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さまよう羊のように 9-4

†††9-4


ギャットを手当するベニーの姿を見ながらタームはイラついていた。幹部になる前なら彼はチャックを切り捨ててでもギャットの治療を断っただろう。タームの目的は三人組の捕獲・処分であり、チャックのようにいくらでも代わりのいる人材のためにそれが妨げられていることが我慢ならなかった。
タームがチャックを見捨てなかったのは彼の優しさなどではなく、「自分はこの組の幹部なのだ」という思いだけであった。もしもチャックを見捨てた、などということが部下の耳に入ったならばそれはターム自身の信頼を失墜させるだけではない。ボスや組全体に不信感を蔓延らせていただろう。

「弾丸は貫通しているようだがこの出血量・・・・・・動脈を傷つけたか・・・・・・?」

ベニーがギャットの服を切って患部を見ながら言う。その言葉を聞いてココが叫ぶ。

「助かるのか!?」
「そんなことワシが知るかっ。運が良ければ助かるだろうよ」
「そんな・・・・・・」
「うるさいわい。治して欲しければ黙って見ていろ」
「・・・・・・ちっ」
(・・・・・・助かるかは五分か)

ベニーとココの会話を聞いてタームは思案する。

「おい、お前こっちに来い」
「お前じゃねえ、ココだ」
「・・・・・・ココ、取引だ」
「取引はギャットが助かってからだ」
「そいつを助けたくないのか?」
「どういう意味だ」
「そいつを病院に連れていく必要があるんじゃないのか?・・・・・・違うか、ベニー?」
「当然だ。このままでは確実に死ぬわい」
「だそうだ。・・・・・・さてここで相談だ。聞くかね?ココ君」
「・・・・・・ああ」
「我々としてもギャット君には助かって欲しいと思っているのだがね。どうやら確実に助かるわけではないそうじゃないか。・・・・・・そこで、だ。君たちの身の安全は保障するからチャックの居場所を教えてはくれないかね?」
「・・・・・・どういう意味だよ。回りくどいんだよ、言い方が」
「いいからさっさとチャックの居場所を言え」
「さっきの取引はなんだったんだよ」
「マフィアを相手にまともな取引ができるとでも思ったのか?」
「断ればどうなる?」
「今すぐにそいつの治療を止めさせる」
「・・・・・・」

ココはしばらくタームを睨んでいたがやがてため息を吐き出した。

「わかった。言おう」
「ああ、さっさと言え」
「だが今は言えない。言わないんじゃなくて言えない。そもそも俺は場所を明確に覚えていない。元々外国人である俺は地図までは正確に読めないからな」
「・・・・・・」
「だから俺を連れていくしかないぞ」

ははあ、とタームは心の中で薄く笑った。

(こいつ何か企んでいるな・・・・・・。だが、むしろありがたい。自分から部下の目の前から離れてくれるとは。私がチャックを見捨てるような真似は部下の前ではできない・・・・・・。これはむしろこいつを消す好機!)

「・・・・・・いいだろう。連れていくとしよう」
「ただし、ギャットが無事に病院に着くまではチャックの所までは行かない。近くまでは行ってもいいがな」
「・・・・・・わかった。時間が惜しい。早く行こう」

(部下の目の前でこれ以上厄介な条件を増やされてはかならん!)

「まだある。ナッツをギャットに付き添わせるから二十分ごとに連絡させること。欠かせば取引は終了だ。その際にはベニーにも何か言わせること。更に・・・・・・」
「まだあるのか!」
「ある。あんたの部下を一人同行させろ。俺の保険だ。・・・・・・あんたならこの意味がわかるよな?」

タームはココのその言葉を聞いて心底忌々しそうに舌打ちをした。


***


ココ、ターム、タームの側近のキソン、また地下にいた部下の一人のカブ(適当に選抜)の一行がチャックの解放に向かうことになった。

(今は警官隊が来ているから敷地内から車で外に出ることはできん。一旦別の建物から地下道を通って外に出るか・・・・・・)

「こっちだ。絶対に敷地内にいる警官に見られるなよ。見られればギャットはその時点で死ぬ」
「チャックもな」
「そうだな。だが死に際のギャットを叩き起こして拷問させるのは忍びなかろう?」
「・・・・・・」

四人は第三棟(ココたちが捕らえられていた建物)から出た。キソンが先に出て状況を確かめに行く。キソンは数分で戻り、タームに報告した。

「部下に邸宅付近で騒ぎを起こさせました。通り道には誰もいません」「ご苦労」

キソンの言葉通りに四人は問題なく外へと続く地下道のある建物に到着した。

「ここは敷地のかなり奥にあるから警官はまだ来ていないはずだ。さっさと行くぞ」
「ギャットたちもここから出るのか?」
「いや、違う。もっと近い出口だ。地下道の出口に車は何台も置けないからな。私たちは遠い方だ」


***


ココ、ターム、タームの側近のキソン、存在感のない部下のカブの四人は地下道を抜けて無事に外へと抜け出た。抜けた先は山の中だった。タームが地下道出口近くに停めてあった車の後部座席(運転席側)に乗り込む。運転席にはキソン、助手席にはカブ、後部座席の助手席側にはココが乗った。キソンが車のエンジンをかける。

(危ない橋だった・・・・・・。それにしてもこいつは何を企んでいる?地図が読めないだと・・・・・・?はっ!嘘に決まっている。こいつをさっさと殺してしまいたい余りに一見思案の足りないこいつの提案に乗ってしまったが・・・・・・)

「おい、ナッツに電話をさせろ。時間だ」
「ふん・・・・・・。ほら、通話中だ」

タームがココに携帯電話を投げて寄越す。ココはそれを無言で受け取ると携帯を耳に近づけた。

「もしもし」
「もしもし。ココか?」
「ああ。ギャットの様子は?」
「ああ・・・・・・今車に乗り込んだところだが、まだ血が止まらない・・・・・・」
「・・・・・・そうか。ベニーに代わってくれ」
「ああ・・・・・・。・・・・・・何だ!手当して欲しいんじゃないのかクソガキめ!ワシの邪魔をするな!」
「・・・・・・すまん、悪かった」
「・・・・・・もしもし?まあ、そんな訳だ。ある程度走ったら救急車に乗り継ぐ。・・・・・・そっちもしっかりやれよ」
「ああ、任せろ」

返事をしてココは電話を切り電話をタームに投げ返した。

「それでどこに向かえばいいんだ?全く場所がわからんわけではないだろう?町の名前くらいは知っているはずだ」
「デメデメタウンだ」
「確かにお前たちはその周辺で騒ぎを起こしていたな。・・・・・・キソン、そこに運転してくれ」
「飛ばします」

キソンがアクセルを踏み込んだ。


†††

さまよう羊のように 9-3

†††9-3


バババババ、とマシンガンが火を噴く。

「「ギャット!!」」

部屋の中からココとナッツが叫ぶ。返事は無い。

「ギャット、ギャット!返事をしろ!」
「おい、嘘だろ!返事しろ!」
「・・・・・・うるせーなあ・・・・・・。ちょっと黙ってろよ・・・・・・」

ようやく聞こえたギャットの声にココとナッツが安堵する。
「なんだよ、ヒヤヒヤさせるなよ。もしかしたら撃たれたんじゃないかと思ったぜ」
「・・・・・・そうか」

開け放たれたドアに赤い何かがへばりついた。

「もしかしたら、じゃねーんだけど、な・・・・・・」

ドアにへばりついていたのは血にまみれたギャットの手だった。

「「ギャット!!」」
「うるせー・・・・・・って。それしか、言えねえのか・・・・・・」

ドアの裏から現れたギャットの腹部は血で真っ赤に染まっていた。それがかすり傷などでは無いことは特別な知識の無いココとナッツにも一目でわかった。

「黙って・・・・・・ろ。今、縄を切ってやる、から・・・・・・」

一歩歩く度に白い無機質な床に赤い水玉模様が描かれていく。ギャットは命を削るようにして水玉を増やしていく。

「もういい!止まれギャット!連中に手当を、」
「ふ・・・・・・」

ギャットはココの叫びに微笑で答えた。答える意味が無いと思ったからか。

「ギャット!おい・・・・・・」
「縄は・・・切ったぜ・・・・・・」

ギャットはココとナッツの縄をナイフで切ると崩れ落ちた。床が見る見る赤く染まっていく。

「ギャット!待ってろ、今手当を・・・・・・」
「・・・・・・」

ギャットはココの言葉に微かな声で返事をしたがココにもナッツにも聞き取れなかった。

「・・・・・・!」

歯を思い切り食いしばってココが立ち上がる。

「ナッツ、すまん」
「・・・・・・?」

ナッツにはココの言っている意味がわからなかった。ココはドアに歩いていき、床にノビていた見張りの男の襟をつかんでゆすり起こした。

「起きろ!」


***


ギャットが先ほど殴り倒した見張りの男を揺り起こそうとするココにナッツは驚いた。

「何してるココ!どうして・・・・・・」
「うるせえ!黙ってろ!・・・・・・起きろ!」

見張りの男はようやく気が付き、鬼の形相で自分をつかんでいるココを見た。すかさずココは見張りの男の喉元を肘で圧迫するようにして身動きがとれないように壁に押し当てた。

「いいか、いますぐに幹部を一人連れてこい。さもないと・・・・・・」
「さもないと、何だね?・・・・・・全く間がいいんだか悪いんだか・・・・・・」

ココはすぐそばにタームが立っていることに気づいた。ココは押さえつけていた見張りの片割れを放した。

「ふん・・・・・・。二人で見張りしてこの様か。お前たちには後でたっぷりと灸を据えてやる。覚悟しておけ」
「は、はい・・・・・・」

見張りの男がすごすごと退がる。ちなみにもう一人の見張りはドアの後ろでまだノビている。タームは部屋をのぞき込むと出血しているギャットを見た。

「そういうことか。それで幹部に用とは? 何が望みだ」
「あいつを手当してやってくれ」
「あの出血ではもう助からんと思うが?」
「あいつがそんなにすぐ死ぬかよ。・・・・・・わかってないな。これは交換条件だ。俺たちが捕まえたおたくらの仲間を忘れたのか?」
「・・・・・・」
「やはりそうか。道理ですぐに殺されないわけだ。あいつはまだ見つかっていないようだな」
「ああ。見つかっていない。・・・・・・お前はうちのチャックとそこの半分死んでるような奴を交換しようと言うのか」
「チャックか。あいつそんな名前だったのか。そうだ。アンタらのチャックとウチのギャットを交換だ。今すぐにギャットの手当をしろ。ギャットが死ねば取引は無いぞ」
「・・・・・・ちっ」

タームはこれ以上は時間の無駄だと悟ったのだろう。諦めたようにため息をついた。

「おい、ベニーを呼んでこい。至急だ。・・・・・・いいか、外の連中には見つかるなよ」

タームが連れてきた側近の男に指示を出す。

「いいか、必ずあいつを助けろよ。さもないと・・・・・・」
「わかってる。最善は尽くさせよう」

ココはタームの顔から視線を外すとすでに意識のないギャットの元へ行った。


†††

さまよう羊のように 9-2

†††9-2


「ようやく厄介事が一つ減ったな、ターム」
「はい。おかげさまで片づきました」

三人が縛り付けられているのとは別の建物の中のやや広く薄暗い部屋にタームは来ていた。

「半年か・・・・・・。長い間ご苦労だった」
「すみません、思ったより長くなってしまって・・・・・・」
「いや、他の者には捕まえることすらできなかっただろう。お前だからこそだ」
「身に余るお言葉です」
「謙遜するな。あいつらの処分が済んだらお前に新しい仕事を任せたい」
「どのような内容の・・・・・・」

「しっ、失礼しますっ!」

そこで部屋にいきなり現れた下っ端の声で会話が中断する。そして下っ端はボスとタームが何か大事な話をしていたとわかって恐縮してしまった。見かねてタームがため息混じりに声をかける。

「・・・・・・何のようだ」
「そ、それが・・・・・・警官隊が来ています」
「警官隊だと?何人だ?」
「二十人ほどです」
「多いな」

タームの顔が困惑の色を帯びる。
「・・・・・・わかった。話はそれだけか?」
「はい」
「そうか・・・・・・。もういい、下がれ」

下っ端が出て行くとボスが口を開いた。

「どういうことか見当はつくか?」
「おそらくはあの三人組に関係しているのでしょう。タイミングが良すぎます」
「確かに。そう見るべきだろうな」
「重ね重ねすみません。私の不手際です」
「謝るのは後でいい。お前の思う所を言え」
「はい。恐らくは三人組のうちの一人が警官です」
「ほお・・・・・・、なるほど続けてくれ」
「捕虜を取り返そうとしていた二人組がなぜ中々捕まらないのか不思議だったのです。私が思うにそれは連中のうちの一人は警官だったためかと」
「なるほど。・・・・・・連中が警察と手を組んでいるとしてだ。警察は余程のことがなければワシの屋敷には踏み入れん。この場所にいると確信したから警官隊はここに来たわけだが、その確信はどこから来ていると思う?」
「考えられる可能性は二つあります。一つは連中は警察に見張らせていた場合。警察は連中を捕まえた我々の後を追ってきたのです。この屋敷の中にいると確信して隅々まで調べるつもりでしょう」
「二つ目は?」
「発信機です。おそらく警官が身につけているかと」
「どちらだと思う」
「後者です」
「そうだな、ワシもそう思う。三人組はどこにやった?」
「第三棟の地下です」
「ははあ地下か・・・・・・、抜かりないな。発信機の電波は届かん。さてはこの場の思いつきではないな」
「いえ、警察とつながっているという確信までは・・・・・・」
「さすがだな。・・・・・・警察は敷地内を虱潰しに探すだろう。三人組以外にも見つかるわけにはいかん物はいくらでもある。警察に挙げられても構わない案件をいくらか見つかる程度に隠せいで時間を稼げ」
「はい」
「三人組の方も一応増員しておけ。逃げられでもしたら終わりだ」
「幹部が一人ついています。心配は無いかと」
「油断は禁物だ。・・・・・・ワシは警官隊と挨拶でもするとしよう。お前も早く行け。時間がないぞ」


***


「暇だなあ。しりとりしようぜ。リンゴ。次はナッツな」
「いきなりだなぁ。ゴリラ。次はギャットだぞ」

部屋と三人の配置について正確に述べる。入り口から見て右から順にココ、ナッツ、ギャットである。ちなみに見張りは二人で扉の前に待機している。

「・・・・・・ん・・・・・・?」
「聞いてなかったのか?しりとりだよ」
「あ、ああ・・・・・・。そうか・・・・・・リンゴ」
「いや、ゴリラの次だよ」
「ああ・・・・・・ライオン」
「どうしたんだよ。何か心配なことでもあるのか?」
「俺は自分の安否が心配だよ」
「ナッツは黙ってろ」
「・・・・・・なんでもない。ただ少し眠いだけだ」
「ふーん・・・・・・。しりとりは止めとくか?」
「ああ」
「わかった。しばらく休めよ。・・・・・・ところでさあ、」

そこでココはいきなり見張りの二人に声をかける。

「見張りが二人って多くないか?そんなゴツい銃抱えてさあ・・・・・・。こっちだってけっこう神経すり減らしてるんだぜ?」
「ふん。そうは見えんがな!」
「こいつは眠いって言ってんだろ。そんな銃が目の前にあって眠れるかって。もうマジでしんどいから部屋から出てってくれよ、二人ともさぁ。部屋の外の小窓から見張ればいいじゃん」
「「・・・・・・」」
「休憩だってできるしさぁ。アンタらも何時間も立ちっぱなしできついんじゃないの?」
「・・・・・・」
「・・・・・・ちょっと一旦相談しようぜ」
「・・・・・・そうだな」

見張りの二人は休憩という言葉につられたのか部屋から出ていった。重い銃を抱えて交代無しで数時間も見張りをするというのは彼らにとってもこたえていたのだろう。

「これでしばらくはゆっくり眠れるぜ、ギャット」
「中々やるな。だが礼は言わねえぞ」
「なんでだよ、言ってやれよココに礼くらい。見張りをおっぱらったのに」
「礼は言わない。なぜなら、」

そのとき、ぶちぶちっと音を立ててギャットを縛っていた縄が切れた。切れた縄がはらりと床に落ちる。ギャットが隠していたナイフで切ったのだ。

「これであいこだからだ!」


***


長袖の生地の間に隠していたナイフで縄を切り、束縛から解放されギャットは扉に突進し勢いを殺さずにドアを開けた。それで見張りの片方に扉ごと体当たりをぶち当てた。
いきなり現れたギャットに驚いたもう片方の見張りの反応は驚きによってコンマ数秒遅れた。彼が銃を構えなければ、と思ったときにはもうギャットの掌底があごに炸裂し、膝から崩れ落ちた。

「死ね!このクソ・・・・・・」

体当たりを食らった方がドアの向こうからギャットへ銃口を向ける。ギャットは一度ドアを引き寄せ、見張りの男にドアを再度打ち当てた。衝撃でやや後ろに後退した男にギャットが追撃を仕掛ける。


が、男はギャットの予想よりもやや遠くまで後ずさっていたようだ。

「これでも食らえ!」

見張りの男はマシンガンの引き金を引いた。


†††

さまよう羊のように 9-1

†††9-1


テリフィオール氏の邸宅敷地内
第三棟 地下
B122号室

「・・・・・・縄がキツい」
「我慢しろ、ココ」
「俺は縛られるのに慣れてないんだよ。しょうがないだろ」
「さりげなく俺が慣れてるみたいな言い方すんな。・・・・・・慣れてるけどな」
「あー、アバラが痛え・・・・・・」
「折れてるのか、やっぱり」
「ああ、どうもそうらしい。・・・・・・くそっ」

眉間にしわを寄せて不機嫌そうにギャットが舌打ちをする。一般人二人が無傷で着地に成功したのに対し、現職の警察官(停職中だが)が失敗・骨折したという事実に彼のプライドは人知れず傷ついていた。

「あー・・・・・・、カッコ悪りい・・・・・・」

数時間前まで銃撃戦を乗り切った人物とは思えないほどの落ち込みようだった。


***


今までのことをまとめておくと、
ココとギャットは捕まえたマフィアの一人からナッツの居場所を聞き出した。これは彼ら二人にとって半年分の労苦が半分くらいは報われた瞬間であった。
それでも警戒しつつ向かったホテルで二人は待ち伏せ・閉じこめに遭う。入った部屋の入り口からマフィアが銃撃戦を仕掛けてきたのだ(ホテルの壁が分厚くて助かった。薄ければ隣の部屋から壁越しに撃たれるところだった)。
罠だ、と悟った二人。当然ナッツなど居るわけはない、と思われたが予想に反してナッツはその部屋にいた。ナッツを加えた三人で脱出もとい四回からの飛び降りを断行。ギャットがあばらを骨折しながらも逃げ仰せたかに思えた瞬間、現れた黒の外車。マフィアの幹部、タームのお出ましである。
タームは部下をも切り捨てると宣言し三人はその非常さを前に逃げきれないと観念して捕まったのである。そしてマフィアの敷地の隅っこの建物の地下の隅っこの部屋に連れられて仲良く三人イスに並んでぐるぐるに縛り付けられたのだった。


***


ココ、ナッツ、ギャットの三人の前には見張りのマフィアが二人。その奥に扉が一枚。その扉を出るとどうなっているのかは三人はよく知らなかった。なにせ目隠しをされていたのだ。階段を下りたことから地下だということはなんとなくわかっていたが。

「なあ、ココ・・・・・・。シャーミラはどうなった?」
「どうって?」

ココが怪訝な顔で聞き返す。ナッツが妙にしんみりした声色で尋ねたからだ。ちなみにシャーミラというのはナッツの妻だ。

「俺がいなくなって、その・・・・・・取り乱したりとか」
「・・・・・・強かったよ。さすがはお前の嫁さんだな」
「・・・・・・。ふん、当たり前だろ」
「泣くなよ」
「泣いてねえよ。やめろよ、本当に泣いてるみたいじゃねえか」
「じゃあ、間を空けるなよ」
「・・・・・・お前らホンット仲いいな。・・・・・・あぁ、アバラが痛え」
「そこまでアバラをゴリ押しされると嘘くさく聞こえるよな」
「・・・・・・。あぁ、大声が出ないなぁ。アバラが痛いなぁ」
「本当にそんなに痛いのか?フリしてるだけじゃないのか?」
「ナッツ君。ほとんど初対面なのによくそんなことが言えるな、おい」
「あれ?決めゼリフは?」
「あぁ~、アバラが痛いなァ~」

ココのからかいにナッツがすかさず乗る。

「俺はそんな間の抜けた声は出してねー!うっ、アバラが・・・・・・!」「ところで、ココ。俺が前にお前に言ったこと覚えてるか?」
「うん?アバラが痛い、だっけ?」
「あぁ、アバラが痛えぇ~・・・・・・」

ギャットも乗る。ナッツはそれには特に反応せずに続けた。

「フォンを助けて後悔しないのかって聞いたろうが。あれのことだよ」
「ああ、あったな。半年くらい前に」
「今の気分は?」
「後悔してるかって?」
「そうだ」
「してねーよ。まあ、強いて言うならアバラが痛いな」

ひゃははは、と三人が爆笑する。その光景をゴツい銃を持った見張りの二人は呆れ顔で見つめていた。


†††

さまよう羊のように 8-10

†††8-10


「初めまして、だな」

黒の高級車の中からキツネのように鋭い目つきをした男が顔を見せた。
ココ、ナッツ、ギャットは同時にこの男はマフィアだと理解した。男は彼らの表情を見て満足げに言った。

「逃げようとするな。もうお前たちは囲んである。無駄なことはするべきではない。・・・・・・そうは思わんかね?」

車の中からうすく笑みを浮かべて男は部下に合図する。すぐに数人のマフィアが三人を取り囲む。構えもせず手に銃を持っていた。
そのとき、ギャットが怪我をしているにも関わらず目にも止まらぬ速さでマフィアの一人から銃を取り上げ、そのマフィアの手を後ろ手に取り、抵抗できなくして人質にした。ココとナッツもギャットの邪魔にならないように素早く背中合わせに陣形を取った。

しかし、車の中の男は一切慌てた様子を見せずに、
英語で、
三人に話しかけた。

「英語は話せるかね?ならば聞くがいい。我々は君たちを決して逃がし
はしない。たとえその鉄砲玉を見捨てることになっても、だ。悪いことは言わん。その男を放せ」
「断ったら?」

英語で聞き返したギャットに男は肩をすくめた。

「そいつごと君たちを穴だらけにするだけさ。簡単だろ?なあに心配は要らんよ。部下の私に対する信頼は揺らがないように上手く交渉するフリはするさ」

ギャットはその男と睨み合っていたが、すぐに鉄砲玉と呼ばれた男を放して銃を捨て、両手を挙げた。逃げきれないと悟ったのだ。

「わかった。降参だ」


†††

さまよう羊のように 8-9

†††8-9


三人は街路樹めがけて四階の高さから飛び降りた。窓からぴょんっと。今まさにココ、ナッツ、ギャットの三人の内蔵は自由落下によってふわふわと浮き上がりつつあった。

「「「~~~~ッ!!!!」」」

声にならない叫び声とともに三人は落下し、その視界には街路樹が近づいてくる。
ぼすぼすぼすっ。三人が街路樹の横に取り付き、枝を必死につかもうとする。しかし、木は彼らの衝撃を和らげてはくれたものの、枝をつかもうとする彼らの手はすげなく振り払った。
結果彼らはことごとく木から落ちた。
ココは落ちたときの体勢がよかったのか比較的早く立ち上がった。

「うー・・・・・・、痛え・・・・・・。おい、ギャット、ナッツ、大丈夫か?」
「なんとか・・・・・・」
「ちょいとやばい・・・・・・。アバラ骨イッちまったかもしれねえ・・・・・・」

ココ、ナッツはほぼ無傷だったが、ギャットは木から落ちる際、肋骨をモロに打ってしまったらしくかなり苦しそうだった。

「立てそうか?」
「大丈夫だ。さっさと行こう。奴らを巻かないと・・・・・・」
「おやおや、どこに行くのかね。折角見つけたというのに」

三人組のすぐそばに停まっていた黒い高級車の窓がゆっくりと下りた。


†††

さまよう羊のように 8-8

†††8-8


「マジか・・・・・・。でもそれしかないかなあ・・・・・・」
「しょうがないって。腹、括れよ」
「んなこと言ったってなあ・・・・・・」

ぼやくナッツをココが急かす。
銃をガンガン撃ちながらギャットが叫ぶ。

「それで行くんだな?行くんだな!?」
「ああ、行くよ!」
「あーもう!わかったよ!」

ココの返事を聞いて、ギャットではなくナッツが叫んだ。

「よし・・・・・・。お前ら床に伏せて耳もふさげ・・・・・・。よっ、と」

ギャットは何かを放り投げると部屋に倒れ込んで耳をふさいだ。慌ててココとナッツも同じように倒れ込み、耳をふさぐ。
ばぁん!という爆発音と振動が伝わってきた。どうやら手榴弾を投げたらしい。

「そんなモン持ってたのかよ・・・・・・」
「ああ、危なかった。そろそろ逆に使われる頃だったから気が気じゃなかった」
「あれで外の連中いなくなったんじゃないか?」
「甘いぜ素人さん。もっと他にひかえてる奴がいるよ。とっとと行こうぜ。蜂の巣にされたくなかったらな」
「よし」

三人でじりじりと窓に詰め寄り地面を見る。怖いがちゃんと見ておかなければ怪我をする。
ちょうどよい所に中々に高い街路樹があった。すぐ側にはかなり高そうな黒の外車が停まっている。運転手はまさか四階から人が降ってくるなんて想像もしていないだろう。心臓に悪いかもしれないが仕方ない。

「見てくれ正面。あそこに木が生えてるだろ。黒い外車の近く。アレに向かって飛ぶんだ。木をクッションにすれば死にはしないだろ」
「よーし、オーケー・・・・・・。じゃ、さっさと行こうぜ」

がん、とギャットが窓ガラスを蹴落とす。
下に人がいたらどうする、なんてことはもう誰も言わない。そんな場合じゃない。

「3、2、1、行くぞッ」

ギャットの合図で三人は街路樹めがけて思いきり跳んだ。


†††

さまよう羊のように 8-7

†††8-7

「・・・・・・遅せえよ」

ナッツがじろりとココを横目で睨みながら言う。

「悪かったな。でも作戦の途中でいきなり退場したのはお前だ」
「ふん。フォン達はどうしたんだよ」
「ちゃんと逃がしたよ」
「まさか俺の家じゃないだろうな。二ヶ月くらい前に吐いちまったぞ?」
「すげえな。四ヶ月も隠し通したのかよ」
「十回くらいガセを吹き込んだからな」
「てめえら、なに世間話してやがるッ!もっと緊張感を持てよ!銃声聞こえんだろうが、ああ!?」
「誰だよ?どういう状況だよ?逃げれんのかよ?」
「さあな。逃げられないかもな」
「ギャットだ!もしも全員生きて逃げれたら奇跡だよ!」

半ば自棄気味にギャットが叫ぶ。弾丸が切れたらしく床に落としておいた弾倉を拾い上げ、乱暴に拳銃に突っ込む。

「相手は何人だ?」

やたらと忙しそうなギャットにナッツは他人事とすら思える口調で質問する。

「五!」
「何?」
「五だよ五!ファイブ!」
「そりゃまずいな・・・・・・」
「ココ!逃げ方考えとけ!」
「あいよ。これなんてどうだ?」

ココがある物を指さす。ナッツはココの指さす物を見て眉をしかめた。

「ここは何階だ?」
「四階」
「バカだろ、お前」
「じゃあ、どうするんだよ?」
「・・・・・・」
「な?他にないだろ?」
「マジで?」
「マジで」

あー、と叫び声を上げてナッツが頭を抱える。
それを無視してココはギャットに呼びかけた。

「ああ?声かけんなって・・・・・・。マジか?」

ギャットは親指で窓を指しているココを見てわずかに血の気を引かせた。


†††

もうバレンタインですね。

さあさ皆さんお待ちかね(?)、「さまよう羊のように」の投稿ですよ!今回はクライマックスまでいくよ!

全くここの主は何回このセリフを吐くんだって事ですけれども。

今回はマジです。てゆーかもう書き終わりました。いやあ、めでたい。

いつから書き始めたっけ・・・・・・?たぶん丸一年と二ヶ月くらいは経ってると思います。7個も連載しててようやく1個片づいた・・・・・・。
全部終わるまで一体何年かかるんでしょうか?


次は何を書こうかなァ♪

ザ・トップ記事1.2(ここを読むべし)

はーい、みなさんこんにちはどーもどーも、ジャバウォッキー、です。はい、よろしくおねがいしまぁーす。
このブログは私の書いた文章をおいとくところです。
中でもこの記事は常にこの位置にいる。つまりはトップ。常時頂点に君臨する孤高の存在なのだ!!ふはははー!!!

・・・・・・挨拶はこんなもんでいいかな?ここにある作品は以下のとーり、です。
今までのはいいから最新記事から読むわって人はあらすじに飛ぶのもあり、です。サイト案内にあるのでよろしく。

「さまよう羊のように」
現在親友ナッツの住んでいる国に海外旅行して来たココはマフィアに追われる女の子を何となく助けてしまう。その子をマフィアの手から何とか逃がそうと奮闘する話。放置中。

「女神テミスの天秤]
普通の大学二回生で空手サークル所属、現在片思い中の関静(せき・しずか)が家に帰ると、知らない男がいすわっとる!その男は未来から来た魔法使いだった!なんてこった!
そんな二人の一年間を描く。超放置中。

「夢幻」
命の恩人の少女に恋した少年と病の少女を愛する少年の話。
幽霊・妖怪がらみのバトルもの。超放置中。

「北の海の魔女」
おとこのこが魔女にさらわれた妹を助けに行く話。短い話をほぼ毎日更新。なお当初は童話のつもりで平仮名ばかりでしたが世界観が合わなくなってきたのと、単純に面倒くさくなったので今は漢字も入っています。
絶賛更新中。割とオススメ。

「ドレス&タキシード」お姫様と執事の追いかけっこ。一話完結系。適当に更新。放置中。

「詰みかけのゲームみたいな世界に迷い込んで」雪山遭難自殺を試みた少年は別の世界に迷い込む。その世界は「詰みかけ」ていた……。構想中。つまり放置中。

・・・・・・という感じです。各物語を別々に読みたい場合はカテゴリから選んでください。

なお私のオススメは「夢幻」「北の海の魔女」「詰みゲー」です。
「さまよう羊のように」「女神テミスの天秤」は最初の部分が私が最も未熟な時に書いたものなので読みにくいかもしれません。

まあ、他も似たり寄ったりですが。

軽く読むなら「北の海の魔女」
重いのなら「さまよう羊のように」
楽しそうなのなら「女神テミスの天秤」
気持ちの良いものなら「夢幻」
区切りのよいものなら「ドレス&タキシード」
異世界物なら「詰みかけの世界に迷い込んで」

でしょうか。

では楽しんでいってください♪

追記:コメントをしていただけると大変嬉しいです。どうぞご遠慮無くお願いします。

追記2:「北の海の魔女」の話っつーか、魔法ですね。アレがいよいよわかりにくくなってきます。そのうち仕組みには言及しますが、それでもわかりにくい場合は遠慮なく質問してください。後々に響いちゃうので。
ではではー。