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今週は勘弁して!

タイトル通りです。今週は休載します。予告しといて休載してすみません。日曜日くらいに(可能であれば)載せます。

北の海の魔女 111

†††111


地に伏したレイケンの元へホルトゥンが歩み寄った。風が吹き抜けて砂埃が舞い上がり、ホルトゥンが目の辺りを覆う。
ホルトゥンがレイケンの傍へ近づいてみると、数十本の矢を受けながらもレイケンにはまだ息があった。瀕死の重傷を負ったレイケンを見てホルトゥンが嘆息する。

「だから言ったじゃないか。容赦しないって」
「く……ぅ……。……一体、何を……した……」
「竜だよ」

レイケンの目はすでに虚ろであり、焦点も定まっていなかった。そんなレイケンの問いかけにホルトゥンが静かに答える。

「〈幻影〉を使って城門の兵士たちに竜を見せたんだ。君が立っている場所に竜の〈幻影〉を写して、城門にいる左大臣に『竜を殺せ』と命令させたのさ」

ちなみに今現在ホルトゥンとレイケンが矢で射抜かれていないのは、竜の〈幻影〉が別の場所に移動したからだ。城門の兵士たちはいもしない竜に向かって今もせっせと大量の矢を放ち続けている。

「どうだい、いい作戦だろう。……って、聞いてないじゃないか」

いつの間にかレイケンは意識を失っていた。
ホルトゥンは振り返り、城門の近くにいたグルップリーに手招きした。グルップリーがホルトゥンの馬を連れて近くまで来るとホルトゥンは指示を出した。

「グルップリー、〈盾〉を外すのを手伝ってくれ」

ホルトゥンとグルップリーは〈盾〉とレイケンを繋いでいた皮のベルトをナイフで切り、〈盾〉を取り外した。ホルトゥンは〈盾〉を手に取ると、自分の馬の背に乗せた荷物鞄に押し込んだ。
〈盾〉を積み込み、両手をはたいて埃を落とすホルトゥンにグルップリーが問いかける。

「・・・・・・ この後はどうするんだ?」
「レイケンを連れて陣に戻る。シャインはそれで納得するさ」
「使者を連れて帰ればよかったからな。この将軍も使者と言えば使者みたいなものか」
「そういうこと」

グルップリーの視線がレイケン将軍の全身にくまなく突き刺さった矢に注がれる。

「ところで将軍はまだ生きているのか。とっくに死んでるなんてことは無いだろうな?」
「大丈夫だよ」

そう返事をしてホルトゥンが携帯鞄から林檎ほどの大きさの小瓶を一つ取り出す。その中には真っ黒な液体が入っていた。グルップリーが液体の色味を見て気味悪そうな顔をする。

「それは何だ?中身は?」
「魔法薬だよ。これで傷が治る」

ホルトゥンはその黒い魔法薬を数滴、レイケンの口に垂らした。
これでよし、と呟いてホルトゥンが小瓶の蓋を閉める。

「これでレイケンは無事だ。しばらくすれば意識が戻るよ」
「本当か?」
「ああ。さあ、さっさと陣に戻ろう。シャインが首を長くして待ってるからね」

そう言ってホルトゥンはニヤリと笑った。


†††


次回更新は来週水曜日です。

北の海の魔女 110

†††110


ホルトゥンが〈幻影〉を発動させた直後に太鼓の音は止み、歓声は悲鳴に変わった。
異変に気づきレイケン将軍が振り返り、城門の兵の様子をうかがう。兵士たちは皆口々に何かを叫んでいたが、レイケンには何が起きているのか聞き取ることができなかった。叫んでいる人間があまりにも多いので何を言っているのかわからなかったのだ。

レイケンが振り返りホルトゥンを探すと、ホルトゥンは走り続けていたためすでに十分に距離を取っていた。離れた場所から自らを見ているホルトゥンをレイケンが睨みつける。

「貴様、何をした?」
「さあね。それよりも答えてほしい。どうしても僕を殺すのか?」
「そうだ。大人しく死ね」

将軍の簡潔な返答を聞いてホルトゥンは目をつぶった。その表情は悲しみとも怒りともつかない感情の色を帯びていた。

再び目を開けたホルトゥンがレイケンに静かに告げる。

「そうか……。僕たちはもう完全に敵同士なんだな。だったら僕も容赦はしない。どんな目に遭っても恨むなよ」

言い終えるとホルトゥンは踵を返して歩き去ろうとした。そんなホルトゥンの後をレイケンが追いかけようとした直後、再び太鼓の音が響き始める。その太鼓は鼓舞のためのものではなかった。

「全員弓を構えろ!」

突然の太鼓の音と号令の声に驚いたレイケンが振り返ったのと、兵士たちが一斉に弓を引き絞ったのはほぼ同時だった。

「放てッ!」

レイケンの目は幾百もの矢が宙を舞う様を捉え、耳は幾千もの矢羽が風を切るヒューッという音を聞いた。

「ぐっ・・・・・・!」

文字通り雨のように降り注ぐ矢を避け切れるわけもなく、レイケンの身体に一瞬で数十の矢が突き刺さる。それでもなお、逃げようとするレイケンに城門の兵士たちが取り憑かれたように弓を引く。

数十秒後、レイケンは夥しい数の矢をその身に受けて力尽き、地に伏していた。

「もう十分だな」

レイケンが倒れたことを確認したホルトゥンはレイケンの元へとゆったりとした足取りで近づいていった。


†††

次回投稿は来週です。

北の海の魔女 109

††109


レイケン将軍は『盾』を背中に背負い、槍を構えると馬を走らせてホルトゥンに突撃した。
ホルトゥンがそのまま何もしなければ数秒後には彼は串刺しにされてしまうだろう。
『盾』は所持している者に効果をもたらす。だから、今のレイケンにホルトゥンの〈幻影〉は一切効かない。突撃してくるレイケンに〈幻影〉を見せても無意味なのだ。

レイケンの突撃を目の当たりにしたホルトゥンが他人事のように呟いた。

「こりゃあ、避けられないな」

レイケンの突進は速く、そして一分の隙も無かった。走ったり跳んで突撃を避けようとしても彼の槍からは逃れられまい。彼と彼の愛馬の人馬一体の突撃に仕留められないものは無いと言われているのだ。

「行くぞ、ホルトゥン!お前の心臓を我が愛槍で貫いてやる!」
「やってみな!〈幻影〉!」
「っ!」

ホルトゥンが〈幻影〉を発動させた瞬間、レイケンは突撃を中断した。正確には馬が走るのをやめた。
『盾』の所持者に〈幻影〉は効かない。しかし、所持者の乗る馬であれば〈幻影〉は効く。ホルトゥンはそれを利用して〈幻影〉で存在しない壁を馬に見せたのだ。

「小賢しい!馬を下りれば済む話だ!」

レイケンが馬を下り、槍をかかげ気合いを入れ直す。
それに合わせるように城門の兵たちが歓声を上げ、太鼓を鳴らす。
城門の上のやぐらにちらりと目をやったホルトゥンは左大臣の顔を見つけた。

(左大臣が見物か、珍しい。……ははあ、奴がレイケンを差し向けた張本人というわけか)

太鼓の音が鳴る。レイケンが雄叫びを上げ、自分の足で走って来た。歓声がより一層大きくなる。

(レイケンには歓声が聞こえているらしいな。……それを利用しよう)

ホルトゥンはレイケンから逃げるように走り出した。

「逃げても無駄だ、ホルトゥン!」
「逃げてるわけじゃない!〈幻影〉!」

ホルトゥンが〈幻影〉を発動させると同時に太鼓の音が止み、歓声が悲鳴に変わった。


†††

次回投稿はまた来週です。

北の海の魔女 108

†††108


武将はホルトゥンの目の前で馬を止めた。ホルトゥンもそれがわかっていたので何もせずにただ武将の目を正面から見据えた。グルップリーは二人から少し距離を取った。
「貴殿はホルトゥンだな」
「いかにも。あなたはレイケン将軍じゃないか。槍など持って来て・・・・・・。僕を殺しに来たのか?」
「い や、投降を薦めに来たまでだ。貴殿の席は空いている。陛下は貴殿の裏切りなど気にはしておられない」
「裏切り?人聞きが悪いな。僕が裏切ったなどと誰が言った?僕はただ敵将から伝言を伝えさせられているだけだ!」
「ならばなおさらだ。こちらへ来られよ。今なら貴殿の席が、」
「嘘をつくな、レイケン!僕の席などもう無いんじゃあないのか!?」
「そのようなことは・・・・・・、」
「ならばお前が持っている『盾』を捨てればどうだ!僕を中に入れるというのなら造作も無いことじゃないか!?」
「・・・・・・」
「ハッキリ言ってくれ、レイケン。あなたはここに何をしに来た?」
「・・・・・・私は貴殿を殺すために来た」
「それで騙し討ちにしようとしたのか?随分と 汚いマネをするじゃないか」
「・・・・・・」
「それで?君はいつになったら私を殺すんだ?」
レイケン将軍は無言で持っていた槍を構え直した。
それを見てホルトゥンが傍らのグルップリーに指示する。
「グルップリー、城門の側に立っていてくれ。そこが安全だ」
「死ぬなよ」
「君もね」
グルップリーはホルトゥンが不敵に笑みを浮かべるのを見た。
馬を下り、ホルトゥンがレイケン将軍を見上げる。
「さてと、同胞同士でやり合いますか!」
指を一本ずつ鳴らしながら、ホルトゥンはにやりと笑ってそう叫んだ。


†††

次回は4月22日に投稿します。それでは、また。

北の海の魔女 107

†††107
「それでその竜の鱗にはどんな作用があるんだ?」
「少なく ともありとあらゆる魔法を防ぐ効果があるみたいだ」
「ありとあらゆる魔法を・・・・・・?」
「そう。鱗を持っている人間は僕の幻術も効かないし、攻撃魔法も鱗で受け止めればかき消えてしまう」
「でたらめな性能だな」
「だろ?」
しかし、グルップリーはだが、と付け加える。
「数は多くない。多くても十二だろ?他は無防備だ」
「そう。だから門を開けさせるくらいは容易いよ」
「ほーお、そりゃあ頼もしい!ところで我々はこんなところでじっとしてていいのだろうか?」
「まだいいと思うよ。『盾』を使って攻撃してきたって・・・・・・」
ホルトゥンはそこで左の方に目をやり、あ、と言って口をぽかんと開けました。グルップリーが疑問に思ってその視線の先を追うと、馬に乗った武将が猛スピードで向かってきているのが見えた。
「い!?」
「見落としてた・・・・・・。単純に『盾』を持って殺しにくる場合。どうしようかな・・・・・・」
「どうするんだ?」
「まあ、相手の出方を見よう。ただの使いかもしれない」
「いきなり斬られたりして」
「・・・・・・大丈夫だよ、たぶん」

†††

次回更新は4月15日です。お楽しみに!

北の海の魔女 106

†††106
城門の前ではホルトゥンとグルップリーが馬に乗って待っていた。二人は門番の兵に気づかれないようにひそひそと相談を始めた。
「おい」
「なんだい?」
「返事が遅いぞ。バレたんじゃないのか?」
「そうだね・・・・・・。あの子もそろそろ気づくかもって言ってたからねぇ。僕が敵だっていうことに感づ いたのかもしれないね」
「バレていたらどうするんだ?」
「僕がいると知れば連中は決して門を開けないね。それから・・・・・・『盾』も使ってくるだろうね」
「『盾』?」
「『盾』っていうのは・・・・・・。そうだなあ。ヒマだから『盾』に関する昔話でもしようか?」
「そうだな・・・・・・。じゃあ頼む」
「・・・・・・昔すっごく才能のあった旅の魔法使いがいたんだよ。彼は通りがかりに東の国のある村に立ち寄ったんだ。でもどうにも村人は景気のいい顔じゃなかった」
「その理由は?」
「その村の近くに大きな山があるんだけど・・・・・・そこには昔から大きな竜が一匹棲んでいたんだ。まあ、村の守り神みたいな存在だった」
「竜?あの?」
「そう、竜。・・ ・・・・で、最近竜が暴れて村人は困り果てている、ということを知ったんだ」
「へー」
「それで旅の魔法使いは竜に会いに山へ向かうんだ」
「なぜ?村人に頼まれたのか?」
「確かに頼まれたけれど、多分ただの好奇心じゃないかな。そういう人なんだよ」
「ふーん」
「で、山頂で彼は竜に出くわした。侵入者を見た竜は今にも口から火を噴き出さんとしていた!」
「おお!」
「彼は持っていた杖を振りかざすと竜の炎を遮り、目くらましの光を放ち、問いかけた。『私はお前に会いに来ただけだ。お前はなぜ私を襲うのだ』」
「ふんふん」
「それに対して竜は何も答えなかった。ただ声のした方にまた炎を吐いただけだった」
「ひどいなぁ」
「村人から竜は 賢いと聞いていた魔法使いはこれはおかしい、と思った。賢いはずの竜が問いかけにも答えないはずがない。それで彼はピンときた」
「・・・・・・?」
「彼はもう一度杖を振りかざし、竜を縛り上げた。そして鞄の中から小瓶を取り出すと、その中身を縛った竜の口に流し込んだ」
「うわー」
「すると竜の口からねばついた黒い血の塊みたいなものが大量にあふれだした。竜はそのまましばらくの間、血を吐き出し続けた」
「えー・・・・・・」
「竜が血を吐き終えると、魔法使いは言った。『さあ、お前にかかっていた呪いは解いたぞ。これでもまだ私を襲うか?』」
「ふーん」
「竜は問いかけに答えた。『馬鹿なことを申されるな。貴殿のおかげで儂は己を取り戻す ことができた。誠に感謝している』」
「へー」
「竜は続けた。『呪いにかかっていたとはいえ、村の者には迷惑をかけた。儂はこの山を去る。ついては、儂の鱗を十二枚剥ぎ取ってくれんか。それを村の周囲に埋めてくれ。それで儂の加護を得られる』」
「鱗・・・・・・?」
「気づいたか?この竜の鱗が『盾』だ。この後、魔法使いは竜から鱗を剥ぎ取り、竜が飛び去っていくのを見届けた後、下山するんだ。それで、村人にことの次第を告げた」
「待ってくれ。鱗はどうなった?」
「山の上に置いてきた。とても十二枚は運べないからね。大きいし重いから」
「へー。で、それを聞いた村人の反応は?」
「芳しくなかった。全てを知った村人たちは竜が去ったこと を知って喜んだ」
「え?喜んだのか?」
「そう。彼らは竜を崇めてはいたがその有り難みをよく理解していなかった。むしろ、毎年の捧げものをする必要がなくなって喜んだ。そして、魔法使いが懇切丁寧に十二枚の鱗の使い方を教えたにも関わらず、彼が再び旅に出た後、鱗を全て売り払った。竜の鱗の珍しさに目がくらんだんだな。村は数年の後、戦でなくなった。魔法使いは旅先の露天で見かけた竜の鱗を見て事の顛末を知ったという・・・・・・」
「なるほどな。その竜の鱗が巡り巡って・・・・・・」
「ここにあるってワケだ」
グルップリーは目の前の城門を見て、はーっ、とため息をついた。


†††


次の更新は来週4月8日です!お楽しみに!

最近、お腹を強打しました。それはさておき、お知らせです。

こんばんは。ジャバウォッキーです。長い間書いたり書いていなかったりした「さまよう羊のように」ですが、無事に完結させることができました。これも皆さんのおかげです。いつも読んでくださりありがとうございます。

それにしても、最近は更新がかなり滞りがちですね。すみません。もっと時間を割くようにしたいのですが、いろいろ忙しくて・・・・・・。

次は「北の海の魔女」を書こうかなあ、と思っています。割と中途半端なところで止まっていますから。
切りがいいところまで書けたら連続投下します。それまで待っててねー。

ジャバウォッキーでした。

さまよう羊のように 9-6

†††9-6


銃を構えたタームが機械の間を走り抜けていくココを追いかける。追いかける内にココとタームはパイプだらけの暗いボイラー室に入った。

(キソンとカブは俺たちを見失ったのか。逃がさないようにと分けたのは失策だったか!)

走りながらタームは顔を歪め、前を走るココに叫んだ。

「おい、止まれ!さもないとギャットたちを始末させるぞ!」
「やれるもんならやってみろ!俺は逃げてしまうぞ!」

バン!と低い発砲音が工場内に響く。タームが発砲したのだ。

「俺に当たればチャックを見つけられないぜ!いいのか!」
「この工場内にいるのだろう!貴様はもう用済みだ、消えろ!」
「へっ、用済みかどうかはまだわかんねえだろ?」

その時、ココは突き当たりの扉に入った。その扉にタームも迷わずに入った。真っ暗な部屋で明かりはどこかから一筋漏れているだけだった。銃を構えてタームがその一筋の光に向かってそろそろと歩いていく。
やがて光が漏れているのはカーテンのような布の隙間からだとわかり、タームはそのカーテンを勢いよく引いた。

(・・・・・・!)

そこにはひどく傷だらけで椅子に縛り付けられたチャックがいた。タームは口に人差し指を当てて「静かに」と合図した。

「これで俺はもう用済み、か?」
闇の中からココの声がする。タームは銃を構えて声のした方を探った。
「そうなるかな」
「残念そうはいかないんだな、これが」
「なぜだ?もうお前は袋の鼠だ。キソンが今頃応援を呼んでいるだろう。暗闇にいたところでいずれ死ぬのは目に見えているぞ」
「へえ・・・・・・、応援が来るのか。それは結構なことだ」
「なんだと・・・・・・?」
「アンタは気にしていたな。俺が発信機を持っていないかどうかを。だから服まで換えさせて、全身くまなく調べた。まあ、アンタらのアジトに行くときも同じことやったから無駄と言えば無駄だったけど」
「それがどうした。結局発信機は無かった。いや、確かギャットの上着に発信機らしきものがあったと報告があったぞ」

それが警官隊が来た理由なのだろうとタームは思っていた。身体検査はアジトに来た後に行われていたからだ。

「ああ。だがそれはダミーだ。何も見つからなければそれはそれでおかしいだろう?だからギャットと俺はそれぞれ絶対に見つからない場所に発信機を埋め込んである」
「・・・・・・体内か!」
「そうだ。今頃はこの周辺のアンタらの仲間をごっそり捕まえてるだろうよ」
「クソがっ!!やはり貴様らはあそこで始末するべきだったッ!!」

その時ばらばらと大勢の足音が聞こえ、警官がわらわらと部屋に入りタームとチャックを取り囲んだ。同時にココは暗闇から姿を現した。

「手を挙げろ!」

警官が叫ぶ。タームは拳銃を捨てて手を挙げた。ココも一応手を挙げる。

(これで一件落着、かな・・・・・・)

ココはふーっとため息を一つついた。


†††


数日後。

「よう。見舞いに来たぜ」
「遅かったな」
「俺のせいじゃない。中々帰してもらえなかった」

ココは片手でりんごをお手玉しながら病室に入ってきた。

「警察か?お疲れさん」
「ああ。大使館から口利きがなかったらそのまま捕まるはずだったらしい。拷問とかやったしな」

ココはりんごをぽいっとベッドの側にいたナッツに投げた。ナッツはりんごをキャッチすると果物ナイフで器用に切り分け始めた。

「刑務所に入れよ」
「まあ、気が向いたらな」

そこでココはギャットのそばの椅子に座った。

「・・・・・・寝てんのか?」
「・・・・・・起きてるよ。お前らがうるさくて寝られん」
「そりゃあ、悪かったな。一応は片づいたぜ」
「ご苦労様。あの敷地からは何か出たのか?」
「まあ、多少は出たらしいけどなあ。タームが口を閉ざしちまって特にこれと言った収穫は無いらしい」
「そうか・・・・・・。まあ、ナッツを助け出せたからよしとしようぜ」
「それはまあ、そうなんだけど・・・・・・」
「何だよ、まだ何かあるのか?」
「・・・・・・いや。テリフィオール組はまだ健在だろ?釈然としないものがあるなぁって」

独り言のようなココのつぶやきにギャットはため息まじりに返事をする。

「・・・・・・理不尽なんていくらでもある。忘れることだ。・・・・・・ところでナッツの奥さんたちは?」
「今は大使館にいるよ。フォンもな」
「・・・・・・国を出るのか?」
「仕方ないだろ。マフィアにケンカ売っちまったんだからな。このままだとおちおち寝られやしない」
「すまん、ナッツ」
「バカめ。俺たちはフォンを助けて正解だったよ。もしフォンを見捨てていたら国を出ても眠れなかったさ。それこそ一生な」
「はいはい、辛気くさい話は終わりだ。俺は大丈夫だからお前たちは準備でも何でも行ってくれ。いつまでここにいるつもりだよ」
「それもそうだな。じゃあ帰るかな」

その時ナースさんが病室にやってきた。

「ココさんはおられますか?お電話です」


***


電話は警察署からだった。至急来てほしいとのことでココは渋々警察署に出向くことになった。
到着したココを出迎えたのは新しい署長だった。

「・・・・・・何の用ですか?俺には大使館っていう後ろ盾があるんですよ。捕まえても無駄です」
「そこまで堂々と言う奴は初めてだよ。・・・・・・別件だ。あの幹部がお前を呼んでいるのだ。一度話をしたいとな」
「タームが?」
「そうだ」
「へー・・・・・・。それで俺を呼んだ本当の目的は?世間話をさせるだけに呼んだ訳じゃないでしょう?」
「話が早くて助かる。まだ奴から組に関する情報を一切絞り出せていないんだ。今回の件の裏付けが取りたい。出来れば、聞き出してくれないか?」

(裏付け・・・・・・?)

「どうして俺に?尋問なんて俺より上手い人なんていくらでもいるでしょうに」
「奴は君以外の人とは一切の会話を拒んでいるのだ。・・・・・・頼まれてくれんか?」
「はあ?・・・・・・わかりました。やってみますが保証はしかねますよ?」

それで構わないと新署長は言い、ココをタームのいる部屋へと案内した。

「ああ、そうだ。このことはもう聞いたかね?」
「なんです?」
「それはな・・・・・・」

新署長はココにあることを丁寧に話した。

「そうだったんですか・・・・・・」

ココはそれを聞くとマジックミラー越しにタームを見た。


***


ココは一つの小部屋に通された。部屋の中央には頑丈そうな机が一つ、椅子が二つあり、向かいの椅子にはタームが座っていた。

「お前か・・・・・・」
「よう。捕まる気分はどうだ?」

返事をしながらココは手前の椅子に座った。
ドアのすぐ側には屈強そうな警官が二人立っていた。立場がまるで逆転したな、とココは思った。

「気分だと?悪いに決まってるだろ」
「それはよかった。ところで俺としか口をきかないってなんだよ。俺はお前と仲良くなった覚えなんか無いぞ」
「ふ・・・・・・。何が起きたのかきっちりと聞いておかなければ私の気が済まん」
「ああ?お前の気が済もうが俺の知ったことじゃない。帰らせてもらおう」
「まあ、待てよ。俺も組に関する情報をお前に教えてやろう」
「・・・・・・なんだと?」
「以外か?」
「・・・・・・わかった、話そう。何が知りたい?」
「全てだ。事の顛末を全て話せ」

ココは旅行中にフォンと出会い、彼女を助けることになった所から話した。フォンを抱えて走り、警察に助けを求め、裏切られ、また逃げたこと。フォンの実の両親が彼女をマフィアに売ったということ。ナッツ、イプ、シャーミラ(とテト)の協力を得て貫通線に乗ろうとしたこと。失敗してナッツが離脱したこと。そして大使館を頼ったこと。ココはフォン、イプ、シャーミラ(とテト)に安全に大使館まで行かせるために別行動を取ったこと。

「それが半年前までのことだな。いつあの警官と出会った」
「ギャットが警官だってよくわかったな」
「素人ではない人間と組んだことはわかっていた。警官かまではわからなかったがな」
「あいつと組んだのは、フォンたちと分かれた二、三日後だ」

ギャットは大使館から派遣された警官だった。彼は外国人犯罪者を捕まえたのだが、その際に大使館といざこざを起こしたらしい。その事件を覚えていた職員が彼にアプローチしたそうだ。どうもやや脅しを含んだ「アプローチ」だったようだ。
ココはギャットと組んでマフィアから逃げながら英会話と現地語をマスターしつつナッツの救出に動く、という異常な日々を送るようになった。

「よくも身が保ったものだ」
「俺もびっくりした。俺もやれば出来るんだな」

そして半年が経ち、ココの会話能力もめざましく成長した頃にチャックを捕らえることに成功した、という訳だ。チャックから聞いた情報によってココとギャットはナッツが捕らえられている、と思われるホテルに向かった。

「そういえばあのホテルでは待ち伏せしてたな」
「ああ。チャックが捕まったと聞いてな。私が手配した」
「待ち伏せしてたくせにナッツもいたじゃないか。なぜナッツもあそこにいたんだ?移動させておけばよかったろうに」
「そこまでの時間は無かった。ホテルのフロントにいた見張りからお前たちが到着したという連絡があった時点でナッツまでは到底動かせなかった」
「フロントに見張りがいたのか」
「無論だ」

そしてタームたちに捕まり、マフィアのアジトに連れて行かれた。

「この後のことについて説明する意味が感じられないんだが」
「私には意味があることなのだ。お前たちを連行してすぐに敷地内に警官隊がやってきた。これは偶然ではないな?」
「ああ。俺とギャットに埋め込んだ、あるいは服に付いていた発信機が敷地内で消えたから突入してきたんだろう。発信機は二ヶ月くらい前から仕込んであった。まあ、何かあったら臨機応変に対応しよう、って決めていた程度だけれど」
「ふん。だからお前たちは逃げだそうとしたのか。外に逃げれば十分だと知っていたのだろう?」
「ああ、その通りだ。俺もギャットも知ってた。ナッツは知らなかったけどな。まあ、見張りがいたから言うわけにもいかなかった」
「誤算はギャットの負傷か?」
「そうだな。まあ、誤算ではないな。ギャットは想定内だって言ってたし。その場合の行動パターンが今回のアレだ」
「あらかじめ決めていた作戦だったのか・・・・・・」
「ああ。いい演技だったろ?」
「ふん。今思い返せばあちこちにおかしな点がある。それで練りに練った作戦と言えるのか」
「でもそんな出来損ないの作戦でもアンタは引っかかったじゃないか」
「・・・・・・」
「さて。これで俺が話せることは全部話しただろう。今度はアンタの番だぜ」
「なに?」
「組の秘密を吐いてもらう」
「はっ。貴様のような奴に、無論警察にも、くれてやる情報など無い」
「ああ?じゃあ、約束はどうなるんだよ」
「約束?笑わせるな。私が高々そんなもので組やボスを売ると思ったのか?」
「聞け。これは取引なんだぞ。上手いこと警察と情報の交渉をすれば・・・・・・」
「あいつらと売り買いする情報などいささかも持ち合わせてはいない。私はテリフィオール組だ。ボスに生涯の忠誠を誓った。死んでもボスに仇なすことは無い」
「・・・・・・!」

タームの覚悟に満ちた言葉にココが息を飲む。

「約束だと?お前とのチンケな約束など私の忠誠の前では毛ほどの意味も持たない。・・・・・・聞くことは聞いた。もういい、帰れ」
「最後に一ついいか?」
「何だ?」
「フォンみたいな子をどう思う?」
「フォン?」
「今回の事件の発端になった女の子だ」
「ああ・・・・・・。お前の話に出て来たな。さあな。ウチでは売春だの臓器売買だのはやっていないからな。考えたこともない」

タームは組が臓器売買と売春に関係していると言わないために言葉を選んで答えた。
ココはタームの「考えたこともない」という言葉が返答なのだろうな、と直感した。

「・・・・・・そうか。では俺は帰るとしよう。アンタに、」

ココは立ち上がり、椅子にかけていたコートを手に取るとタームの目をこれ以上無いほどに冷たい目で睨んで言った。

「アンタに同情した俺がバカだったよ」
「同情だと?それは一体どういう・・・・・・」
「ああ、忘れてたいいニュースがある。アンタのボスは・・・・・・アンタを売ったそうだ。アンタが隠していた案件やら一切合切を提供してその見返りに署長とより親密な関係を結びたかったんだと。よかったな。お前は牢屋から一生出られない」
「な、な・・・・・・」
「声も出ないか?気休めと言えばどっかの段階でしくじってその件が全部明るみに出ちまったってことだ。ボスも手が後ろに回ったよ。せいぜい同じ刑務所に行けるよう願うこったな」

ココはばたん、とドアを勢いよく閉めて部屋を後にした。残されたのは人生の全てを下らないものに捧げてしまった哀れな初老の男だった。


***


その後しばらくしてテリフィオール組は崩壊し、新聞でも大々的に報道された。最初は様々な説が飛び交っていたが最終的に内部抗争で自壊、という線に落ち着いた。ココたちの名前が出ることは無かった。ココたちは文句を言っていたが、散々好き勝手してきた彼らが檻の中にいないのは警察がうやむやにしてくれたお陰なのだ。報道などもってのほかである。
組がなくなったのでナッツたちは別に出国しなくてもよくなったが、ナッツが「ホームシックも限界だ」と言ってそのまま帰国することになった。シャーミラは別に構わないと言っているそうだ。本当によくできた奥さんである。
イプは元の家に戻った。当然といえば当然である。家に帰って早々にイプは半年ぶりの掃除に追われたとか。ホコリまみれで大変だったらしい。
ギャットは二週間して退院した。本当はもっと安静にしていないといけないそうだが、「退屈で死ぬ」と言って強引に退院に持っていったらしい。らしいと言えばらしい。

ギャットが退院したタイミングで皆でご飯を食べに行った。この国のポピュラーな食べ物だそうだが、ココの舌には合わない物だった(ギャットが知っていて店を指定したらしい)。嫌がるココにナッツとギャットが無理矢理食べさせるのを見て皆で大笑いしていた。終わった頃にギャットは「傷跡が開いたかも」と言って皆をひやりとさせた。

***

港内アナウンスがどこどこ行きのナントカ便について時刻やらをしゃべっている。それを聞きながらココはキャリーバッグをがらがら引いていた。

「ねー、あなた、いきなり押し掛けて私たち住む家あるんでしょうね?私あんまり調べてないわよ」
「ホントか?俺も詳しいことは知らないぞ。イヤだなあ、入国検査で引っかからないといいけど」
「こ、怖いこと言わないでよ」

何やら不安にさせられる内容の会話をしているのはナッツ夫妻だ。彼らはココたちと一緒に帰国することになっていた。そのためナッツはキャリーバッグを二つもがらがらしている。シャーミラの分らしい。シャーミラは、と言うとテトをおんぶしていた。彼女も半年で大きくなったものだ。

「寂しくなるなあ・・・・・・。このゆるい掛け合いが聞けなくなるなんて」
「泣くなよ、イプ。また来るって」
「うう~」
(やっぱりイプ泣いてる。そういう顔してるもんな~)

とココは思っていた。どんな顔だ。
そんなこんなでゲートに着いた。ここから先は塔乗者しか通れない。見送りの人とはここでお別れだ。

「ナッツ、ココ~」
「泣くな、泣くなよ、イプ」
「そうだよ、また来るって」
「うう~。フォン、フォンもがんばるんだよ~」
「う、うん。だ、だいじょうぶよ、おじさん」

まるで子供みたいだな、むしろフォンの方が大人だな、とココとナッツは思った。

「・・・・・・ギャットは来なかったな」
「ああ。確かあいつ、今日は仕事だよ」
「そうさ、仕事なんだぜ。本当は」
「「「「ギャット!?」」」」

すぐ側から聞こえた声にその場の全員が驚愕する。アロハシャツに麦わら帽子、サングラス、つけひげ、等々・・・・・・。空港にしてはテンションの高すぎる外国人旅行者だと思っていた人物はギャットだった。

「お前仕事は!?」
「すっぽかしてきた」
「おまっ・・・・・・。また停職食らっても知らねえぞ・・・・・・」
「ここに来ることに比べりゃあ大したことじゃねー」

言いながらギャットはタバコに火を点け、にやにや笑いながら煙を吐き、サングラス越しにココたちに言った。

「禁煙だぞ、ここは」
「うるさい。野暮なこと言うな。・・・・・・またいつでも来いよ。最高にスリリングな体験をさせてやるぜ」
「「いや、もう十分だよ」」
「ふっ・・・・・・。嬢ちゃんもな。故郷に帰りたくなったらいつでも来い。最高にスリリングな・・・・・・」
「いえけっこうです」

フォンは満面の笑みで淀みなく答えた。ギャットはけらけらけら、と笑うと手をひらひらと振って出口の方に歩きだした。

「じゃあな。また会えるといいな」
「ああ。必ず会いに行くよ」
「期待しないで待ってるぜ」

ギャットは雑踏の中に消えていった。
ナッツは腕時計で時間を確かめるとイプに告げる

「さてと・・・・・・もう行かないと。本当に世話になったよ」
「お互い様だよ」

イプは最後に親指を立てた。

「幸運を」

***

ココはフォンと共に飛行機に乗り込んだ。チケットの関係でナッツ一家とは離れた席だが、ココとフォンは隣だった。

「大丈夫か?怖くはないか?」
「う~ん、ちょっとこわいかも」
「ははは。まあ、新しい環境に足を踏み出すわけだからな。怖いのも当然だ」
「はあ~~~~~っ・・・・・・」
「そんなに重いため息つくなよ。俺まで気が滅入るじゃないか」
「そんなこと言ったって、こわいものはこわいの」
「はは、は。あ・・・・・・?なにか忘れてる気がする・・・・・・。なんだっけ?」
「え!?忘れ物!?」
「いやいや、待てパスポートは再発行してもらったし・・・・・・。忘れ物じゃなくて・・・・・・」
「しっかりしておじさん!もう飛行機出ちゃうよ!」

そこでココはハッ、と気づいた。

「俺の親に連絡すんの忘れてた。フォンを・・・・・・女の子を一人連れて帰るって」

フォンの口の形がえ、の形で固まる。

「携帯は?」
「昨日落として壊しちまった」
「じゃ、じゃあ・・・・・・」
「ああ。ショック受けないといいけどなあ・・・・・・」



飛行機は気流に乗って順調に進んでいった。


***


ココは空港のゲートで両親と会った。

「おかえり」
「ただいま。母さん、父さん」
「元気そうだな・・・・・・。ところでその子は?」

父親がフォンを指さす。電話でフォンの事を伝えていなかったから当然である。

「この子はフォンだよ」
「「フォン・・・・・・?」」
「旅先で拾った子なんだ。親に捨てられちゃって・・・・・・。連れて帰って来ちゃった」
「あんた何考えてんのよ!」
「いや、その・・・・・・」
「ちゃんと面倒見られるんでしょうね!?」
「え?」

母親は「厄介者を連れてきた」のではなく、単純に「後先考えずに女の子を連れて帰ってきた」という事に腹を立てていた。

「家は?学校は?養育費は?ちゃんと面倒見きれるの?」
「あ、ええと・・・・・・」
「母さん、あまりいじめてやるな。・・・・・・フォンと言ったか?」
「ああ」
「その子を育てるというのならお前はもう親だ。いいか、一人で抱え込むな。何かあったら相談しろ。お前はもうお前一人ではないのだ」
「父さん・・・・・・」
「言っておくが、お前一人では全部は無理だからな」
「ぐ・・・・・・。おっしゃる通りです・・・・・・」
「フォンちゃん、でいいのかしら?」

母親がにっこりと微笑んでフォンに手を差し出した。

「よろしくね」
「ヨ、ヨロシク・・・・・・」

フォンはたどたどしい口調で答え、おずおずと手を握り返した。
父親はココに視線をやり、

「よくやった」

と言って笑った。
そのとき、後ろからナッツの家族が追いついてきた。
ナッツはココの腕をぐいっと引っ張り強引に肩を組んだ。

「これから頑張れよ~。子育ては大変だぞ~」
「まあ、せいぜい頑張るよ」
「何かあったらいつでも言えよ。戦友のよしみだ。いつでも請け負うぜ」
「お前もな。何かあったら相談してくれよ」
「おうよ!・・・・・・じゃあな!俺はもう行くよ。テトの機嫌が悪いんだ。シャーミラが急かしてる」
「ああ。またな、ナッツ」
「またな、ココ」

ナッツは手を振って去っていった。
ココは母親、父親、フォンに静かに告げた。

「帰ろう。家が恋しいぜ」


-おしまい-



††††††

さまよう羊のように 9-5

†††9-5


「止めろ」

タームの静かな声に車内の全員が反応した。

「何を言っている。取引を反故にしたいのか」
「いや、確認をしたい。貴様が発信機を持っていないかどうかをな」
「ふん。ギャットたちも調べたのか?」
「あいつらはじきに救急車に乗る手はずになっている。連中とウチの組員が一緒にいるところを押さえられなければいいからな。あいつに付いていようがいまいがそんなことは問題ではない」
「なるほどな。こっちはずっと一緒に行くからな」
「そういうことだ。カブ、そこの店でこいつに着せる服を買ってこい。適当でいいから一分で戻れ」
「はい!」
「いや、ダメだ。キソンに行かせろ」
「・・・・・・。キソン、行け」

キソンが買い物に行く。車内に残ったのはココ、ターム、カブ。

「妙な奴だ。なぜキソンをそんなに行かせたがる?」
「・・・・・・そいつを買いに行かせてその間に俺を殺す魂胆だったんじゃないのか?ええ?」
「何を言っているんだお前!タームさんがチャックを見捨てるようなことするはずがねえだろ!」

助手席のカブが振り向いて後ろのココにつかみかかる。

「信頼されてるねえ、タームさん?」
「鬱陶しい奴だ。被害妄想も大概にするがいい・・・・・・!」

憎々しげにタームが吐き捨てる。相当に腹を立てているらしい。その時、着替えを買いに行っていた側近が戻った。タームは車内でココを素早く着替えさせ、カブに身体検査させると再び車を走らせた。


***


やがてナッツから無事に救急車に乗ったとの連絡が入った。

「よかった・・・・・・」

ほっと安堵のため息をつくココにタームは鋭く言い放った。

「さっさとチャックのところへ案内しろ。ギャットとナッツを助けたいならな」
「どういう意味だ」
「貴様が私を裏切ってチャックの居場所へ案内しないのならすぐにでも部下を病院へ向かわせて始末をつけさせる、という意味だ」
「けっ。・・・・・・安心しろよ。チャックの所へ必ず連れていってやるよ」
「それが賢明だな」

その後しばらくしてココたちは一つの廃工場にたどり着いた。

「チャックはこの中だ。・・・・・・入るぞ」


***


かつかつ・・・・・・

かつかつ・・・・・・

四人分の足音が静まり返った工場跡に響きわたる。何を作っていたのかはわからないが巨大な工具・機械がそこかしこに放置されたままになっている。買い手がつかなかった機械たちだろうか。

「この奥の小部屋だ」

ココが先導するように前を歩く。その少し後ろをタームが歩く。妙な動きをしないように、とココに銃を突きつけている。それはキソンも同じで、違うのはタームの左後ろにいるということ。カブはきょろきょろと辺りを見回している。

(妙な真似を始める前にこいつを始末するべきだが・・・・・・、チャックをこの目で確認するまでは殺せん!)

タームは額を流れる汗が目に入っても瞬き一つせずにココの動作を見ていた。
やがてココは奥にある小部屋の扉にたどり着いた。しかし、ココが扉を開けようとするとタームがそれを制し、キソンに開けるように指示を出した。

「待て。お前は下がれ。・・・・・・キソン、開けてくれ」

久しく油など差されていないのだろう。扉はひどく甲高い音を立てて開いた。暗い部屋だったので目が慣れるまで少しかかった。

・・・・・・中には誰もいなかった。

「キサマっ、騙したなっ!」

チャックの不在を確認したタームが激昂して銃を構えるが、そこにココの姿は無い。タームたちが部屋の中に気を取られている内にココは工場内に点在する機械たちの間を縫うようにして走っていた。

「こっちだ!チャックはこっちの部屋にいる。早く確かめに来いよ!」

走りながらそんなことを叫んでいた。

「くそっ。何が狙いだっ・・・・・・。お前たち、左右に分かれて奴を追えっ。私は真っ直ぐ行く。絶対に逃がすな!」
「「承知しました!」」


†††