しのぎです。来週こそは北の海の魔女を載せます(超希望的観測)。
なお、今回の話は修正されるかもです。そこんとこヨロシク (*´∀`*)ノ!

五章から〈〉とか《》の付け方が変わります。あんまり気にしないで欲しいです。


第五章  盤上の仮面舞踏会

†††5-1 選択


〈隠者の忍び屋敷《ハイドアウトマンション》〉の中。玄関ホールにて。数十の蝋燭の灯を携えたシャンデリアの下で、勇者ジョンと将軍シャープを仲間が取り囲んでいた。旅立つ彼らを見送るためだ。

レイン中佐がいつになく真面目な顔をして指を三本立てる。彼女の瞳の中で蝋燭の灯がゆらゆらと揺れた。

「さて、勇者サッキー・ジョン君。セントリア大陸に向かうには三つの経路があります。一つは陸路。〈パンサー〉という乗り物と列車を乗り継いで〈陸橋《グランドブリッジ》〉を越えて中央大陸《セントリア》に入ります。目立たないため、危険性は最も低いでしょう」

レインが立てていた薬指を折る。残りは二本だ。

「次は海路。やはり〈パンサー〉と列車に乗り港町に向かいそこから魔動船〈ダック〉に乗り換えて航行し、中央大陸《セントリア》に侵入します。海中に魔物はいませんが、飛行型からの襲撃を受けるか上陸の際に待ち伏せを食らう恐れがあります」

レインが中指を折り、最後に人差し指が残った。

「最後は空路です。〈キャシャラト〉という魔動飛行船に乗って移動します。首都から空を一直線に突っ切って中央大陸《セントリア》に侵入します。この経路が最も危険ですが同時に最も早く中央大陸《セントリア》に上陸できます。ジョン、一体どの経路で行きますか?」

ジョンはレインの問いかけに間髪入れずに答えようとした。
しかしジョンは途中で口を閉ざしシャープの顔を見上げた。そんなジョンにシャープが厳しい声で言い放つ。

「ワシの顔色など伺わなくていい。今回の作戦のリーダーはお前だから好きなように決めるがいい」
「ええ、俺がリーダー!?」

ジョンが驚いてレインやオーレンの顔を見ると二人とも頷いた。すでに相談してあったことのようだ。
ならば、とジョンは晴れ晴れとした表情で断言した。

「空路で行く。俺たちは一刻も早くミリアを助けなければならない。だから空路以外の選択肢は、無い」
「やはり空路ですか。せいぜい気を付けてくださいね」

レイン中佐はやれやれ、とでも言いたげに首を振ると玄関ドアへ歩いていった。

「それでは、あなたの言うようにマジで一刻の猶予も無いのでとっとと出発しましょうか」

レイン中佐が屋敷のドアを開くと、外から風が吹き込んで彼女の髪をひらりと靡かせた。その様がジョンにミリアを思い出させた。思わず拳をきつく握りしめるジョンの肩をロベルトが叩く。

ジョンは振り返り、ロベルトだけでなくクラリス、キティにも宣言した。

「必ずミリアを連れて帰る。それまでみんな元気で」
「健闘を祈っています」

ジョンが拳を突き出すと、ロベルトは黙って自分の拳を突き返した。次にクラリスが、続いて彼女に抱えられたキティが小さな足でそれに倣う。

ジョンは寝食を共にした仲間たちと別れを済ませるとシャープたちと共に屋敷を出ていった。


***

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